5 / 51
赤い独占欲 ※ヒロイン視点
しおりを挟む「マリウス様…その方は……」
王太子妃教育で役割を持つ者達の存在について繰り返され、ずっと不安が拭えなかった。
“側妃”…正妃に次ぐ権力者の女性であり、生まれた子は継承権を持つ。
結婚後3年以内に男児が生まれなければ側妃を迎える事が義務付けられていて、長男が側妃腹であれば国母となるのは側妃。
過去に実例は幾つもあり、先代国王陛下の母君は第3側妃を務められていた方だった。
私が孕まなければ…男児を産めなければマリウス様には側妃が宛てがわれてしまう。
嫌だけど……物凄く嫌だけど側妃だけなら後継者を作るためには必要だからと理解は出来る。
絶対に受け入れられなくて…考えただけでも吐きそうになるのが“愛妾”。
公務や執務など一切携わらずにただただ寵愛される日々を送り、遙か昔には愛妾の子を次代に指名した国王がいたほど。
それが原因で国が荒れ、戦争にも発展した事から現在は愛妾の子に継承権は認められていない。
それでも子を作るのは自由で……
マリウス様の愛を独り占めできると、本気で信じていた自分は大馬鹿者。
「彼女に子供が出来たんだ」
「正妃様より先に作ってしまってごめんなさい。でも彼が早く欲しいって言うから」
嫉妬で頭がおかしくなりそう。
マリウス様の隣はわたくしの場所なのに。
「どうして…」
どうしてその女性の腰を抱いているの?
どうしてその女性と口付けているの?
どうして…どうして……
「報告は済んだし、僕達の部屋に戻ろう」
やめて
その部屋は…その部屋はマリウス様とわたくしだけの場所なの!!
「いや……っ…触らないで……やめてっ!!」
返して!!マリウス様を返して!!
「…ル……エル、ラシュエル!!ラシュエル!!」
「いやぁっ!!」
「ラシュエルっ!!」
「やだっ!!行かないで、だめっ…マリウス様に触らない、でっ…やめて…やだっ…やだぁ…!!」
「ラシュエル!!夢だから!!僕は誰にも触られてないし傍にいる!!」
「やっ…!!…………マリっ…ウス様……っ」
「落ち着いて。怖かったね、もう大丈夫」
きつく抱き締められて、その温もりをしっかりと確認しながら周りを見回す…誰もいない。
「……ゆめ……?」
「そう、夢。大丈夫?水を持ってくるよ。汗もかいてるから着替えを用意させよう」
「いやっ!!行かないでっ!!」
怖い…離れてしまうのが怖くて堪らない。
「ラシュエル…大丈夫、どこにも行かないよ」
そう言ってベルを鳴らして侍女を呼び、果実水と温かいタオルを持ってくるように指示をしている…その間もわたくしはマリウス様の腕の中。
「ラシュエル…もう大丈夫だから…ほら、ラシュエルの大好きな果実水だよ、飲める?」
腕の中で首を振り、何を望んでいるのか察してくれるのを信じて待つ。
「ラシュエルは甘えん坊だね」
優しく笑い、果実水を口に含んだマリウス様の顔が近付いてきて…重なった唇の隙間からゆっくりと流れ込んできた。
「…っ、もっと……」
「ふふっ、可愛い。次は汗を拭いて新しい夜着に着替えようね」
「いやっ」
ほんの僅かな間も離れたくなくて、しがみつくようにぎゅっと抱き着いた。
「…ラシュエル…風邪ひくからダメだよ」
少し強めな口調にビクリとしてしまい、嫌われたかもと不安になって見あげたら…
「お風呂で汗を流そうか」
「え……きゃっ」
ニッコリ笑いわたくしを横抱きにしたまま起き上がると、そのまま浴室へと向かい歩き出した。
「隅々まで僕が洗ってあげる」
「っ…お願いします」
なんだか恥ずかしくなって首筋に顔を埋め、お揃いでつけている香油の香りを吸い込んだ。
マリウス様自身の匂いと混じり合って好き。
お互いに洗いあっているとマリウス様がマジマジと体を見るので、何かおかしいのかしらと自分でも見て…あまりの現状に驚いた。
「ちよっとやり過ぎたかな」
「やり、やり過ぎですわ!!」
「ごめんごめん、ラシュエルが可愛すぎて抑えられなかった」
びっしりと、ギリギリドレスで隠せる範囲いっぱいに無数の赤い印がつけられている。
着替えを手伝う侍女が悲鳴をあげそうよ。
「ラシュエル……どんな夢を見たの?」
暫く無言を貫くも許してはもらえず、夢に見た愛妾とのやり取りを白状してしまった。
あの小説のように運命の相手を見つけたと言われ、わたくしとの房事を拒否して愛妾と子作りに励み…子供が出来たと。
夢の話なのに涙が溢れてしまい、マリウス様がいなくなる恐怖に耐えられなくて抱き着いた。
「僕はラシュエル以外と結ばれたいなど絶対に思わないから、それだけは信じていて。他の人と子作りをするくらいなら…ちょんぎってやる」
不機嫌そうにムスッとそんな言い方をするから笑ってしまい、「やっと笑ってくれた」と微笑むマリウス様の唇が重なった。
「愛してます…マリウス様」
もしも夢が現実になろうと。
19
あなたにおすすめの小説
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる