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7.決意
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後日②
薄暗い月明かりの下、リグマイアスはボンヤリと辺りを照らす月を見上げていた。自分に当てがわれた部屋はサリアンの部屋の向かいにあった。
ここはサリアンの商会の小型の倉庫兼商談や受付に使うサロンやカウンター。そして二階は居住に使う部屋が10程ある大邸宅だ。
リグマイアスは何も知らなかった。彼女が12歳から商会を立ち上げ、利益を出し、大商会の会長をしている事など。
いつも夜は領主の館に居て自分を迎えてくれていたはずだ。居なかった事など.........いや、愛人に会いに行くようになってからはどうだったか覚えていない。帰らない日も多かった。忘れるなんて烏滸がましい。無い事になんて出来ない。だが、リグマイアスは何故かその辺りの記憶がボンヤリしている。愛人に出会った時の事や、愛人宅までの道のりも思い出せない。起きると愛人が裸で隣で寝ている。訪ねると酒を飲まされるので自分は酒が弱い所為で記憶が無いのだと信じていた。恥ずかしいので人には言わないが.........。
(なんでこんなに曖昧なんだろう.....でも行為はしていたんだよな?.........違うとも言い切れないけど記憶が無いのは可笑しいか.........。いや、もう過ぎた事だ。今更だな。私はサリアンを傷付けたんだ。その事実に変わりは無い)
偶然再会した数日前、薬の所為とは言え、一度爆発してしまった。美しくなっていた彼女の中は実はもう、ボロボロだった。
小さい頃出会ってから結婚して3年までの13年間、彼女は一度だって声を荒げる事など無かった。
始めは興味の無い顔を見せていたが、次第に心を開いてくれた。婚約後はいつも笑顔で寄り添い、リグマイアスを包み込むような優しさをくれた。多少の遊びにも寛大で何も言わなかった。
領主の妻に相応しい女に育った。
それが、愛人に子供が出来たと告げた日。まるで刃物でスッパリと切るかのように別れを告げられ、呆然とした。離婚すると言われ、言葉の意味を理解した時にはもう目の前から消え、次の朝には屋敷から出て行ってしまった。
その時は何だか裏切られた気がした。自分から裏切っておいて、裏切られたなど思う方が可笑しいのだが、彼女なら変わらず許してくれると思っていた。
貴族で、領主。愛人1人くらい普通だ。.................
だが、そうだ。サリアンとの間に子が出来ていない状態で、そんな事は許されなかったのだ。「後取りが出来て良かった」と言われた。つまり、子が出来ないから愛人を作ったと言っているようなものだ。女性にとっては残酷な事をした。
酷く.........傷付けてしまった事に後からじわじわと悩んだ。
謝りたかった。だが、連絡先が判らない。サリアンの父親に聞く訳にも行かない。一度専門の機関に調べさせたが分からなかった。行方が掴めなかった。不安が押し寄せた。怖かった。二度と会えなくなる事が。このまま離れてしまう事が。いや、無事なのか?解っているつもりが彼女の事を知らな過ぎた。胡座をかいていたのだ。離れて行くはずないそう思い込んで...........。
自分は、彼女が必要だった。彼女は、違ったのか?聞く勇気も資格も無かった。
そして、あっという間に落ちぶれた。
全てを失った。
結婚指輪さえも.........。
「.................馬鹿だな。本当。でもお陰で目が覚めた。罰も受けた。やり直しの人生、後は繰り返さない事だけだ。二度と彼女を泣かせない」
それにはまず力を付けないと。ジゴロはごめんだ。卑屈になるだけだ。私には出来ない。今私に必要なのは「自信」なんだ。
「兎に角、せめて指輪くらいは渡したいな.........。いや.........ペットだし、受け取ってくれないかもしれないし。でも...いつかその日の為に稼がないと。明日ダクスさんに相談してみよう」
****
「お金を稼ぎたい?」
「ええ。飼われるだけでは申し訳ないので。自分で稼ぎたいのです」
「お金は主人の許可が出ていますから幾らでも、いつでも引き出し出来ますよ?」
「あ、いえ。そうじゃなくて.........えっと。小遣いで買いたく無い物があるので」
「.................ふーん。本当にリグマイアス様は真面目な方ですね?なんでそれで愛人なんか作ったんですか?」
「! あ、あの......それが.........あまり覚えていなくて.........。全く出会いが思い出せ無いのです。友人達とルーレットで遊んでいた時期があったのですが、その頃からかな?それも曖昧で.........」
「.................何か仕込まれましたね?」
「え?」
「.........いえ、良いのです。何でもありませんよ。そうですねぇ.........じゃあ、《冒険者》の登録でもしますか?依頼を受けてこなすとそれに応じた賃金が支払われるのです。内容は様々ですから、護衛の訓練をしながら少しずつ依頼を受けてみてはどうですか?」
「《冒険者》?ああ、領主をしていた時はよく野犬の討伐などに依頼を掛けてました。そうか、成る程。ありがとうございます、ダクスさん。早速登録して来ます」
リグマイアスはニッコリ笑って礼を言い、そのまま街に行ってしまった。
「本当、リグマイアス様は物凄く騙されやすそうだな。................騙す.....か。なるほどね。少し調べてみるか」
(主人はリグマイアス様の事になると思考が停止する。知る事を怖がる。しょうがない、爆弾抱えて日々を過ごすくらいなら、ハッキリさせておこう)
これが後に才女で有り筆頭起業家のサリアンの逆鱗に触れ、商品流通へのボイコットを半世界規模で行う事態になったりする。
