吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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一章

従業員ゲット

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 助けを求めて俺の宿にやってきたゴブリン三兄弟の話を聞いた俺とエリザは、すぐに彼らの住んでいたゴブリン集落に急行した。
 駆けつけると、そこには夥しい数のゴブリンの死体が転がっていた。

「なんてことだ。こんなのってあんまりだ……」

 その惨状を見た俺は大きなショックを受けた。全員がそうではないが、死体の中には俺の宿で食事をとってくれたお客様がいるだろう。

 俺の宿を訪れていなくても、死んでいるゴブリンたちは潜在的なお客様であったはずだ。生きていれば俺の宿に訪れて食事をとってくれたかもしれない。そんな貴重で尊い存在だ。

 お客様とお客様になったかもしれない存在が、大勢殺されていた。信じたくない光景である。

 最近ゴブリンのお客様を呼び込もうとしても呼び込めなかったわけだ。だって全員死んでいたんだもの。呼び込めなくて当然だ。

「酷すぎる……なんてことだ……」

 例えるならこうだ。住宅街の近くにお店を出店したと思ったら、その住宅街の住民が盗賊共に皆殺しにされたようなもんだ。こんな酷いことってない。

「誰だぁああ! ウチのお客様を皆殺しにしたのはぁあ!」

 俺はいまだかつてないほど憤った。俺のお客様を殺しやがった連中を、俺の商売の邪魔をしやがった連中を、生かしてなどおけない。

「お前たちのせいか! 死ねやゴラァアア!」
「ひぃいい⁉」

 元凶である盗賊共をボコボコにして、やっつけておいた。ついでに吸血も忘れずにやっておく。

――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【剣術】を獲得。

剣術:剣の扱いが巧みになる。

リーダー格の男からは、それなりに有用なスキルをゲットすることができた。

 エリザも同じスキルをゲットできたようだから、暇な時に一緒に剣の稽古でもしてみるか。今まで肉体のみの力に頼って素手で戦ってたけど、武器を使って戦うことも覚えないとだしな。

――スキル【我慢】を獲得。
――スキル【起床】を獲得。
――スキル【睡眠】を獲得。

我慢:MPを消費して一時的に耐久ステータスを向上させる。
起床:寝起きがすっきりしやすくなる。
睡眠:睡眠時の回復効果がアップする。

 リーダー以外の奴らからも、それなりに役立ちそうなスキルをゲットできた。
 ゴブリン集落を壊滅させることができるほどの武装集団だけあって、これまでの人間とは違って有益なスキルを多数持っていたらしい。

 そこそこの強さがある人間たちだからか、血はまあまあ美味かった。特にリーダーの男と一番若い奴の血が美味しかった。

 みんなそれなりに美味い血だったので、全員ミイラになるまで吸って味わいたいところだったけど、十三人もいるから全員の血を楽しむことはできなかった。スキル【吸血】が発動するまで吸った後は、血が美味しくて生きている奴ら(リーダーと一番若い奴)だけ確保して、あとは捨ておくことにした。

 死体だとどんどん鮮度が落ちて不味くなるからね。死体を保存しておいても意味はないのだ。

「ひぃっ、お、お助けください!」
「君たちは誰?」
「ご主人様、この集落のメスゴブリンちゃんたちみたいですね~」

 盗賊共を討伐した後、集落の中を調べてみた。
 集落の奥には、裸にひん剥かれた二十八名のゴブリン娘たちがいた。暴行されてはいなかった。

 救出したゴブリン娘から聞いた話じゃ、盗賊たちはゴブリン娘を捕虜にして売り払う目的を持っていたみたいだな。盗賊たちは別の集落も襲ってたみたいだ。

 まったくとんでもない奴らだな。ウチのお客様を皆殺しにするばかりか、その奥さんや娘さんを売り払おうとするなんて。即始末して正解だったぜ。

「君たち、俺のダンジョンに来る?」
「……はい。我々には他に生きていく術がありません」
「そうか。まあ悪いようにしないよ。これからよろしく」

 稼ぎ手である男たちを失ったゴブリン娘たちはショックの余り、逃げ出すこともせず呆けていた。服を着ることもせず虚ろな目で呆けていた。ショックで何も手につかないって感じだった。

 そのままじゃ生きていけなさそうだったので、ひとまず俺のダンジョンに匿うことにした。

 別に境遇を哀れんだというわけではない。吸血鬼になった影響で、俺はそういった感情には疎いからね。勿論哀れみが完全にないというわけではないけどさ。

 彼女たちを匿った第一の理由――それは、彼女たちがダンジョンに滞在してくれればマナ収入が発生するからだ。

 彼女たちがダンジョンに定住してくれれば、彼女たちが死なない限り永続的にマナ収入が発生する。周辺のゴブリン集落が壊滅してゴブリンの数が激減した今、その収入はかなり貴重なものとなるはずだ。

 というわけで、ゴブリン娘たちを助けたのは、完全に自己の利益に沿ったものである。

 まあゴブリン娘たちからしたら悪い話じゃないだろう。善意に基づいたものではないが、人助け(いやゴブリン助けか?)には変わりない。言うなればビジネス人助けってところか。

「ゴブララと言います。こちらはゴブリリとゴブルルです」

 助けたゴブリン娘の中には、元集落の長の娘である三姉妹がいた。上からゴブララ、ゴブリリ、ゴブルルという名前らしい。

 他の娘たちより美しく身なりが整っていたのでもしやと思ったが、その三姉妹はやはり良い所の子だったみたいだな。

「君たち、美味しそうな娘だね。ちょっと味見してもいい?」
「……ご随意に」
「ありがとう。エリザ、食べよう」
「はーい」

 ゴブリン三姉妹の血を吸わせてもらうと、かなり美味しかった。長の血を引いてて強い上に処女だったからかもしれない。

 気に入ったので、その三姉妹は眷属にしてゴブリン娘たちのまとめ役にすることにした。元集落の長の娘ということから考えても、まとめ役は適任だろう。

 ゴブリン娘全員を眷属にすれば反逆の心配がなくて楽だけど、そうなるとマナ収入がなくなってしまう。マナ収入がもらえるのは、眷属以外の生命体――つまりはダンジョン外部の存在が滞在した時のみだ。だから全員眷属にしちゃうとマナ収入がなくなってしまうのだ。

 マナ収入が安定して稼げるようになれば、いずれは全員を眷属化させたいところだが、それはまだまだ先の話だな。ひとまずは、眷属化させるのは代表であるゴブララたちだけとした。

「とりあえず衣食住プラスアルファは必ず保障するから。ウチはホワイトな職場環境を目指してるからさ」
「ぷらすあるふぁ? ほわいと? よくわかりませんが、眷属となった以上、ヨミト様に尽くさせていただきます」
「うんうんよろしくね」

 こうしてゴブリン三姉妹たちが眷属に加わった。
 先に眷属化させたゴブリン三兄弟、それと眷属化させてないゴブリン娘たち二十五名。合計、三十一名のゴブリンが仲間に加わることとなった。

 いずれもダンジョン防衛面では役に立たなさそうだが、マナ収入源、畑仕事、宿屋の裏方などでは大いに役に立ってくれるだろう。
 可愛いゴブリンの味方が増えたな。



♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.35)
種族:吸血鬼
HP:203/203 MP:208/208
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】
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