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第二部
3,3年の変化〔2〕――バハラ商会の失墜〔1〕
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ちょうどポーションを販売した時期と重なるが、3年間の変化のもう一つはバハラ商会の信用が地に堕ちたことである。変化としてはこちらの方が大きい。
このことについては、個人的には大変許しがたい愚行をバハラ商会がしたと考えている。
バハラ商会が致命的だったのは美容関連の商品を安易に売り出したことに端を発する。
「はーい、この魔法の水でお肌がツルツルになりますよ!」
「美白を目指している方には必須の商品ですよ!」
「今だけお安くなっています!」
5年目の3月頃、今から1年近く前なのだが、この頃にバハラ商会はドジャース商会が販売している商品に似せたものを、大々的に、しかも安く売り出していた。
確かにドジャース商会の商品はまだ庶民が買うにしてはちょっと高いかなという価格設定であり、しかしまだ価格を下げるのは時期尚早だなと考えていた時期だった。
しかし、バハラ商会は庶民がこれなら買ってもいいかもと思う絶妙な価格設定にしていた。こういう価格設定ができるということはバハラ商会が客層を見定めることができていたということなのだろうし、悪評が多くても国内外にまで広く商売をできていたのだろう。
だから多くの人々が一時的にそちらに流れたのは紛れもない事実である。
しかし、その後に多くの顧客の肌トラブルを引き起こすことにつながった。
それは顔だけではなく手足や胸、腹、背中と被害の箇所も広い。せめてハンドクリーム程度だけであればまだ被害が小さかったかもしれない。
実はかなり早い段階で肌荒れのトラブルをバハラ商会に訴え出た者がいた。
しかし、「荒れるのは最初だけだ」と誤魔化したり取り合わなかったり、それを根拠のないクレームだと一方的に断言して一蹴したり、時には暴力によって追い返し、そのようなバハラ商会の問答無用の無慈悲な対応に泣き寝入りをした国民が数多く発生した。
そしてこれは他国でも見られた。
最後には、バハラ商会を支えているバーミヤン公爵家、その当主であるとともにこの国の宰相であるゲス・バーミヤンが出てきた。
「バハラ商会の商品の品質には自信がある!」
このように、ゲスはバハラ商会の商品の安心と安全を繰り返し主張し、「異議を唱える者は覚悟をもってやってくるがいい」と、その地位を利用して恫喝まがいのことまでも述べた。
これは化粧品だけではなく、それ以前からしばしば噂になっていたバハラ商会の粗悪品への批判の声をも封殺する言葉であった。
これが企業の対応として何重にも誤っていることは明らかである。
それに宰相まで出てきたのは時の首相や大臣が一企業の広告塔になるようなものだ。もし日本でこのようなことがあったら大炎上であり、醜聞として連日のニュースになったかもしれない。
私も領主としてドジャース商会というつながりがあり、人には癒着していると思われるかもしれない。実際そういうところはあるが、商会の後ろには公爵家がいる、というのは一つの信用でもある。もちろん、ドジャース商会が何らかの失態をしでかしたら、その責任はドジャース商会に丸投げではなく、公爵家として受け止めるつもりだし、受け止めてきた。だから、その意味では悪いことだとは考えていないし、何よりも不便な生活を一刻も早く改善したかった。
まあ、それでも最初の頃はともかくとして、もうここ1、2年は開発に関わるのみで広告塔のようなことはしていない。
こうして、無念にもバハラ商会に反対するだけの力は国民にはなく、集会を開いても強制的に排除され、そして相手があのゲス・バーミヤン宰相だということにおそらく諦めの気持ちが強くなっていった。
ただ、潮目が変わった。
「どうして私の肌が荒れたのでしょう? 説明できる責任者を呼びなさい」
「ここで購入した商品について詳しいお話をうかがいたいのだけど?」
庶民だけではなく、貴族や富裕層の一部にもその商品を使用した人間がおり、こうした人々からバハラ商会は訴えられたのである。そしてその数は一人二人ではない。もはや集団訴訟といってもよい。その数は貴族たちだけでも100人を超えていたし、実際にはもっと多い。しかも貴族といっても侯爵夫人級の貴族も複数いた。
正確にはわからないが、庶民に貴族や富裕層たちを加えたら被害者は全体としてだいたい5000人程度が被害に遭ったと言われている。女性が多かったのだが男性も少数ながらいた。そして、それはバラード王国内の人数である。
一方、ドジャース商会はバハラ商会がそのような商品を売り出してからは、取り引きに来る人たちにも度々注意を喚起していた。なんとなく嫌な感じがしたのだ。
「商品に絶対はないし、何より肌は敏感だから、ご注意ください、何か異常が見られたらすぐに使用するのはやめてください」と。
これは私が速やかに美容関連の商品を販売している全店舗に伝令したことである。
この文言を用いて、接客や販売をするようにきつく言い含めた。
こういう場合は絶対に言葉がぶれてはいけないのが鉄則である。
「あそこの店ではこう言っていましたよ」などという反応が起きるのを避け、共通の言葉を用いる。それでも何かあれば上の者が責任をもって対応するというのが基本的なあり方である。
そして、「この伝令の内容を破ることは職を失う覚悟を持て」とまで加えておいた。
