113 / 291
三章
宿泊者名簿No.10 気狂い校長カニバル5/8
しおりを挟む
(ここを卒業して早十数年か。また戻ってきてしまったな)
王宮料理番として激務に励み、早十数年。
全ての始まりであった高等院へと戻ってきた。前職の校長が急死したので、その空いた席へワシが座ることになったのだった。
(すっかり爺になったな……)
学校を出てからたった十年しか経っていないのだが、色々あったせいで、ワシはすっかり老け込んでしまっていた。激務のせいでバッドスキル【老化】が発現してしまい、それが進行してしまったせいだ。
まだ三十代だというのに、見た目だけなら四、五十代にも見えなくはないだろう。鏡を見たとき、そこには学生時代の面影は微塵もなかった。
(このままここでゴミ学生相手に死ぬまで働くのか。ワシの人生も終わりが見えてきたな)
実年齢的にはまだ若いが、バッドスキルが発現したからには、おそらくもう何十年も生きられまい。肉体的にも精神的にもボロボロだ。ワシも人生を振り返る歳になったのである。
(ワシの人生碌なことなかったな……特に女関係……)
下級貴族になるために幼い頃から苦労ばかり重ねてきたが、苦労ばかりで楽しいことはほとんどなかった気がする。
両親に尻を叩かれ必死に勉強したが挫折し、一念発起して挑んだ料理人への道で出会った婚約者には裏切られ、その後やっとめぐり合った人生の伴侶は上級貴族にたっぷり開発され尽くした雌奴隷だった。
本当に不幸ばかりだ。そう思うと、なんだか空しかった。心の中にぽっかりと穴が開いたようだった。
「昨日の新歓、超楽しかったわ~」
「へー」
そんなワシの心の内など知ったことかという風に、ゴミ学生共は人生の春を楽しんでおった。呑気に楽しんでおった。
ふざけた話だ。このゴミ学生共が。遊んでばかりいないで勉強しろ。
「そんでー、可愛い子食ったしぃ。処女でぇ、初々しくてぇ、めっちゃ最高だったわ~」
「マジで!? いいな~」
通りすがりのゴミ学生の何気ない一言。その言葉は、ワシの心に妙に強く突き刺さった。まるで後ろから棍棒で頭を殴られたかのような衝撃であった。
(こんなゴミ庶民出身のゴミ学生ですら、可愛い乙女の娘と、そういったことをしておるのか。うぅ……頭が……)
ズキリズキリと脳細胞が壊れていく音が聞こえてきた。
ワシなんて、乙女とエッチなどしたことがないというのに。だというのに、このいかにも頭が足りなさそうなゴミ学生は経験があるのだと言う。
「今月で二人目だしぃ。あと何人食えるかな~」
「君も飽きないねぇ。処女とか面倒臭くね?」
「いやいやその面倒臭さが最高っしょ?」
このゴミ学生は下級貴族のワシですら手の届かなかった乙女の娘を二人も美味しく頂いているという。今月で、ということは、今までには何人も食っているのだろう。
(死ねえええええ! 死ねええええええ! ゴミがああああ! ゴミ学生がぁああ! うがあああああ!)
それを聞いたワシの脳みそは、もう徹底的に破壊されてしまった。
このままだと発狂して死んでしまう――そう思ったワシは、脳細胞を再生させるため、すぐに行動を起こすことにした。
「校内の綱紀粛正が必要、ですか?」
「ああ。近頃は成金のゴミ庶民出身の学生が増えて、品格が著しく落ちているようだ。校内で不埒な行動に及ぶゴミ学生も多いと聞く。国の資金が投じられている我が校で、それはあってはならないことだ」
「わかりました。校長先生がそうおっしゃるんなら、職員一同で徹底的にゴミ掃除しましょう」
「うむ」
ワシは己の権限を最大限に使い、校内で不埒なことばかりしているゴミ学生共を放逐していった。
中には泣きながら「退学だけは勘弁してください! 親戚の人からも支援してもらってやっと通ってるんです!」と訴える学生もいたが、だったら最初からそんなことはしなければいい話だ。
当然の如く、ワシは問答無用でそういったゴミ学生を処断していった。
箱の中に腐ったアプルゥの実が一つあれば、他の実まで腐ってしまう。規律を乱したゴミ学生共を例外なく処断するのは当たり前のことだ。
(ハハハ、今日もゴミ学生を一人退学にしてやったわ。キモティー!)
