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愚王と賢妃
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目の前にいる男はとんだ狸親父だった。
一国の王としては頼り無さすぎる気弱な性格も、優秀な側近に支えられてなんとか凌いでいることにも反吐が出る。短慮で浅はかな者が王位に就けば困るのは民であり、苦しむのもまた民なのである。それをこの男は分かっていない。
それなのに己の欲望にはどこまでも忠実で、『真に愛するのは王妃だけ』と言いながらも側妃の体に溺れて孕ませ続け、流産で心身ともに傷付いたはずの女性を労ることもしない。
挙げ句の果てには酒に酔って実の娘までを手籠めにし、『間違えただけだ』とほざきながら、その実は若い体を堪能しているだけのろくでなし。
もしかすると気弱な性格も演技なのか?とも疑ったが、それはなく只のろくでなしだった。
新しい報告によれば娘が避妊薬を常用していることも承知しており、その上で情事の最中何度も「孕め」と言いながら夢中で腰を振っているというのだから救いようがない阿呆だ。本当に孕んだらどうするつもりだったのか…いや、どうもしないか。欲にまみれた国王と王女、実にお似合いの二人なのだから。
そして今、度重なる王女の非礼を詫びたいとの名目でヨンハル王家との食事会が開かれ、国王と王妃、側妃のほかに全ての子供達が揃い、なかなかの大家族ぶりを披露されている。
根っこから腐っている国王から生まれたのにフランソワ王女以外まともなのは、王妃と側妃、それぞれが多忙の中子供達にきちんと向き合ってきたからだろう。フランソワ王女は…まぁ、どこにでも例外はいるものだ。シャパネも然りで。
さりげなくフリクス殿下に視線を向ければパチリと合い、食事も終わったことで人数分のお茶が出され、フリクス殿下により人払いがされる。
そうだね、そろそろ始めようか。
「そう言えば、新しい命が芽生えたと報告を受けましたが…それはどなたに芽生えたのです?」
唐突な僕の質問に、ある者は驚きを表しまたある者は質問の意図を察して顔色を悪くさせた。勿論、懐妊した人物は王妃であると報告を受けて知っている。
「あ、あぁ…知っていたのか。安定期になってから公表となるが…そうだな、友好国の王太子である貴殿にはこの場で伝え───」
「まぁ確かに公表は難しいでしょうね。国王の新たなお相手がまさか実の娘などとは信じ難いことですから。ですがまぁ…さすがに実の親子で交わることを僕の常識とは捉えられませんが、フリクス王太子殿下とは予てより善き交流を持たせていただいてますから、今後の治世にはなんの憂いもありはしないでしょう」
言葉を遮りツラツラと言葉を並べる僕に、ヨンハル国王は目を見張り口を開けて呆然としている。少しずつ言葉の意味を理解したのか、その顔色は病人かと思うほどに青白い。
そうだよ、ちゃんと理解した?実の娘と密通するような人間はさっさと退いて息子に王位を譲れ、さもなくばシャパネは早々に支援の手を引くぞ、と言う裏の意味を。
早馬でやり取りした父上は予想通り憤慨した。まだ赤子であるが父上も娘を持つ身であり、その娘と密通など気を失うほどに嫌悪感が襲ってきたらしい。親子ですね、僕もです。
「な、いや、それは──」
「諸外国には少ないながらも兄妹で婚姻を結んでいる国もありますし…もしかすると親子での婚姻もあるかもしれません。ですがヨンハルは近親婚も密通も認めていないはず。我がシャパネも同様です。娘が生まれたばかりの父も実の娘との交わりなど到底受け入れられず、今後の交流の在り方に疑問を抱いています。常識がかけ離れすぎているといずれ小さな諍いを生むことになり、そこから戦まで発展することも有り得なくはないですから」
「──っ」
「ですがご心配なく。我がシャパネ王国はフリクス王太子殿下を支持していく所存ですので」
にこりと微笑み、だからさっさと退けと含めれば、稀代の阿婆擦れがケラケラと笑いだした。本当に品がない。
「いやだわ、マリウス様。何を勘違いしていらっしゃるの?私とお父様が密通だなんて──」
「僕はヨンハル国王の相手の娘が誰なのかだなんて明言していませんよ?承知はしていますけどね。これでも一国の王太子なので、友好国の慶事には抜かりなく祝言を述べたいですから」
語るに落ちた稀代の阿婆擦れにより、僕の発言に衝撃を受け呆けていたほかの家族が現実に引き戻され、今の今まで知らないでいた数名はフランソワ王女に蔑みの目を向けている。
側妃は俯き小さく震えているし、王妃は…夫の新たな不義までは知りつつも相手が娘だとまで掴んでいなかったか?
「わ…私はマリウス様の元に嫁ぐ身です。そんな謂われなき噂の人物は私ではありません!それよりマリウス様、シャパネにお戻りの際には私もお連れいただけるのでしょう?そちらで生活することに不満はありませんけれど、やはり不安は拭えませんの。暫くは第一夫人ではなく私と寝食を共にしてくださいませ」
「…第一夫人?」
「えぇ、マリウス様が私よりも先に婚姻されたあの女ですわ。そのうち私が正妻になるとして、ひとまず第二夫人で我慢致しますけれど…暫くの間は私とだけ夜伽をお迎えくださいませ」
しなを作り胸を寄せ、自分が僕の妻になることは決定事項だと言わんばかりに下品な笑みを浮かべる様は実に滑稽。相も変わらず胸元を晒しすぎているドレスはまるで場末の娼婦だ。
「ヨンハル国王、これはどういった事でしょう?僕の記憶が正しければ、そちらからの婚約の申し出には正式に断りの書簡を送っているし、それに納得しない我が儘娘に今回の視察訪問で直接断ってくれと言っていたはずでは?どうやら本人は嫁ぐ気でいるようですよ?」
「いや、それは──」
「しかも僕の愛する唯一の妃をよりによって第一夫人?本当にあなた達親子は僕を馬鹿にしてくれる。王太子である僕の妻は王太子妃であって第一夫人などではないし、そもそも僕は愛する妻以外を娶るつもりもない」
「しっ、しかし万が一子が──」
「子が出来ぬなら王位を弟に譲り退くまで。ラシュエルと共にあれないのなら、王位に就くことなどに拘りなどない」
王族でなければ生きられず、自力では愛する女一人も守れないお前とは違うんだよ。
「それなら私がいるじゃない!私があなたの子供を産むわ、そんな役立たずの女はさっさと追い出しましょう!」
「僕の話を聞いていないのか?それとも理解出来ないほど頭が悪いだけの馬鹿なのか?僕はラシュエルさえいれば王位などなくて構わないし、争いの種になると言うのなら継承権を放棄してもいいと言ってるんだ」
「そんなっ、、それじゃあなたと結婚してもあの女に子供が出来ない場合は贅沢も出来ず、王族でもなくなるって言うの!?いやよ!」
「そもそもお前と結婚などしない。それから、いい加減僕の愛する妻をあの女呼ばわりするのはやめろ。許可していないのに僕の名前を呼ぶことも不愉快だと、何度言えば理解するんだ?」
売り言葉に買い言葉が続き、王位を欲していないことや継承権放棄など簡単に口に出すべきじゃないことは分かっている。それでもラシュエルを咎め蔑ろにする発言は許せない。
「だからと言って王太子という立場を軽く考えてはいないし、愛する妻とよりよい国へとすべく民を導き発展させていこうと努めている。僕のラシュエルは誰よりも努力する聡明な女性だからね、釣り合いが取れる男でいる為に必死だ」
「──俺は同じ王太子として日々研鑽を積むマリウス殿下を尊敬しているし、これからも互いに変わらぬ関係でいたい。…父上、あなたとフランソワの関係はとうに気付いていましたよ。実の娘と肉体関係を持ち…よりにもよって側妃の部屋で娘と情事に耽るなど、ふたりの人格を疑います」
フリクス殿下とは内々に話をつけてある。現国王が引退を認めない限りシャパネからの支援は打ちきり。フリクス殿下が譲位されるまで金銭的援助は勿論のこと、流通や人的支援など全てをヨンハルから引き上げることを記した正式な書面にふたりで署名を交わした。
「わ、儂は酒に酔って側妃と間違えただけで、情事に耽るなど──」
「始まりはそうでもそれ以降は?回数を重ねる毎にむしろ嬉々として娘との情事に及んでいたと聞いていますが。あなたが大切な執務を放って爛れた行為に夢中となっている間、誰がその執務を執り行っていたと思っているんです?肌身離さず持ち歩くべき王印まで側近に丸投げして娘の体を貪るなど…恥を知れ」
「……っ貴様!国王に向かって──」
「もう国王などではいられないでしょう…四ヶ月月ほど前、あなたが客室に連れ込んだ女性を覚えていますか?黒髪の…わりと側妃に似た体型のご令嬢です。年の頃は俺と同じくらいの」
フリクス殿下の言葉に最初は憤っていた国王も、詳細に述べられる女性に心当たりがあるのか顔色を悪くさせた。
「…覚えているようですね。最近になって彼女が身籠っている事が分かりまして、けれど父親がどちらなのか分からないと困り果てているんです」
「い…いや…彼女とは──」
「敵の手駒を奪い取りたかったですか?それとも単純に好みのタイプだった?本当にあなたは滑稽だ。自分に…王族に近付く女の本質をこれっぽっちも見抜けない。あなたは選んだのではなく選ばれたんですよ、あの女狐に」
「な…にを…」
フリクス殿下は側妃にチラリと視線を向けるが、父娘の関係が暴露されて力なく項垂れている彼女がその視線に気付かくことはない。
まぁいっそ気付かない方がいいかもしれないな。結局はあとから知ることになるけれど。
「あなたが手籠めにした男爵令嬢は確かにデニス侯爵が囲っている女ですが、それはその女が持つ秘密を政治的利用に使えるからと目論だからで、さらに金銭を与えてやれば簡単に体を開くのだから性欲処理としても都合が良かったのでしょう、愛情など持ち合わせていない」
似た者同士のふたりだ…と思う。違いがあるとすれば片や立場的に正式な妻として娶らざるをえなかった女を都合よく性欲発散の相手として扱い、片や最初から金銭の授受ありきで主人と娼婦のような関係。
カタリ───と音がした方を見れば、『デニス侯爵』の名に側妃が反応を示して顔をあげており…その目は虚ろ。
「デニス侯爵はむやみに種を撒くような愚か者ではなかった。行為の前には必ず避妊薬を飲ませていたそうですよ、きちんと嚥下していることも確認するほど慎重に。これらが何を意味するのか分かりますか?」
「…………」
「あなたは避妊などしないでしょう?好きな時、好きなように目についた女性に手を付けて…一体何人の使用人が辞めたと思っているんです?その後処理を誰がやっていると?」
精力旺盛な愚王は、気弱なその性格ゆえ周りからの圧に耐えかねて息抜きにと王宮内を歩き回り、立場も力も弱い女性ばかりを狙って襲っていた。
フリクス殿下が言うように後処理をする者がいなければ、国王の落とし胤が今頃国中に溢れていることだろう。
「しかしどんなに優秀な者が説得にあたったとして、それは必ずしも確実ではない。母性に目覚め強く抵抗した者も僅かながら存在します」
国王が「まさか…」と青白い顔をさせて呟いているが、そのまさかだよ。
「その女性は地方出身の貧しい男爵家の令嬢で、未婚のまま子を孕み女児を産み落としたのち産褥の悪化により間もなく死亡しています。赤子を不憫に思った男爵夫妻はその子を拾った孤児として養子に迎え養育していたが、ある日その存在の正体を知った貴族に囲われた」
「ち…ちがう……そんなはず──」
「あなたと侯爵がふたりして抱いていた令嬢は、自己顕示欲と上昇思考が桁違いに強い女だ。自分が高位貴族に囲われたのも整った容姿が故と思っているし、高位貴族に囲われたことでそれを足掛かりにこの国の女性最高位を狙った」
ずっと黙ってふたりの話を聞いていた者達も真実に辿り着いたようで、一様に顔色を悪くさせ、そして蔑む視線を父親である国王に向けている。
「ただ狙うだけでは侯爵のように都合よく体だけを求められて終わると思ったのでしょう。しかしいざ近付いてみれば面白いように簡単に釣れて、尚且つ避妊などせず子種を躊躇なく与えてくる。令嬢が権力と地位を欲していることなど気付かず、あなたは若い女の肉体に夢中となり何度も関係を持った」
「ちがう…ちが──」
「だけどそんな関係はある時突然終わりを迎えることになった。分かりますよね?あなたとフランソワの関係が始まったからです。それによりあなたとの関係が途絶えてしまった令嬢は焦った。何故なら国王と結婚しなければ女性最高位である王妃にはなれませんからね」
そもそも男爵令嬢は王妃にも側妃にもなれませんが、という言葉にフランソワ王女以外の子供達が頷きを見せる。
「儂はあんな小娘を王妃にするつもりなど──」
