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一章
宿泊者名簿No.6 エデン村開拓団団長チュウ(下)
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「チュウの旦那。今日も精が出るねえ」
「あったりまえよ。俺はこの村の開拓団団長だからな!」
完全に悪魔の手先となり色々と吹っ切れた俺は、開拓団の仕事により一層力を入れる毎日を過ごすようになった。
「お前ら、最近余所から来て開拓団に入った奴らだな?」
「ええそうですけど」
「それじゃ親睦会ってことで、今晩飲みに行こうぜ。勿論俺が奢るぜ」
「え、いいんですか?」
「ああ勿論だぜ」
「ありがとうございます! チュウの旦那って面倒見いいですね!」
俺は気の良い開拓団団長を演じる一方で、仕事が終われば客引きまがいのことを行い、エレーナの宿に客を連れていった。そしてヨミトの旦那たちに獲物を捧げる仕事をした。吸血鬼の眷属としての仕事だ。
また、休みの日には、ヨミトの旦那に連れられてどこかもわからない森の中に行き、そこで野生のゴブリンやスライム相手に戦わせられたりもした。ダンジョン防衛のために魔物を倒して強くなること。それも眷属の大事な仕事らしい。
「それじゃチュウ。今日はこの森の中で魔物と戦ってもらうよ」
「ああ。わかった」
ヨミトの旦那曰く、魔物狩りはレベルアップのために必要な作業なのだそうだ。
レベルアップなんて、そんな神の言葉を言われてもよくわからない。よくわからずに言われた通りのことをする俺だったが、その効果はすぐに現れた。
「うぉお、力が漲る……」
「それがレベルアップだね。おめでとう。これで君はまた一つ強くなった」
モンスター殺しを重ねていると、俺の身体は以前とは比べ物にならないくらい丈夫になった。開拓団の仕事はかなり過酷だが、レベルアップした影響で少し楽になった。嬉しいばかりだ。
嬉しいことはそれだけではない。ヨミトの旦那は俺に新たなるスキルまで授けてくれた。
「頑張ってるみたいだし、チュウに新しいスキルを与えてあげるよ」
「え、スキルだって?」
「そうだよスキルだよ」
「スキルをくれる? 何だそれ?」
「ふふ、そのまんまの意味さ」
ヨミトの旦那がスキルを与えてくれると聞いて、最初俺は何の冗談かと思った。スキル付与なんて神の領分だと思ったからだ。
「それじゃ、チュウにはスキル【斧術】でも付与しておくよ。頑張って斧使いになってね。ダンジョンの防衛戦力としても期待しているよ」
ヨミトの旦那がそう言うと、次の瞬間には、俺の中で新たなる力の感覚が芽生えていた。新しいスキルが与えられたのは間違いなかった。
俺は元々ノースキルだった。生まれながらに何のスキルも持っていない人間だった。長年仕事に打ち込んでやっと手に入れた【伐採】だけが、俺の唯一保持しているスキルだった。
だというのに、あっさりと新しいスキルを身に着けてしまった。ヨミトの旦那によってポンっと与えられたのだ。まるでお隣さんにお裾分けの食いもんを渡すくらいの気軽さだった。
(そんな気軽に他人にスキルを与えることができるなんて……ヨミトの旦那は神かよ)
ダンジョンマスターというのは、そんな神にも似た行為が出来るらしかった。
新しい空間を作り出し、生き物を創造し支配し、スキルまで与えられるなんて、ダンジョンマスターはもはや神にも近い存在と言えるだろう。
「頑張って鍛えれば、チュウはそのうちゴルド以上に強くなれるよ」
「俺があのゴルドよりも……」
「そうだよ。どうせなら開拓団団長よりさらに上を目指してみたらどう? ゴルドの果たせなかった野望の先を走る。最高の復讐でしょ?」
「ああ。そうだな」
スキルを生かして地道に鍛えれば、俺はゴルドの野郎よりもよっぽど強くなれるのだとか。
ヨミトの旦那は俺に、頑張って修行して人間世界で確固たる地位を築いてさらなる貢献をすることを求めているようだった
(ノースキルだったこの俺が、頑張れば下級貴族にも手が届くというのか。凄まじいな)
