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吸血鬼殲滅戦・乃

第193話 吸血鬼殲滅戦・乃『アテナ対チュドー・ユドー』

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 さて、オレたちが『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』本体とともに、『異界の穴』から異空間へ消え去った後-。

 残された世界では、ヤツの残した分身体、三頭竜の『チュドー=ユドー』、龍骨騎士『トゥガーリン・ズメエヴィチ』、無数の生み出された毒蛇『ツモク』の大群との戦いが続いていた。

 アテナの忠実なる使徒『ミネルヴァ騎士団』の騎士の中でも、影の『聖なる工芸の九柱神(ミューゼス)』の一人、髪に黄金のリボンをつけた美しい女性・エウテルペーが、フルートを持ち、抒情詩・レベル6の空間魔法、敵に不利な天候に変更する天候呪文『ドニェープルの嵐』を唱えたため、太陽が姿を現し、まさにすこぶる快晴の天候と変わっていた。

 闇の眷属どもが、最も嫌う陽光がさんさんと輝き、アテナさんたちを祝福しているかのようだった。



 『餓者髑髏』の分体のひとつ三つの首を持つ『チュドー=ユドー』は、多頭の竜で、ロシア民話の異本などに登場する。

 『チュドー=ユドー』は、本来は水棲の竜であり、異なる個体は異なる数の頭を持っていたという。

 人間のように馬にまたがるという描写もされる。

 ただし、ある解説によれば、『チュドー=ユドー』とは特別な種類の竜の名称などではなく、単に「怪物」を意味する「チュドーヴィシチェ」(чудовище)と同じとみなすべきで、「ユドー」という語尾は、ただ脚韻を踏むためのみに追加された語根だというのだ。





 アファナーシェフの昔話集の『灰かぶりのイワン』では、主人公が三頭と六頭のズメイ、およびその妻と娘たちを倒したのだが、その類話部分をもつ第137話『牛の子イワン』では、六頭、九頭、十二頭の『チュドー=ユドー』を倒す(これがズメイであると原文には明記されないが、ドラゴンの一種であるとの解説されている)。

 この世界でもその昔、伝説の雌牛の息子、超英雄族の『嵐の勇者』イワンが、退治したという『チュドー=ユドー』はズメイの竜であると明言されており、『嵐の勇者』は、アプスー(淡水の海)から出現した六頭、九頭、十二頭の『チュドー=ユドー』と対峙したという。

 このとき『嵐の勇者』イワンは魔法剣『クラデニェッツ剣』を携え、竜を攻撃する武器として棍棒(メイス)と合わせて使用したと伝えられている。

 『チュドー=ユドー』は、例え斬首されても非常に回復力が強く、頭部を元の場所に戻して火炎の指でなぞれば元通りにつながることが一編の昔話に描かれており、その治癒能力は頭部が再生するギリシア神話のヒュドラーを彷彿とさせる。



 「この世に終焉をもたらすために我は生み出された……。偉大なる『ズメイ・ゴルイニチ』の名のもとに……。」

 『チュドー・ユドー』は、そこに意思を持っていた。

 世界を滅ぼさんとする邪悪なる破壊の意思ではあるが……。



 アテナは、もちろん、ひるむはずもなく、ニーケに声をかけた。

 「ニーケ! 今いち度、『歓喜の歌』を頼む! エリクトニオス! グラウコーピス! ヤツの注意を引いてくれ!」

 アテナは再び、最大の一撃をぶつけるつもりらしい。



 後方に下がっていたニーケが呪文を詠唱し始める。

 「アテナ様! わっかりましたー! では重ねがけで……、上級バフ(全味方の精神・魔力・肉体強化)呪文! 『歓喜の歌』! みんなに届けっ!」

 『おお友よ、このような旋律ではない! もっと心地よいものを歌おうではないか! もっと喜びに満ち溢れるものを! 歓喜よ、神々の麗しき霊感よ。天上楽園の乙女よ。我々は火のように酔いしれて、崇高なる者(歓喜)よ、汝の聖所に入る!』

 ニーケの身体から発せられた光が、上空へ立ち昇り、アテナさんに優しい慈愛に満ちた光のシャワーが降り注いだ。


 「よし! 聖魔力・増幅に取り掛かる! エリクトニオス! グラウコーピス!」

 アテナは二人の従者に声をかけた。



 エリクトニオスがさらに呪文を唱え始める。

 それはレベル6の光魔法『聖者の行進』だった。

 闇を払う魔法で、闇の呪文の効果を打ち消す効果があるのだ。

 『Oh when the saints,Go marchin' in,Oh when the saints go marchin' in.I want to be in that number,
when the saints go marchin' in.』


 その間にグラウコーピスが前へ突撃していく。



 グラウコーピスの恐るべき剣戟が、『チュドー・ユドー』の三つの首のうち、1つの首をあっという間に切り飛ばしはねたのだ!

