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吸血鬼殲滅戦・離

第177話 吸血鬼殲滅戦・離『姉妹のキズナ』

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 フィッチャー三姉妹とオレたちが戦い始めてから、骸骨戦士たちが周りで動きを止めていた。

 ツギハギ巨人女の振るう棍棒の巻き添えになるのを避けているからだ。

 逆にそれはオレたちにとってはありがたい。



 集中して、フィッチャー三姉妹を倒せばいいからだ。

 だが、このツギハギ筋肉のちい姉さんってヤツがまたやっかいだ。

 その肩口についている長女らしい生首の花嫁が呪文を唱えて、筋肉女が怪力で攻撃してくる。

 魔法と物理攻撃の同時攻撃なのだ。



 「よし! もう一回! 業火剣乱だ!」

 超ナノテクマシンで高エネルギーを集中させていく。

 その発生した熱を一気に炎に変えて、ツギハギ筋肉女にぶつける。


 だが、その火炎が襲いかからんとした瞬間に、生首の花嫁が呪文を唱えたのだ。

 「レベル4氷魔法・冷却『雪のこぼうず』っ!!」

 『雪のこぼうず、雪のこぼうず、屋根におりた、つるりとすべって、風にのって消えた!』



 周囲の大気が急激に冷却され、火炎の勢いを殺す。

 そのせいで、ツギハギ筋肉の肉体を焼き切ることが出来ない!

 科学で高出力にあげた熱エネルギーと、魔力で生み出された冷凍気が拮抗しているんだ。

 魔力の凄さを改めて認識することになったな。



 「わだぢど、ねえざんのキズナは堅いのだぁあああっ!!」

 「ツギ子! 行くのよ! あなたの肉体はフィッチャーの死霊術で強化してあるのよ! 恐れるものはなにもないわ!」


 ええ……・

 あのツギハギ巨人女、ツギ子って言うの……?

 それ、ツギハギありきの名前じゃあねえか!?



 一方、ヘルシングさんはフィッチャーの羽根のナイフの波状攻撃に、なかなか近寄れずにいた。

 「羽根ナイフ・嵐っ!!」


 ギュンッ! ギュンッ!

 シュパパパパパパッ!!

 雨あられのように襲いかかる羽根ナイフがヘルシングさんに迫る。

 さすがに捌ききれないか!?



 「ふぅ……。こいつは骨が折れるな! だがっ!」


 ヘルシングさんがボウガンを片手で構え、矢を数十本同時につがえた。

 そして、そのまま、片手でボウガンから矢を一気に放つ。

 しかも、もう一方の手で、あの重そうな大剣を軽々と振り回し、羽根ナイフを叩き落とした。

 ボウガンの矢が逆に大量にフィッチャーに襲いかかり、何本も突き刺さった。



 「ぐふっ……! なんだと……!?」

 鳥人フィッチャーが血を流し、倒れ込んだ。

 それにしても、片手でボウガンで矢をあれほど放つことができるなんて、ヘルシングさんって、超絶技巧のギタリスト・スティーブ・ヴァイかよ!

 世が世ならスーパーアーティストだったかもな。



 「よし! アイ! オレたちも負けちゃいられない! あいつをどうにかするぞ!」

 「マスター! すでにあのツギハギ女は倒しております。ご安心を!」

 「え……? ぴんぴんしてますけど……?」


 そう言われてオレは目を凝らして見てみると、あのツギハギ巨人女の四方になんだか超ナノテクマシンの壁が見えた。

 ちょうど立方体の真ん中にヤツがいるってことだ。

 しかも、ヤツラはそれに気がついていない。



 「な……! なに!? また熱くなってきたわ!」

 「ぐぉおおお! ねえぢゃんんん……! がらだが! あづいよぉおおーー!」

 「待ってて! また火炎攻撃ってわけ? 今! 冷却呪文を唱えるわ!」



 生首の花嫁は再び、呪文を唱えた。

 「レベル4氷魔法・冷却『雪のこぼうず』っ!!」

 『雪のこぼうず、雪のこぼうず、屋根におりた、つるりとすべって、風にのって消えた!』

 「これで、熱も……おさまる……、え? おさまらない? どうして!?」

 「ねえぢゃああああん! がらだの中があづいよぉおおお!」





 「アイ! あれは何をしたんだ!?」

 「簡単なことです! マスター。外から熱で攻撃しようにも、あの魔力で対抗されるので、内部から熱を加えただけのことです!」

 「え……? 内部って? どうやって?」

 「まあ、マスターのわかりやすいもので例えれば、電子レンジでございます!」

 「あ……! そうか! 電磁波で内部に熱エネルギーを与えているのか!」

 「イエス! マスター!」



 「ゔぁゔぁゔぁあゔぁああああああーーーっ!」

 「んんん……ぎゃああああーーー!!」


 ドッパォオオオーーーーーーンッ!



