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第二話 聖女シルヴィアと魔将グリム
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都に連れて来られたシルヴィアは、勉学は勿論のこと、武芸、魔法、芸術、礼儀作法――といった、人国の持つあらゆる知識と技術と文化を叩き込まれた。
その全てを瞬く間に吸収したシルヴィアは、都に来てから一年も経つ頃には、人類の中で最強と言っても過言ではないくらいの実力を身に着けるようになった。
「もはや貴女に教えることはありませんシルヴィア。その力を人国のために振るいなさい」
「はい、ご教授ありがとうございました先生」
訓練を終えたシルヴィアは、早速実戦へと投入されることになった。
初陣は魔国との国境沿いにあるボダリアン平原での戦いとなった。ボダリアン平原は、これまでに両国が幾度となく激しい戦いを繰り広げてきた場所である。
「光よ。満ちて我等が道を照らし給え」
シルヴィアが呪文を唱えると、彼女の手から無数の光の玉が生じ、上空で漂う。それらはまるで昼の空に輝く星のようであった。
「おお、あれだけの大魔法をお独りでこなされるとは」
「流石は聖女様であらせられる」
シルヴィアが唱えたのは聖なる攻撃魔法。それも普通は上級魔法使いが複数人がかりでやっと発動できる大魔法である。
そんな大魔法を、シルヴィアはたった独りでなんなく発動させた。
「それ!」
シルヴィアが腕を振り下ろすと同時、空に輝く無数の光の玉は魔国の軍勢へと降り注いでいく。その様はさながら、地に降り注ぐ流星のようであった。
「ぐぁあああああ!」
「ひぃいいいいい!」
シルヴィアの放った聖なる魔法の直撃を受け、ゴブリン、オーク、リザードマンといった魔族を主体に構成された魔国軍の前衛部隊が瞬く間に蒸発していく。
「なんだあの人間の女は!?」
「聖女だと!? 伝説の聖女が現れたというのか!?」
「魔神の加護を受けた魔王様と同等の力を持つと言われる聖女だと!?」
シルヴィアの登場で、魔国軍は大混乱となる。
一兵一兵が一騎当千の働きをすると言われる魔国兵であるが、たった一人の女の登場に阿鼻叫喚となった。聖女とは、魔族にとってそれほど恐ろしい存在なのである。
対する人国軍からは、大きな歓声が上がった。憎き魔族の軍勢が恐れ戦いていると聞いて、喜ばない人国軍兵士はいない。
「聖女様が道を切り開いたぞ! 者共、かかれい!」
「うぉおおおおお!」
シルヴィアの攻撃を合図に、人国軍は勇猛果敢に突撃していく。聖なる魔法の攻撃によって半壊した敵の防衛網を食い破っていく。
「力よ。我等に魔を滅ぼす祝福を。魔を弱める呪いを」
シルヴィアが新たな魔法を唱える。途端、人国軍兵士の潜在能力が上がり、敵である魔国軍兵士の潜在能力が下がっていく。
これも普通は上級魔法使いが複数人がかりで発動する大魔法であるが、シルヴィアにかかれば造作もないことである。何度だって連発して発動することも可能だ。傷ついた人国兵を癒すことも可能である。
常にパワーアップしている人国軍と、常にパワーダウンしている魔国軍。聖女という絶対的存在の支援を受けている人国軍と、受けられない魔国軍。
時間が経てば経つほど、魔国軍が不利になっていく。当然のことである。
「このまま押し切りましょう」
「そうですな聖女様」
シルヴィアは時には前線に出て手強い敵を蹴散らし、時には後方に引っ込み、人国軍の援護をしていく。
そんな時のことであった。
「やるなお前」
一人の魔国軍将が聖女の前に現れる。
「我が名はグリム。魔国軍が一将よ。聖女よ俺様と戦いやがれ」
グリムと名乗るその男は、鋭い角と牙を持った鬼であった。体躯は緑色をしているのでゴブリンのようであるが、見るからに並みのゴブリンではなかった。オークにすら勝る体躯を持つ大鬼であった。
「どうした聖女よ。俺様に恐れ戦いたか?」