ゴミ学生共を処断するのは最高に気持ちよく、失われた脳細胞が再生されていくような快感だった。
学生たちには鬼校長と恐れられるようになったが、知ったことではなかった。
恐れられるのはむしろ心地よかった。自分が学生時代に鬼校長と恐れられていたあの人と同じ異名で呼ばれるようになるのはな。あの人のように周囲に恐れられる偉い人間になったと思うと、最高に気持ちよかった。
「あんっ、いいっ、カバキ君だいしゅきぃいい♡」
「そらそらっ」
学校の綱紀粛正に励み続ける――そんなある日のことだった。
ワシは構内の離れにある便所の中で、不埒な行為に及んでいる学生のカップルを見つけてしまった。
(またか。よし、あんなゴミ学生、退学にしてやるわい)
当然の如く、ワシはゴミ学生を処断しにかかった。
「貴様ら! 何をやっておるか! 退学だ退学!」
ワシはその場で校長特権を使い、ゴミ学生を処断した。
その場は大人しく立ち去った学生であるが、夕方近くになり、男の方だけワシの元を尋ねてきた。
お礼参りかと身構えるワシであったが、それは違った。
「ねえ校長先生。昼間のあれ、なかったことにできませんか? せめて俺の方だけでも」
やって来たのは“カバキ”と名乗る男だった。貼り付けたような笑顔が特徴的な細目の男だ。ゴミ庶民出身にしては利発そうな顔をしている男であった。
「お願いしますよ。校長先生」
カバキはニコリと微笑みながらもどこか油断ならない雰囲気を持っていた。
貴族街にはこういった手合いはよくいるが、ゴミ庶民出身でというのは中々珍しかった。
「無理に決まっておろう。それに貴様、恥を知れ。女を見捨てて自分だけ助かろうなどとはな。このゴミが!」
「ふふふ、そんな勇ましい格好いいこと言っちゃって。乙女を抱いたこともないくせにね」
「なん……だと?」
「ねえカニバル校長先生。先生って、処女を抱いたことなくてそれがコンプレックスなんですよね?」
カバキは微笑みつつも嫌らしそうに口元を歪め、そんな信じられないことを言った。
(馬鹿な……何故こやつが知っている?)
あり得ないことだ。まさか自分の心の奥にある誰にも見せられない本心が見透かされるなどということは。
ハッタリだと思ったワシは烈火の如く怒って見せた。
「貴様! 何を言っている! ふざけたことを言うでない!」
「怒らないで下さいよ。先生が俺のことゴミだって言ったから、仕返しにちょっと意地悪したくなっちゃっただけですから。これでおあいこってやつです」
「ワシは処女などこれっぽちも……」
「そんな見栄を張らなくても大丈夫ですよ。誰だってコンプレックスの一つや二つはありますから。実は俺、【映鏡】っていう特殊なスキルを生まれつき持ってましてね。対象の人物が望んでいる欲望を覗き見ることができるんですよ」
「何……?」
「それでですね、先生の欲望を覗き見ちゃったというわけです。すみませんね、手前、覗きが趣味の嫌らしい庶民でして」
カバキは特殊なスキル持っているようであった。それでワシの心の奥にある願望を覗き見したのだとか。嘘を言っているようには思えなかった。
「校長先生みたいな立派な経歴をお持ちの方が、そんなことでお悩みとはね。でもまあ考えてみればそういうこともありますよね。男が欲しいのなんて、金、地位、名誉、女――それくらいですから。金と地位と名誉をお持ちの先生が悩む可能性のあることと言えば、精々女性面のことくらいでしょうね。真面目に学生時代を過ごしたであろう先生は若い時に遊んでなさそうですし、嫁が処女ならいいですけど、そうじゃなかったら普通の手段じゃ一生処女なんて食えませんもんね」
「貴様……ワシを馬鹿にしているのか?」
「いえいえ違いますよ。つい癖で色々と考察してしまっただけです。不快に思ったのなら謝罪申し上げます。申し訳ない」
カバキは相変わらずの貼り付けたような笑みを浮かべながらペラペラと喋り続けた。退学を命じられている立場であるというのに、その姿には余裕が見てとれた。
「それで何のようだ。まさか、そのスキルで得たというワシの秘密情報をバラされたくなければ先の決定を取り消せ、などと言うつもりではないだろうな?」
「違いますよ。そんな馬鹿なことはしません。先生、取引しませんか? 先生にとっても、俺にとっても得になる取引を」
「取引だと?」
「ええ取引です。先生みたいな貴族の間では珍しくないものでしょう?」
カバキはワシのコンプレックスをネタに脅すつもりかと思いきや、そうではなかったらしい。対等な取引を行いたいと申し出てきた。
「先生、処女食いたくないですか? この学校の新入生で入ってくるような、そんなプリップリの若い娘の処女。昼間俺が便所で犯していたような若い子の処女ですよ」
「何!?」
若い娘の処女と聞いて、ワシは不覚にも激しく反応してしまった。
そんなワシの様子を見て、カバキはニヤリと微笑んだ。
「実は俺、そういう手口には詳しくてですね。こういうの使えばイチコロなんですよ。警戒心の強い娘もたちまち玩具にできます」
