吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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三章

宿泊者名簿No.11 パン屋の見習い少年パオン4/7

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 ブレンダが行方不明と聞いて、俺は方々を駆け巡って情報を集めたっす。

 でも王都から出たのかすら、さっぱりとわからなかったっす。もうお手上げ状態というやつだったっす。

(そうっすっ! ヨミトさんの所に行くしかないっすよ!)

 日も暮れそうになり、途方に暮れていた俺は唯一の頼みであるヨミトさんに賭けることにしたんす。

 もしかしたらそこにブレンダがいるんじゃないかと、最後の望みを賭けて縋りついたんす。

「残念だけど、ブレンダちゃんは来てないよ。ウチには来てないよ」
「そうっすか……」

 残念ながらヨミトさんたちの所にもブレンダはいなかったっす。

 絶望に沈む俺を見かねたのか、ヨミトさんたちのご厚意で長期間家に泊まらせてもらうことができたんす。

 それからヨミトさんの家を拠点にしてブレンダの捜索活動を始めることになったっす。

「こんな感じで二本に束ねられた髪をしている可愛い子なんすけど……」
「うーん。見てないねえ。力になれなくてごめんね」
「そうっすか……」

 俺は紙に描かれたブレンダの似顔絵(絵は器用なパープルさんが描いてくれたっす)を手に、毎日毎日王都を駆けずり回ったっす。

 それでもブレンダの行方は一向に知れなかったっす。

「それって、王都で流行りの神隠しってやつじゃないの? その娘、吸血鬼に食べられちまってるかもな」
「そんな……」

 事情を話せばほとんどの人は真面目に取り合ってくれたんすけど、中には雑にあしらってくる人もいたっす。

 でも、その人の言うこともまったく的外れってわけじゃないんすよね。行方がまったくわからないなんて、本当に神隠しにあったみたいっすから。

(ブレンダ……本当に吸血鬼に食べられちゃってるんすか?)

 俺は不安で不安で毎日が苦痛でしょうがなかったっす。食事も満足に喉を通らず、日に日に疲弊していったっす。

「ちょっと情報収集に行ってくるよ」

 ヨミトさんの家に居候を始めてから一週間くらい経った頃っす。夜になり、ヨミトさんが一人で家を出て行ったんす。

 情報収集なら俺も同行したいと思って申し出たんすけど、素気無く断られてしまったっす。

「絶対に遊びに行ったんですよあれ。ヨミトさんはこんな時にどうかしてますよ!」

 ヨミトさんが家を出て行って、しばらくの間パープルさんはプンスカ怒ってたっす。

 その様子はまるで好き勝手夜遊びする夫に怒り狂う妻って感じだったっす。

 パープルさんは女の子みたいだけど男だからそれはおかしいんすけど、なんとなくそんなことを思ったっす。

「今日は俺は冒険者の仕事休むよ。ちょっと情報収集に行ってくる」

 ヨミトさんは次の日も一人で調査に出かけていったっす。

(ヨミトさん、頼むっすよ!)

 俺はなんとなく、ヨミトさんならどうにかしてくれるんじゃないかって思ったんす。

 そう信じながら、俺は俺でブレンダの捜索活動を独自に進めていったっす。

「今日も手がかりなしっすか――っ!?」

 成果なしでしょんぼりとしながら夜に帰宅していると、道端に倒れている人を見つけたんす。背格好から、すぐにそれが誰かわかったっす。

「親方!? こんなところで何してるっすか!?」
「パオン……か。ブレンダは……うぅ」

 親方は酷い熱を出していたっす。素人から見ても持病が悪化しているのは目に見えていたっす。

 おそらく、親方はブレンダのことで気が気じゃない思いをしていたんだと思うんす。それで自分も行方を探そうとして無理して王都まで出てきて、無理が祟って一気に体調を悪くしていたみたいだったっす。

「親方、しっかりするっすよ!」

 俺はすぐに親方を担ぎ、ヨミトさんたちの家に運び入れたっす。

 ヨミトさんたちにまたしても迷惑かけるのは申し訳なかったすけど、頼れるのは彼らしかいなかったっすから、頼るしかなかったっすよ。

 ヨミトさんたちは快く受け入れてくれたっす。やっぱり彼らはいい人っすよ。
 おまけに癒しの術までかけてもらって、今にも死にそうな親方はなんとか命を繋ぎとめたんす。

「実はブレンダちゃんに繋がる情報が手に入ったよ」

 ヨミトさんはブレンダの行方について重要な情報を入手してくれていたっす。

 ブレンダの行方に繋がる手がかりが見つかったのは良かったんすけど、それは俺にとって新たな不安を呼び起こす種にもなったんす。

「ブレンダちゃんはカニバルって校長に監禁されてる可能性がある」
「え……なんすか……それ?」

 ブレンダが監禁されている。何のために?

