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鍛練に励むブルーム王国の騎士
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ブルーム王国へと移住して10年、ぽっかりと空いていた土地を領地として賜った新モロゾフ侯爵家は、農作物など難しいとされてきたその土地を見る間に変貌させ、今や新しくブルーム原産となった花や農作物が実る領地となっている。
過日、手付かずにいた山からは新種の鉱石も掘り起こされ、国内のみならず世界からも注目を受けていた。
夕焼け空を思わせるその石は『ブルーミン』と名付けられ、様々な宝飾に加工されたものは各国の王族が我先にと使者を送り商談中。
王国に齎した利益が莫大となったことで、近々公爵へとなる陞爵も決まっている。
───コンコン
「どうぞ」
「お父様、お茶をお持ち致しました」
「ありがとう、マリアンヌ」
14歳となり、益々愛妻セシルに似てきたマリアンヌにどうしても頬が緩んでしまうダイアン。ふたりが並んでいると、色違いのお揃いのようで疲れなど一瞬で吹き飛んでしまう。
「ご一緒しても?」
「あぁ、喜んで」
赤が祝いの色として愛されているブルームで暮らすようになり、本人より周りの人間が不安に思ったり不快を感じる事がなくなった。
レント王国では領地で大切に囲っていたこともあり悪意に晒されなかった事もあるが、その憂いがなくなっただけでも有り難い。
「学園はどうだ?楽しく過ごせているか?」
「えぇ、お友達とも仲良くさせて頂いているし、明日はお茶会にも招かれているの」
半年ほど前から王立学園に通い始めているマリアンヌ。唯一無二の赤髪はやはり目を引くが、元より好まれている色なので特に問題はない。むしろいい意味で興味を持たれている。
「そうか…アイツはどうしてる?」
途端に不機嫌さを表に出したダイアンに、マリアンヌは思わず眉を下げてしまった。どちらの気持ちも分かるからこそ、板挟みの状態であっても胸には温かいものが広がる。
「頑張っていらっしゃいますわ。家督を継ぐ為に剣術の研鑽にも励んでいらっしゃいます」
「ふんっ、いつまでもつかだな」
「お父様…」
今度こそ苦笑したが、こればかりはどうにも手助けなどしてやれない。そもそもが自分の行いが原因なのだから自業自得である。
けれど…最近は随分男らしくなってきたなぁ…と感慨に耽るお年頃のマリアンヌなのであった。
******
レント王国第一王子だったパーシルは、大好きなマリアンヌがブルーム王国に移住してしまったと聞いて素早く行動を起こした。
自らブルーム王国に住む縁戚を探し、見つけたのはカーセルとの不仲が原因で王族を抜けていた大叔父のブロンス侯爵。跡継ぎとなる者がいないと聞くや否や、さっさと王位継承権を捨ててゴロゴロっと転がり込んだ。
(余談だが、レント王国ではサリアが廃妃されて新たな妃が迎えられ王子二人と王女一人がいる)
パーシルの大叔父は元騎士団長統括まで務めた人物で、養父は国の盾となり戦う第二騎士団をまとめる現役団長。18歳になったパーシルは、その背中を追って鍛練に励んでいる。
「マリー!!」
第二騎士団専用の鍛練場に差し入れを持って訪れれば、目当ての人物が汗を光らせながら満面の笑みを湛えて駆け寄ってくる。
「お疲れ様、シル」
保冷機能付きのバックから冷たいタオルを取り出して渡すと、嬉しそうに受け取り汗を拭く。マリアンヌと同じ香油の香りがついたのパーシル特別仕様だ。
「……マリーの匂いだ」
