【完結】溺愛喪失シリーズ

Ringo

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溺愛夢中

小咄☆マーサの仮説

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カロリーナの誕生日以降…距離感が今まで以上に近くなり、今まで以上に溺愛ぶりを発揮するエドワードを眺めながら、老侍女マーサはその目を優しく細めた。



エドワードが言葉を発するようになった頃から、事あるごとに「リーナ!」「リーナはどこ!?」とマーサに付いて回っては聞いてきた。

絵本の影響?それともどこかのご令嬢?と不思議に思っていたものである。

その類い稀なる美しい容姿ゆえ、幼い頃から多くの縁談を申し込まれていたにも関わらず、「リーナ以外とは結婚しない」と冷たく一蹴。

その様子に、両親も困り果てていた。

幼子の夢物語…とも思えたが、本人は至って真面目な顔をして「リーナはどこにいるの?」と聞いてくる。

リーナと言う名前なのか愛称なのか…息子の強い意思を感じ取った両親は、貴族令嬢に該当する少女がいるか調べ始めた。

そして当たりをつけた令嬢すべてが空振りだと思った時…6歳になる息子と同い年、深窓の令嬢と呼ばれる「カロリーナ」を見付けた。

その頃にはエドワードも「カロリーナ」と言うようになっていたので恐らく間違いない…と思いつつ、何処で存在を知ったのだろうと不思議に思う。

もしも断られたら息子が不憫だと考えた公爵は、水面下で「カロリーナ」との婚約の話を進め、4年後に念願の顔合わせが実現した。

それから3年…もうすぐ4年。

変わらぬ睦まじさを見せるふたりに、マーサはある仮説を立てている。



【前世の記憶】



嘘のような本当の話…なのではないだろうかと思っている。

もし仮説通りに前世で結ばれていたふたりなのだとしたら、時を経ても尚も愛し合うふたりの絆の強さに感服するしかない。

毎晩こっそり侵入しているつもりでも、実はバレバレのエドワードの行動を咎めずにいるのは、そんな老婆心からである。

……最近は開き直っている様子に呆れているが。





「マーサ」


今日も庭園で愛する少女を膝に乗せてご満悦のエドワードに名を呼ばれて顔をあげる。


「今日も美味しい。これがマーサの手作りの中でも一番好きなんだ、ありがとう」


ほかの使用人には見せない甘えた笑顔。

この笑顔が見られるからこそ、引退の年を過ぎても尚ボアルネ家に勤め続けている。


「それはようございました」


過ぎるスキンシップも目を瞑ろうじゃないか。

どうせなら早く子供の顔を見せておくれ。


「マーサが笑った…」
「えぇ…笑ったわ」




前言撤回されないよう、お気をつけくださいませ。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





そしてマーサが自分のたてた仮説の答えを知るのは、最期を迎えるベッドの上。

見守り続けた笑顔に看取られる瞬間、そっと教えてくれたふたりの秘密。



「マーサにしか教えないよ、今までありがとう」



誰にも教えませんとも。
このマーサが天高く持ち逃げです。





ただひとつだけ。








もしも生まれ変われるのなら、その時もまた、あなたにお仕えしたく存じます。












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