カバキは懐から瓶を取り出した。その瓶には白い粉が詰められていた。何かしらの魔法薬のようであった。
「それは何なのだ?」
「端的に言って、睡眠薬と媚薬ですね。それも超強力な奴です」
「そんなの犯罪ではないか! 貴様! そんなことしていいと思っているのか! 恥を知れ!」
「まあまあそう熱くならずに。仮に犯罪だとしても、相手が訴えなければ犯罪ではないんですよ? 犯罪とは世間に公に認知され、当局がそれを対処して初めて犯罪となるのです」
「何?」
カバキは平然とした顔でバレなきゃ犯罪ではないとのたまった。
バレなきゃ犯罪ではない――その言葉は、ワシの心を強く揺り動かした。
「だから先生がもしこれを使って女の子を手篭めにしても、訴えられなきゃ大丈夫なんですよ。ちなみに俺はこれを使って一度も訴えられたことはありません」
「貴様はイケメンだから、多少強引でも大丈夫なのだ。ワシのようなハゲデブキモ親父がそんな手段を使ったところで、即訴えられるのが落ちであろう」
「そんなご自分を卑下なさらず――と言っても、まあその通りでしょうね」
「貴様! やはりワシを馬鹿にしているな!」
「まあまあそうお怒りにならずに。確かに先生の言う通り、先生がこの薬を使ったとて上手く使いこなせないでしょう。そこでです」
カバキはワシの近く寄り、耳元で囁き始める。
「俺のスキルを使えば、被虐願望のある女の子がわかります。そいつを見つけてやれば、たとえ最初が強引だとしても調教することが可能です」
「そ、そんなことが本当に出来るのか……?」
「出来ます。現に、昼間俺が犯していたあの子は俺が調教した玩具です。乙女でしたけど上手く調教して玩具にしてやりました。そろそろ出荷して一儲けしようと思ってたところです。来月の学費に困ってたのでね」
「なんと……」
カバキは何ら悪びれることもなく悪行を曝け出した。悪行には完全に慣れている様子だった。カバキという男、稀代の悪に違いなかった。
「どうします先生? このチャンスを逃したら、処女なんて一生食えませんよ?」
カバキは言葉巧みにワシを誘惑した。
結局、ワシは奴の誘いをはねのけることができなかった。
「……わかった。貴様の退学の件は見逃してやる。だから……」
「わかりました。交渉成立ですね」
カバキはニコリと微笑んだ。
後日、ワシは奴が見つけた素質のある少女に魔法薬を使い、無理やり手篭めにした。
「うははは! そうかワシがこの娘を女にしたんじゃな!」
「そうです。先生が女の子にしてあげたんですよ。初めての人って奴です」
「うははははは! 最高じゃ!」
処女を奪った時、今までにないくらいの爽快感を覚えた。
ワシは奪われる側ではない。奪う側に立ったのだと思うと、気分爽快であった。失われていた脳細胞がみるみるうちに再生されていく気がした
「先生、新しい子見つけたんだけど食べますか?」
「おおそうか。どんな子なのだ?」
「前よりも可愛い子ですよ。おっぱいが大きいです」
「そうか。今回は何が望みだ?」
「賞与奨学金の件をお願いできればと」
「うむ。貴様は成績も悪くはないし問題ないだろう。ワシが推薦しておく」
「ありがとうございます先生。今後ともよしなに」
ワシはその後もカバキの用意した女を美味しく頂き続けた。
カバキは決して法外な報酬を強請ったりはしなかった。ワシの懐がほとんど痛まない方法を選んで対価として要求してきた。まったくもって賢い男だった。
こうして、ワシとカバキの共犯関係は、奴が卒業を迎えるまで続くこととなった。
「先生、いろいろお世話になりました」
「うむ。本当に就職の斡旋等はいらないのか? 貴様の成績なら下級官吏くらいなら今からでも強引に捻じ込めるぞ?」
「お気持ちだけ頂いておきますよ。自分には身に余ることですので」
「そうか。達者で暮らせよ」
「ええ先生もお元気で」
カバキは就職の斡旋も固辞し、どこぞへの就職が決まったようだった。
学校を去る際、律儀にもワシのところに挨拶にやって来た。
「ああ先生。最後にご忠告を」
カバキは去る際、意味深長な言葉を残していった。
「先生、もしこれからも薬を使う際は、どうかくれぐれもご慎重に。今までは俺がスキルを使って素質ありの子を選んで提供し、後始末は俺が担当してきましたが、一人でやるとなると大変ですからね?」
「わかっておるわ。もう二度とあのような野蛮なことはせん。お前の卒業と同時にきっぱり終わりにする」
「そうですか。過ぎたる心配でしたね。ではこれにて失礼します」
カバキは意味ありげに微笑んで去っていった。ワシがその言葉の意味を知るのは奴が去ってすぐのことであった。
(ああ。若い女が抱きたいのぉ……。処女が食いたい……)
春を迎え、新入生の娘たちが入学してくる。
若くピチピチした彼女らを見ていると、自分でも驚くほど性欲が湧き上がってきた。前まではそんなことがなかったというのに、である。人間、一度覚えた味は忘れられないものなのだ。
(ダメだ。我慢できん。やってしまおう!)
