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五章
宿泊者名簿No.16 盗賊頭ゾォーク5/6(不死鳥狩り)
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「王都から来た鋼等級だけで構成されたチームだとぉ?」
「うん、ママが言ってたから間違いないと思う。六人組だって。“不死鳥”って名前のチームらしいよ」
勇者様たちを捕虜にしてしばらく経った頃だったか。新しい冒険者たちがハザマ村に滞在するようになったらしい。ロビンの奴が閨物語で聞かせてくれた。
(鋼等級が六人か。聞いたことないチーム名だが、そりゃちと不味いな)
鋼等級――冒険者時代の俺の最終階級と同じのが六人はやべえな。
若くして鉄等級の壁を越えられた奴は才能に恵まれている。一人二人なら俺だけでもなんとかなるだろうが、六人同時にかかって来られると不味い。数だけの部下共じゃ相手にならねえだろう。
「ゾォーク様なら余裕でしょ? そんな奴ら、やっつけちゃってよ」
「そうだな。だがしばらくは様子見だな。情報が欲しい」
「えー、ゾォーク様ならいつもみたいにバサっと斬って終わりでしょ? すぐにやって見せてよぉ」
「馬鹿野郎。獅子は一匹の兎を狩るのにも全力を出すんだよ。まずは情報集めだ。最悪、奥の手も使って倒す」
「そういうものぉ?」
「そういうもんだ」
早くやっつけて見せてと言うロビンを宥めつつ、俺は慎重に算段を立てた。
勇者様を狩った時以上に慎重にやる必要があると判断して、まずは実力を見るため、しばらくは様子見を決め込むことにした。野郎共にはしばらくの間、ハザマ村近辺では活動しないように命じておいた。
「ヒム側の前線拠点が一週間で全部やられただと?」
「へい。ことごとく焼き払われました」
「そうか。トロの森側は“竜殺し”とかいうチームにやられたばっかりだしな。くそ、立て直すのに時間がかかるぜ」
見知らぬ森に点在する拠点を見つけ出して処理していくのには、チームとしての腕が試される。
竜殺しの奴らにはトロの森側の前線拠点を一週間かけて潰されたが、不死鳥の奴らにも一週間でヒムの森側の拠点を潰されてしまった。
ヒムの森側にはポーターを設置しているので、トロの森側よりも手厚く隠蔽などの工作を施してある。それなのに竜殺しの奴らと同じ期間で潰されてしまったということは、不死鳥の奴らは竜殺しの奴ら以上の優秀さがあると推定される。
かなりの腕だ。優秀な冒険者たちと見ていい。油断ならねえ。
(こりゃひとまず様子見するか……そうするか)
俺は持久戦を決め込むことにした。焦って無理に戦う必要はない。
奴らはずっとロビンの実家の温泉宿に泊まってるって話だ。宿に金を落としてもらえるだけでも、俺たちには利益があるからな。
冒険者たちのことはひとまず放っておくことにして、俺たちは捕らえている女で楽しむことにした。
スキル【堕落】持ちのおかげでセインは堕ちた。セインの方には買い手がついたとかいう話で、近日中にカバキの奴が回収にやって来るという話だった。
最後のお楽しみというわけだ。これほどの女を楽しめる機会はそう多くはないからな。存分に楽しませてもらうことにした。
「約束通りの金です。ではこの女は頂いていきますね。回復魔法持ちの奴隷は高く売れるんですよね。しかもこの見目だ、さらに高値がつくでしょう」
「ああ。ところでカバキの若旦那、王都の冒険者チーム“不死鳥”について何か知ってるか?」
カバキがセインの回収に来た時に、俺は不死鳥の情報を尋ねてみることにした。毒蜘蛛の幹部なら情報にも敏く、何か知っているに違いないと考えたからだ。