取り上げなければ、いつまでも顔にあててくんくんと嗅いでいる。さっさと取り上げ侍女に渡すと使用済み籠にポイッと入れた。多少の棘を感じるのはやはり仕方ない。
「今日はサンドイッチを作ってきたの」
「ありがとう、嬉しいよ」
思わず抱き締めそうになり、自分が汗臭いことを思い出して踏みとどまった。行き場を失って宙に浮いたままの手をマリアンヌが取り、お気に入りの広場に向かって歩き出す。
「お父様は暫く忙しいって」
「そうか…うん、分かった」
青々とした芝生にブランケットを敷いて、そこに寄り添うようにして座りランチボックスを広げていく。休みの日の恒例行事。
侍女や護衛達は距離を置いた場所からマリアンヌを見守るように…一方には睨みをきかせて待機している。
「みんな頑固なの」
「俺のせいだから」
──────────
齢8歳にして大切な人を失う恐怖を知ったパーシルは、ブルーム王国に来てからマリアンヌに謝罪をしたいと毎日通った。
まだ10歳にも満たない少年の居座り抗議である。
門をくぐらせてもらうことすら叶わず、毎日毎日通い続け、暑い日も寒い日も、晴れていても雨が降っていても突風に飛ばされても…決して諦めることなく通い続けて門の前に正座した。
記録的な豪雪となった日、その日も朝から門の前に座り続けていたパーシル。あわや小さな雪だるまになる…なったところで門は開かれた。
「あ……あ…」
目の前に立つマリアンヌの父ダイアン。
まずは謝罪をと思うのに寒さのあまり声が出せないほどガタガタと震え、溜め息をこぼすダイアンの指示で湯船に浸けられ溶かされた。
「申しわけありませんでした!!」
すっかり温まり、ほんのり頬を上気させたままモロゾフ家の面々に土下座するパーシル。
ダイアン達は呆れた様子で相対するが、ただひとり…マリアンヌだけはパーシル同様に頬を染めて座っていた。
マリアンヌの気持ちは知っている。
パーシルに意地悪を言われて泣いていたのは、自分の髪色がパーシルの好みではないからと誤解して悲しかったこと。自分の嫁になるしかないと言われ、嬉しかったこと。
複雑な気持ちを、泣くことでしか表現出来なかった幼いマリアンヌ。
だからパーシルが追いかけてきた事が嬉しくて仕方ない。本当はぎゅっとしたい。
「それで?」
だが、娘を溺愛するダイアン達は許せない。どんな理由があって意地悪をしたとしても、それをどんな気持ちでマリアンヌが受け止めていたとしても、傷付けたことには変わりないのだから。また同じことが起きないとも限らない。
それに…パーシルに向けても仕方ない感情もあった。王妃がマリアンヌを側室に宛がおうとしていた事、それが一番許せない。
「マリアンヌが大好きです。マリアンヌのキレイなかみ色が大好きです。マリアンヌの笑った顔が大好きです。マリアンヌのかわいい声が大好きです…マリアンヌのぜんぶが大好きです!!」
どんなに恥ずかしくても、たとえ幼いからと言っても、そのいずれも理由にしてはいけない。その一心でパーシルは訴えた。どれだけ大好きで大切なのか…分かって欲しくて。
「パーシルさま…」
もうすぐ10歳になろうとしているパーシル。正式にブロンス侯爵家の養子となり、念願の騎士になる道筋も見えてきた。
『きしさまってすてき』
いつだったかマリアンヌが言った言葉に、パーシルは軽くショックを受けたことがある。自分はどう頑張っても王子様だ、騎士にはなれない。そう諦めていたところに希望の光が差し込んだ。
「ぼくは騎士になります」
パーシルの宣言にマリアンヌは涙を浮かべ、そのまるで空が雨を湛えているような光景にパーシルはチクッと胸が痛む。
──また泣かせてしまう。違ったのか?マリアンヌはもう騎士は好きじゃない?