グリムは携えた大斧を振るって挨拶代わりに威嚇すると、シルヴィアに対して一騎打ちを所望した。獰猛に笑い、聖女を挑発する。
魔国軍の将を討つチャンスとあらば、シルヴィアがその提案を受けないわけがない。
「いいでしょう。私の名はシルヴィア。聖女シルヴィアです」
シルヴィアは優雅に挨拶をした後、剣を構える。それから一騎打ちが始まる。
「うおらあああああ!」
「はぁああああああ!」
両者は切り結んでいく。常人には見えない速度で戦っていく。
戦いは女神の加護を受けた聖女シルヴィアに有利と思われたが、グリムも負けてはいなかった。
グリムはやはり並みのゴブリンではないらしく、その身体は傷ついた瞬間、見る間に回復していった。切断された腕ですら、しばらくすれば回復していく有様であった。
どうやらグリムは魔神の加護を受けているらしい。これほどの力があるのならば、次期魔王も夢ではないだろう。
「ハハ! 人間でこれほどの力を持っている奴がいるとはな! しかも女とはな! 素晴らしい!」
グリムはシルヴィアにボコボコにされ、全身から血を流しながらも獰猛に笑っていた。その表情は凶暴でありながら、どこか恍惚とした表情でもあった。
長らく闘争の世界に身を置き、初めて運命の人に巡り会えた、といった感じであった。
「お前と結婚すれば毎日戦えて楽しそうだな。シルヴィア! 俺様の嫁になりやがれ!」
「生憎ですが魔族の嫁になどなりません」
「そうか、ならば力ずくでも俺様のものにしてやるぞ!」
魔族の嫁になるなど死んでも御免である。
生まれた時からそう教え込まれてきたし、都に行って聖女としての教育を受けてからは、なおさらそのように思い込むようになった。
それに、魔族とか抜きにしても、結婚すれば毎日戦えるなどという、わけのわからぬ理由でプロポーズなどされたくない。
シルヴィアとて一人の乙女である。もしプロポーズされるなら、月夜の下、どこぞの美男子の王子様に愛を囁かれたいと思っていた。
血と汗の臭いに満ち、死体が転がっている禍々しい戦場で、誰が大鬼にプロポーズなどされたいものか。
しかも、女神の加護を受けて幼いながらも成熟しているとはいえ、未だ十一歳の自分に求婚してくる異常者が相手だ。
そんなのは絶対に御免である。
「シルヴィア! 俺様と結婚しろぉおおお!」
「嫌です! 絶対に!」
グリムは戦いながら血塗れの姿で求婚する。それを断固拒否するシルヴィア。
グリムとシルヴィアは激しく戦い合う。国と国を背負い戦っていたはずなのに、気づけば結婚するしないの、変な戦いとなっていた。
二人がわけのわからぬ争いをしているその間も、戦争は続いていく。
「グリム様! もはや敗色は濃厚! お引き下さい!」
「ちっ、良い所だってのに。今日の所は仕方ねえか」
ずっとシルヴィアと一騎打ちを続けたかったグリムであったが、味方が総崩れとなればそうもいかない。魔国の将として撤退を決めたようだ。
「そらぁあああ!」
グリムが大斧を振るい、大きな衝撃波を発生させる。
「ぐあああ!」
勢いに乗り追撃しようとしていた人国軍であったが、グリムの放った衝撃波に呑まれていく。勢いづいていた人国軍兵士の足が、一斉に止まることとなった。
「誰かいけよ!」
「お前がいけよ!」
「どうぞどうぞ!」
人間とは、勝ち戦の時ほど命を惜しむものである。命あっての恩賞だからだ。全員で突っ込めば大将首をとれるかもしれないというのに、誰もやらなかった。某芸人トリオのように先を譲り合っていた。
「シルヴィアよまた会おう」
グリムは殴られて膨れ上がった顔でありながら、物凄い良い笑顔でシルヴィアに別れを告げた。
その顔は狂気に満ちていたが、同時に愛にも満ちていた。
「こちらも一時引くしかないようですね」
追撃してグリムを討つチャンスであったが、シルヴィアはそうしなかった。
衝撃波に呑み込まれて重症を負っている人国軍兵士の救助を優先したのだ。
自らの手柄よりも味方を優先する。優しい彼女らしい判断であった。
「大丈夫ですか?」
「すみません、助かります聖女様」
シルヴィアは傷ついた人国軍兵士たちを回復魔法を使って癒していく。
その隙にグリム他の魔国軍は撤退していった。
魔国軍の将グリムは討てなかったものの、戦いは人国軍の圧倒的勝利に終わった。
「あの魔国軍一の猛将グリムを退けたぞぉおお!」
「長らく領土を侵され周辺の村々が略奪の憂き目に遭うばかりだったというのに、初めて追い返したぞ!」
「うぉおお! やったぁああ!」
こうしてシルヴィアは、自らの初陣を完璧なまでの勝利で飾ったのであった。
その後もシルヴィアは戦いに身を投じ、魔国の軍勢を退けていく。
戦場では、度々グリムとかち合うことになった。
「シルヴィア! いい加減、俺様の嫁になりやがれ!」
「嫌です! 魔族の嫁など死んでも御免です!」
「いいから嫁になれぇえ! 毎日朝から晩まで一騎打ちしようぞぉおお!」
「絶対に嫌です!」
戦場で会う度に熱烈なプロポーズを受けるシルヴィア。それを拒絶し続ける日々。
グリムはどんな重傷を負ってもピンピンとしていたが、魔国軍全体はそうではなかった。
聖女シルヴィアの活躍もあり、魔国軍は徐々に押し込まれることになる。人国軍は歴史上初めて魔国の領土を侵犯し、さらには魔国の都まで進撃することとなった。
そして、マザー歴1018年。シルヴィアが十八の歳を迎える頃、長らく続いた戦いは転換点を迎えることとなった。
「魔都が落ちて魔王が死んだぞ!」
「聖女シルヴィア様の帰還だぁああ!」
「英雄のお帰りだぁああ!」
人国軍は魔国の都をついに陥落させた。魔王サタンは死に、多くの魔族が討たれた。
聖女シルヴィアは長らく続いた戦争を終わらせた救国の英雄として凱旋帰国を果たした。
「ちっ、人間共め。しばらくは大人しくしているしかないようだな。シルヴィア、いつか俺様の嫁にしてやるからな!」
戦いに敗れた魔族軍は地下に潜ることになった。各地へと散らばり雌伏の時を過ごす。新たに魔王となったグリムも地下へと潜った。
グリムはシルヴィアへの想いは諦めていなかったものの、状況が状況だけに引っ込まざるを得なかった。
魔族の残党は残り少ない。聖女シルヴィアは未だ若く何十年と戦える。この世界から魔族が完全に駆逐され、人類の永遠の繁栄の時代が訪れる――その日は近いかと思われた。
「聖女聖女と、どいつもこいつも煩いですわね。エリック様までも……許せませんわ」
だがそれは一人の愚かな女が現れなければ、の話であった。
その全てを瞬く間に吸収したシルヴィアは、都に来てから一年も経つ頃には、人類の中で最強と言っても過言ではないくらいの実力を身に着けるようになった。
「もはや貴女に教えることはありませんシルヴィア。その力を人国のために振るいなさい」
「はい、ご教授ありがとうございました先生」
訓練を終えたシルヴィアは、早速実戦へと投入されることになった。
初陣は魔国との国境沿いにあるボダリアン平原での戦いとなった。ボダリアン平原は、これまでに両国が幾度となく激しい戦いを繰り広げてきた場所である。
「光よ。満ちて我等が道を照らし給え」
シルヴィアが呪文を唱えると、彼女の手から無数の光の玉が生じ、上空で漂う。それらはまるで昼の空に輝く星のようであった。
「おお、あれだけの大魔法をお独りでこなされるとは」
「流石は聖女様であらせられる」
シルヴィアが唱えたのは聖なる攻撃魔法。それも普通は上級魔法使いが複数人がかりでやっと発動できる大魔法である。
そんな大魔法を、シルヴィアはたった独りでなんなく発動させた。
「それ!」
シルヴィアが腕を振り下ろすと同時、空に輝く無数の光の玉は魔国の軍勢へと降り注いでいく。その様はさながら、地に降り注ぐ流星のようであった。
「ぐぁあああああ!」
「ひぃいいいいい!」
シルヴィアの放った聖なる魔法の直撃を受け、ゴブリン、オーク、リザードマンといった魔族を主体に構成された魔国軍の前衛部隊が瞬く間に蒸発していく。
「なんだあの人間の女は!?」
「聖女だと!? 伝説の聖女が現れたというのか!?」
「魔神の加護を受けた魔王様と同等の力を持つと言われる聖女だと!?」
シルヴィアの登場で、魔国軍は大混乱となる。
一兵一兵が一騎当千の働きをすると言われる魔国兵であるが、たった一人の女の登場に阿鼻叫喚となった。聖女とは、魔族にとってそれほど恐ろしい存在なのである。
対する人国軍からは、大きな歓声が上がった。憎き魔族の軍勢が恐れ戦いていると聞いて、喜ばない人国軍兵士はいない。
「聖女様が道を切り開いたぞ! 者共、かかれい!」
「うぉおおおおお!」
シルヴィアの攻撃を合図に、人国軍は勇猛果敢に突撃していく。聖なる魔法の攻撃によって半壊した敵の防衛網を食い破っていく。
「力よ。我等に魔を滅ぼす祝福を。魔を弱める呪いを」
シルヴィアが新たな魔法を唱える。途端、人国軍兵士の潜在能力が上がり、敵である魔国軍兵士の潜在能力が下がっていく。
これも普通は上級魔法使いが複数人がかりで発動する大魔法であるが、シルヴィアにかかれば造作もないことである。何度だって連発して発動することも可能だ。傷ついた人国兵を癒すことも可能である。
常にパワーアップしている人国軍と、常にパワーダウンしている魔国軍。聖女という絶対的存在の支援を受けている人国軍と、受けられない魔国軍。
時間が経てば経つほど、魔国軍が不利になっていく。当然のことである。
「このまま押し切りましょう」
「そうですな聖女様」
シルヴィアは時には前線に出て手強い敵を蹴散らし、時には後方に引っ込み、人国軍の援護をしていく。
そんな時のことであった。
「やるなお前」
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グリムは携えた大斧を振るって挨拶代わりに威嚇すると、シルヴィアに対して一騎打ちを所望した。獰猛に笑い、聖女を挑発する。
魔国軍の将を討つチャンスとあらば、シルヴィアがその提案を受けないわけがない。
「いいでしょう。私の名はシルヴィア。聖女シルヴィアです」
シルヴィアは優雅に挨拶をした後、剣を構える。それから一騎打ちが始まる。
「うおらあああああ!」
「はぁああああああ!」
両者は切り結んでいく。常人には見えない速度で戦っていく。
戦いは女神の加護を受けた聖女シルヴィアに有利と思われたが、グリムも負けてはいなかった。
グリムはやはり並みのゴブリンではないらしく、その身体は傷ついた瞬間、見る間に回復していった。切断された腕ですら、しばらくすれば回復していく有様であった。
どうやらグリムは魔神の加護を受けているらしい。これほどの力があるのならば、次期魔王も夢ではないだろう。
「ハハ! 人間でこれほどの力を持っている奴がいるとはな! しかも女とはな! 素晴らしい!」
グリムはシルヴィアにボコボコにされ、全身から血を流しながらも獰猛に笑っていた。その表情は凶暴でありながら、どこか恍惚とした表情でもあった。
長らく闘争の世界に身を置き、初めて運命の人に巡り会えた、といった感じであった。
「お前と結婚すれば毎日戦えて楽しそうだな。シルヴィア! 俺様の嫁になりやがれ!」
「生憎ですが魔族の嫁になどなりません」
「そうか、ならば力ずくでも俺様のものにしてやるぞ!」
魔族の嫁になるなど死んでも御免である。
生まれた時からそう教え込まれてきたし、都に行って聖女としての教育を受けてからは、なおさらそのように思い込むようになった。
それに、魔族とか抜きにしても、結婚すれば毎日戦えるなどという、わけのわからぬ理由でプロポーズなどされたくない。
シルヴィアとて一人の乙女である。もしプロポーズされるなら、月夜の下、どこぞの美男子の王子様に愛を囁かれたいと思っていた。
血と汗の臭いに満ち、死体が転がっている禍々しい戦場で、誰が大鬼にプロポーズなどされたいものか。
しかも、女神の加護を受けて幼いながらも成熟しているとはいえ、未だ十一歳の自分に求婚してくる異常者が相手だ。
そんなのは絶対に御免である。
「シルヴィア! 俺様と結婚しろぉおおお!」
「嫌です! 絶対に!」
グリムは戦いながら血塗れの姿で求婚する。それを断固拒否するシルヴィア。
