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赤の盗賊団

第33話 赤の盗賊団 『それぞれの戦闘』

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 別動隊が危機に陥ったちょうどその頃―。

 サタン・クロースとオレたちはぶつかり合っていた。

 「おめぇら! しぶとい! 悪い子には・・・。これだっ!!」

 サタン・クロースは斧を溶かされたため、そのあたりにあった岩を持ち上げて、びゅんびゅんに勢いよく投げて攻撃をしてきた。



 「なんの! サイコガードーーーっ!!」

 オレは手のひらを前にかざすと同時に、超ナノテクマシンを総動員し、防御した。

 岩は粉々に砕かれ、逆にサタン・クロースのほうへ跳ね返った。

 「うぬぬっ!!」

 それを躱すことなく、くらったがまったく平気そうなサタン・クロース。



 アイがさらに追い打ちをかけるかのように、周囲のナノテクマシンを使い、サタン・クロースの身体自体を掴み、空中にまるで浮かべるかのように持ち上げた。

 「ぬぬっ!? これは?」

 「よくも、マスターに向かってこのような狼藉をしてくれましたわね! 死になさい!!」

 アイがその手をふるうと、サタンの身体が後方の岩に勢いよくぶつけられた。

 「ぐほっ・・・。」

 いや、オレは無事だったし、そんな怒らなくても・・・。



 そんな中、ヘルシングさんの声が聞こえてきた!

 「おいっ!! みんな! 配られた『身の守りの粉』を今すぐ捨てろ!! これは『身の守りの粉』ではない! ゾンビ・パウダーだっ!」

 あ! そういえば、テラー・テーラーのやつ、そんなものを配っていたっけ?

 「アイ! ヒルコ! ジュニアくん! ジロキチ! みんなもあの巾着袋を捨てるんだ!」

 「イエス! マスター! すでにあの袋、中身をワタクシたちのものは入れ替えてあります。」

 「アイ様、すっごーい。さっすがー。」

 「さすがでございやす!アイの姉御!」

 「え!? アイ様、この袋、『身の守りの粉』じゃないってわかっていたんですか!?」

 ジュニアくんもこれにはびっくりしたようだ。



 「当然です! あのテラ―とかいう仕立て屋、マスターも早くから怪しいと見破っておいででございます。」

 「おお!? ジン様! すごい!」

 「ていうか、あの仕立て屋の野郎、裏切りやがったでやすか!?」

 「あ・・・あぁ。あいつは最初から『赤の盗賊団』と通じていたようだ。」



 「で、仕立て屋の野郎、どこにいやがるでやすか!?」

 「そうなんだ。それが見当たらないんだよ。」

 そう・・・、仕立て屋のテラーがどこからか攻撃してくると思って上空からも目を光らせていたんだけど、この戦場に姿が見えないのがおかしいと思っていた。

 「マスター。仕立て屋は別動隊を襲撃しています。こちらにはいませんので気にかける必要はございません。」

 「え・・・!? それって別動隊のほうが・・・やばくない?」

 「当然そうなりますね。でもこちらはまもなく制圧可能でございます。問題ありません。」

 「いやいやいや・・・それって問題あるじゃんかーーーっ!!」

 オレは思わず叫んでしまったのだった―。



 ◇◇◇◇



 一方、先陣を切って、レッドキャプテンの軍に攻め込んだアテナ一行だったが、ヘルシングの声を聞くやいなや、巾着袋を捨てた。

 「なるほど。敵もこの『ゾンビパウダー』でゾンビ化して蘇ってきたのか! からくりがわかればこっちのものだ。」

 「そのとおりですな。アテナ様。すでに、エリクトニオスのやつめが準備をしております。」

 エリクトニオスは呪文の詠唱にすでに入っていた。



 『Oh when the saints, Go marchin' in,Oh when the saints go marchin' in. I want to be in that number, when the saints go marchin' in!!』

 それは闇を払う聖魔法『聖者の行進』だった。

 エリクトニオスの周囲10ドラゴンフィート(50m)の範囲から邪気が払われ、その闇魔法の効果を打ち消した。



 まわりのレッドキャップたちが、バタバタと倒れ、動かなくなっていく。

 最後に残ったのはレッド・キャプテンだった。

 「くっ! おのれ! よくも我ら種族の仲間を!!」

 最後のあがきか、アテナに襲いかかってきたレッド・キャプテン。



 だが、アテナはそのレッド・キャプテンに対し、こう言い放った。

 「悪が栄えた例はないっ!」

 そして、聖なる槍でひと突き!