「そうですか?まぁ情事中の戯れ言など普通なら本気にしないでしょう、普通なら。けれどあの令嬢は『いつか王妃にしてやる』と言ったあなたの言葉を本気にし、多方面で言い触らしているようですけどね。どれだけ夢中になっていたんですか?そんなに繋ぎ止めたかった?」
「そんっ…なわけ──」
「あなたとの関係が途切れ焦ったものの、令嬢にとっては幸いにも子を宿していることが分かった。侯爵は徹底した避妊をしていたし、腹の子は好き放題子種を注いでいた国王の子供だと断言できるから『自分はついに王妃となるんだ』と吹聴しています。もう愚鈍なあなたでも分かりますか?現在身籠っている令嬢は、かつてあなたが気紛れで犯して打ち捨てた令嬢の娘だ。あなたは実の娘ふたりと肉体関係を持ち、挙げ句ひとりを孕ませた」
パシン───
あまりの衝撃に少しの沈黙の間が訪れたが、それを打ち破るように乾いた音が響いた。王妃による国王への平手打ちだ。
「あな、あなたは何をしてるんです!!女性にだらしない事など百も承知ですが…っ、自分の娘となんて汚らわしい!しかもよりにもよって孕ませるなど──」
「知らなかったんだ!娘だなんて──」
「知らなかったでは済まされません!…あなたとは離縁致します。腹の子は国に戻って生みますし、継承権などくださらなくて結構です」
「そんなっ…儂が愛してるのは──」
「愛してるのはわたくしだけだなんて仰らないでくださいましね?婚約者時代から何人の女性と関係を持たれました?その内何人の女性があなたの子を孕みました?側妃を娶るのは否応なしに無理矢理だから理解してくれ…そう言ったあなたは、何度側妃の元へ通いましたの?彼女を何度孕ませ…っ、何人の子を流させましたの!?」
快楽と性欲の解消しか目的になかった国王は、子を孕んでいても変わらずに側妃を求めて無体を働き続けた。その結果腹の子が流れることになっても構うことなどせず…どこまでも愚かな男だ。
「わたくしと側妃が懸命に公務を遂行している時も、あなたは欲望のままに手当たり次第手を付けて回り…一体、どれだけの婚約が解消されたとお思いですの?それに伴う慰謝料や賠償金を、どれだけ国が賄ったと!!」
子に罪はないからと生んだ者もいれば、国王の子など恐れ多いからと堕胎した者もいる…望まぬ行為と妊娠から、中には命を自ら断った者も。
「あなたを諌めることを諦め、放置していたわたくしにも責任はあります。ですがあなたも責任を取るべきでしょう?フリクスは立派に成長しましたし、もういつ王位についても問題はありません…あなたの時代は終わったんです」
「儂は…儂はただ……そなたばかりに負担はかけられないと…そ、そう思って──」
「言い訳は結構、結局はあなたの下半身がだらしないからに過ぎません」
ピシャリと言い切った王妃は一度深呼吸をして、背筋を伸ばし僕へと向き直った。
「マリウス王太子殿下」
「はい」
「わたくしは国王陛下と共に王位を退きフリクスへと譲位致します。ですから、どうぞこれからもヨンハルにご助力頂けませんでしょうか…この通りでございます」
深々と頭を下げる王妃の隣に、先程まで静かに嗚咽を漏らしながら泣いていた側妃が並び立ち、同じ様に頭を下げる。
「わたくしからも…っ…宜しくお願い致します」
実質国を導いてきたのはこのふたりで、そのふたりの女性が次代を担うフリクス殿下の為に頭を下げている…そんなの、答えはひとつしかない。
「頭を上げてください。おふたりが国のため、国民のために尽力されてきたことは存じております。僕個人としては勿論、シャパネとしてもフリクス殿下を支持していくと正式に書面も交わしましたので、ご心配はいりません」
「そうっ、ですか…ありがとうございます」
さて。愚王退治はこれで大きく進展したし、残すは稀代の阿婆擦れ姫退治だけだ。
一国の王としては頼り無さすぎる気弱な性格も、優秀な側近に支えられてなんとか凌いでいることにも反吐が出る。短慮で浅はかな者が王位に就けば困るのは民であり、苦しむのもまた民なのである。それをこの男は分かっていない。
