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吸血鬼殲滅戦・乃

第195話 吸血鬼殲滅戦・乃『クー・フーリン対龍骨騎士・決着』

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 クー・フーリンが稲妻が駆けるが如く、その必中の極意である『ゲイ・ボルグ』の乾坤一擲(けんこんいってき)を放った!

 その疾(はや)きこと風のごとく、動くこと雷霆のごとしとは、まさに今のクー・フーリンの姿そのものであった。


 「たとえ『虚空の魔神』でも見切れまい!!」

 クー・フーリンはそれほどの疾さで、その槍が30の棘となって破裂するかのように、トゥガーリンに炸裂したのだ。



 竜人の龍骨騎士『トゥガーリン・ズメエヴィチ』の左肩口から先、左腕が一瞬のうちに吹き飛ばされた!

 だが、その胸の核、魔核を貫くことはできなかったようだ。

 トゥガーリンが身体を捻ったためと思われる。

 だが、その片腕は吹き飛ばしたのだ。

 刀を振るうことはままならない……はず……だった。



 「応っ!! 竜の逆鱗袈裟斬り!!」

 なんと!

 残った右腕一本で、斜め下から逆さ袈裟斬りを仕掛けてきたのだ。



 クー・フーリンの突きの伸び切ったその右腕を狙ってきたのだ。

 なんとかトゥガーリンの一撃と右腕の間に槍をすべらせ、防御したクー・フーリンだったが、その右腕に深い断裂の傷を受けてしまったのだ。

 血が滴り落ちる……。



 トゥガーリンが自身の失われた左腕のことなど、まるで意識しないかのように、右腕一本で再び構えをとった。

 吹き飛ばされた左肩口から、闇の魔力がシュゥシュゥと漏れ出でていた。

 だが、それは再生の兆しでもあった。

 吹き飛ばされたはずのトゥガーリンの左腕が、シュゥシュゥと音を立てながら、再生しているのだ……。



 「遠き昔…、我を討伐せし勇者アリョーシャ・ポポーヴィチに、引けを取らぬな……。クー・フーリン! 貴様も勇者を名乗るにふさわしいわ!」

 「ふぅ……。まったく、貴公の相手は疲れるねぇ……。まさか『乾坤一擲』が二度も通じないとはね……。盛大に楽しませてくれるわっ!!」

 先程までの『静』から『動』への一瞬の切り結びと違い、今度はお互いが無数の手数を繰り出し、相対する!



 「うりゃぁーーーっ! 唸れ! 『ゲイ・ボルグ』よ! 前進茨道!!」

 その槍が30の棘となって破裂するように、トゥガーリンに襲いかかる。

 それをトゥガーリンは円の動きで刀を回転させ、弾き返す。

 「竜水円陣っ!」



 だが、手数はクー・フーリンのほうが一枚上手のようだ。

 まだ、左腕が再生しきっていない今のトゥガーリンが不利なのは当然といえば当然であった。


 ギャンッ!

 ギィィイイーン!

 ガキッ!



 目にも留まらぬ速さでの剣戟の打ち合いがしばらく続く……。

 だが、クー・フーリンのその一撃がついに今度はトゥガーリンの右腕を吹き飛ばしたのだ。


 ズカァッ!!



 妖刀『トゥゴルカン・ハーン』が地面に落ちた。

 そして、その期を逃がすクー・フーリンではなかった。



 「そこだっ! 『ゲイ・ボルグ』の一槍入魂っ!!」

 クー・フーリンがトゥガーリンとの間を、ゼロ距離に一気に詰め、槍で一突きにしたのだ!



 胸のど真ん中を突き貫かれるトゥガーリン。

 両雄並び立ち、動きが止まった。

 トゥガーリンは倒れなかった……。



 「ぐふっ……。ふ‥…ふふふ……。クー・フーリン……。どうやら貴様の勝ちらしい……。勇者というやつはいかなる時代においても、腹立たしいものよ……。」

 「トゥガーリン……。貴様は間違いなく強かった……。だが、貴様の世を呪う気持ちよりも、私の思いのほうが強かったようだ……。」

 「むぅ……。その思いとやらはいったいなんだというのだ?」

 「トゥガーリン……。勇者の思いとはたったひとつであろう?」

 「そうか……。それもそうだ……。どんなに強大なる我ら闇のものにも、まったく屈しないその……『勇気』か……。」

 「そのとおりだ! 民を守るためならば、どんな強敵にも向かっていける……私のこの思いは何人たりとも挫くことはできないのだよ。」



 「ふふ……、ふふふふ……。あれから数百年、いや数千年経ったのか? 我は今がいつの時代やら見当もつかぬ。……だが、この時代の勇者を名乗る資格はクー・フーリン、貴様は間違いなく有していると我が認めよう! ……また、無限の闇へ帰るとしよう……。さらばだ……。勇者クー・フーリンよ!」