グリムとシルヴィアは激しく戦い合う。国と国を背負い戦っていたはずなのに、気づけば結婚するしないの、変な戦いとなっていた。
二人がわけのわからぬ争いをしているその間も、戦争は続いていく。
「グリム様! もはや敗色は濃厚! お引き下さい!」
「ちっ、良い所だってのに。今日の所は仕方ねえか」
ずっとシルヴィアと一騎打ちを続けたかったグリムであったが、味方が総崩れとなればそうもいかない。魔国の将として撤退を決めたようだ。
「そらぁあああ!」
グリムが大斧を振るい、大きな衝撃波を発生させる。
「ぐあああ!」
勢いに乗り追撃しようとしていた人国軍であったが、グリムの放った衝撃波に呑まれていく。勢いづいていた人国軍兵士の足が、一斉に止まることとなった。
「誰かいけよ!」
「お前がいけよ!」
「どうぞどうぞ!」
人間とは、勝ち戦の時ほど命を惜しむものである。命あっての恩賞だからだ。全員で突っ込めば大将首をとれるかもしれないというのに、誰もやらなかった。某芸人トリオのように先を譲り合っていた。
「シルヴィアよまた会おう」
グリムは殴られて膨れ上がった顔でありながら、物凄い良い笑顔でシルヴィアに別れを告げた。
その顔は狂気に満ちていたが、同時に愛にも満ちていた。
「こちらも一時引くしかないようですね」
追撃してグリムを討つチャンスであったが、シルヴィアはそうしなかった。
衝撃波に呑み込まれて重症を負っている人国軍兵士の救助を優先したのだ。
自らの手柄よりも味方を優先する。優しい彼女らしい判断であった。
「大丈夫ですか?」
「すみません、助かります聖女様」
シルヴィアは傷ついた人国軍兵士たちを回復魔法を使って癒していく。
その隙にグリム他の魔国軍は撤退していった。
魔国軍の将グリムは討てなかったものの、戦いは人国軍の圧倒的勝利に終わった。
「あの魔国軍一の猛将グリムを退けたぞぉおお!」
「長らく領土を侵され周辺の村々が略奪の憂き目に遭うばかりだったというのに、初めて追い返したぞ!」
「うぉおお! やったぁああ!」
こうしてシルヴィアは、自らの初陣を完璧なまでの勝利で飾ったのであった。
その後もシルヴィアは戦いに身を投じ、魔国の軍勢を退けていく。
戦場では、度々グリムとかち合うことになった。
「シルヴィア! いい加減、俺様の嫁になりやがれ!」
「嫌です! 魔族の嫁など死んでも御免です!」
「いいから嫁になれぇえ! 毎日朝から晩まで一騎打ちしようぞぉおお!」
「絶対に嫌です!」
戦場で会う度に熱烈なプロポーズを受けるシルヴィア。それを拒絶し続ける日々。
グリムはどんな重傷を負ってもピンピンとしていたが、魔国軍全体はそうではなかった。
聖女シルヴィアの活躍もあり、魔国軍は徐々に押し込まれることになる。人国軍は歴史上初めて魔国の領土を侵犯し、さらには魔国の都まで進撃することとなった。
そして、マザー歴1018年。シルヴィアが十八の歳を迎える頃、長らく続いた戦いは転換点を迎えることとなった。
「魔都が落ちて魔王が死んだぞ!」
「聖女シルヴィア様の帰還だぁああ!」
「英雄のお帰りだぁああ!」
人国軍は魔国の都をついに陥落させた。魔王サタンは死に、多くの魔族が討たれた。
聖女シルヴィアは長らく続いた戦争を終わらせた救国の英雄として凱旋帰国を果たした。
「ちっ、人間共め。しばらくは大人しくしているしかないようだな。シルヴィア、いつか俺様の嫁にしてやるからな!」
戦いに敗れた魔族軍は地下に潜ることになった。各地へと散らばり雌伏の時を過ごす。新たに魔王となったグリムも地下へと潜った。
グリムはシルヴィアへの想いは諦めていなかったものの、状況が状況だけに引っ込まざるを得なかった。
魔族の残党は残り少ない。聖女シルヴィアは未だ若く何十年と戦える。この世界から魔族が完全に駆逐され、人類の永遠の繁栄の時代が訪れる――その日は近いかと思われた。
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