幼い頃は誰しも立身出世を夢見る。だが長ずるにしたがって己の器を知り、そんな夢は叶わないことだと悟って諦める。俺もそうだった。
一度は夢を諦めて開拓団の団長くらいで満足していた俺だが、さらにその先を目指せると聞けば、男として血が滾らないわけがなかった。
本当にヨミトの旦那には感謝しかない。忘れてしまっていた夢を思い出させてくれ、その続きを走らせてくれる。何から何まで有難すぎる。
ヨミトの旦那は実は吸血鬼じゃなくて神様か天使じゃないか、そう錯覚してしまうくらいだ。それくらい、ヨミトの旦那は俺に良いことばかりを齎してくれたのだった。
「んああ、ヨミト様ぁ♡ ダ、ダメ、それ以上はダメですぅ♡」
「んー、家族思いのフウさんの血は美味しいねえ」
「あうっ、エリザ様ぁ♡ ぼ、僕のっ、そ、そんなに、つ、強く吸わないっ、でえ♡」
「うふふ、可愛らしい坊やですこと」
月一の献血の日。吸血鬼たちに血を捧げる妻のフウと息子のユウ。
フウは俺にだって見せたことのないような恍惚とした顔を見せていて、息子のユウはガキが見せちゃいけないようなとんでもねえ顔をしていた。
「んふ、あうん、ああ♡」
「娘思いのエレーナさんの血も美味いねえ」
「ひゃんっ、あんっ、あああ♡」
「うふふ、今度は可愛らしいお嬢ちゃんですわね。美味ですわぁ」
エレーナさんもアリアちゃんも、ウチの妻と息子と同様に、人には見せられない顔をして血を吸われていた。
月一回行われる献血の際には、そんな光景が毎回繰り広げられることになった。その光景を見る度に、俺は思い出すことになるのだ。
得たものがあれば失われたものもある、ということを。
(やっぱ天使じゃなくて悪魔だったな……)
邪悪で淫靡な気配漂うおぞましい光景を前にして身震いし、一家で眷属になってしまったことに少しだけ後悔することになる。
だがもう後には戻れない。俺たちはもう既に吸血鬼の虜となってしまっている。後でどれだけ後悔してももう遅いのだ。
俺たちはもはや、その永遠にも思える長い一生を吸血鬼と共に過ごすしかないのだ。俺たちは吸血鬼の眷属となってしまったのだから。
「あったりまえよ。俺はこの村の開拓団団長だからな!」
完全に悪魔の手先となり色々と吹っ切れた俺は、開拓団の仕事により一層力を入れる毎日を過ごすようになった。
「お前ら、最近余所から来て開拓団に入った奴らだな?」
「ええそうですけど」
「それじゃ親睦会ってことで、今晩飲みに行こうぜ。勿論俺が奢るぜ」
「え、いいんですか?」
「ああ勿論だぜ」
「ありがとうございます! チュウの旦那って面倒見いいですね!」
俺は気の良い開拓団団長を演じる一方で、仕事が終われば客引きまがいのことを行い、エレーナの宿に客を連れていった。そしてヨミトの旦那たちに獲物を捧げる仕事をした。吸血鬼の眷属としての仕事だ。
また、休みの日には、ヨミトの旦那に連れられてどこかもわからない森の中に行き、そこで野生のゴブリンやスライム相手に戦わせられたりもした。ダンジョン防衛のために魔物を倒して強くなること。それも眷属の大事な仕事らしい。
「それじゃチュウ。今日はこの森の中で魔物と戦ってもらうよ」
「ああ。わかった」
ヨミトの旦那曰く、魔物狩りはレベルアップのために必要な作業なのだそうだ。
レベルアップなんて、そんな神の言葉を言われてもよくわからない。よくわからずに言われた通りのことをする俺だったが、その効果はすぐに現れた。
「うぉお、力が漲る……」
「それがレベルアップだね。おめでとう。これで君はまた一つ強くなった」
モンスター殺しを重ねていると、俺の身体は以前とは比べ物にならないくらい丈夫になった。開拓団の仕事はかなり過酷だが、レベルアップした影響で少し楽になった。嬉しいばかりだ。
嬉しいことはそれだけではない。ヨミトの旦那は俺に新たなるスキルまで授けてくれた。
「頑張ってるみたいだし、チュウに新しいスキルを与えてあげるよ」
「え、スキルだって?」
「そうだよスキルだよ」
「スキルをくれる? 何だそれ?」