「不死鳥ねえ……はて、どこかで聞いたような」
カバキはすぐに思い出せなかったようで、しばし考え込んだ。
「ああ、思い出しました。確か王都で少し前から噂になっている新進気鋭のチームらしいですね。前に少し興味があって情報を取り寄せたことがあったので知ってますよ」
「そうか。是非教えてくれ」
「本来なら情報料をとるところですが、まあサービスしておきましょう。ゾォークさんにはお世話になってますし」
「助かるぜ」
カバキは魔法の鞄から手帳のようなものを取り出し、ペラペラと頁をめくって該当する項目を読み上げてくれた。
「チーム“不死鳥”……構成員は六名。全員それなりに有名ですが、特に有名なのは二人ですね。まずはリーダーのヨミト。“性豪のヨミト”の名で夜の街で大変有名です」
「性豪だと?」
「ええ。何かしらのスキルの影響なのか、オーク並みの精力を持っているらしいですよ。オークの集団を相手に単独で立ち回れるくらいの実力はあるようです。そこそこやりますね」
「そうかよ。オークの集団くらいなら俺でもいけるな。スキル頼みの精力ならそこまで警戒する必要もねえか?」
「もう一人はレイラという女冒険者です。“天才”という異名で知られています。天才という名称のスキルを持っていることから、その異名がついているらしいですね」
話を聞くと、ヨミトという輩よりも天才という二つ名のつく女冒険者の方が気になった。性欲モンスターの女好きよりも、天才の方が怖いに決まってるからな。
「レイラって女について詳しく聞かせてくれ」
警戒すべきはそちらだと思い、レイラなる輩について、より詳しく聞くことにした。
「レイラは二年ほど前はミッドロウの町で娼婦をやっていたみたいですね。娼婦あがりの女みたいです」
「娼婦だぁ? 恵まれたスキルを持っているのになんで娼婦なんざやってたんだ? 根っからの淫乱なのか?」
「いえ、鉄等級だった時に依頼に連続で失敗して借金まみれになったそうです。その後、借金を返済し、冒険者に復帰して鋼等級まで実力を伸ばしているのだとか。まさに不死鳥という名に相応しい活躍のようですね」
「そうか。でも鉄等級の依頼をしくじるなんて案外大したことなさそうだな。情報ありがとよカバキの若旦那」
「お役に立てたようで光栄ですよ。それじゃ自分はこれで」
「ああまたな」
レイラという女を警戒して色々と聞いたが、鉄等級の依頼を立て続けに失敗したというのが事実なら大したことないだろう。
俺は安心して、不死鳥を狩ることに決めた。
カバキの情報によると、不死鳥には女が三人もいるらしい。レイラ、エリザ、メリッサという名で、いずれも美人のようだ。
パープル、ノビルという男も悪くはない風貌で、男娼に出来なくもない容姿だとか。
(鋼等級の美男美女冒険者か。裏市場で変態金持ちに高く売れそうだな。よーし、冴えねえ容姿らしい性欲お化けのヨミトって奴はぶっ殺して、あとは全部頂くとするか)
そう決めれば話は早い。女将ユマと連絡をとり、奴らを一網打尽にすることにした。
女将のユマの力を借りれば、安全に奴らを仕留めることができるだろう。宿で眠っている奴らを拘束し、ポーターを利用して拠点まで運べばいいだけなんだからな。
冒険者集団が特定の宿で失踪したなんてことになったら足がつきそうだが、一回っきりなら大丈夫だろう。女将と口裏を合わせてもらえばいいだけだ。
「準備できたって、ママが言ってたよ。今日はアイツら以外に客もいないし、派手にやっても大丈夫だって」
「そうかよ。ご苦労だロビン。お前は下がってていいぞ」
「うん。死なないでねゾォーク」
「誰に向かって口利いてんだ。ゾォーク様が負けるわけねえだろ」
