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七雄国サミット
第149話 七雄国サミット『Sランク冒険者』
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犯罪集団『ジャックメイソン』の構成員は秘密で、何人いて誰がメンバーかも知られていない。
が、今回のこの悪質なテロ行為は明らかにヤツラの手口だ。
神出鬼没、どこにでも現れ、めちゃくちゃに混乱を招く狂気の犯罪大好き集団、それが『ジャックメイソン』なのだ。
そして、その構成員が二人も同時にこの『アーカム・シティ』の中心地、ど真ん中に現れ暴れている。
こんなことは『法国』にとってありえてはいけないことだ。
しかも、現在、世界の要人が集まっている『七雄国サミット』の開催中に……。
「きひひ! 僕たちの役割はもう果たしたから、もうやめてもいいんだよ!?」
「そうそう! 『法国』でこんな事件が起きるなんて! 世界各国の民はどう思うのかなぁ?」
「そうだねぇ? 『法国』の権威はどんどん急上昇だねぇ?」
「また、アマノは嘘付いてるね? けへへ!」
二人の狂人が楽しそうにはしゃいでいる。
だが、そこへ駆けつけたSランク冒険者パーティー『モーニング・スター』のルーシーは的確な指示を出す。
「サマエル! 消火の魔法を唱えてください!」
「はい! ルーシー!」
「ハマエル! あなたは、あのかぼちゃの化け物に、氷魔法を!」
「はーい! ルーシー! 了解ですよ!」
「では! 豪雨の呪文! 『雨ふり』!」
サマエルと呼ばれた赤い鎧の竜の騎士が呪文を唱える。
『あめあめふれふれ、かあさんがぁ! じゃのめでおむかえ、うれしいなぁ! ピッチピッチチャップチャップ! ランランラン!
かけましょかばんを、かあさんのぉ! あとからゆこゆこ、かねがなるぅ! ピッチピッチチャップチャップ! ランランラン!』
オオムカデ爺やも使ったレベル4の水魔法『雨ふり』だが、サマエルはさらに2番まで詠唱し、その雨の降る範囲を広範囲に及ぼしたのだ。
急に空が曇り、大雨が降り注ぐ。
さきほどの眠りの催眠呪文によっておとなしくなった『爆裂コショウ』に優しい雨が降り、火の勢いはまたたく間に衰えていく。
そして、今度はハマエルと呼ばれた女性の僧侶が呪文を唱える。
「はい! 上級凍結呪文『冬の夜』!」
『燈火ちかく衣縫ふ母は、春の遊びの楽しさ語る、居並ぶ子どもは指を折りつつ、日数かぞへて喜び勇む、囲炉裏火はとろとろ、外は吹雪……!』
周囲の気温が急激に下がり、ジャック・オー・ランタンめがけて、その凍気が集結し、一気に龍のように襲い掛かる!
「なんだとぉ!? ええーっい! 喰らえ! 舞い散れ! 炎の華! 『敵の炎』!!」
『憎き翼が汚す祖国の青空!怒り心に湧き立ち、握る拳ぞ!見よ無礼な姿、敵の翼をば残らず折るぞ!近き日この敵を!』
提灯ジャックも炎熱の上級呪文を繰り出して対抗した!
ハマエルとランタンの中心でお互いの炎と氷の魔力がぶつかり合い、くすぶっている。
互角の魔力なのか。
提灯ジャックがニヤリと笑う。
「ふぅ……。びっくりするじゃあないか? だけど、まあ、こんなもんだよねぇ? 僕、上位精霊なんだよ。残念でしたぁ!」
少し、ハマエルのほうに炎の勢いが押しているようにじりじりと近づいていく……。
「ふふふ。おバカさんね? 相克(そうこく)を知らないのかしら? 木・火・土・金・水! 火は水に弱し……よっ!」
そう言って、ハマエルがさらに魔力を込めると、サマエルが唱えた豪雨の呪文の雨さえも氷と変わり、氷の龍が大きくなり、氷龍が咆哮した。
「ギャオォオオオオオーーーーォォオオオーーーッ!!」
「な……!? なんだってぇ!? まさか! まさか! 僕の炎がっ!?」
ドッギャァアアアーーーーーァアアーーーーーッンッ……
炎の魔力でできているはずのジャック・オー・ランタンの身体が一瞬で凍りつき、その魔力ごと生命の糸を断ち切った。
「おお! ランタン! おまえがやられるはずないよねぇ? あり得ない……。」
「その、あり得ないことが今、目の前で起きたのだ。何か、言い残すことはあるか!?」
アマノ・ジャックに向かって、剣を構えるルーシー。
「くくく……。僕はおまえみたいな男は嫌いさ!」
「ふ……。私がいつ男だと言ったのだ?」
「ああ。知ってるさ。僕は男だからねぇ……。男の匂いはわかるのさ。」
「何を言っているのかさっぱりわからん。が、その魂まで浄化せよ!」
ルーシーが剣を目の前に縦に構えた。
「この次元聖剣『ディメンション・ソード』の剣技を拝むが良い!」
キラリ……
一瞬、ルーシーの姿が輝いたように見えた。
「次元聖剣・一次元流法『線(ライン)』」
ルーシーが剣を鞘に収めた。
シュバァーーーーッ!!