 「ぐっぎゃーーーっ!」

 魔核を正確に貫かれ、レッド・キャプテンは絶命した。

 「アテナ様。こちらで剣をお吹きください。」

 「ああ。グラウコーピス。卿こそ、さすがであったぞ。」

 「いえ。とんでもございません。」

 そこへエリクトニオスとニーケが駆け寄ってくる。

 「アテナ様ーーーーっ!ご無事でしたかーーっ!」

 「アテナ様。ここら周辺の敵はもはやいない模様です。」



 「うむ。エリクトニオス。卿もよくやった。」

 「ニーケもずっと応援しておりましたよ!?」

 「ああ。ニーケ。卿は我が勝利の女神だよ。」

 「へへへぇー。アテナ様。だーい好き!」



 ◇◇◇◇

 レッド・マントは歓喜に打ち震えていた。

 何らためらいなく殺戮が許された戦場・・・それに飢えていたレッド・マントは大いにその狂気を開放する。

 レッド・マントは生まれながらにその精神に狂気を宿していた。

 抑えられない殺人衝動。そして、物心ついたときにはレッド・ノーズとは違う、明確なる殺意を持ってその両親を殺したのだ。



 そんな危険思想の男をさすがのレッドキャップ種族のものは隔離し、牢獄にずっと閉じ込めていた。

 だが、ある時、そこにサタン・クロースが現れた。

 彼もまた生まれついてのそのありあまるエネルギーに身をやつし、抑えきれない衝動を抱えていた。

 そして、お互いがお互いを好敵手と捉え、日毎に殺し合いを続けたのだ。

 だが、勝敗は一向につかず、いつしかお互いの抑えきれなかったはずの衝動は霧散していた。

 抑えきれなくなったら、お互いが求め合うように殺し合い、戦う。そして、殺せない相手・・・。生きていく上で互いが互いを必要としたのだ。



 そして、サタン・クロースの監視のもと、牢から解き放たれたレッド・マントはその狂気を思う存分、サタンの戦場でぶつけることができた。

 やがて、彼は種族の戦力としてなくてはならない存在へとなったのだ。

 その存在価値を作ってくれたサタンにレッド・マントは心酔した。



 レッド・マントは、ゾンビになって蘇ったトム、シド、ジムとともに、残った憎き妖精種族、ベッキーとパックに狙いを定め、まさに襲いかからんとした―。

 パックの魔法で呼び出された召喚犬がキャンキャン鳴きながら、向かってくる。

 それを次から次へと斬りつけ、血祭りに上げていく。

 「パック・・・。やばいんじゃないの!?」

 「はい! ベッキー様! やばいですぅ!!」

 「きゃああああーーーーーっ!!」

 二人は思わず叫び声を上げたのだった―。



 ◇◇◇◇

 マザー・グースカ副長及び、ツン・グースカはグースカ衆の兵たちが、ヒート・デナシによって次々、その火炎で焼かれていく中、必死で応戦していた。

 火炎による熱風であたりがゆらぐほどだ。



 「てめえ! こらっ!」

 「あ!? やったな? きさまっ!」

 「邪魔するならやってやるぞ!? 喰らえ! 爆裂呪文!!」

 ツン・グースカが爆裂呪文『むすんでひらいて』を唱えた!

 『『むすんで ひらいて、手をうって、むすんでまたひらいて、手をうって、その手を上にっ!!』



 バグゥオオオォオオオオッン!!!

 激しい爆裂の轟音が響き、火炎の悪魔ヒート・デナシが吹き飛ばされた。

 「ぐっぎゃぁあああーーーっ!!」

 だが、飛ばされたヒートはそのまま空中に停止し、まわりを見渡す。



 戦局は『赤の盗賊団』が不利に傾いてきていた―。

 正面から迎え撃ったレッド・キャプテン率いるレッド・キャップの隊は見たところすでに鎮圧されていた。

 レッド・ノーズはヘルシングに討ち取られ、そのヘルシングがヒートのもとに向かってきていた。

 レッド・マントは『アドベンチャーズ』を圧倒してはいたが、まだ混戦している。

 サタン・クロースはジンたちと交戦中、どうも攻めあぐねている様子・・・。

 ヒート自身もグースカ衆が、特にツンとマザーが手強く、このままではヘルシングとも共闘され、不利なのは自明の理だった―。



 「こりゃ、やっべぇかな・・・。ああ、デカラビア様に怒られちゃうよ・・・。」

 しかし、このヒートは任務に命を捧げるほど忠誠心があるわけではなかった。

 「おい! 降りてきやがれ! てめえ!」

 「降りてきなさい!」

 地上でツン・グースカとマザー・グースカが文句を言っている。

 そんな中、マン・グースカが何やら、呪文を唱えた。




~続く~
©「聖者の行進」(曲/アメリカ民謡 詞/アメリカ民謡)
©「むすんでひらいて」(曲/ルソー 詞/作詞者不詳)

【読者への挑戦状】
★なぜ、ジンたちは仕立て屋が怪しいと最初から思っていたのでしょうか?
賢明なる読者にはおわかりだったですね。
ヒントはすでに文章の中に出ています。





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