「うんそうだね。頑張ってね」
本拠地で準備をして待っていると、ロビンが女将からの連絡を伝えにやって来た。首尾は上等らしい。
「野郎共、準備はいいか?」
「おお!」
俺の声に応え気勢を上げる野郎共。
襲撃前に大声を上げているわけだが、拠点の中なら何の問題もねえ。アルゼリア山脈谷底の奥深くのここでいくら騒ごうが、誰も気づきはしねえからな。
「相手は鋼等級が六人だ。起こして余計な戦闘を起こさせるなよ。事情を知らない一部の村人たちに感づかれても面倒だ。静かにやり遂げる。抜かるな」
「ゾォークの旦那、わかってますぜ」
「よし、それじゃ行くぜ」
幾つかのポーターを潜り抜け、森の奥地の拠点からハザマ村近くの拠点へと転移し、さらにハザマ村の温泉宿へと転移する。
長距離移動がほとんど一瞬で済むとは、相変わらずこの魔道具は素晴らしいぜ。
総勢五十名の野郎共で宿に乗り込む。仮に戦闘になってもそれなりにやり合えるだろう団の中でも選りすぐりの五十名を選抜した。負けるはずがねえ。おまけに相手はぐっすり眠っているんだろうからな。こんな大勢で夜襲されたらひとたまりもないだろう。
「お待ちしておりました」
「よう女将。挨拶は後だ。獲物の所へ案内しろ」
「こちらでございます」
宿に乗り込むと、すぐに女将のユマが出迎えてくれた。彼女に案内を頼んで、目的の冒険者たちが眠っている部屋へと向かう。
「頭、今回の相手は上物なんですよね。へへ」
「俺、メリッサってやつの一番槍いいっすか? 試験の時から狙ってたんですよ」
「無駄口叩くな」
「すみません」
もうお楽しみの時のことを考えているのか腑抜けたことを言いやがった奴を小声で注意する。
俺たちはゆっくりと忍び足で目的の部屋へと向かう。
「そちらの部屋に女性陣が、こちらの部屋に男性陣が泊まっておいでです」
「よし、ズーク。お前らは女性部屋へ行け。俺はヨミトってやつを殺る。女は絶対に殺すなよ。ヨミト以外の男もできるだけ殺すな」
「了解」
二手に分かれ、女将から渡された鍵を使い、部屋の中へと入っていく。
そっと部屋に押し入るものの、人の気配がない。部屋の中には誰もいなかった。
「女将、これはどういうことだ? 何故獲物がいない?」
「どうって、こういうことですよ」
女将は懐から仕込み剣を取り出すと、それを凄まじい速さで振るってきた。
「――がっ」
「――にっ」
女将の最も近くにいた男たちが喉笛を斬られ、声を出すこともなく絶命した。
「女将!?」
「テメエ! 俺たちを裏切って――ひゅっ」
何だこれは。部下たちは女将が裏切ったと思っているようだがそうじゃねえ。
「がはっ」
「ぐあっ」
これは女将の仕業じゃねえ。あの人の良さそうな一般人の女将に、こんな真似が出来るはずねえ。
戦闘慣れした俺たちを圧倒するような凄まじい速度で暗闇の中を移動しながら、相手の急所を瞬時に切り裂くなんて真似、できるはずがねえんだ。
「テメエ! 何者だ?」
俺は問わずにはいられなかった。大声で怒鳴るように尋ねた。
「何者ねえ。アンタたちが捕らえようとしていた獲物よ、お間抜けさん」
女将の姿が一瞬にして変わる。
暗闇の中から現れたのは、見目麗しい女剣士。俺たちが狙っていた冒険者集団の天才女剣士――レイラで間違いなかった。
「お前はレイラ!? 変化していたのか!? 魔道具かスキルか何かを使って!? くそっ、やれ、お前たち!」
「おお――がはっ」
「お頭助けっ――ひゅっ」
「ば、化け物――だっ」
攻撃を仕掛けた仲間たちが、何も出来ずに次々に屠られていく。手足を一瞬で刎ねられ、戦闘不能にされる。
暗闇でこれほどの動きとは、流石の俺様でも何もできねえ。何か特別なスキルでも持っているというのか?