アマノ・ジャックの首が宙を舞い、スローモーションのように地面へ落ちた。
ポトリ。
「ああ……。僕、長生きできるのかなぁ?」
アマノが問う。
「いや。おまえは死んだんだよ。」
ルーシーが答える。
「じゃあ、もう僕は嘘をつかなくてもいいんだね?」
「ああ。そうだな。正直に死ぬがいい……。」
「ああ。君は……。なんて美しい……。十二枚の翼が見える……。」
「それは幻覚だよ……。」
アマノ・ジャックはそう言って笑いながら事切れたのだった……。
ルーシーは悲しそうな顔を一瞬だけして、サマエルとハマエルのほうを向いて言った。
「終わったな……。」
****
アマノ・ジャックは嘘しかつけない呪いにかかっていた。
それは、子供の頃に受けた親からの虐待が原因であった。
階級の高い貴族の家に生まれたアマノは、厳しい両親にしつけと称して虐待を受ける毎日だった。
親の思う通りに行動したり、親の思う通りの答えを言わなければ、食事抜きは当たり前で、その身体に体罰を与え、泣きわめいて謝っても許してはもらえないのだった。
両親は、その期待にそぐわない子供のアマノに不満しか無かったのだ。
「アマノ! またおまえは父の思う答えが出せないのか?」
「アマノ? なぜ、そんなことを言うの?」
自分に正直に言えば言うほど、両親はアマノにきつく当たる。
アマノはいつしか親の顔色を伺い、嘘しかつけない体質へと変わってしまったのだ。
そして、ずっと自分に嘘をつき、両親の思う通りの人形となって生きていたそんなある日ー。
少し微笑んだ人物の顔が剞まれた仮面をつけたその者がアマノの前に現れた。
「お兄ちゃんは誰? いや、お姉ちゃん?」
「あはは。いいよ。僕はお兄ちゃんでも、お姉ちゃんでもね。君を迎えに来たんだ。」
「ええ? 僕は何もできない。何のチカラもないんだよ?」
「それは……嘘かもしれないね……? でも、君を迎えに来たのは本当だよ!? 一緒に行こう!」
「僕は生きてたくないし、行きたくない。両親と一緒にいたいんだ。」
「うん。それは嘘だよね? 君は嘘しか言えないんだよ。」
「ああ。あなたは、僕のこと、なんにもわかってない。」
「うん。そうかもしれない……。でもさ、君の両親は……。ほら? もう、あそこで死んでいるよ? ふふふ。」
アマノがそのほうを見ると、アマノの両親の首が転がっていたのだったー。
「ね?」
「ああ。僕は悲しいよ。両親が死んだなんて……。自由は怖い。」
「ふふふ。君の言うことを僕は君と一緒に嘘にして行くよ。楽しくないかい?」
「あなたの名前はなんというのか知りたくない。」
彼は笑ってこう答えた。
「うん。ヴァニタス・ヴァニタートゥムだよ。ヴァニタスって呼べばいいさ。」
アマノ・ジャックは死ぬ間際、一瞬だけヴァニタスのことを思った。
「ああ。ヴァニタス様なら、失敗しても僕のこと、叱らないでくれるだろうなぁ……。」
……と。
~続く~
©「雨ふり」(曲/中山晋平 詞/北原白秋)
©「冬の夜」(曲/文部省 詞/文部省。初出は明治45年3月「尋常小学唱歌(三))
©「敵の炎」(作詞:サトウハチロー/作曲:古賀 政男)
が、今回のこの悪質なテロ行為は明らかにヤツラの手口だ。
神出鬼没、どこにでも現れ、めちゃくちゃに混乱を招く狂気の犯罪大好き集団、それが『ジャックメイソン』なのだ。
そして、その構成員が二人も同時にこの『アーカム・シティ』の中心地、ど真ん中に現れ暴れている。
こんなことは『法国』にとってありえてはいけないことだ。
しかも、現在、世界の要人が集まっている『七雄国サミット』の開催中に……。
「きひひ! 僕たちの役割はもう果たしたから、もうやめてもいいんだよ!?」
「そうそう! 『法国』でこんな事件が起きるなんて! 世界各国の民はどう思うのかなぁ?」