自分でも強い口調だったと思うし、違う商会なのだから別に気にする必要はないと思われるが、ここは一切の油断と緩慢を見せてはいけないと考えたからである。
さすがに名前を出して「バハラ商会のものを買うな」とは言えず、これ以上は営業妨害になるのであからさまには言えなかった。
このことについては、個人的には大変許しがたい愚行をバハラ商会がしたと考えている。
バハラ商会が致命的だったのは美容関連の商品を安易に売り出したことに端を発する。
「はーい、この魔法の水でお肌がツルツルになりますよ!」
「美白を目指している方には必須の商品ですよ!」
「今だけお安くなっています!」
5年目の3月頃、今から1年近く前なのだが、この頃にバハラ商会はドジャース商会が販売している商品に似せたものを、大々的に、しかも安く売り出していた。
確かにドジャース商会の商品はまだ庶民が買うにしてはちょっと高いかなという価格設定であり、しかしまだ価格を下げるのは時期尚早だなと考えていた時期だった。
しかし、バハラ商会は庶民がこれなら買ってもいいかもと思う絶妙な価格設定にしていた。こういう価格設定ができるということはバハラ商会が客層を見定めることができていたということなのだろうし、悪評が多くても国内外にまで広く商売をできていたのだろう。
だから多くの人々が一時的にそちらに流れたのは紛れもない事実である。
しかし、その後に多くの顧客の肌トラブルを引き起こすことにつながった。
それは顔だけではなく手足や胸、腹、背中と被害の箇所も広い。せめてハンドクリーム程度だけであればまだ被害が小さかったかもしれない。
実はかなり早い段階で肌荒れのトラブルをバハラ商会に訴え出た者がいた。
しかし、「荒れるのは最初だけだ」と誤魔化したり取り合わなかったり、それを根拠のないクレームだと一方的に断言して一蹴したり、時には暴力によって追い返し、そのようなバハラ商会の問答無用の無慈悲な対応に泣き寝入りをした国民が数多く発生した。
そしてこれは他国でも見られた。
最後には、バハラ商会を支えているバーミヤン公爵家、その当主であるとともにこの国の宰相であるゲス・バーミヤンが出てきた。
「バハラ商会の商品の品質には自信がある!」
このように、ゲスはバハラ商会の商品の安心と安全を繰り返し主張し、「異議を唱える者は覚悟をもってやってくるがいい」と、その地位を利用して恫喝まがいのことまでも述べた。
これは化粧品だけではなく、それ以前からしばしば噂になっていたバハラ商会の粗悪品への批判の声をも封殺する言葉であった。
これが企業の対応として何重にも誤っていることは明らかである。
それに宰相まで出てきたのは時の首相や大臣が一企業の広告塔になるようなものだ。もし日本でこのようなことがあったら大炎上であり、醜聞として連日のニュースになったかもしれない。
私も領主としてドジャース商会というつながりがあり、人には癒着していると思われるかもしれない。実際そういうところはあるが、商会の後ろには公爵家がいる、というのは一つの信用でもある。もちろん、ドジャース商会が何らかの失態をしでかしたら、その責任はドジャース商会に丸投げではなく、公爵家として受け止めるつもりだし、受け止めてきた。だから、その意味では悪いことだとは考えていないし、何よりも不便な生活を一刻も早く改善したかった。
まあ、それでも最初の頃はともかくとして、もうここ1、2年は開発に関わるのみで広告塔のようなことはしていない。
こうして、無念にもバハラ商会に反対するだけの力は国民にはなく、集会を開いても強制的に排除され、そして相手があのゲス・バーミヤン宰相だということにおそらく諦めの気持ちが強くなっていった。
ただ、潮目が変わった。
「どうして私の肌が荒れたのでしょう? 説明できる責任者を呼びなさい」
「ここで購入した商品について詳しいお話をうかがいたいのだけど?」
庶民だけではなく、貴族や富裕層の一部にもその商品を使用した人間がおり、こうした人々からバハラ商会は訴えられたのである。そしてその数は一人二人ではない。もはや集団訴訟といってもよい。その数は貴族たちだけでも100人を超えていたし、実際にはもっと多い。しかも貴族といっても侯爵夫人級の貴族も複数いた。
正確にはわからないが、庶民に貴族や富裕層たちを加えたら被害者は全体としてだいたい5000人程度が被害に遭ったと言われている。女性が多かったのだが男性も少数ながらいた。そして、それはバラード王国内の人数である。
一方、ドジャース商会はバハラ商会がそのような商品を売り出してからは、取り引きに来る人たちにも度々注意を喚起していた。なんとなく嫌な感じがしたのだ。
「商品に絶対はないし、何より肌は敏感だから、ご注意ください、何か異常が見られたらすぐに使用するのはやめてください」と。
これは私が速やかに美容関連の商品を販売している全店舗に伝令したことである。
この文言を用いて、接客や販売をするようにきつく言い含めた。
こういう場合は絶対に言葉がぶれてはいけないのが鉄則である。
「あそこの店ではこう言っていましたよ」などという反応が起きるのを避け、共通の言葉を用いる。それでも何かあれば上の者が責任をもって対応するというのが基本的なあり方である。
そして、「この伝令の内容を破ることは職を失う覚悟を持て」とまで加えておいた。
自分でも強い口調だったと思うし、違う商会なのだから別に気にする必要はないと思われるが、ここは一切の油断と緩慢を見せてはいけないと考えたからである。
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