それなのに己の欲望にはどこまでも忠実で、『真に愛するのは王妃だけ』と言いながらも側妃の体に溺れて孕ませ続け、流産で心身ともに傷付いたはずの女性を労ることもしない。
挙げ句の果てには酒に酔って実の娘までを手籠めにし、『間違えただけだ』とほざきながら、その実は若い体を堪能しているだけのろくでなし。
もしかすると気弱な性格も演技なのか?とも疑ったが、それはなく只のろくでなしだった。
新しい報告によれば娘が避妊薬を常用していることも承知しており、その上で情事の最中何度も「孕め」と言いながら夢中で腰を振っているというのだから救いようがない阿呆だ。本当に孕んだらどうするつもりだったのか…いや、どうもしないか。欲にまみれた国王と王女、実にお似合いの二人なのだから。
そして今、度重なる王女の非礼を詫びたいとの名目でヨンハル王家との食事会が開かれ、国王と王妃、側妃のほかに全ての子供達が揃い、なかなかの大家族ぶりを披露されている。
根っこから腐っている国王から生まれたのにフランソワ王女以外まともなのは、王妃と側妃、それぞれが多忙の中子供達にきちんと向き合ってきたからだろう。フランソワ王女は…まぁ、どこにでも例外はいるものだ。シャパネも然りで。
さりげなくフリクス殿下に視線を向ければパチリと合い、食事も終わったことで人数分のお茶が出され、フリクス殿下により人払いがされる。
そうだね、そろそろ始めようか。
「そう言えば、新しい命が芽生えたと報告を受けましたが…それはどなたに芽生えたのです?」
唐突な僕の質問に、ある者は驚きを表しまたある者は質問の意図を察して顔色を悪くさせた。勿論、懐妊した人物は王妃であると報告を受けて知っている。
「あ、あぁ…知っていたのか。安定期になってから公表となるが…そうだな、友好国の王太子である貴殿にはこの場で伝え───」
「まぁ確かに公表は難しいでしょうね。国王の新たなお相手がまさか実の娘などとは信じ難いことですから。ですがまぁ…さすがに実の親子で交わることを僕の常識とは捉えられませんが、フリクス王太子殿下とは予てより善き交流を持たせていただいてますから、今後の治世にはなんの憂いもありはしないでしょう」
言葉を遮りツラツラと言葉を並べる僕に、ヨンハル国王は目を見張り口を開けて呆然としている。少しずつ言葉の意味を理解したのか、その顔色は病人かと思うほどに青白い。
そうだよ、ちゃんと理解した?実の娘と密通するような人間はさっさと退いて息子に王位を譲れ、さもなくばシャパネは早々に支援の手を引くぞ、と言う裏の意味を。
早馬でやり取りした父上は予想通り憤慨した。まだ赤子であるが父上も娘を持つ身であり、その娘と密通など気を失うほどに嫌悪感が襲ってきたらしい。親子ですね、僕もです。
「な、いや、それは──」
「諸外国には少ないながらも兄妹で婚姻を結んでいる国もありますし…もしかすると親子での婚姻もあるかもしれません。ですがヨンハルは近親婚も密通も認めていないはず。我がシャパネも同様です。娘が生まれたばかりの父も実の娘との交わりなど到底受け入れられず、今後の交流の在り方に疑問を抱いています。常識がかけ離れすぎているといずれ小さな諍いを生むことになり、そこから戦まで発展することも有り得なくはないですから」
「──っ」
「ですがご心配なく。我がシャパネ王国はフリクス王太子殿下を支持していく所存ですので」
にこりと微笑み、だからさっさと退けと含めれば、稀代の阿婆擦れがケラケラと笑いだした。本当に品がない。
「いやだわ、マリウス様。何を勘違いしていらっしゃるの?私とお父様が密通だなんて──」
「僕はヨンハル国王の相手の娘が誰なのかだなんて明言していませんよ?承知はしていますけどね。これでも一国の王太子なので、友好国の慶事には抜かりなく祝言を述べたいですから」
語るに落ちた稀代の阿婆擦れにより、僕の発言に衝撃を受け呆けていたほかの家族が現実に引き戻され、今の今まで知らないでいた数名はフランソワ王女に蔑みの目を向けている。
側妃は俯き小さく震えているし、王妃は…夫の新たな不義までは知りつつも相手が娘だとまで掴んでいなかったか?