「ふふ、そのまんまの意味さ」
ヨミトの旦那がスキルを与えてくれると聞いて、最初俺は何の冗談かと思った。スキル付与なんて神の領分だと思ったからだ。
「それじゃ、チュウにはスキル【斧術】でも付与しておくよ。頑張って斧使いになってね。ダンジョンの防衛戦力としても期待しているよ」
ヨミトの旦那がそう言うと、次の瞬間には、俺の中で新たなる力の感覚が芽生えていた。新しいスキルが与えられたのは間違いなかった。
俺は元々ノースキルだった。生まれながらに何のスキルも持っていない人間だった。長年仕事に打ち込んでやっと手に入れた【伐採】だけが、俺の唯一保持しているスキルだった。
だというのに、あっさりと新しいスキルを身に着けてしまった。ヨミトの旦那によってポンっと与えられたのだ。まるでお隣さんにお裾分けの食いもんを渡すくらいの気軽さだった。
(そんな気軽に他人にスキルを与えることができるなんて……ヨミトの旦那は神かよ)
ダンジョンマスターというのは、そんな神にも似た行為が出来るらしかった。
新しい空間を作り出し、生き物を創造し支配し、スキルまで与えられるなんて、ダンジョンマスターはもはや神にも近い存在と言えるだろう。
「頑張って鍛えれば、チュウはそのうちゴルド以上に強くなれるよ」
「俺があのゴルドよりも……」
「そうだよ。どうせなら開拓団団長よりさらに上を目指してみたらどう? ゴルドの果たせなかった野望の先を走る。最高の復讐でしょ?」
「ああ。そうだな」
スキルを生かして地道に鍛えれば、俺はゴルドの野郎よりもよっぽど強くなれるのだとか。
ヨミトの旦那は俺に、頑張って修行して人間世界で確固たる地位を築いてさらなる貢献をすることを求めているようだった
(ノースキルだったこの俺が、頑張れば下級貴族にも手が届くというのか。凄まじいな)
幼い頃は誰しも立身出世を夢見る。だが長ずるにしたがって己の器を知り、そんな夢は叶わないことだと悟って諦める。俺もそうだった。
一度は夢を諦めて開拓団の団長くらいで満足していた俺だが、さらにその先を目指せると聞けば、男として血が滾らないわけがなかった。
本当にヨミトの旦那には感謝しかない。忘れてしまっていた夢を思い出させてくれ、その続きを走らせてくれる。何から何まで有難すぎる。
ヨミトの旦那は実は吸血鬼じゃなくて神様か天使じゃないか、そう錯覚してしまうくらいだ。それくらい、ヨミトの旦那は俺に良いことばかりを齎してくれたのだった。
「んああ、ヨミト様ぁ♡ ダ、ダメ、それ以上はダメですぅ♡」
「んー、家族思いのフウさんの血は美味しいねえ」
「あうっ、エリザ様ぁ♡ ぼ、僕のっ、そ、そんなに、つ、強く吸わないっ、でえ♡」
「うふふ、可愛らしい坊やですこと」
月一の献血の日。吸血鬼たちに血を捧げる妻のフウと息子のユウ。
フウは俺にだって見せたことのないような恍惚とした顔を見せていて、息子のユウはガキが見せちゃいけないようなとんでもねえ顔をしていた。
「んふ、あうん、ああ♡」
「娘思いのエレーナさんの血も美味いねえ」
「ひゃんっ、あんっ、あああ♡」
「うふふ、今度は可愛らしいお嬢ちゃんですわね。美味ですわぁ」
エレーナさんもアリアちゃんも、ウチの妻と息子と同様に、人には見せられない顔をして血を吸われていた。
月一回行われる献血の際には、そんな光景が毎回繰り広げられることになった。その光景を見る度に、俺は思い出すことになるのだ。
得たものがあれば失われたものもある、ということを。
(やっぱ天使じゃなくて悪魔だったな……)
邪悪で淫靡な気配漂うおぞましい光景を前にして身震いし、一家で眷属になってしまったことに少しだけ後悔することになる。
だがもう後には戻れない。俺たちはもう既に吸血鬼の虜となってしまっている。後でどれだけ後悔してももう遅いのだ。
俺たちはもはや、その永遠にも思える長い一生を吸血鬼と共に過ごすしかないのだ。俺たちは吸血鬼の眷属となってしまったのだから。
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