「マリアンヌ…」
嫌われたくなくて…泣かないでほしくて…
もうパーシルの方が先に泣きそうになった。
「パーシルさま…きしさまになるの?わたしがきしさまを好きだから?」
「マリアンヌがのぞむなら、なんにでもなる」
──じゃぁ、ブルームの国王になってみろ
そんな事を思ったモロゾフ家と使用人達だが、それを言ったら自分達こそ意地悪になってしまうので飲み込んだ。マリアンヌに嫌われたくはない。
「…お父さま……わたしは、きしさまとも結婚できますか?」
「───……できる」
マリアンヌからの衝撃的な質問に、超絶小さい声で答えたダイアンだったがばっちり拾われ、これまた超絶可愛い笑顔を見せて土下座継続中のパーシルの元へしゃがんだ。
「パーシルさま、がんばってね」
「───っ、がんばる!!」
翌日から元統括と現役団長による徹底的なしごきが始まり、時にモロゾフ侯爵家の騎士も参加してここぞとばかりにしごいて鬱憤を晴らし、メキメキと肉体も精神も鍛えられたパーシル。気付けば各騎士団から誘いを受けるまでになった。
『国を守るために戦う騎士さまってすてき』
その可愛らしい一言で、目指すは養父と同じ第二騎士団となり、先は大叔父と同じ統括団長。
そして、マリアンヌに誇られる騎士。
──────────
大量にあったサンドイッチを次々とたいらげ、マリアンヌ特製の冷たいアップルティーで喉を潤したらお昼寝タイム。
でも枕がマリアンヌの膝なので眠れない。
「ねぇ、マリアンヌ」
サラ…と肩からこぼれ落ちる夕焼け色の髪を指で掬って弄り、広がる空よりふたつ並んだ愛しい空を下から覗きこむ。
「大好きだよ」
もう照れて隠すことも湾曲させることもしない。ただただ愛しいのだと伝え続ける。
「侯爵の許しが貰えたら結婚してくれる?」
ブルーム王国では男女共に16歳を迎えないと婚姻が許可されない。よって、どんなに最短でもあと2年は結婚出来ないのだが…モロゾフ家はその間拒否の姿勢を貫くつもりでいる。
それに耐え抜き愛を貫けるのなら、プロポーズくらいは認めてやろうと考えていることをパーシルは知らない。
2年後…マリアンヌは16歳だがパーシルは20歳。もしも我慢できずに肉欲に負け、マリアンヌどころか他の女に手を出そうものなら切り落としてやると思っていることも。
「許しが貰えなかったら?」
パーシルの事が大好きなマリアンヌは、もしも許しが貰えないならパーシルを拐って逃亡しようかとも考えている。
パーシルが聞いたら嬉しくて泣いてしまいそうだが、困らせるのも分かっているので…今はまだ言わない。…今は。
「ずっとマリーの傍にいる」
まだ口付けはしない。微笑み合うだけ。
失った信用を取り戻せるまで、パーシルは手を繋ぐ以上の事はしないと決めている。
……腰を抱き寄せるくらいはしてるけど。
…………髪にキスくらいはしてるけど。
………………頬にキスくらいは────以下略
頑張れ、パーシル。
マリアンヌとの人生の入り口は近い!
はず。
過日、手付かずにいた山からは新種の鉱石も掘り起こされ、国内のみならず世界からも注目を受けていた。
夕焼け空を思わせるその石は『ブルーミン』と名付けられ、様々な宝飾に加工されたものは各国の王族が我先にと使者を送り商談中。
王国に齎した利益が莫大となったことで、近々公爵へとなる陞爵も決まっている。
───コンコン
「どうぞ」
「お父様、お茶をお持ち致しました」
「ありがとう、マリアンヌ」
14歳となり、益々愛妻セシルに似てきたマリアンヌにどうしても頬が緩んでしまうダイアン。ふたりが並んでいると、色違いのお揃いのようで疲れなど一瞬で吹き飛んでしまう。
「ご一緒しても?」
「あぁ、喜んで」
赤が祝いの色として愛されているブルームで暮らすようになり、本人より周りの人間が不安に思ったり不快を感じる事がなくなった。
レント王国では領地で大切に囲っていたこともあり悪意に晒されなかった事もあるが、その憂いがなくなっただけでも有り難い。
「学園はどうだ?楽しく過ごせているか?」
「えぇ、お友達とも仲良くさせて頂いているし、明日はお茶会にも招かれているの」
半年ほど前から王立学園に通い始めているマリアンヌ。唯一無二の赤髪はやはり目を引くが、元より好まれている色なので特に問題はない。むしろいい意味で興味を持たれている。
「そうか…アイツはどうしてる?」
途端に不機嫌さを表に出したダイアンに、マリアンヌは思わず眉を下げてしまった。どちらの気持ちも分かるからこそ、板挟みの状態であっても胸には温かいものが広がる。
「頑張っていらっしゃいますわ。家督を継ぐ為に剣術の研鑽にも励んでいらっしゃいます」
「ふんっ、いつまでもつかだな」
「お父様…」
今度こそ苦笑したが、こればかりはどうにも手助けなどしてやれない。そもそもが自分の行いが原因なのだから自業自得である。
