吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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四章

オーク討伐依頼7/13(オークと初戦闘)

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「そんじゃ行こう。レイラとノビルが先行してくれ。次に俺、メリッサ、パープル君。エリザは最後尾を頼む」
「はい」

 前衛中衛後衛に分かれて進む。普段誰も立ち入ることなどない獣道を開拓するように進んでいく。

「もう半里くらい進みましたかね」

 パープルは木にナイフで印をつけたり、お手製の地図に情報を書き込んだりして忙しなく動いていた。

 真面目だ。そんなことを素直に口に出すと、「当然のことです!」と、怒られそうなので黙っておこう。

 俺たちはやや霧がかった森の中を進んでいく。標高がそれなりに高く、早朝ということもあるのか、所々で朝靄がかかっているようだ。視界が悪いので慎重に進んでいく。

 朝靄の中で時折ヒムの虫がピカピカ光っているのが、なんとも幻想的である。ファンタジー世界を冒険しているって気がしてきて、凄い楽しいな。

 そんな風に呑気に物思いに耽っている時のことだった。

「オークよ! 右から2匹!」

 先頭で警戒に当たっていたレイラが叫ぶ。俺たちは一気に警戒を強めた。

「ブヒイィイ!」

 二足歩行の豚の化け物が俺たちの前に現れる。でっぷりとした体躯で、手には斧を持っている。見た目は中々強そうだ。

 だが目当ての上位個体ではないな。普通のオークらしい。

「ブヒィッ、ブヒィイ!」

 オークはレイラ、メリッサ、エリザの姿を見て、激しく興奮していた。盛っているらしい。

 豚の癖に俺の仲間に欲情しやがって。成敗してくれる。

「ブヒィイイ!」

 一匹がレイラとノビルに向かっていき、もう一匹が俺へと向かってくる。

「そらっ!」

――ズグシュッ。

 思いっきり剣を振るうと、オークは頭から両断される。血飛沫とかめっちゃかかってしまった。いやん汚い。

「す、凄い、オークを一撃で……」

 パープルが驚いていたが、俺はそれどころではなかった。

「うわぁっ、汚いっ、ばっちい! やだもう!」

 オークの血がもろにかかってそれを振り払う。すぐにスキル【洗浄】を自分に使って綺麗にする。

 今日の冒険は始まったばかりだが、早くもダンジョンに帰ってお風呂に入りたい気分になってきた。朝一番の戦闘だってのについてないぜ。

 そんな俺の様子を、パープルは呆れた目で見ていた。

「魔物と戦闘してるんだからそれくらい当然です。せっかく格好良かったのに台無しですよ!」
「だってばっちいんだもん。血塗れとかばっちいよ」
「返り血くらいで騒いでたら冒険者なんてできませんよ!」
「だってさぁ」
「だってもでももありません!」
「パープル君って、お母さんみたいだよね」
「誰がお母さんですか!」

 俺たち吸血鬼にとって血は大好物だが、浴びるのは嫌だ。

 カレーが大好きな人でも、カレーが服に付いたら最悪に思うのと同じことである。食べるのと浴びるのとでは全然違う。

 それはそうと、誰もレイラとノビルの心配をしていないが、何の心配もなかった。俺がオークを倒したのと程なくして、彼女たちも戦闘を終えていた。

「こっちも終わったわ。オークなんて久しぶりだけど何とかなったわね」
「意外と楽勝だったな。ゴブリンすら倒せないだろうと言われてた俺がオークを楽々倒したのか。感慨深いな」

 レイラとノビルも難なくオークを倒せたようだ。

 二人は暇さえあれば訓練してるし、トロの森でレベリングもしてるし、当然だ。レイラに関してはオークの討伐経験もあるみたいだしね。ノビルはオークを倒せたことに思う所があるのか感動していた。

(オークはもっと強いと思ったが意外とザコだったな)

 オークは見た目強そうな魔物だったので、つい全力で剣を振るってしまった。精々頭がかち割れるくらいだと思ったのだが、両断されるとはね。勢い余って、地面まで抉っちゃったよ。

(何か一気に緊張感が抜けた気がするな……)

 未知の魔物との戦闘なのでそれなりに緊張感を持って臨んでいたのだが、俺とエリザにとってはゴブリンと大して変わらないザコと知り、少々拍子抜けだ。まあ安全なのは嬉しいことだけどさ。

「討伐したオークはどうするのパープル君?」
「討伐証明と軍資金確保のために魔石だけ切り出しましょう。あと、昼と夕食の足しにする分だけお肉を確保していきましょう。夕食分は後でいいですね。どうせまたすぐにオークと出くわすでしょうし」
「了解了解。解体は任せてよ」
「僕も手伝いますよ」

 倒したオークを中途半端に解体し、魔石と昼飯分のお肉を確保することになった。魔石と良い部分のお肉以外は、そこらへんにいるスライムや魔物の餌だな。

 パープルと一緒に、仕留めたオークを解体していく。オークは初めて解体するが、スキル【解体】があるし楽勝に解体できるな。

 オークの魔石は心臓部近くにあるらしい。壊さないように慎重に取り出していく。

 オークの魔石は何個か譲ってもらってダンジョンの眷属を生み出すのに使うとしよう。ダンジョンに新しい仲間が増えるな。

 解体している最中、こっそり血を摂取しておく。パープルに見えない位置で、指にべっとりと付いた血を舐める。

(微妙だな)

 魂が汚れているせいかあんまり美味しくはない。ただ、生命力が強いからか、同じような魂を持つゴブリンよりかは多少マシな味であった。

――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【豚語】を獲得。

豚語:オークの言語を理解できる。

 オークの血を吸収したことで、オークの言語が理解できるようになったようだ。ゴブリンの血を初めて吸血した時と一緒だな。

(言語が理解できるようになったということは、オークをとっ捕まえて拷問すれば敵の本拠地とかすぐにわかりそうだな。パープルの目があるから、今すぐにそんなことするのは無理だけど)

 解体し終わったオークの死骸を見つめながら、俺は冷徹にそんなことを考えていた。




♦現在のヨミトのステータス♦

名前:ヨミト(lv.52) 種族:吸血鬼(ハイ)
HP:1002/1002 MP:923/923
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】【格闘】【毒牙】【硬化】
【舞踏】【鎚術】【怪力】【豚語】
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