 だが、それを意に介さず、『チュドー・ユドー』が呪文を唱えて反撃してきた。

 『草原に響きわたる黒き同胞たちの哀歌、マネツグミたちは楽しく、戻らぬ日々を歌う。ツタの生い茂る草葉の陰の墳丘に、あの優しかった主人は眠る…。冷たい、冷たい土の中に!』


 それは闇の魔法レベル5の即死呪文『主人は冷たい土の中に』だった!

 恐るべし『死』の呪詛の塊が真なる闇の塊となって、グラウコーピスを包み込んだ。

 だが、さきほどのエリクトニオスの光魔法のおかげで、一瞬、その魂を持っていかれそうになったグラウコーピスはそこで、耐えていた。

 だが、その呪詛はぐるぐると行き場のなくなった呪いとして、いつでもグラウコーピスに襲いかからんとグラウコーピスの周囲を取り巻いていた。



 すると、そこへアテナが『アイギスの盾』を前にかざし、グラウコーピスの前へ一瞬で飛び出し、盾となった。

 恐ろしき闇の呪文の即死効果を遮ったのだ!

 さらに、魔力を『アイギスの盾』に込めた!


 『千歳(ちとせ)の岩よ、わが身を囲め、さかれし脇(わき)の血しおと水に罪もけがれも洗いきよめよ!』

 魔力を込めると、自動的に石化呪文『千歳の岩よ』と同等の効力を発する特別な盾なのだ!



 二つ首となった『チュドー・ユドー』の動きが止まり、一瞬で石化して固まった。

 先刻の『ズメイ・ゴルイニチ』との戦いのときと同様に、怪物は身動きができなくなっていたのだ。


 アテナは自身の持つ『黄金の雷光の槍』に、周りにオーラがほとばしるほどの雷光が走らせながら、魔力を凄まじいほどに集中させていく……。



 アテナが槍を一点に向かって光速で突き貫いた!


 「本日二度目だっ! メイルシュトローム・コンセントレーションッ!!」


 その膨大に込められた魔力の大渦が一点に集中していき、『チュドー・ユドー』の石化した魂魄……『餓鬼魂』を打ち砕いたのだ!!




 ドッパァアーーーァアアアーーーーーッンン……




 『餓鬼魂』が瞬間的に、飛散し、四方へ飛び散ったのだ……。

 そして……。



 今度こそ、『チュドー・ユドー』は灰燼と化し、二度と再生する気配を見せることはなかった。

 やはり分身体と本体は違うのであろう。

 分体の『チュドー・ユドー』には、本体ほどの再生能力はなかったようだ。

 魂魄に集積された呪詛の量が違うのだから、当然の帰結と言える。



 「アテナ様ぁーー! やりましたね!」

 ニーケがアテナの元へ駆け寄ってきた。


 「アテナ様。この我をお守りくださり、感謝いたしますぞ。」

 グラウコーピスがアテナに礼を述べた。

 「何を言っている? グラウコーピス。卿は私の家族も同然であろう? 礼などいらぬ!」

 「アテナ様……。ありがたきお言葉……。」



 「はぁーあ。グラウコーピスさんってば。私の魔法でもあなたを守ったんですけどねぇ……。」

 エリクトニオスが軽口を叩く。

 「まあ……。そなたは役目を果たしたに過ぎないのでございます。」

 「なぁんだよ……? ま、いいけどね?」

 エリクトニオスとグラウコーピスがそんなことを言い合っているところへ、アテナの一喝が入った。



 「卿ら! まだ戦いは終わっていないのだぞ!? あっちではクー・フーリン殿が龍骨騎士『トゥガーリン・ズメエヴィチ』と対峙しているし、無数の生み出された毒蛇『ツモク』の大群との戦いはまだ続いているのだからな! 気を抜くでないぞ!」

 「「かしこまりました!」」



 その同時刻、竜人の龍骨騎士『トゥガーリン・ズメエヴィチ』の前に立ちふさがった、クー・フーリン率いるSランク冒険者パーティー『クランの猛犬』との攻防が始まっていたのであった-。



~続く~

©「聖者の行進」(曲/アメリカ民謡 詞/アメリカ民謡)
©「歓喜の歌」ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章で歌われ、演奏される第一主題(作曲:ベートーヴェン/作詞:シラーの詩作品「自由賛歌」、最初の3行のみベートーヴェン)
©「主人は冷たい土の中に」(曲/フォスター 詞/フォスター)
©「千歳の岩よ」(曲:ヘイスティングス/詞:作詞者不詳)




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