「この女、化けものだああ!」
「に、逃げろぉおお!」
「おいお前ら! 戦え!」
あまりの恐怖に、部下たちは戦意を喪失して走り出していった。情けない野郎共だぜ。くそが。
「た、助け――ぐふっ」
「な、何が――あぁっ」
逃げ出した野郎共は窓から飛び降りて一階の庭へと出るのだが、茂みに隠れていた何かがさっと動き出し、逃げ出した部下の手足を刎ねていった。
緑色の生き物――あれはゴブリン!?
「馬鹿な!? ゴブリンを操っているのか!? それもあんな数、しかも全てが上位種だと!?」
「ご名答ね。まあ操っているのは私じゃないけど」
気がつけば、部屋にいるのは俺一人となっていた。室内にいたものは殺されるか戦闘不能にされ、庭に逃げた者も同様だった。
「ズーク! 何をしている!? そっちはどうした!?」
「残念ながらお仲間のクソ野郎共は床でくたばってるぜ」
「なっ!?」
俺たちのいる部屋に一人の男がやって来る。斧を担ぐように持った小柄な男――確か、ノビルとかいうやつだったか。カバキから見せてもらった似顔絵に描いてあったな。
「ゾォークの旦那……こいつら、強ぇ……」
ノビルは体格で勝るはずのズークの頭を片手で鷲づかみにしながら引きずるようにして運んでいた。
ズークは死んではいないが一方的にボコボコにされたようで、その顔は醜悪に腫れ上がって歪んでいた。
奇襲をかけたと思ったが逆にハメられた。くそ、女将とロビンの奴め、俺たちを裏切りやがったな。
それにゴブリンを操るなんて聞いてねえ。カバキのやつめ、いい加減な情報流しやがって。何が毒蜘蛛の幹部だ。情報も碌に集められねえくせにでかい面してんじゃねえ。
「ちっ、多勢に無勢か!」
「お頭ァッ、助けて!」
「知るかボケ! テメエは殿になりやがれ!」
「そ、そんな!?」
ここでこのまま戦うのは不味いと判断し、部下を盾にして逃げまくる。
幸い、レイラたちは追ってこなかった。俺はポーターを使い来た道を引き返し、急いでアジトに戻った。
「うん、ママが言ってたから間違いないと思う。六人組だって。“不死鳥”って名前のチームらしいよ」
勇者様たちを捕虜にしてしばらく経った頃だったか。新しい冒険者たちがハザマ村に滞在するようになったらしい。ロビンの奴が閨物語で聞かせてくれた。
(鋼等級が六人か。聞いたことないチーム名だが、そりゃちと不味いな)
鋼等級――冒険者時代の俺の最終階級と同じのが六人はやべえな。
若くして鉄等級の壁を越えられた奴は才能に恵まれている。一人二人なら俺だけでもなんとかなるだろうが、六人同時にかかって来られると不味い。数だけの部下共じゃ相手にならねえだろう。
「ゾォーク様なら余裕でしょ? そんな奴ら、やっつけちゃってよ」
「そうだな。だがしばらくは様子見だな。情報が欲しい」
「えー、ゾォーク様ならいつもみたいにバサっと斬って終わりでしょ? すぐにやって見せてよぉ」
「馬鹿野郎。獅子は一匹の兎を狩るのにも全力を出すんだよ。まずは情報集めだ。最悪、奥の手も使って倒す」
「そういうものぉ?」
「そういうもんだ」
早くやっつけて見せてと言うロビンを宥めつつ、俺は慎重に算段を立てた。
勇者様を狩った時以上に慎重にやる必要があると判断して、まずは実力を見るため、しばらくは様子見を決め込むことにした。野郎共にはしばらくの間、ハザマ村近辺では活動しないように命じておいた。
「ヒム側の前線拠点が一週間で全部やられただと?」
「へい。ことごとく焼き払われました」
「そうか。トロの森側は“竜殺し”とかいうチームにやられたばっかりだしな。くそ、立て直すのに時間がかかるぜ」
見知らぬ森に点在する拠点を見つけ出して処理していくのには、チームとしての腕が試される。
竜殺しの奴らにはトロの森側の前線拠点を一週間かけて潰されたが、不死鳥の奴らにも一週間でヒムの森側の拠点を潰されてしまった。