けれど…最近は随分男らしくなってきたなぁ…と感慨に耽るお年頃のマリアンヌなのであった。
******
レント王国第一王子だったパーシルは、大好きなマリアンヌがブルーム王国に移住してしまったと聞いて素早く行動を起こした。
自らブルーム王国に住む縁戚を探し、見つけたのはカーセルとの不仲が原因で王族を抜けていた大叔父のブロンス侯爵。跡継ぎとなる者がいないと聞くや否や、さっさと王位継承権を捨ててゴロゴロっと転がり込んだ。
(余談だが、レント王国ではサリアが廃妃されて新たな妃が迎えられ王子二人と王女一人がいる)
パーシルの大叔父は元騎士団長統括まで務めた人物で、養父は国の盾となり戦う第二騎士団をまとめる現役団長。18歳になったパーシルは、その背中を追って鍛練に励んでいる。
「マリー!!」
第二騎士団専用の鍛練場に差し入れを持って訪れれば、目当ての人物が汗を光らせながら満面の笑みを湛えて駆け寄ってくる。
「お疲れ様、シル」
保冷機能付きのバックから冷たいタオルを取り出して渡すと、嬉しそうに受け取り汗を拭く。マリアンヌと同じ香油の香りがついたのパーシル特別仕様だ。
「……マリーの匂いだ」
取り上げなければ、いつまでも顔にあててくんくんと嗅いでいる。さっさと取り上げ侍女に渡すと使用済み籠にポイッと入れた。多少の棘を感じるのはやはり仕方ない。
「今日はサンドイッチを作ってきたの」
「ありがとう、嬉しいよ」
思わず抱き締めそうになり、自分が汗臭いことを思い出して踏みとどまった。行き場を失って宙に浮いたままの手をマリアンヌが取り、お気に入りの広場に向かって歩き出す。
「お父様は暫く忙しいって」
「そうか…うん、分かった」
青々とした芝生にブランケットを敷いて、そこに寄り添うようにして座りランチボックスを広げていく。休みの日の恒例行事。
侍女や護衛達は距離を置いた場所からマリアンヌを見守るように…一方には睨みをきかせて待機している。
「みんな頑固なの」
「俺のせいだから」
──────────
齢8歳にして大切な人を失う恐怖を知ったパーシルは、ブルーム王国に来てからマリアンヌに謝罪をしたいと毎日通った。
まだ10歳にも満たない少年の居座り抗議である。
門をくぐらせてもらうことすら叶わず、毎日毎日通い続け、暑い日も寒い日も、晴れていても雨が降っていても突風に飛ばされても…決して諦めることなく通い続けて門の前に正座した。
記録的な豪雪となった日、その日も朝から門の前に座り続けていたパーシル。あわや小さな雪だるまになる…なったところで門は開かれた。
「あ……あ…」
目の前に立つマリアンヌの父ダイアン。
まずは謝罪をと思うのに寒さのあまり声が出せないほどガタガタと震え、溜め息をこぼすダイアンの指示で湯船に浸けられ溶かされた。
「申しわけありませんでした!!」
すっかり温まり、ほんのり頬を上気させたままモロゾフ家の面々に土下座するパーシル。
ダイアン達は呆れた様子で相対するが、ただひとり…マリアンヌだけはパーシル同様に頬を染めて座っていた。
マリアンヌの気持ちは知っている。
パーシルに意地悪を言われて泣いていたのは、自分の髪色がパーシルの好みではないからと誤解して悲しかったこと。自分の嫁になるしかないと言われ、嬉しかったこと。
複雑な気持ちを、泣くことでしか表現出来なかった幼いマリアンヌ。
だからパーシルが追いかけてきた事が嬉しくて仕方ない。本当はぎゅっとしたい。
「それで?」
だが、娘を溺愛するダイアン達は許せない。どんな理由があって意地悪をしたとしても、それをどんな気持ちでマリアンヌが受け止めていたとしても、傷付けたことには変わりないのだから。また同じことが起きないとも限らない。
それに…パーシルに向けても仕方ない感情もあった。王妃がマリアンヌを側室に宛がおうとしていた事、それが一番許せない。
「マリアンヌが大好きです。マリアンヌのキレイなかみ色が大好きです。マリアンヌの笑った顔が大好きです。マリアンヌのかわいい声が大好きです…マリアンヌのぜんぶが大好きです!!」
どんなに恥ずかしくても、たとえ幼いからと言っても、そのいずれも理由にしてはいけない。その一心でパーシルは訴えた。どれだけ大好きで大切なのか…分かって欲しくて。
「パーシルさま…」
もうすぐ10歳になろうとしているパーシル。正式にブロンス侯爵家の養子となり、念願の騎士になる道筋も見えてきた。
『きしさまってすてき』
いつだったかマリアンヌが言った言葉に、パーシルは軽くショックを受けたことがある。自分はどう頑張っても王子様だ、騎士にはなれない。そう諦めていたところに希望の光が差し込んだ。
「ぼくは騎士になります」
パーシルの宣言にマリアンヌは涙を浮かべ、そのまるで空が雨を湛えているような光景にパーシルはチクッと胸が痛む。
──また泣かせてしまう。違ったのか?マリアンヌはもう騎士は好きじゃない?