 そう言うが早いか、竜人の龍骨騎士『トゥガーリン・ズメエヴィチ』の姿が、存在が消滅していく……。

 闇の呪いの呪文で召喚されたかつての怪物は、再び、闇へと帰したのであった。



 同時に、Sランク冒険者『クランの猛犬』のパーティーメンバーである、スカアハ、フェルディア、オイフェ、コンラたちを一緒に戦馬車に縛り付けていた呪いの鎖『呪鎖縄縛(じゅさじょうばく)』がその妖刀『トゥゴルカン・ハーン』とともに消え失せた。

 クー・フーリンのもとにメンバーが駆け寄ってきた。



 「クー・フーリン様ぁ!」

 「さすがは我が父、クー・フーリン様!」

 「まあ、あたしは我が弟子を信じていたからねぇ」

 「ええ。スカアハ師匠。俺も弟弟子を信じていましたよ!」

 「ええ? そうですかぁ? 僕から見たら、フェルディア様って、けっこう不安げだったような……?」

 「こら! コンラ! 信頼というのは表面から見ただけではわからないものなんだよ!」

 「ええ!? フェルディア兄さん……。信用していなかったのですか? 私を!」

 「いやいや! セタンタよ……。真に受けるでない!」



 「うーむ。まだまだ修行が足りないか? フェルディアよ?」

 「そんなぁ……。師匠まで……。」


 「「あっはっはっは!」」



 地上から這い寄る毒蛇『ツモク』どもに関しては、あまりにも数が多かったが、イシカやホノリ、ジョナサンさんやミナさんたちの奮闘と、『ククルカンの蜥蜴軍』や、ヤム・カァシュの魔術弓隊の働きによって、なんとか食い止め、城壁を守りきっていた。

 『ツモク』に対抗できているのは、両腕がまだ不完全なイシカと、片足が吹っ飛んでしまったホノリ、ずっと剣をふるい続けているジョナサンさんとミナさんだったが、地上に下りてくる『ツモク』の数が一気に減ったから、対応ができたのだった。



 それは、コタンコロは、空中から大量に『チチェン・イッツァ』の街へ飛来しようとしていた『ツモク』どもをその翼の羽ばたきで大風を起こし、阻止したからであり、それにより、一気に襲ってくる数が激減したからであった。

 「ウイング・ソニック・ブーム!!」

 翼を羽ばたかせ、超スピードで飛空し、その衝撃波で、『ツモク』どもを吹き飛ばし、その衝撃波の影響が、街には及ばないように、正確無比にその衝撃波の起こる方向を調整するだけでなく、敵が同時に襲ってくる数をも調整していたのであった。



 そのスカートがまくれあがり、男のシンボルが見えてしまっている女王(?)ウシュマル・クィーンが、『チチェン・イッツァ』の街の中で、的確に防衛体制を指示し、ヒルコがその隙間を縫うように侵入していた毒蛇『ツモク』どもを、片っ端から食らい付くしていたのであった。

 ヒルコに毒は効かないのだ。

 「クィーン様! 大丈夫なのー?」

 「もちろんろん! ヒルコちゃんには負けないわよ!?」

 メイド姿のヒルコと女装……こほん……女王はえらく親密なようだった。




 みなの活躍もあり、『チチェン・イッツァ』に平穏が訪れようとしていた。



 ヒルコ、コタンコロ、イシカ、ホノリのみんなは、同じことを今、胸中に思っていた。


 ジンの無事を祈っていたのである。



 「ジン様……。どうかご無事で……。」

 「我がご主人様よ。息災であられますように……。」

 「ジン様……。イシカもお供したかったであるゾ!」

 「ジン様……。ホノリはついてい行きたかったのだ!」



 彼ら3つの下僕たちの思いは、もはや、この世界とは違う、異空間の彼方にまで届くことはないのである-。




 アテナや、クー・フーリン、ククルカンたちも、あの恐ろしき怪物『ズメイ・ゴルイニチ・エンペラー』を道連れに、異空間へと消えたジンたちのことを思うのであった。



~続く~


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