一年目はなんとか我慢したが、二年目からはダメだった。ワシは自宅の離れに監禁部屋を建造し、好みの娘を捕らえて調教することにしたのだった。
あの若造に出来てワシにできないことはない。そういう驕りもあった。
初めに捕らえたのはチムという娘であった。成績優秀でありながら天真爛漫といった感じのワシ好みの優等生の娘。ティゴメとスイーツを足して二で割ったような娘であった。最高だった。
「チムよ、いい加減屈服したらどうじゃ。下級貴族たるワシのメイドとして仕えさせてやるぞ。有難く思え」
「何を言ってんのよ! この気狂い野郎! 絶対に訴えてやるから!」
何ヶ月調教しようとも、チムはワシに屈しなかった。反骨心を露にし、ワシに復讐してやると啖呵を切った。
ワシは全力で支配を試みたが、快楽で支配することも、恐怖で支配することもできなかった。カバキのように上手く調教はできなかった。
(不味い……不味いぞ……)
家族には離れに来るなと厳命してあったが、拘束が長期間続けば続いた分だけどうなるかわからない。
焦ったワシはなんとか娘を支配下に置こうと、より乱暴な手段に出てしまった。娘に大量の媚薬を投与してしまったのだった。
「あがああああっ! ひぐっ――――」
「……おい? おい、しっかりしろ! お主にはワシのメイドになるという大事な仕事が残っているのだぞ!? 勝手に死ぬな!」
チムは心臓麻痺を起こして死んでしまった。
興奮剤が投与されすぎた影響らしい。長期間の拘束により身心が弱りきっていたせいもあるだろう。あっけない最後だった。
(不味い……隠さなくては)
しばらく呆然としていたワシであったが、すぐに行動を起こした。
娘を誘拐監禁し暴行した挙句死亡させたなどと世間に知られたら御家が取り潰されてしまう。
(解体しないと……)
急ぎ死体を解体し、便所に流してスライムに処理させることにした。
さっきまで動いていた娘を肉塊へと変えていく。
家畜等は今までに何度も捌いたことがあったので、例え人間だとしても、捌くのにさほど苦労はしなかった。
(ああっ、ついに一線越えてしまった……あああ!)
娘を解体しながらワシは後悔していた。血溜まりの中で泣いていた。
こんなつもりではなかった。
ワシはただ、あのカバキという男のように好みの若い女を調教して手元に置いておきたかっただけだったのに。そんな些細な願いを叶えたかっただけだというのに。どうしてこうなってしまったのか。
(脳が……脳が痛い……)
恐怖と不安で脳細胞が壊れていく。愛娘と近い歳の娘を手にかけた罪悪感でさらに脳細胞が壊れていく。
ここ何年かでせっかく再生した脳細胞がみんな死んでいった。
(あああ……どうしようどうしよう。万が一バレたら全ては終わりだ。何もかも……)
死んだ脳細胞たちがワシに悪夢ばかり見せた。悪夢はワシの脳から脳細胞をさらに欠落させていった。
早く再生させなければ、隠蔽工作のために働かせる脳細胞すらなくなってしまう。
(そうだ。栄養をとらねば。脳細胞を再生させるための栄養を……)
気づけば、ワシは解体したチムの肉を炙り、口に運んでいた。口元を血で濡らしながら、恍惚としていた。
「う、美味い……」
存外の美味であった。一流の料理人として数々の珍味を味わってきたが、こんな美味しい肉料理は初めてだった。
栄養学的見地によると、我々が食べた肉というのは、体内で一度分解されて肉の素となるらしい。その分解された肉の素が身体の中で合成され、人間の血肉となるのだとか。
ならば人間の肉を食べるのが、栄養的には最も効率が良いのではないか。
学生時代から思っていたことだが、実体験してみてわかった。
間違いなく効率が良い。どんな食事よりも人肉こそが最高の栄養食に違いない。
「美味い! ああっ、これは栄養がふんだんにあるぞ! 絶対に脳細胞が再生される! 間違いない! アハハハハハ!」
ワシは夢中でチムの肉を貪っていた。
気づけば、柔らかくて美味しい部分の肉は全て平らげてしまっていた。不味い部分は便所に流し、スライムの餌とした。
「ふふ……なんだか精がつくな。これで一年間は頑張って働けそうだ。校長職に邁進できる。フハハハハ!」
こうしてワシは禁断の道へと踏み出してしまった。
一度食べると、あの味が忘れられなかった。あの味を思い出すと脳が蕩けるような思いに駆られた。
それと同時、簡単に手に入らないと思うと、我慢のし過ぎで脳細胞が壊れていく気がした。
壊れた脳細胞を再生させるためには、若い娘の調教に成功するか、人肉を食べるしかない。そう思い込むようになった。
(よし、今年こそは調教に成功してやる! あのマルガという娘が狙いだ!)