ヒムの森側にはポーターを設置しているので、トロの森側よりも手厚く隠蔽などの工作を施してある。それなのに竜殺しの奴らと同じ期間で潰されてしまったということは、不死鳥の奴らは竜殺しの奴ら以上の優秀さがあると推定される。
かなりの腕だ。優秀な冒険者たちと見ていい。油断ならねえ。
(こりゃひとまず様子見するか……そうするか)
俺は持久戦を決め込むことにした。焦って無理に戦う必要はない。
奴らはずっとロビンの実家の温泉宿に泊まってるって話だ。宿に金を落としてもらえるだけでも、俺たちには利益があるからな。
冒険者たちのことはひとまず放っておくことにして、俺たちは捕らえている女で楽しむことにした。
スキル【堕落】持ちのおかげでセインは堕ちた。セインの方には買い手がついたとかいう話で、近日中にカバキの奴が回収にやって来るという話だった。
最後のお楽しみというわけだ。これほどの女を楽しめる機会はそう多くはないからな。存分に楽しませてもらうことにした。
「約束通りの金です。ではこの女は頂いていきますね。回復魔法持ちの奴隷は高く売れるんですよね。しかもこの見目だ、さらに高値がつくでしょう」
「ああ。ところでカバキの若旦那、王都の冒険者チーム“不死鳥”について何か知ってるか?」
カバキがセインの回収に来た時に、俺は不死鳥の情報を尋ねてみることにした。毒蜘蛛の幹部なら情報にも敏く、何か知っているに違いないと考えたからだ。
「不死鳥ねえ……はて、どこかで聞いたような」
カバキはすぐに思い出せなかったようで、しばし考え込んだ。
「ああ、思い出しました。確か王都で少し前から噂になっている新進気鋭のチームらしいですね。前に少し興味があって情報を取り寄せたことがあったので知ってますよ」
「そうか。是非教えてくれ」
「本来なら情報料をとるところですが、まあサービスしておきましょう。ゾォークさんにはお世話になってますし」
「助かるぜ」
カバキは魔法の鞄から手帳のようなものを取り出し、ペラペラと頁をめくって該当する項目を読み上げてくれた。
「チーム“不死鳥”……構成員は六名。全員それなりに有名ですが、特に有名なのは二人ですね。まずはリーダーのヨミト。“性豪のヨミト”の名で夜の街で大変有名です」
「性豪だと?」
「ええ。何かしらのスキルの影響なのか、オーク並みの精力を持っているらしいですよ。オークの集団を相手に単独で立ち回れるくらいの実力はあるようです。そこそこやりますね」
「そうかよ。オークの集団くらいなら俺でもいけるな。スキル頼みの精力ならそこまで警戒する必要もねえか?」
「もう一人はレイラという女冒険者です。“天才”という異名で知られています。天才という名称のスキルを持っていることから、その異名がついているらしいですね」
話を聞くと、ヨミトという輩よりも天才という二つ名のつく女冒険者の方が気になった。性欲モンスターの女好きよりも、天才の方が怖いに決まってるからな。
「レイラって女について詳しく聞かせてくれ」
警戒すべきはそちらだと思い、レイラなる輩について、より詳しく聞くことにした。
「レイラは二年ほど前はミッドロウの町で娼婦をやっていたみたいですね。娼婦あがりの女みたいです」
「娼婦だぁ? 恵まれたスキルを持っているのになんで娼婦なんざやってたんだ? 根っからの淫乱なのか?」
「いえ、鉄等級だった時に依頼に連続で失敗して借金まみれになったそうです。その後、借金を返済し、冒険者に復帰して鋼等級まで実力を伸ばしているのだとか。まさに不死鳥という名に相応しい活躍のようですね」
「そうか。でも鉄等級の依頼をしくじるなんて案外大したことなさそうだな。情報ありがとよカバキの若旦那」
「お役に立てたようで光栄ですよ。それじゃ自分はこれで」
「ああまたな」
レイラという女を警戒して色々と聞いたが、鉄等級の依頼を立て続けに失敗したというのが事実なら大したことないだろう。
俺は安心して、不死鳥を狩ることに決めた。