「わ…私はマリウス様の元に嫁ぐ身です。そんな謂われなき噂の人物は私ではありません!それよりマリウス様、シャパネにお戻りの際には私もお連れいただけるのでしょう?そちらで生活することに不満はありませんけれど、やはり不安は拭えませんの。暫くは第一夫人ではなく私と寝食を共にしてくださいませ」
「…第一夫人?」
「えぇ、マリウス様が私よりも先に婚姻されたあの女ですわ。そのうち私が正妻になるとして、ひとまず第二夫人で我慢致しますけれど…暫くの間は私とだけ夜伽をお迎えくださいませ」
しなを作り胸を寄せ、自分が僕の妻になることは決定事項だと言わんばかりに下品な笑みを浮かべる様は実に滑稽。相も変わらず胸元を晒しすぎているドレスはまるで場末の娼婦だ。
「ヨンハル国王、これはどういった事でしょう?僕の記憶が正しければ、そちらからの婚約の申し出には正式に断りの書簡を送っているし、それに納得しない我が儘娘に今回の視察訪問で直接断ってくれと言っていたはずでは?どうやら本人は嫁ぐ気でいるようですよ?」
「いや、それは──」
「しかも僕の愛する唯一の妃をよりによって第一夫人?本当にあなた達親子は僕を馬鹿にしてくれる。王太子である僕の妻は王太子妃であって第一夫人などではないし、そもそも僕は愛する妻以外を娶るつもりもない」
「しっ、しかし万が一子が──」
「子が出来ぬなら王位を弟に譲り退くまで。ラシュエルと共にあれないのなら、王位に就くことなどに拘りなどない」
王族でなければ生きられず、自力では愛する女一人も守れないお前とは違うんだよ。
「それなら私がいるじゃない!私があなたの子供を産むわ、そんな役立たずの女はさっさと追い出しましょう!」
「僕の話を聞いていないのか?それとも理解出来ないほど頭が悪いだけの馬鹿なのか?僕はラシュエルさえいれば王位などなくて構わないし、争いの種になると言うのなら継承権を放棄してもいいと言ってるんだ」
「そんなっ、、それじゃあなたと結婚してもあの女に子供が出来ない場合は贅沢も出来ず、王族でもなくなるって言うの!?いやよ!」
「そもそもお前と結婚などしない。それから、いい加減僕の愛する妻をあの女呼ばわりするのはやめろ。許可していないのに僕の名前を呼ぶことも不愉快だと、何度言えば理解するんだ?」
売り言葉に買い言葉が続き、王位を欲していないことや継承権放棄など簡単に口に出すべきじゃないことは分かっている。それでもラシュエルを咎め蔑ろにする発言は許せない。
「だからと言って王太子という立場を軽く考えてはいないし、愛する妻とよりよい国へとすべく民を導き発展させていこうと努めている。僕のラシュエルは誰よりも努力する聡明な女性だからね、釣り合いが取れる男でいる為に必死だ」
「──俺は同じ王太子として日々研鑽を積むマリウス殿下を尊敬しているし、これからも互いに変わらぬ関係でいたい。…父上、あなたとフランソワの関係はとうに気付いていましたよ。実の娘と肉体関係を持ち…よりにもよって側妃の部屋で娘と情事に耽るなど、ふたりの人格を疑います」
フリクス殿下とは内々に話をつけてある。現国王が引退を認めない限りシャパネからの支援は打ちきり。フリクス殿下が譲位されるまで金銭的援助は勿論のこと、流通や人的支援など全てをヨンハルから引き上げることを記した正式な書面にふたりで署名を交わした。
「わ、儂は酒に酔って側妃と間違えただけで、情事に耽るなど──」
「始まりはそうでもそれ以降は?回数を重ねる毎にむしろ嬉々として娘との情事に及んでいたと聞いていますが。あなたが大切な執務を放って爛れた行為に夢中となっている間、誰がその執務を執り行っていたと思っているんです?肌身離さず持ち歩くべき王印まで側近に丸投げして娘の体を貪るなど…恥を知れ」
「……っ貴様!国王に向かって──」
「もう国王などではいられないでしょう…四ヶ月月ほど前、あなたが客室に連れ込んだ女性を覚えていますか?黒髪の…わりと側妃に似た体型のご令嬢です。年の頃は俺と同じくらいの」