翌年も調教に挑戦したがあえなく撃沈した。だがどうということはなかった。
また食べればいいだけなのだ。食べて隠蔽すればいい。
人肉を食べれば脳細胞が再生する。何の問題もなかった。
(なっ、スイーツ!? いや違う。あいつはワシと同じ歳だ。あんなに若くはないはず……)
カバキの力に頼らず学生に手を出し始めて三年目。あの娘がやって来た。
「ブレンダです。よろしくお願いします」
ワシの脳を破壊した、あの憎き女に良く似た娘がやって来たのだった。
三年目の標的は迷うことなくそやつに決定した。
王宮料理番として激務に励み、早十数年。
全ての始まりであった高等院へと戻ってきた。前職の校長が急死したので、その空いた席へワシが座ることになったのだった。
(すっかり爺になったな……)
学校を出てからたった十年しか経っていないのだが、色々あったせいで、ワシはすっかり老け込んでしまっていた。激務のせいでバッドスキル【老化】が発現してしまい、それが進行してしまったせいだ。
まだ三十代だというのに、見た目だけなら四、五十代にも見えなくはないだろう。鏡を見たとき、そこには学生時代の面影は微塵もなかった。
(このままここでゴミ学生相手に死ぬまで働くのか。ワシの人生も終わりが見えてきたな)
実年齢的にはまだ若いが、バッドスキルが発現したからには、おそらくもう何十年も生きられまい。肉体的にも精神的にもボロボロだ。ワシも人生を振り返る歳になったのである。
(ワシの人生碌なことなかったな……特に女関係……)
下級貴族になるために幼い頃から苦労ばかり重ねてきたが、苦労ばかりで楽しいことはほとんどなかった気がする。
両親に尻を叩かれ必死に勉強したが挫折し、一念発起して挑んだ料理人への道で出会った婚約者には裏切られ、その後やっとめぐり合った人生の伴侶は上級貴族にたっぷり開発され尽くした雌奴隷だった。
本当に不幸ばかりだ。そう思うと、なんだか空しかった。心の中にぽっかりと穴が開いたようだった。
「昨日の新歓、超楽しかったわ~」
「へー」
そんなワシの心の内など知ったことかという風に、ゴミ学生共は人生の春を楽しんでおった。呑気に楽しんでおった。
ふざけた話だ。このゴミ学生共が。遊んでばかりいないで勉強しろ。
「そんでー、可愛い子食ったしぃ。処女でぇ、初々しくてぇ、めっちゃ最高だったわ~」
「マジで!? いいな~」
通りすがりのゴミ学生の何気ない一言。その言葉は、ワシの心に妙に強く突き刺さった。まるで後ろから棍棒で頭を殴られたかのような衝撃であった。
(こんなゴミ庶民出身のゴミ学生ですら、可愛い乙女の娘と、そういったことをしておるのか。うぅ……頭が……)
ズキリズキリと脳細胞が壊れていく音が聞こえてきた。
ワシなんて、乙女とエッチなどしたことがないというのに。だというのに、このいかにも頭が足りなさそうなゴミ学生は経験があるのだと言う。
「今月で二人目だしぃ。あと何人食えるかな~」
「君も飽きないねぇ。処女とか面倒臭くね?」
「いやいやその面倒臭さが最高っしょ?」
このゴミ学生は下級貴族のワシですら手の届かなかった乙女の娘を二人も美味しく頂いているという。今月で、ということは、今までには何人も食っているのだろう。
(死ねえええええ! 死ねええええええ! ゴミがああああ! ゴミ学生がぁああ! うがあああああ!)
それを聞いたワシの脳みそは、もう徹底的に破壊されてしまった。
このままだと発狂して死んでしまう――そう思ったワシは、脳細胞を再生させるため、すぐに行動を起こすことにした。
「校内の綱紀粛正が必要、ですか?」
「ああ。近頃は成金のゴミ庶民出身の学生が増えて、品格が著しく落ちているようだ。校内で不埒な行動に及ぶゴミ学生も多いと聞く。国の資金が投じられている我が校で、それはあってはならないことだ」
「わかりました。校長先生がそうおっしゃるんなら、職員一同で徹底的にゴミ掃除しましょう」
「うむ」
ワシは己の権限を最大限に使い、校内で不埒なことばかりしているゴミ学生共を放逐していった。
中には泣きながら「退学だけは勘弁してください! 親戚の人からも支援してもらってやっと通ってるんです!」と訴える学生もいたが、だったら最初からそんなことはしなければいい話だ。
当然の如く、ワシは問答無用でそういったゴミ学生を処断していった。
箱の中に腐ったアプルゥの実が一つあれば、他の実まで腐ってしまう。規律を乱したゴミ学生共を例外なく処断するのは当たり前のことだ。
(ハハハ、今日もゴミ学生を一人退学にしてやったわ。キモティー!)