 キモいおっさんが若い娘を誘拐監禁する理由なんて一つしかないって、馬鹿な俺でもすぐにわかったっす。

(ブレンダ……何されちゃってるっすか?)

 最悪の事態が頭をよぎり、俺の心臓はバクバクと高鳴り続けたっす。

「パオン君大丈夫? このまま話を続けて大丈夫?」
「はい……」

 よほど顔色が悪かったみたいで、俺は皆さんに心配されながら、なんとか話を聞いていたっす。

「薬屋から仕入れた情報によると、カニバルはこの二つの薬を使ってブレンダちゃんを誘拐監禁しているみたいなんだよね」

 そう言って、ヨミトさんは瓶に入った怪しげな薬を机の上に置いたっす。

「それって本当に効くのかよ? 薬屋がいい加減なことふかしてるだけかもしれねーだろ?」
「まあそれも一理あるね。じゃあ試してみるか」

 ヨミトさんは何を血迷ったか、怪しげな薬を酒に入れて飲み始めたっす。

 パープルさんが制止するのも聞かず、一気に飲み干したっす。なんて豪快な人っすか。流石冒険者っす。

「あっ……」

――ドテン。

 薬入りの酒を飲んだヨミトさんはいきなり卒倒して地面に倒れこんだっす。

「ヤバいヤバい。結構効くねこの薬」

 一瞬ヒヤっとした俺たちっすけど、ヨミトさんはすぐに立ち上がって平然としていたっす。

 ヤバいと言ってるけど、全然大したことなさそうだったっす。実は倒れたのもヨミトさんの悪ふざけの演技だったんじゃないかってくらい、平然としていたっす。

(もしかして、薬屋の話ってガセだったんすかね?)

 大量に飲んですぐに起き上がれるような睡眠薬じゃ、人を昏睡させることなんてできないっす。

 ガセ情報だった可能性が出てきて、俺は少しだけほっとしていたっす。ガセだったらブレンダが無事な可能性が高まるっすからね。

 でも、それはガセ情報じゃなかったんすよ……。

「んじゃ、アタシもやってやんよ――んぐぅっ、んぐ」

 今度はメリッサさんが残っている方の薬を酒に混ぜ飲み始めたんす。

 ヨミトさんが平気そうだったから言いだしっぺの自分も、ということだったみたいっす。

「んはぁん、早くピーして、ピーピーしてぇえ♡」

 薬を飲み終わってしばらくすると、メリッサさんは気が狂ったようにハシャギだしたんす。服まで脱ぎ出そうとして大変だったっす。レイラさんが止めてくれなきゃ大変なことになってたっすよ。

「貞操奪われるくらいで済んでればまだマシな方か。あんなヤベー薬飲んだら、最悪死んでてもおかしくはないよな……」
「ノビル! アンタ、もっと人の気持ち考えて物言いなさいよ!」

 みんな俺に配慮してくれて口には出してないけど、ノビルさんが言ったことは皆思ってることみたいだったっす。

 皆さんが厳しい表情でいるのを見て、俺はブレンダが悲惨な状況に置かれていることを悟ってしまったんす。

 ブレンダの純潔は風前の灯どころか、既に消えている可能性が高いのだと。下手したら命すら失われていると。

 俺は目の前の景色もわからずに呆然としていたっす。

 脳内では会ったこともないキモい親父とブレンダが絡み合う映像が勝手に想像されて浮かんできて、本当に気持ち悪くて仕方がなかったっす。

「ブレンダ……ブレンダ……」

 俺は壊れた自動人形のように、愛する婚約者の名前を呼び続けていたんすよ。
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