カバキの情報によると、不死鳥には女が三人もいるらしい。レイラ、エリザ、メリッサという名で、いずれも美人のようだ。
パープル、ノビルという男も悪くはない風貌で、男娼に出来なくもない容姿だとか。
(鋼等級の美男美女冒険者か。裏市場で変態金持ちに高く売れそうだな。よーし、冴えねえ容姿らしい性欲お化けのヨミトって奴はぶっ殺して、あとは全部頂くとするか)
そう決めれば話は早い。女将ユマと連絡をとり、奴らを一網打尽にすることにした。
女将のユマの力を借りれば、安全に奴らを仕留めることができるだろう。宿で眠っている奴らを拘束し、ポーターを利用して拠点まで運べばいいだけなんだからな。
冒険者集団が特定の宿で失踪したなんてことになったら足がつきそうだが、一回っきりなら大丈夫だろう。女将と口裏を合わせてもらえばいいだけだ。
「準備できたって、ママが言ってたよ。今日はアイツら以外に客もいないし、派手にやっても大丈夫だって」
「そうかよ。ご苦労だロビン。お前は下がってていいぞ」
「うん。死なないでねゾォーク」
「誰に向かって口利いてんだ。ゾォーク様が負けるわけねえだろ」
「うんそうだね。頑張ってね」
本拠地で準備をして待っていると、ロビンが女将からの連絡を伝えにやって来た。首尾は上等らしい。
「野郎共、準備はいいか?」
「おお!」
俺の声に応え気勢を上げる野郎共。
襲撃前に大声を上げているわけだが、拠点の中なら何の問題もねえ。アルゼリア山脈谷底の奥深くのここでいくら騒ごうが、誰も気づきはしねえからな。
「相手は鋼等級が六人だ。起こして余計な戦闘を起こさせるなよ。事情を知らない一部の村人たちに感づかれても面倒だ。静かにやり遂げる。抜かるな」
「ゾォークの旦那、わかってますぜ」
「よし、それじゃ行くぜ」
幾つかのポーターを潜り抜け、森の奥地の拠点からハザマ村近くの拠点へと転移し、さらにハザマ村の温泉宿へと転移する。
長距離移動がほとんど一瞬で済むとは、相変わらずこの魔道具は素晴らしいぜ。
総勢五十名の野郎共で宿に乗り込む。仮に戦闘になってもそれなりにやり合えるだろう団の中でも選りすぐりの五十名を選抜した。負けるはずがねえ。おまけに相手はぐっすり眠っているんだろうからな。こんな大勢で夜襲されたらひとたまりもないだろう。
「お待ちしておりました」
「よう女将。挨拶は後だ。獲物の所へ案内しろ」
「こちらでございます」
宿に乗り込むと、すぐに女将のユマが出迎えてくれた。彼女に案内を頼んで、目的の冒険者たちが眠っている部屋へと向かう。
「頭、今回の相手は上物なんですよね。へへ」
「俺、メリッサってやつの一番槍いいっすか? 試験の時から狙ってたんですよ」
「無駄口叩くな」
「すみません」
もうお楽しみの時のことを考えているのか腑抜けたことを言いやがった奴を小声で注意する。
俺たちはゆっくりと忍び足で目的の部屋へと向かう。
「そちらの部屋に女性陣が、こちらの部屋に男性陣が泊まっておいでです」
「よし、ズーク。お前らは女性部屋へ行け。俺はヨミトってやつを殺る。女は絶対に殺すなよ。ヨミト以外の男もできるだけ殺すな」
「了解」
二手に分かれ、女将から渡された鍵を使い、部屋の中へと入っていく。
そっと部屋に押し入るものの、人の気配がない。部屋の中には誰もいなかった。
「女将、これはどういうことだ? 何故獲物がいない?」
「どうって、こういうことですよ」
女将は懐から仕込み剣を取り出すと、それを凄まじい速さで振るってきた。
「――がっ」
「――にっ」
女将の最も近くにいた男たちが喉笛を斬られ、声を出すこともなく絶命した。
「女将!?」
「テメエ! 俺たちを裏切って――ひゅっ」
何だこれは。部下たちは女将が裏切ったと思っているようだがそうじゃねえ。
「がはっ」
「ぐあっ」
これは女将の仕業じゃねえ。あの人の良さそうな一般人の女将に、こんな真似が出来るはずねえ。