ゴミ学生共を処断するのは最高に気持ちよく、失われた脳細胞が再生されていくような快感だった。
学生たちには鬼校長と恐れられるようになったが、知ったことではなかった。
恐れられるのはむしろ心地よかった。自分が学生時代に鬼校長と恐れられていたあの人と同じ異名で呼ばれるようになるのはな。あの人のように周囲に恐れられる偉い人間になったと思うと、最高に気持ちよかった。
「あんっ、いいっ、カバキ君だいしゅきぃいい♡」
「そらそらっ」
学校の綱紀粛正に励み続ける――そんなある日のことだった。
ワシは構内の離れにある便所の中で、不埒な行為に及んでいる学生のカップルを見つけてしまった。
(またか。よし、あんなゴミ学生、退学にしてやるわい)
当然の如く、ワシはゴミ学生を処断しにかかった。
「貴様ら! 何をやっておるか! 退学だ退学!」
ワシはその場で校長特権を使い、ゴミ学生を処断した。
その場は大人しく立ち去った学生であるが、夕方近くになり、男の方だけワシの元を尋ねてきた。
お礼参りかと身構えるワシであったが、それは違った。
「ねえ校長先生。昼間のあれ、なかったことにできませんか? せめて俺の方だけでも」
やって来たのは“カバキ”と名乗る男だった。貼り付けたような笑顔が特徴的な細目の男だ。ゴミ庶民出身にしては利発そうな顔をしている男であった。
「お願いしますよ。校長先生」
カバキはニコリと微笑みながらもどこか油断ならない雰囲気を持っていた。
貴族街にはこういった手合いはよくいるが、ゴミ庶民出身でというのは中々珍しかった。
「無理に決まっておろう。それに貴様、恥を知れ。女を見捨てて自分だけ助かろうなどとはな。このゴミが!」
「ふふふ、そんな勇ましい格好いいこと言っちゃって。乙女を抱いたこともないくせにね」
「なん……だと?」
「ねえカニバル校長先生。先生って、処女を抱いたことなくてそれがコンプレックスなんですよね?」
カバキは微笑みつつも嫌らしそうに口元を歪め、そんな信じられないことを言った。
(馬鹿な……何故こやつが知っている?)
あり得ないことだ。まさか自分の心の奥にある誰にも見せられない本心が見透かされるなどということは。
ハッタリだと思ったワシは烈火の如く怒って見せた。
「貴様! 何を言っている! ふざけたことを言うでない!」
「怒らないで下さいよ。先生が俺のことゴミだって言ったから、仕返しにちょっと意地悪したくなっちゃっただけですから。これでおあいこってやつです」
「ワシは処女などこれっぽちも……」
「そんな見栄を張らなくても大丈夫ですよ。誰だってコンプレックスの一つや二つはありますから。実は俺、【映鏡】っていう特殊なスキルを生まれつき持ってましてね。対象の人物が望んでいる欲望を覗き見ることができるんですよ」
「何……?」
「それでですね、先生の欲望を覗き見ちゃったというわけです。すみませんね、手前、覗きが趣味の嫌らしい庶民でして」
カバキは特殊なスキル持っているようであった。それでワシの心の奥にある願望を覗き見したのだとか。嘘を言っているようには思えなかった。
「校長先生みたいな立派な経歴をお持ちの方が、そんなことでお悩みとはね。でもまあ考えてみればそういうこともありますよね。男が欲しいのなんて、金、地位、名誉、女――それくらいですから。金と地位と名誉をお持ちの先生が悩む可能性のあることと言えば、精々女性面のことくらいでしょうね。真面目に学生時代を過ごしたであろう先生は若い時に遊んでなさそうですし、嫁が処女ならいいですけど、そうじゃなかったら普通の手段じゃ一生処女なんて食えませんもんね」
「貴様……ワシを馬鹿にしているのか?」
「いえいえ違いますよ。つい癖で色々と考察してしまっただけです。不快に思ったのなら謝罪申し上げます。申し訳ない」
カバキは相変わらずの貼り付けたような笑みを浮かべながらペラペラと喋り続けた。退学を命じられている立場であるというのに、その姿には余裕が見てとれた。
「それで何のようだ。まさか、そのスキルで得たというワシの秘密情報をバラされたくなければ先の決定を取り消せ、などと言うつもりではないだろうな?」
「違いますよ。そんな馬鹿なことはしません。先生、取引しませんか? 先生にとっても、俺にとっても得になる取引を」
「取引だと?」
「ええ取引です。先生みたいな貴族の間では珍しくないものでしょう?」
カバキはワシのコンプレックスをネタに脅すつもりかと思いきや、そうではなかったらしい。対等な取引を行いたいと申し出てきた。
「先生、処女食いたくないですか? この学校の新入生で入ってくるような、そんなプリップリの若い娘の処女。昼間俺が便所で犯していたような若い子の処女ですよ」
「何!?」
若い娘の処女と聞いて、ワシは不覚にも激しく反応してしまった。
そんなワシの様子を見て、カバキはニヤリと微笑んだ。
「実は俺、そういう手口には詳しくてですね。こういうの使えばイチコロなんですよ。警戒心の強い娘もたちまち玩具にできます」