 生首の花嫁とツギハギ巨人女の肉体が爆裂し、四散したのだ!

 電子レンジに生き物を入れたらダメだって、そういや聞いたことがあったな。

 木っ端微塵に吹っ飛んでしまった。



 ドサリ……

 生首の花嫁が、焦げながら地面に落ちてきた。

 その横には、血と煙をあげながら、ゆだっているツギハギ巨人女の肉片が散らばっていて、かろうじて顔の半分が残っていた。


 「ねぇぢゃん……。いだいよぉ……。わだす、死ぬの?」

 「ええーい! 役たたずの妹め! あんたなんかクズよ!」

 「ぞんなぁ……。ねぇぢゃん……。わだす……。ただねえぢゃんと幸せに……なり……だかった……。」



 どうやら、魔核を破壊されたツギハギ巨人女、いや、ツギ子は息絶えたようだ。

 それにしても、生首の花嫁のほうはまだしぶとく生きているようだ。

 どうやら、もともと首だけだから、魔核も頭にあるみたいだな。



 「フィッチャー! 私を助けなさい! 姉ちゃんなしで貴女もやっていけると思うの!?」

 生首の花嫁が鳥人フィッチャーに声をかける。

 ヘルシングさんとの戦いで集中しているフィッチャーは、だがそんな余裕はないようだ。


 「姉さんなら、姉さんらしくなんとかしなさいよ! いつもいつもガミガミうるさいのよ! 姉さんはっ!」

 「何を言ってるの!? 貴女は妹でしょう! 姉の言うことを聞くのが当然でしょうが!!」

 「ああああ!! うるさい! うるさい! 黙ってて! こっちは忙しいのよ!」

 「くぅ!! 反抗期なの!? フィッチャー!」



 そんな姉妹喧嘩をしているところを、オレとアイは生首の花嫁のもとへ近寄っていた。

 「ふん! あなたたち! どうせ、青ひげ男爵様に殺されるのよ! むごたらしく死ねばいいわ! そして……。」


 グチャ……


 生首の花嫁がまだ喋ろうとしているところを、アイがその足で頭を踏み潰したのだ!

 「さえずるな! ゲス女が! 我がマスターの前で不敬にもほどがあるわ!」




 どうやら、アイもあのツギ子に対してのこの生首女の言い分に腹を立てていたようだな。

 なんとなくだが、アイの思念が、思念通信で伝わったような気がする。

 やはり、アイは人工知能だけど、感情を持っているのだと思う。

 『魂』がほしいって言っていたけど、十分に魂を備えていると思うよ。アイ。



 ヘルシングさんもオレたちが生首の花嫁とツギ子を倒したのを見計らったかのように、その剣技を振るっていた。


 「聖クリストファー・ネイビス!!」


 ヘルシングさんの魔力を込めた大剣が、球状に無数に数十回、いや数百回、剣閃が飛ぶ。


 「きゃあああああーーーーあっはははぁああーーーん!」


 鳥人フィッチャーはバラバラに粉砕され、その羽根を散開させながら、消えていった。

 あいかわらず最後の断末魔は少し嬉しそうに聞こえるんだよな。



 「さすがです! ヘルシングさん!」

 「ジン殿もなっ!」

 周囲の骸骨戦士たちを手早く片付ける。

 オレたちはハイタッチをして、部屋の奥にある階段を見た。



 「あれを上がると、王の間だな。」

 「いよいよ、青ひげ男爵のお出ましですね。」

 「マスター。十分にご注意を。まだ、魔術師がいます。」

 「そうだったな。そいつも倒さないと、『チチェン・イッツァ』の街が危ないな。」



 こうして、オレたちは奥の階段を慎重に上っていくのであったー。



~続く~

©「雪のこぼうず」(村山寿子作詞・外国曲)


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