「そうだねぇ? 『法国』の権威はどんどん急上昇だねぇ?」
「また、アマノは嘘付いてるね? けへへ!」
二人の狂人が楽しそうにはしゃいでいる。
だが、そこへ駆けつけたSランク冒険者パーティー『モーニング・スター』のルーシーは的確な指示を出す。
「サマエル! 消火の魔法を唱えてください!」
「はい! ルーシー!」
「ハマエル! あなたは、あのかぼちゃの化け物に、氷魔法を!」
「はーい! ルーシー! 了解ですよ!」
「では! 豪雨の呪文! 『雨ふり』!」
サマエルと呼ばれた赤い鎧の竜の騎士が呪文を唱える。
『あめあめふれふれ、かあさんがぁ! じゃのめでおむかえ、うれしいなぁ! ピッチピッチチャップチャップ! ランランラン!
かけましょかばんを、かあさんのぉ! あとからゆこゆこ、かねがなるぅ! ピッチピッチチャップチャップ! ランランラン!』
オオムカデ爺やも使ったレベル4の水魔法『雨ふり』だが、サマエルはさらに2番まで詠唱し、その雨の降る範囲を広範囲に及ぼしたのだ。
急に空が曇り、大雨が降り注ぐ。
さきほどの眠りの催眠呪文によっておとなしくなった『爆裂コショウ』に優しい雨が降り、火の勢いはまたたく間に衰えていく。
そして、今度はハマエルと呼ばれた女性の僧侶が呪文を唱える。
「はい! 上級凍結呪文『冬の夜』!」
『燈火ちかく衣縫ふ母は、春の遊びの楽しさ語る、居並ぶ子どもは指を折りつつ、日数かぞへて喜び勇む、囲炉裏火はとろとろ、外は吹雪……!』
周囲の気温が急激に下がり、ジャック・オー・ランタンめがけて、その凍気が集結し、一気に龍のように襲い掛かる!
「なんだとぉ!? ええーっい! 喰らえ! 舞い散れ! 炎の華! 『敵の炎』!!」
『憎き翼が汚す祖国の青空!怒り心に湧き立ち、握る拳ぞ!見よ無礼な姿、敵の翼をば残らず折るぞ!近き日この敵を!』
提灯ジャックも炎熱の上級呪文を繰り出して対抗した!
ハマエルとランタンの中心でお互いの炎と氷の魔力がぶつかり合い、くすぶっている。
互角の魔力なのか。
提灯ジャックがニヤリと笑う。
「ふぅ……。びっくりするじゃあないか? だけど、まあ、こんなもんだよねぇ? 僕、上位精霊なんだよ。残念でしたぁ!」
少し、ハマエルのほうに炎の勢いが押しているようにじりじりと近づいていく……。
「ふふふ。おバカさんね? 相克(そうこく)を知らないのかしら? 木・火・土・金・水! 火は水に弱し……よっ!」
そう言って、ハマエルがさらに魔力を込めると、サマエルが唱えた豪雨の呪文の雨さえも氷と変わり、氷の龍が大きくなり、氷龍が咆哮した。
「ギャオォオオオオオーーーーォォオオオーーーッ!!」
「な……!? なんだってぇ!? まさか! まさか! 僕の炎がっ!?」
ドッギャァアアアーーーーーァアアーーーーーッンッ……
炎の魔力でできているはずのジャック・オー・ランタンの身体が一瞬で凍りつき、その魔力ごと生命の糸を断ち切った。
「おお! ランタン! おまえがやられるはずないよねぇ? あり得ない……。」
「その、あり得ないことが今、目の前で起きたのだ。何か、言い残すことはあるか!?」
アマノ・ジャックに向かって、剣を構えるルーシー。
「くくく……。僕はおまえみたいな男は嫌いさ!」
「ふ……。私がいつ男だと言ったのだ?」
「ああ。知ってるさ。僕は男だからねぇ……。男の匂いはわかるのさ。」
「何を言っているのかさっぱりわからん。が、その魂まで浄化せよ!」
ルーシーが剣を目の前に縦に構えた。
「この次元聖剣『ディメンション・ソード』の剣技を拝むが良い!」
キラリ……
一瞬、ルーシーの姿が輝いたように見えた。
「次元聖剣・一次元流法『線(ライン)』」
ルーシーが剣を鞘に収めた。
シュバァーーーーッ!!