フリクス殿下の言葉に最初は憤っていた国王も、詳細に述べられる女性に心当たりがあるのか顔色を悪くさせた。
「…覚えているようですね。最近になって彼女が身籠っている事が分かりまして、けれど父親がどちらなのか分からないと困り果てているんです」
「い…いや…彼女とは──」
「敵の手駒を奪い取りたかったですか?それとも単純に好みのタイプだった?本当にあなたは滑稽だ。自分に…王族に近付く女の本質をこれっぽっちも見抜けない。あなたは選んだのではなく選ばれたんですよ、あの女狐に」
「な…にを…」
フリクス殿下は側妃にチラリと視線を向けるが、父娘の関係が暴露されて力なく項垂れている彼女がその視線に気付かくことはない。
まぁいっそ気付かない方がいいかもしれないな。結局はあとから知ることになるけれど。
「あなたが手籠めにした男爵令嬢は確かにデニス侯爵が囲っている女ですが、それはその女が持つ秘密を政治的利用に使えるからと目論だからで、さらに金銭を与えてやれば簡単に体を開くのだから性欲処理としても都合が良かったのでしょう、愛情など持ち合わせていない」
似た者同士のふたりだ…と思う。違いがあるとすれば片や立場的に正式な妻として娶らざるをえなかった女を都合よく性欲発散の相手として扱い、片や最初から金銭の授受ありきで主人と娼婦のような関係。
カタリ───と音がした方を見れば、『デニス侯爵』の名に側妃が反応を示して顔をあげており…その目は虚ろ。
「デニス侯爵はむやみに種を撒くような愚か者ではなかった。行為の前には必ず避妊薬を飲ませていたそうですよ、きちんと嚥下していることも確認するほど慎重に。これらが何を意味するのか分かりますか?」
「…………」
「あなたは避妊などしないでしょう?好きな時、好きなように目についた女性に手を付けて…一体何人の使用人が辞めたと思っているんです?その後処理を誰がやっていると?」
精力旺盛な愚王は、気弱なその性格ゆえ周りからの圧に耐えかねて息抜きにと王宮内を歩き回り、立場も力も弱い女性ばかりを狙って襲っていた。
フリクス殿下が言うように後処理をする者がいなければ、国王の落とし胤が今頃国中に溢れていることだろう。
「しかしどんなに優秀な者が説得にあたったとして、それは必ずしも確実ではない。母性に目覚め強く抵抗した者も僅かながら存在します」
国王が「まさか…」と青白い顔をさせて呟いているが、そのまさかだよ。
「その女性は地方出身の貧しい男爵家の令嬢で、未婚のまま子を孕み女児を産み落としたのち産褥の悪化により間もなく死亡しています。赤子を不憫に思った男爵夫妻はその子を拾った孤児として養子に迎え養育していたが、ある日その存在の正体を知った貴族に囲われた」
「ち…ちがう……そんなはず──」
「あなたと侯爵がふたりして抱いていた令嬢は、自己顕示欲と上昇思考が桁違いに強い女だ。自分が高位貴族に囲われたのも整った容姿が故と思っているし、高位貴族に囲われたことでそれを足掛かりにこの国の女性最高位を狙った」
ずっと黙ってふたりの話を聞いていた者達も真実に辿り着いたようで、一様に顔色を悪くさせ、そして蔑む視線を父親である国王に向けている。
「ただ狙うだけでは侯爵のように都合よく体だけを求められて終わると思ったのでしょう。しかしいざ近付いてみれば面白いように簡単に釣れて、尚且つ避妊などせず子種を躊躇なく与えてくる。令嬢が権力と地位を欲していることなど気付かず、あなたは若い女の肉体に夢中となり何度も関係を持った」
「ちがう…ちが──」
「だけどそんな関係はある時突然終わりを迎えることになった。分かりますよね?あなたとフランソワの関係が始まったからです。それによりあなたとの関係が途絶えてしまった令嬢は焦った。何故なら国王と結婚しなければ女性最高位である王妃にはなれませんからね」
そもそも男爵令嬢は王妃にも側妃にもなれませんが、という言葉にフランソワ王女以外の子供達が頷きを見せる。
