吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
33 / 291
一章

宿泊者名簿No.6 エデン村開拓団団長チュウ(下)

しおりを挟む
「チュウの旦那。今日も精が出るねえ」
「あったりまえよ。俺はこの村の開拓団団長だからな!」

 完全に悪魔の手先となり色々と吹っ切れた俺は、開拓団の仕事により一層力を入れる毎日を過ごすようになった。

「お前ら、最近余所から来て開拓団に入った奴らだな?」
「ええそうですけど」
「それじゃ親睦会ってことで、今晩飲みに行こうぜ。勿論俺が奢るぜ」
「え、いいんですか?」
「ああ勿論だぜ」
「ありがとうございます! チュウの旦那って面倒見いいですね!」

 俺は気の良い開拓団団長を演じる一方で、仕事が終われば客引きまがいのことを行い、エレーナの宿に客を連れていった。そしてヨミトの旦那たちに獲物を捧げる仕事をした。吸血鬼の眷属としての仕事だ。

 また、休みの日には、ヨミトの旦那に連れられてどこかもわからない森の中に行き、そこで野生のゴブリンやスライム相手に戦わせられたりもした。ダンジョン防衛のために魔物を倒して強くなること。それも眷属の大事な仕事らしい。

「それじゃチュウ。今日はこの森の中で魔物と戦ってもらうよ」
「ああ。わかった」

 ヨミトの旦那曰く、魔物狩りはレベルアップのために必要な作業なのだそうだ。

 レベルアップなんて、そんな神の言葉を言われてもよくわからない。よくわからずに言われた通りのことをする俺だったが、その効果はすぐに現れた。

「うぉお、力が漲る……」
「それがレベルアップだね。おめでとう。これで君はまた一つ強くなった」

 モンスター殺しを重ねていると、俺の身体は以前とは比べ物にならないくらい丈夫になった。開拓団の仕事はかなり過酷だが、レベルアップした影響で少し楽になった。嬉しいばかりだ。

 嬉しいことはそれだけではない。ヨミトの旦那は俺に新たなるスキルまで授けてくれた。

「頑張ってるみたいだし、チュウに新しいスキルを与えてあげるよ」
「え、スキルだって?」
「そうだよスキルだよ」
「スキルをくれる? 何だそれ?」
「ふふ、そのまんまの意味さ」

 ヨミトの旦那がスキルを与えてくれると聞いて、最初俺は何の冗談かと思った。スキル付与なんて神の領分だと思ったからだ。

「それじゃ、チュウにはスキル【斧術】でも付与しておくよ。頑張って斧使いになってね。ダンジョンの防衛戦力としても期待しているよ」

 ヨミトの旦那がそう言うと、次の瞬間には、俺の中で新たなる力の感覚が芽生えていた。新しいスキルが与えられたのは間違いなかった。

 俺は元々ノースキルだった。生まれながらに何のスキルも持っていない人間だった。長年仕事に打ち込んでやっと手に入れた【伐採】だけが、俺の唯一保持しているスキルだった。

 だというのに、あっさりと新しいスキルを身に着けてしまった。ヨミトの旦那によってポンっと与えられたのだ。まるでお隣さんにお裾分けの食いもんを渡すくらいの気軽さだった。

(そんな気軽に他人にスキルを与えることができるなんて……ヨミトの旦那は神かよ)

 ダンジョンマスターというのは、そんな神にも似た行為が出来るらしかった。
 新しい空間を作り出し、生き物を創造し支配し、スキルまで与えられるなんて、ダンジョンマスターはもはや神にも近い存在と言えるだろう。

「頑張って鍛えれば、チュウはそのうちゴルド以上に強くなれるよ」
「俺があのゴルドよりも……」
「そうだよ。どうせなら開拓団団長よりさらに上を目指してみたらどう? ゴルドの果たせなかった野望の先を走る。最高の復讐でしょ?」
「ああ。そうだな」

 スキルを生かして地道に鍛えれば、俺はゴルドの野郎よりもよっぽど強くなれるのだとか。
 ヨミトの旦那は俺に、頑張って修行して人間世界で確固たる地位を築いてさらなる貢献をすることを求めているようだった

(ノースキルだったこの俺が、頑張れば下級貴族にも手が届くというのか。凄まじいな)

 幼い頃は誰しも立身出世を夢見る。だが長ずるにしたがって己の器を知り、そんな夢は叶わないことだと悟って諦める。俺もそうだった。

 一度は夢を諦めて開拓団の団長くらいで満足していた俺だが、さらにその先を目指せると聞けば、男として血が滾らないわけがなかった。

 本当にヨミトの旦那には感謝しかない。忘れてしまっていた夢を思い出させてくれ、その続きを走らせてくれる。何から何まで有難すぎる。

 ヨミトの旦那は実は吸血鬼じゃなくて神様か天使じゃないか、そう錯覚してしまうくらいだ。それくらい、ヨミトの旦那は俺に良いことばかりを齎してくれたのだった。

「んああ、ヨミト様ぁ♡ ダ、ダメ、それ以上はダメですぅ♡」
「んー、家族思いのフウさんの血は美味しいねえ」
「あうっ、エリザ様ぁ♡ ぼ、僕のっ、そ、そんなに、つ、強く吸わないっ、でえ♡」
「うふふ、可愛らしい坊やですこと」

 月一の献血の日。吸血鬼たちに血を捧げる妻のフウと息子のユウ。
 フウは俺にだって見せたことのないような恍惚とした顔を見せていて、息子のユウはガキが見せちゃいけないようなとんでもねえ顔をしていた。

「んふ、あうん、ああ♡」
「娘思いのエレーナさんの血も美味いねえ」
「ひゃんっ、あんっ、あああ♡」
「うふふ、今度は可愛らしいお嬢ちゃんですわね。美味ですわぁ」

エレーナさんもアリアちゃんも、ウチの妻と息子と同様に、人には見せられない顔をして血を吸われていた。

 月一回行われる献血の際には、そんな光景が毎回繰り広げられることになった。その光景を見る度に、俺は思い出すことになるのだ。

 得たものがあれば失われたものもある、ということを。

(やっぱ天使じゃなくて悪魔だったな……)

 邪悪で淫靡な気配漂うおぞましい光景を前にして身震いし、一家で眷属になってしまったことに少しだけ後悔することになる。

 だがもう後には戻れない。俺たちはもう既に吸血鬼の虜となってしまっている。後でどれだけ後悔してももう遅いのだ。

 俺たちはもはや、その永遠にも思える長い一生を吸血鬼と共に過ごすしかないのだ。俺たちは吸血鬼の眷属となってしまったのだから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...