アマノ・ジャックの首が宙を舞い、スローモーションのように地面へ落ちた。
ポトリ。
「ああ……。僕、長生きできるのかなぁ?」
アマノが問う。
「いや。おまえは死んだんだよ。」
ルーシーが答える。
「じゃあ、もう僕は嘘をつかなくてもいいんだね?」
「ああ。そうだな。正直に死ぬがいい……。」
「ああ。君は……。なんて美しい……。十二枚の翼が見える……。」
「それは幻覚だよ……。」
アマノ・ジャックはそう言って笑いながら事切れたのだった……。
ルーシーは悲しそうな顔を一瞬だけして、サマエルとハマエルのほうを向いて言った。
「終わったな……。」
****
アマノ・ジャックは嘘しかつけない呪いにかかっていた。
それは、子供の頃に受けた親からの虐待が原因であった。
階級の高い貴族の家に生まれたアマノは、厳しい両親にしつけと称して虐待を受ける毎日だった。
親の思う通りに行動したり、親の思う通りの答えを言わなければ、食事抜きは当たり前で、その身体に体罰を与え、泣きわめいて謝っても許してはもらえないのだった。
両親は、その期待にそぐわない子供のアマノに不満しか無かったのだ。
「アマノ! またおまえは父の思う答えが出せないのか?」
「アマノ? なぜ、そんなことを言うの?」
自分に正直に言えば言うほど、両親はアマノにきつく当たる。
アマノはいつしか親の顔色を伺い、嘘しかつけない体質へと変わってしまったのだ。
そして、ずっと自分に嘘をつき、両親の思う通りの人形となって生きていたそんなある日ー。
少し微笑んだ人物の顔が剞まれた仮面をつけたその者がアマノの前に現れた。
「お兄ちゃんは誰? いや、お姉ちゃん?」
「あはは。いいよ。僕はお兄ちゃんでも、お姉ちゃんでもね。君を迎えに来たんだ。」
「ええ? 僕は何もできない。何のチカラもないんだよ?」
「それは……嘘かもしれないね……? でも、君を迎えに来たのは本当だよ!? 一緒に行こう!」
「僕は生きてたくないし、行きたくない。両親と一緒にいたいんだ。」
「うん。それは嘘だよね? 君は嘘しか言えないんだよ。」
「ああ。あなたは、僕のこと、なんにもわかってない。」
「うん。そうかもしれない……。でもさ、君の両親は……。ほら? もう、あそこで死んでいるよ? ふふふ。」
アマノがそのほうを見ると、アマノの両親の首が転がっていたのだったー。
「ね?」
「ああ。僕は悲しいよ。両親が死んだなんて……。自由は怖い。」
「ふふふ。君の言うことを僕は君と一緒に嘘にして行くよ。楽しくないかい?」
「あなたの名前はなんというのか知りたくない。」
彼は笑ってこう答えた。
「うん。ヴァニタス・ヴァニタートゥムだよ。ヴァニタスって呼べばいいさ。」
アマノ・ジャックは死ぬ間際、一瞬だけヴァニタスのことを思った。
「ああ。ヴァニタス様なら、失敗しても僕のこと、叱らないでくれるだろうなぁ……。」
……と。
~続く~
©「雨ふり」(曲/中山晋平 詞/北原白秋)
©「冬の夜」(曲/文部省 詞/文部省。初出は明治45年3月「尋常小学唱歌(三))
©「敵の炎」(作詞:サトウハチロー/作曲:古賀 政男)
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