「儂はあんな小娘を王妃にするつもりなど──」
「そうですか?まぁ情事中の戯れ言など普通なら本気にしないでしょう、普通なら。けれどあの令嬢は『いつか王妃にしてやる』と言ったあなたの言葉を本気にし、多方面で言い触らしているようですけどね。どれだけ夢中になっていたんですか?そんなに繋ぎ止めたかった?」
「そんっ…なわけ──」
「あなたとの関係が途切れ焦ったものの、令嬢にとっては幸いにも子を宿していることが分かった。侯爵は徹底した避妊をしていたし、腹の子は好き放題子種を注いでいた国王の子供だと断言できるから『自分はついに王妃となるんだ』と吹聴しています。もう愚鈍なあなたでも分かりますか?現在身籠っている令嬢は、かつてあなたが気紛れで犯して打ち捨てた令嬢の娘だ。あなたは実の娘ふたりと肉体関係を持ち、挙げ句ひとりを孕ませた」
パシン───
あまりの衝撃に少しの沈黙の間が訪れたが、それを打ち破るように乾いた音が響いた。王妃による国王への平手打ちだ。
「あな、あなたは何をしてるんです!!女性にだらしない事など百も承知ですが…っ、自分の娘となんて汚らわしい!しかもよりにもよって孕ませるなど──」
「知らなかったんだ!娘だなんて──」
「知らなかったでは済まされません!…あなたとは離縁致します。腹の子は国に戻って生みますし、継承権などくださらなくて結構です」
「そんなっ…儂が愛してるのは──」
「愛してるのはわたくしだけだなんて仰らないでくださいましね?婚約者時代から何人の女性と関係を持たれました?その内何人の女性があなたの子を孕みました?側妃を娶るのは否応なしに無理矢理だから理解してくれ…そう言ったあなたは、何度側妃の元へ通いましたの?彼女を何度孕ませ…っ、何人の子を流させましたの!?」
快楽と性欲の解消しか目的になかった国王は、子を孕んでいても変わらずに側妃を求めて無体を働き続けた。その結果腹の子が流れることになっても構うことなどせず…どこまでも愚かな男だ。
「わたくしと側妃が懸命に公務を遂行している時も、あなたは欲望のままに手当たり次第手を付けて回り…一体、どれだけの婚約が解消されたとお思いですの?それに伴う慰謝料や賠償金を、どれだけ国が賄ったと!!」
子に罪はないからと生んだ者もいれば、国王の子など恐れ多いからと堕胎した者もいる…望まぬ行為と妊娠から、中には命を自ら断った者も。
「あなたを諌めることを諦め、放置していたわたくしにも責任はあります。ですがあなたも責任を取るべきでしょう?フリクスは立派に成長しましたし、もういつ王位についても問題はありません…あなたの時代は終わったんです」
「儂は…儂はただ……そなたばかりに負担はかけられないと…そ、そう思って──」
「言い訳は結構、結局はあなたの下半身がだらしないからに過ぎません」
ピシャリと言い切った王妃は一度深呼吸をして、背筋を伸ばし僕へと向き直った。
「マリウス王太子殿下」
「はい」
「わたくしは国王陛下と共に王位を退きフリクスへと譲位致します。ですから、どうぞこれからもヨンハルにご助力頂けませんでしょうか…この通りでございます」
深々と頭を下げる王妃の隣に、先程まで静かに嗚咽を漏らしながら泣いていた側妃が並び立ち、同じ様に頭を下げる。
「わたくしからも…っ…宜しくお願い致します」
実質国を導いてきたのはこのふたりで、そのふたりの女性が次代を担うフリクス殿下の為に頭を下げている…そんなの、答えはひとつしかない。
「頭を上げてください。おふたりが国のため、国民のために尽力されてきたことは存じております。僕個人としては勿論、シャパネとしてもフリクス殿下を支持していくと正式に書面も交わしましたので、ご心配はいりません」
「そうっ、ですか…ありがとうございます」
さて。愚王退治はこれで大きく進展したし、残すは稀代の阿婆擦れ姫退治だけだ。
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