(これはまた違うお話)
薄暗い月明かりの下、リグマイアスはボンヤリと辺りを照らす月を見上げていた。自分に当てがわれた部屋はサリアンの部屋の向かいにあった。
ここはサリアンの商会の小型の倉庫兼商談や受付に使うサロンやカウンター。そして二階は居住に使う部屋が10程ある大邸宅だ。
リグマイアスは何も知らなかった。彼女が12歳から商会を立ち上げ、利益を出し、大商会の会長をしている事など。
いつも夜は領主の館に居て自分を迎えてくれていたはずだ。居なかった事など.........いや、愛人に会いに行くようになってからはどうだったか覚えていない。帰らない日も多かった。忘れるなんて烏滸がましい。無い事になんて出来ない。だが、リグマイアスは何故かその辺りの記憶がボンヤリしている。愛人に出会った時の事や、愛人宅までの道のりも思い出せない。起きると愛人が裸で隣で寝ている。訪ねると酒を飲まされるので自分は酒が弱い所為で記憶が無いのだと信じていた。恥ずかしいので人には言わないが.........。
(なんでこんなに曖昧なんだろう.....でも行為はしていたんだよな?.........違うとも言い切れないけど記憶が無いのは可笑しいか.........。いや、もう過ぎた事だ。今更だな。私はサリアンを傷付けたんだ。その事実に変わりは無い)
偶然再会した数日前、薬の所為とは言え、一度爆発してしまった。美しくなっていた彼女の中は実はもう、ボロボロだった。
小さい頃出会ってから結婚して3年までの13年間、彼女は一度だって声を荒げる事など無かった。
始めは興味の無い顔を見せていたが、次第に心を開いてくれた。婚約後はいつも笑顔で寄り添い、リグマイアスを包み込むような優しさをくれた。多少の遊びにも寛大で何も言わなかった。
領主の妻に相応しい女に育った。
それが、愛人に子供が出来たと告げた日。まるで刃物でスッパリと切るかのように別れを告げられ、呆然とした。離婚すると言われ、言葉の意味を理解した時にはもう目の前から消え、次の朝には屋敷から出て行ってしまった。
その時は何だか裏切られた気がした。自分から裏切っておいて、裏切られたなど思う方が可笑しいのだが、彼女なら変わらず許してくれると思っていた。
貴族で、領主。愛人1人くらい普通だ。.................
だが、そうだ。サリアンとの間に子が出来ていない状態で、そんな事は許されなかったのだ。「後取りが出来て良かった」と言われた。つまり、子が出来ないから愛人を作ったと言っているようなものだ。女性にとっては残酷な事をした。
酷く.........傷付けてしまった事に後からじわじわと悩んだ。
謝りたかった。だが、連絡先が判らない。サリアンの父親に聞く訳にも行かない。一度専門の機関に調べさせたが分からなかった。行方が掴めなかった。不安が押し寄せた。怖かった。二度と会えなくなる事が。このまま離れてしまう事が。いや、無事なのか?解っているつもりが彼女の事を知らな過ぎた。胡座をかいていたのだ。離れて行くはずないそう思い込んで...........。
自分は、彼女が必要だった。彼女は、違ったのか?聞く勇気も資格も無かった。
そして、あっという間に落ちぶれた。
全てを失った。
結婚指輪さえも.........。
「.................馬鹿だな。本当。でもお陰で目が覚めた。罰も受けた。やり直しの人生、後は繰り返さない事だけだ。二度と彼女を泣かせない」
それにはまず力を付けないと。ジゴロはごめんだ。卑屈になるだけだ。私には出来ない。今私に必要なのは「自信」なんだ。
「兎に角、せめて指輪くらいは渡したいな.........。いや.........ペットだし、受け取ってくれないかもしれないし。でも...いつかその日の為に稼がないと。明日ダクスさんに相談してみよう」
****
「お金を稼ぎたい?」
「ええ。飼われるだけでは申し訳ないので。自分で稼ぎたいのです」
「お金は主人の許可が出ていますから幾らでも、いつでも引き出し出来ますよ?」
「あ、いえ。そうじゃなくて.........えっと。小遣いで買いたく無い物があるので」
「.................ふーん。本当にリグマイアス様は真面目な方ですね?なんでそれで愛人なんか作ったんですか?」
「! あ、あの......それが.........あまり覚えていなくて.........。全く出会いが思い出せ無いのです。友人達とルーレットで遊んでいた時期があったのですが、その頃からかな?それも曖昧で.........」
「.................何か仕込まれましたね?」
「え?」
「.........いえ、良いのです。何でもありませんよ。そうですねぇ.........じゃあ、《冒険者》の登録でもしますか?依頼を受けてこなすとそれに応じた賃金が支払われるのです。内容は様々ですから、護衛の訓練をしながら少しずつ依頼を受けてみてはどうですか?」
「《冒険者》?ああ、領主をしていた時はよく野犬の討伐などに依頼を掛けてました。そうか、成る程。ありがとうございます、ダクスさん。早速登録して来ます」
リグマイアスはニッコリ笑って礼を言い、そのまま街に行ってしまった。
「本当、リグマイアス様は物凄く騙されやすそうだな。................騙す.....か。なるほどね。少し調べてみるか」
(主人はリグマイアス様の事になると思考が停止する。知る事を怖がる。しょうがない、爆弾抱えて日々を過ごすくらいなら、ハッキリさせておこう)
これが後に才女で有り筆頭起業家のサリアンの逆鱗に触れ、商品流通へのボイコットを半世界規模で行う事態になったりする。
(これはまた違うお話)
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