婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する

白バリン

文字の大きさ
29 / 125
第一部

29,ドジャース商会〔1〕

しおりを挟む
 これまで人件費や研究費などをガンガンと使ってきたが、当然公爵家の金庫はサクサク減っていく。
 したがって、どんどん稼がなければならない。
 税率を上げるのは時期尚早だ。いずれは上げていかないといけないが、今はその時期じゃない。

 稼ぐには物を売らなければならない。だから、商人との取り引きも重要になる。
 しかし、商人は国に仕えているのではなく、あらゆる国に属すし、あらゆる国に属さない。だから、この公爵領に良いようにはからってくれる商会が必要である。
 そこで、公爵領内の小さな商会を一つにして、それをドジャース商会として公爵領で考案した商品を売ることに決めた。

 アリーシャに婚約破棄をしたアレンのにっくきバーミヤン公爵家、その公爵家お抱えのバハラ商会がこの領地で羽振りを利かせている。
 このバハラ商会を潰す、ないし追い出す、あるいは併呑へいどんすることも狙いとしてある。

 そんなバハラ商会に過去、現在に嫌がらせを受けて大打撃を被った商会ばかりを集めていった。あのバーミヤン公爵家然り、バハラ商会はどうやら相当悪質な商会のようである。被害者は集団訴訟でも起こせそうなほど、かなりの数だった。
 すでに畳んで閉じていた商会もあったが、有能な商人なら引っこ抜いたし、あのバハラ商会に挑むと知り、この野郎と意気込んだ商人もいた。多くの人たちと長年やりあってきた一人ひとりの知識やツテは決して軽視できない。

 いくつかの商会が併合していき、そのトップはケビンという20代そこそこの青年に任せることにした。若いがケビンは他国とも上手くやりとりをしている。このネットワークとフットワークは活かせる。

 ケビンは商才は相当なもののようで、目利きがいい、度胸があるとの評判だ。他の商会からも評価が高い。だからこそ、トップになってもらった。

 「バハラ商会をぶっ壊す!」とどこかで訊いたようなフレーズだが、大衆に迎合するスタンドプレイに終始せずに、野心と好奇心と義侠心ぎきょうしんとを抱き、大局的に未来を見定める者の双眸そうぼうは涼やかであり、好ましい。

「それで公爵様、どのような商品を売るっていうんです?」

 我が家にやってきたケビンが怪訝けげんそうな顔をしている。
 そりゃそうだ、商人ではなく私は公爵なのだ、商売が上手なわけでもない。そんな噂も流れたことはないだろう。
 私には商才はないが、商才のあるものにその価値を理解させることはできる。これが私の仕事だ。

 物が売れればいいというが、ターゲットは緻密ちみつに絞らなければならない。
 万人受けする物を売るのは容易なことではない。それに加えて子ども向けのものはまだ早い。各世帯に余裕ができてからの話である。

 一つは娯楽。これはリバーシや将棋、チェスなどである。簡単なルールで遊べるものがいい。
 これらもヒロインが考案したものであり、この世界の娯楽文化を活性化させたという。
 それにしてもこんな単純な娯楽遊具もないというのは、変な世界だ。まさかたかりや狐狩りでもしてるんだろうか。

 トランプや花札、麻雀もいいが、作るのに時間がかかる。まずはシンプルなものからだ。こちらも軌道に乗ったら開発してもいいだろう。その時まで秘密だ。
 それにしても、娘が見せてくれたスマホの中の麗しい貴公子たちも、4人が雀卓を囲んで麻雀をする日が来るのだろうか。きっと、それはきっとさぞや良い声で「ポン」とか「ロン」とか「ツモ」と言うのだろう。

 商品開発の職人は一流の者を選んだ。他の領地や他国からも呼び寄せた。
 質の良さは必ず信用につながる。
 最初から粗悪品など作って売って小銭を稼ぐつもりはない。商売は短期的ではなく、中長期的な展望を持たなければ意味がない。

 何度か改良して、壊れにくい物をいくつかサンプルとして作らせた。
 いくつかの遊戯のルールを説明して、ケビンと遊ぶ。
 ケビンはかなり悔しそうに「もう1回お願いします」と何度も挑戦してきた。こういう対抗心をあおるのはいいことだ。

 それにしても驚いたのはケビンは賢い人間だった。
 リバーシなんかは隅や角を制することが勝利に繋がると何回かの手合わせで自力で思い至ったようだった。
 私ばかりが勝ち続けるのも申し訳ない気もしたので、わざと手を抜いたら、それも看破かんぱした。こういう才もどうやらあるのかもしれない。コテンパンにしてやればよかった。

 娯楽遊具は庶民向けの安いものと、やや豪華なものと、2種類用意し、それぞれにドジャース商会の刻印のあるものにした。
 どこの商会が関与しているのか、さらに転売を防ぐ狙いもある。
 価格設定はケビンにやらせた。相場のわかる人間に任せるのが一番だ。

 ただ、数量限定で職人が本領を発揮できるものもいくつか作らせることにした。 
 これは職人のモチベーションにもつながるし、それを見た他の職人が技を真似たり盗んだりするかもしれないと考えたからである。
 また、最高品質の最高級の遊具を欲しがる者は、きっと何人かはいるだろうと考えたからである。

 実際、あまり使うことのない貴重な材料を手にしてうなっているベテラン職人もいて、職人としての誇りと技にかけて挑んでいた人もいた。「良い仕事をした」と、満足していたようだ。
 高級品の物は、もしかすると遊びはしないが、インテリアとして飾ることだってあるだろう。それでもいい。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

処理中です...