カバキは懐から瓶を取り出した。その瓶には白い粉が詰められていた。何かしらの魔法薬のようであった。
「それは何なのだ?」
「端的に言って、睡眠薬と媚薬ですね。それも超強力な奴です」
「そんなの犯罪ではないか! 貴様! そんなことしていいと思っているのか! 恥を知れ!」
「まあまあそう熱くならずに。仮に犯罪だとしても、相手が訴えなければ犯罪ではないんですよ? 犯罪とは世間に公に認知され、当局がそれを対処して初めて犯罪となるのです」
「何?」
カバキは平然とした顔でバレなきゃ犯罪ではないとのたまった。
バレなきゃ犯罪ではない――その言葉は、ワシの心を強く揺り動かした。
「だから先生がもしこれを使って女の子を手篭めにしても、訴えられなきゃ大丈夫なんですよ。ちなみに俺はこれを使って一度も訴えられたことはありません」
「貴様はイケメンだから、多少強引でも大丈夫なのだ。ワシのようなハゲデブキモ親父がそんな手段を使ったところで、即訴えられるのが落ちであろう」
「そんなご自分を卑下なさらず――と言っても、まあその通りでしょうね」
「貴様! やはりワシを馬鹿にしているな!」
「まあまあそうお怒りにならずに。確かに先生の言う通り、先生がこの薬を使ったとて上手く使いこなせないでしょう。そこでです」
カバキはワシの近く寄り、耳元で囁き始める。
「俺のスキルを使えば、被虐願望のある女の子がわかります。そいつを見つけてやれば、たとえ最初が強引だとしても調教することが可能です」
「そ、そんなことが本当に出来るのか……?」
「出来ます。現に、昼間俺が犯していたあの子は俺が調教した玩具です。乙女でしたけど上手く調教して玩具にしてやりました。そろそろ出荷して一儲けしようと思ってたところです。来月の学費に困ってたのでね」
「なんと……」
カバキは何ら悪びれることもなく悪行を曝け出した。悪行には完全に慣れている様子だった。カバキという男、稀代の悪に違いなかった。
「どうします先生? このチャンスを逃したら、処女なんて一生食えませんよ?」
カバキは言葉巧みにワシを誘惑した。
結局、ワシは奴の誘いをはねのけることができなかった。
「……わかった。貴様の退学の件は見逃してやる。だから……」
「わかりました。交渉成立ですね」
カバキはニコリと微笑んだ。
後日、ワシは奴が見つけた素質のある少女に魔法薬を使い、無理やり手篭めにした。
「うははは! そうかワシがこの娘を女にしたんじゃな!」
「そうです。先生が女の子にしてあげたんですよ。初めての人って奴です」
「うははははは! 最高じゃ!」
処女を奪った時、今までにないくらいの爽快感を覚えた。
ワシは奪われる側ではない。奪う側に立ったのだと思うと、気分爽快であった。失われていた脳細胞がみるみるうちに再生されていく気がした
「先生、新しい子見つけたんだけど食べますか?」
「おおそうか。どんな子なのだ?」
「前よりも可愛い子ですよ。おっぱいが大きいです」
「そうか。今回は何が望みだ?」
「賞与奨学金の件をお願いできればと」
「うむ。貴様は成績も悪くはないし問題ないだろう。ワシが推薦しておく」
「ありがとうございます先生。今後ともよしなに」
ワシはその後もカバキの用意した女を美味しく頂き続けた。
カバキは決して法外な報酬を強請ったりはしなかった。ワシの懐がほとんど痛まない方法を選んで対価として要求してきた。まったくもって賢い男だった。
こうして、ワシとカバキの共犯関係は、奴が卒業を迎えるまで続くこととなった。
「先生、いろいろお世話になりました」
「うむ。本当に就職の斡旋等はいらないのか? 貴様の成績なら下級官吏くらいなら今からでも強引に捻じ込めるぞ?」
「お気持ちだけ頂いておきますよ。自分には身に余ることですので」
「そうか。達者で暮らせよ」
「ええ先生もお元気で」
カバキは就職の斡旋も固辞し、どこぞへの就職が決まったようだった。
学校を去る際、律儀にもワシのところに挨拶にやって来た。
「ああ先生。最後にご忠告を」
カバキは去る際、意味深長な言葉を残していった。
「先生、もしこれからも薬を使う際は、どうかくれぐれもご慎重に。今までは俺がスキルを使って素質ありの子を選んで提供し、後始末は俺が担当してきましたが、一人でやるとなると大変ですからね?」
「わかっておるわ。もう二度とあのような野蛮なことはせん。お前の卒業と同時にきっぱり終わりにする」
「そうですか。過ぎたる心配でしたね。ではこれにて失礼します」
カバキは意味ありげに微笑んで去っていった。ワシがその言葉の意味を知るのは奴が去ってすぐのことであった。
(ああ。若い女が抱きたいのぉ……。処女が食いたい……)
春を迎え、新入生の娘たちが入学してくる。
若くピチピチした彼女らを見ていると、自分でも驚くほど性欲が湧き上がってきた。前まではそんなことがなかったというのに、である。人間、一度覚えた味は忘れられないものなのだ。
(ダメだ。我慢できん。やってしまおう!)