「マリアンヌ…」
嫌われたくなくて…泣かないでほしくて…
もうパーシルの方が先に泣きそうになった。
「パーシルさま…きしさまになるの?わたしがきしさまを好きだから?」
「マリアンヌがのぞむなら、なんにでもなる」
──じゃぁ、ブルームの国王になってみろ
そんな事を思ったモロゾフ家と使用人達だが、それを言ったら自分達こそ意地悪になってしまうので飲み込んだ。マリアンヌに嫌われたくはない。
「…お父さま……わたしは、きしさまとも結婚できますか?」
「───……できる」
マリアンヌからの衝撃的な質問に、超絶小さい声で答えたダイアンだったがばっちり拾われ、これまた超絶可愛い笑顔を見せて土下座継続中のパーシルの元へしゃがんだ。
「パーシルさま、がんばってね」
「───っ、がんばる!!」
翌日から元統括と現役団長による徹底的なしごきが始まり、時にモロゾフ侯爵家の騎士も参加してここぞとばかりにしごいて鬱憤を晴らし、メキメキと肉体も精神も鍛えられたパーシル。気付けば各騎士団から誘いを受けるまでになった。
『国を守るために戦う騎士さまってすてき』
その可愛らしい一言で、目指すは養父と同じ第二騎士団となり、先は大叔父と同じ統括団長。
そして、マリアンヌに誇られる騎士。
──────────
大量にあったサンドイッチを次々とたいらげ、マリアンヌ特製の冷たいアップルティーで喉を潤したらお昼寝タイム。
でも枕がマリアンヌの膝なので眠れない。
「ねぇ、マリアンヌ」
サラ…と肩からこぼれ落ちる夕焼け色の髪を指で掬って弄り、広がる空よりふたつ並んだ愛しい空を下から覗きこむ。
「大好きだよ」
もう照れて隠すことも湾曲させることもしない。ただただ愛しいのだと伝え続ける。
「侯爵の許しが貰えたら結婚してくれる?」
ブルーム王国では男女共に16歳を迎えないと婚姻が許可されない。よって、どんなに最短でもあと2年は結婚出来ないのだが…モロゾフ家はその間拒否の姿勢を貫くつもりでいる。
それに耐え抜き愛を貫けるのなら、プロポーズくらいは認めてやろうと考えていることをパーシルは知らない。
2年後…マリアンヌは16歳だがパーシルは20歳。もしも我慢できずに肉欲に負け、マリアンヌどころか他の女に手を出そうものなら切り落としてやると思っていることも。
「許しが貰えなかったら?」
パーシルの事が大好きなマリアンヌは、もしも許しが貰えないならパーシルを拐って逃亡しようかとも考えている。
パーシルが聞いたら嬉しくて泣いてしまいそうだが、困らせるのも分かっているので…今はまだ言わない。…今は。
「ずっとマリーの傍にいる」
まだ口付けはしない。微笑み合うだけ。
失った信用を取り戻せるまで、パーシルは手を繋ぐ以上の事はしないと決めている。
……腰を抱き寄せるくらいはしてるけど。
…………髪にキスくらいはしてるけど。
………………頬にキスくらいは────以下略
頑張れ、パーシル。
マリアンヌとの人生の入り口は近い!
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