戦闘慣れした俺たちを圧倒するような凄まじい速度で暗闇の中を移動しながら、相手の急所を瞬時に切り裂くなんて真似、できるはずがねえんだ。
「テメエ! 何者だ?」
俺は問わずにはいられなかった。大声で怒鳴るように尋ねた。
「何者ねえ。アンタたちが捕らえようとしていた獲物よ、お間抜けさん」
女将の姿が一瞬にして変わる。
暗闇の中から現れたのは、見目麗しい女剣士。俺たちが狙っていた冒険者集団の天才女剣士――レイラで間違いなかった。
「お前はレイラ!? 変化していたのか!? 魔道具かスキルか何かを使って!? くそっ、やれ、お前たち!」
「おお――がはっ」
「お頭助けっ――ひゅっ」
「ば、化け物――だっ」
攻撃を仕掛けた仲間たちが、何も出来ずに次々に屠られていく。手足を一瞬で刎ねられ、戦闘不能にされる。
暗闇でこれほどの動きとは、流石の俺様でも何もできねえ。何か特別なスキルでも持っているというのか?
「この女、化けものだああ!」
「に、逃げろぉおお!」
「おいお前ら! 戦え!」
あまりの恐怖に、部下たちは戦意を喪失して走り出していった。情けない野郎共だぜ。くそが。
「た、助け――ぐふっ」
「な、何が――あぁっ」
逃げ出した野郎共は窓から飛び降りて一階の庭へと出るのだが、茂みに隠れていた何かがさっと動き出し、逃げ出した部下の手足を刎ねていった。
緑色の生き物――あれはゴブリン!?
「馬鹿な!? ゴブリンを操っているのか!? それもあんな数、しかも全てが上位種だと!?」
「ご名答ね。まあ操っているのは私じゃないけど」
気がつけば、部屋にいるのは俺一人となっていた。室内にいたものは殺されるか戦闘不能にされ、庭に逃げた者も同様だった。
「ズーク! 何をしている!? そっちはどうした!?」
「残念ながらお仲間のクソ野郎共は床でくたばってるぜ」
「なっ!?」
俺たちのいる部屋に一人の男がやって来る。斧を担ぐように持った小柄な男――確か、ノビルとかいうやつだったか。カバキから見せてもらった似顔絵に描いてあったな。
「ゾォークの旦那……こいつら、強ぇ……」
ノビルは体格で勝るはずのズークの頭を片手で鷲づかみにしながら引きずるようにして運んでいた。
ズークは死んではいないが一方的にボコボコにされたようで、その顔は醜悪に腫れ上がって歪んでいた。
奇襲をかけたと思ったが逆にハメられた。くそ、女将とロビンの奴め、俺たちを裏切りやがったな。
それにゴブリンを操るなんて聞いてねえ。カバキのやつめ、いい加減な情報流しやがって。何が毒蜘蛛の幹部だ。情報も碌に集められねえくせにでかい面してんじゃねえ。
「ちっ、多勢に無勢か!」
「お頭ァッ、助けて!」
「知るかボケ! テメエは殿になりやがれ!」
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幸い、レイラたちは追ってこなかった。俺はポーターを使い来た道を引き返し、急いでアジトに戻った。
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最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
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綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
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これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
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