一年目はなんとか我慢したが、二年目からはダメだった。ワシは自宅の離れに監禁部屋を建造し、好みの娘を捕らえて調教することにしたのだった。
あの若造に出来てワシにできないことはない。そういう驕りもあった。
初めに捕らえたのはチムという娘であった。成績優秀でありながら天真爛漫といった感じのワシ好みの優等生の娘。ティゴメとスイーツを足して二で割ったような娘であった。最高だった。
「チムよ、いい加減屈服したらどうじゃ。下級貴族たるワシのメイドとして仕えさせてやるぞ。有難く思え」
「何を言ってんのよ! この気狂い野郎! 絶対に訴えてやるから!」
何ヶ月調教しようとも、チムはワシに屈しなかった。反骨心を露にし、ワシに復讐してやると啖呵を切った。
ワシは全力で支配を試みたが、快楽で支配することも、恐怖で支配することもできなかった。カバキのように上手く調教はできなかった。
(不味い……不味いぞ……)
家族には離れに来るなと厳命してあったが、拘束が長期間続けば続いた分だけどうなるかわからない。
焦ったワシはなんとか娘を支配下に置こうと、より乱暴な手段に出てしまった。娘に大量の媚薬を投与してしまったのだった。
「あがああああっ! ひぐっ――――」
「……おい? おい、しっかりしろ! お主にはワシのメイドになるという大事な仕事が残っているのだぞ!? 勝手に死ぬな!」
チムは心臓麻痺を起こして死んでしまった。
興奮剤が投与されすぎた影響らしい。長期間の拘束により身心が弱りきっていたせいもあるだろう。あっけない最後だった。
(不味い……隠さなくては)
しばらく呆然としていたワシであったが、すぐに行動を起こした。
娘を誘拐監禁し暴行した挙句死亡させたなどと世間に知られたら御家が取り潰されてしまう。
(解体しないと……)
急ぎ死体を解体し、便所に流してスライムに処理させることにした。
さっきまで動いていた娘を肉塊へと変えていく。
家畜等は今までに何度も捌いたことがあったので、例え人間だとしても、捌くのにさほど苦労はしなかった。
(ああっ、ついに一線越えてしまった……あああ!)
娘を解体しながらワシは後悔していた。血溜まりの中で泣いていた。
こんなつもりではなかった。
ワシはただ、あのカバキという男のように好みの若い女を調教して手元に置いておきたかっただけだったのに。そんな些細な願いを叶えたかっただけだというのに。どうしてこうなってしまったのか。
(脳が……脳が痛い……)
恐怖と不安で脳細胞が壊れていく。愛娘と近い歳の娘を手にかけた罪悪感でさらに脳細胞が壊れていく。
ここ何年かでせっかく再生した脳細胞がみんな死んでいった。
(あああ……どうしようどうしよう。万が一バレたら全ては終わりだ。何もかも……)
死んだ脳細胞たちがワシに悪夢ばかり見せた。悪夢はワシの脳から脳細胞をさらに欠落させていった。
早く再生させなければ、隠蔽工作のために働かせる脳細胞すらなくなってしまう。
(そうだ。栄養をとらねば。脳細胞を再生させるための栄養を……)
気づけば、ワシは解体したチムの肉を炙り、口に運んでいた。口元を血で濡らしながら、恍惚としていた。
「う、美味い……」
存外の美味であった。一流の料理人として数々の珍味を味わってきたが、こんな美味しい肉料理は初めてだった。
栄養学的見地によると、我々が食べた肉というのは、体内で一度分解されて肉の素となるらしい。その分解された肉の素が身体の中で合成され、人間の血肉となるのだとか。
ならば人間の肉を食べるのが、栄養的には最も効率が良いのではないか。
学生時代から思っていたことだが、実体験してみてわかった。
間違いなく効率が良い。どんな食事よりも人肉こそが最高の栄養食に違いない。
「美味い! ああっ、これは栄養がふんだんにあるぞ! 絶対に脳細胞が再生される! 間違いない! アハハハハハ!」
ワシは夢中でチムの肉を貪っていた。
気づけば、柔らかくて美味しい部分の肉は全て平らげてしまっていた。不味い部分は便所に流し、スライムの餌とした。
「ふふ……なんだか精がつくな。これで一年間は頑張って働けそうだ。校長職に邁進できる。フハハハハ!」
こうしてワシは禁断の道へと踏み出してしまった。
一度食べると、あの味が忘れられなかった。あの味を思い出すと脳が蕩けるような思いに駆られた。
それと同時、簡単に手に入らないと思うと、我慢のし過ぎで脳細胞が壊れていく気がした。
壊れた脳細胞を再生させるためには、若い娘の調教に成功するか、人肉を食べるしかない。そう思い込むようになった。
(よし、今年こそは調教に成功してやる! あのマルガという娘が狙いだ!)
翌年も調教に挑戦したがあえなく撃沈した。だがどうということはなかった。
また食べればいいだけなのだ。食べて隠蔽すればいい。
人肉を食べれば脳細胞が再生する。何の問題もなかった。
(なっ、スイーツ!? いや違う。あいつはワシと同じ歳だ。あんなに若くはないはず……)
カバキの力に頼らず学生に手を出し始めて三年目。あの娘がやって来た。
「ブレンダです。よろしくお願いします」
ワシの脳を破壊した、あの憎き女に良く似た娘がやって来たのだった。
三年目の標的は迷うことなくそやつに決定した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる