僕の婚約者は悪役令嬢をやりたいらしい

Ringo

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赤い独占欲 ※ヒロイン視点

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「マリウス様…その方は……」


 王太子妃教育でを持つ者達の存在について繰り返され、ずっと不安が拭えなかった。

 “側妃”…正妃に次ぐ権力者の女性であり、生まれた子は継承権を持つ。

 結婚後3年以内に男児が生まれなければ側妃を迎える事が義務付けられていて、長男が側妃腹であれば国母となるのは側妃。

 過去に実例は幾つもあり、先代国王陛下の母君は第3側妃を務められていた方だった。

 私が孕まなければ…男児を産めなければマリウス様には側妃が宛てがわれてしまう。

 嫌だけど……物凄く嫌だけど側妃それだけなら後継者を作るためには必要だからと理解は出来る。

 絶対に受け入れられなくて…考えただけでも吐きそうになるのが“愛妾”。

 公務や執務など一切携わらずにただただ寵愛される日々を送り、遙か昔には愛妾の子を次代に指名した国王がいたほど。

 それが原因で国が荒れ、戦争にも発展した事から現在は愛妾の子に継承権は認められていない。

 それでも子を作るのは自由で……

 マリウス様の愛を独り占めできると、本気で信じていた自分は大馬鹿者。


「彼女に子供が出来たんだ」

「正妃様より先に作ってしまってごめんなさい。でも彼が早く欲しいって言うから」


 嫉妬で頭がおかしくなりそう。
 マリウス様の隣はわたくしの場所なのに。


「どうして…」


 どうしてその女性の腰を抱いているの?
 どうしてその女性と口付けているの?
 どうして…どうして……


「報告は済んだし、僕達の部屋に戻ろう」


 やめて

 その部屋は…その部屋はマリウス様とわたくしだけの場所なの!!


「いや……っ…触らないで……やめてっ!!」


 返して!!マリウス様を返して!!










「…ル……エル、ラシュエル!!ラシュエル!!」

「いやぁっ!!」

「ラシュエルっ!!」

「やだっ!!行かないで、だめっ…マリウス様に触らない、でっ…やめて…やだっ…やだぁ…!!」

「ラシュエル!!夢だから!!僕は誰にも触られてないし傍にいる!!」

「やっ…!!…………マリっ…ウス様……っ」

「落ち着いて。怖かったね、もう大丈夫」


 きつく抱き締められて、その温もりをしっかりと確認しながら周りを見回す…誰もいない。


「……ゆめ……?」

「そう、夢。大丈夫?水を持ってくるよ。汗もかいてるから着替えを用意させよう」

「いやっ!!行かないでっ!!」


 怖い…離れてしまうのが怖くて堪らない。


「ラシュエル…大丈夫、どこにも行かないよ」


 そう言ってベルを鳴らして侍女を呼び、果実水と温かいタオルを持ってくるように指示をしている…その間もわたくしはマリウス様の腕の中。


「ラシュエル…もう大丈夫だから…ほら、ラシュエルの大好きな果実水だよ、飲める?」


 腕の中で首を振り、何を望んでいるのか察してくれるのを信じて待つ。


「ラシュエルは甘えん坊だね」


 優しく笑い、果実水を口に含んだマリウス様の顔が近付いてきて…重なった唇の隙間からゆっくりと流れ込んできた。


「…っ、もっと……」

「ふふっ、可愛い。次は汗を拭いて新しい夜着に着替えようね」

「いやっ」


 ほんの僅かな間も離れたくなくて、しがみつくようにぎゅっと抱き着いた。


「…ラシュエル…風邪ひくからダメだよ」


 少し強めな口調にビクリとしてしまい、嫌われたかもと不安になって見あげたら…


「お風呂で汗を流そうか」

「え……きゃっ」


 ニッコリ笑いわたくしを横抱きにしたまま起き上がると、そのまま浴室へと向かい歩き出した。


「隅々まで僕が洗ってあげる」

「っ…お願いします」


 なんだか恥ずかしくなって首筋に顔を埋め、お揃いでつけている香油の香りを吸い込んだ。

 マリウス様自身の匂いと混じり合って好き。






 お互いに洗いあっているとマリウス様がマジマジと体を見るので、何かおかしいのかしらと自分でも見て…あまりの現状に驚いた。


「ちよっとやり過ぎたかな」

「やり、やり過ぎですわ!!」

「ごめんごめん、ラシュエルが可愛すぎて抑えられなかった」


 びっしりと、ギリギリドレスで隠せる範囲いっぱいに無数の赤い印がつけられている。

 着替えを手伝う侍女が悲鳴をあげそうよ。


「ラシュエル……どんな夢を見たの?」


 暫く無言を貫くも許してはもらえず、夢に見た愛妾とのやり取りを白状してしまった。

 あの小説のように運命の相手を見つけたと言われ、わたくしとの房事を拒否して愛妾と子作りに励み…子供が出来たと。

 夢の話なのに涙が溢れてしまい、マリウス様がいなくなる恐怖に耐えられなくて抱き着いた。


「僕はラシュエル以外と結ばれたいなど絶対に思わないから、それだけは信じていて。他の人と子作りをするくらいなら…ちょんぎってやる」


 不機嫌そうにムスッとそんな言い方をするから笑ってしまい、「やっと笑ってくれた」と微笑むマリウス様の唇が重なった。


「愛してます…マリウス様」


 もしも夢が現実になろうと。




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