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五章
宿泊者名簿No.16 盗賊頭ゾォーク6/6(胃の中の蛙)
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「野郎共! 戦争だ! 武器を持て! 裏切り者共を始末するぞ! 牢屋にいる人質の村の女共も全員始末しろ!」
アジトに残っている野郎共に声をかける。返事はねえが、スキル【号令】を使っているから届いているはずだ。
「こいつの力を借りる日が来たか。無駄に食費くらってた分、ちゃんと働けよな」
野郎共の準備が整う間、俺様は地下室に向かい、アイツを解き放つ。
「グルゥウウ」
「へへ、大人しくご主人様の言うことを聞けよ。俺様はお前の飼い主なんだからな」
ポーターと共にカバキから譲られた――支配の指輪。その指輪の力によって支配された化け物――ブリザードドラゴン。
こいつがいれば鬼に金棒。いや、ゾォーク様に竜だ。絶対に負けるはずがねえ。
「ハハハ、天才だか何だか知らねえが! こいつがいれば百人力だぜ!」
ドラゴンを従える俺様は強い。勇者ワタリーなんて目じゃない、大盗賊ゾォーク様だ。
「おいどうした野郎共! いい加減に返事くらいしやがれってんだ! 人質の女共をちゃんと始末したのか!? おい聞いてんのか!? 無視してるとぶっ殺すぞ!」
ドラゴンを引き連れて広間に出るが、誰も集まっていなかった。
腹が立つぜ。俺様を無視しようってのか。この大盗賊ゾォーク様を。許せねえ。
「おい聞いてんのか! 返事しねえとこいつの餌にするぞ!」
何度叫んでも野郎共が誰一人としてやってこない。まさか寝ているとでも言うのか。いやそんなわけはない。
スキル【号令】を何度も使っているんだ。普通は飛び起きて命令に従うはずなんだが……。
「まあ可愛らしいペットですこと」
「ロビン!?」
いつまで経っても部下共は現れなかったが、代わりにロビンが現れた。
「ロビン、テメエ! 俺たちを裏切りやがったな!」
「ロビン。さて誰のことでしょうか? ここにそんな名前の者はおりませんが」
「とぼけんじゃねえ! お前のことだ! どう見てもロビンだろうが!」
「ふふ、単純な奴。目に見えるものだけが真実だとは限らないというのに」
――ボワンッ。
ロビンの姿が変わる。現れたのは冴えない優男――ヨミトだった。
「テメエも変化していただと!? 馬鹿な!? そんな高度なスキルを何人も使えるなんて!? ありえねえ!」
「残念だがあり得るんだよ。これが現実さ」
ヨミトはすかした態度で種明かしをする。
むかつく野郎だ。余裕ぶってる奴を見るとワタリーを思い出す。
「部下共はどうした!?」
「全員仲良くおねんねしているよ。君が陽動に引っかかって無駄足をくらっている間、人質は全て解放させてもらったよ。今このアジトにいるのは、君と俺だけさ。ああ、そのご自慢のペット君もいたか」
「ッ!? くそが!」
余裕をこきやがって。何がペットだ。こいつはそんな可愛らしいもんじゃねえ。
俺様の盗賊団の最高戦力だ。こいつの力さえあれば、お前なんて一撃なんだよ。
「いけ! ブリザードドラゴン! お前の凍てつく炎で、このすかした野郎を焼き尽くせ!」
「グルガアアアッ!」
俺様が命令を下すと同時、ブリザードドラゴンは青い炎を吐き出していく。
ヨミトの野郎が青い炎に包まれていく。
恐怖で身動きもできなかったらしい。ブリザードドラゴンの持つスキル【咆哮】の影響だろう。調子こいてたわりには呆気なかったな。
まあでもザコと言えど鋼等級だ。一撃では死なないかもしれん。ブリザードドラゴンの凍てつく息による後遺症で身動きできなくなった所を、じっくり甚振ってやるぜ。
やがて青い炎が静まっていく。
「――いきなり人を焼き殺そうとするなんて酷い奴だな。焼き殺される人の気持ちになってみろってんだ。まあ俺は人じゃないけどさ」
「なッ!? 馬鹿な!?」
現れたヨミトの野郎はピンピンしてやがった。火傷一つ負った様子がない。
「ブリザードドラゴンの炎を、吸収したとでも言うのか!?」
「ああその通りさ」
ドラゴンの炎を吸収しやがっただと。この間、村にやって来た竜殺しの精鋭――火食いのガイアのような真似をしたというのか。
(それに人じゃないだと、こいつは何を言ってやがる!?)
考えても仕方ねえ。ええい、ままよ!
「いけブリザードドラゴン! 炎が駄目ならその強靭な顎と牙で、こいつを噛み砕け!」
「グガアアアアッ!」
追加の命令を受け、ブリザードドラゴンが突進していく。その恐ろしい口を開け、ヨミトの野郎を噛み砕こうとする――――だが。
――ザクシュッ。ドンッ。
一瞬のことで、何が起きたかわからなかった。ヨミトは直前までピクリとも動いていなかったはずだ。
だが気づけば、ブリザードドラゴンの首が地面に落ちていて、ヨミトの振りぬいたであろう剣はドラゴンの血に濡れていた。
「馬鹿な……ブリザードドラゴンが……」
一撃。あの化け物の竜を一撃で倒したというのか。単独で竜殺しをしたと言う勇者ワタリーだって、一撃でブリザードドラゴンを討伐するなんて真似は無理だろう。
「な、お前はいったい……」
「ドラゴンって言うからどれほど強いかと思ったけど、案外弱かったな。まあ下位種らしいしな」
呆然とする俺に構わず、ヨミトの野郎は悠然と構えていた。ドラゴン退治は初めてだったらしく、色々と分析していやがった。
「さてどんなお味かな」
それから、ヨミトは血のついた剣をべろりと舐めていく。こいつ、変態か!?
「うーん、やはりドラゴンの血は美味しいね。生命力が漲る気がするよ。下位種でこの味なら、上位種ならもっと美味しいのだろうね」
「ッ!?」
血を啜りながら恍惚とした表情を浮かべるヨミト。他者の血液から力を得るらしい口ぶり。
(間違いねえ、こいつは吸血鬼だ!)
ドラゴンよりも恐ろしいとされる悪魔の化け物。金等級が集団で対処しなくちゃならねえという化け物だ。
(勝てるわけねえ。勝てるわけねえ……)
そんな化け物を相手に勝てるわけない。けど勝てなきゃ殺されるだけだ。やるしかねえ。
(俺ならやれる。俺はワタリーより凄いんだ。俺ならやれる!)
スキル【激励】を発動し、自分を鼓舞する。
俺ならやれる。吸血鬼を単独討伐できれば、ワタリーを超えられる。ここで俺がワタリーより上だってことを証明してやろうじゃねえか。
「俺は大盗賊ゾォーク様だぁあああ! うぉおおおお――ッ!?」
一か八か吸血鬼ヨミトに切りかかる――すると、奴は口から凍てつく息を吐き出しやがった。
「がぁあッ……」
身体が痺れていく。火傷を負うと同時、凍傷を追ったように麻痺して動かなくなる。
ブリザードドラゴン特有の凍てつく炎。こいつも使えると言うのか。
いや、先ほどのドラゴンの血から新たな力を得たということか。吸血鬼はなんてデタラメな生き物なんだ。
「きた……ねえぞ……正々堂々……剣で……勝負……」
「寝込み襲おうとしてきた奴が何寝言言ってんだよ。さっきはドラゴン使っていきなり焼き殺そうとしてきたしさ。君、自分が汚いことするのはいいけど他人は駄目ってタイプ? 酷い奴だな君は」
「くそ……」
「今まで好き放題生きてきたみたいだから満足だろう。これからは薄暗いダンジョンの中でその報いを受けるといい。そして我がダンジョンの糧となってくれたまえ。悪党には相応しい末路だろ?」
それから俺は吸血鬼のダンジョンに連れ去られ、そこで今までの報復とばかりに激しい拷問を受けることになった。吸血鬼に魂を売った奴らからの拷問を。
「さあライト。存分にやるがいいさ」
「ええたっぷり仕返ししてやりますよ。こいつには色々めちゃくちゃにされたんで。セインもそうだけど、俺のお尻とかお尻とかお尻とかをね!」
復讐心に満ちた表情で俺を見てくるライト。好青年だった頃とは別人で、その端整な顔が悪に染められていやがる。
くそ、ぞくぞくするぜ。
「うわぁ、こいつ、ライトに拷問されて喜んでるじゃん。ピーがピーピーしてるよ。キモいなぁ」
「とんでもない男ですわねこいつ。汚物にもほどがありますわ」
「……拷問してるのに喜ばせるの癪なんで、エリザさん、スキル【変化】をお借りしてもよろしいですか?」
「ええ構いませんわ」
ライトは姿を変え、わけのわからねえ小汚い爺に変化しやがった。カニバルとかいう爺だ。少し前に王都を騒がせていた馬鹿な貴族だ。
ちくしょう。何でイケメンなのにわざわざそんなブサイクになりやがる。もったいねえだろが。くそったれめ。
「ぐぁああああ!」
それからというもの、何の喜びもない、本当の意味での拷問を受けることになった。死にかけては強制的に回復させられ、また拷問され、延々に続くかと思われる責め苦を受けることになった。
(このまま俺はここで終わるのか……)
ちくしょう。こんなわけのわからない所で死ぬくらいなら、アイツに殺されたかった。
どうせ殺されるならアイツに。アイツに殺されて、アイツの英雄伝に出てくる極悪大盗賊の一人として数えられたかった。
ちくしょう。アイツめ、王国を出て帝国になんて行っちまいやがって。
俺のことなど眼中にもないってわけかよ。俺があれだけ意識して、意識しすぎたあまり道を踏み外しちまったってのに、アイツは俺のことなんて何にも……。
アイツめ。帝国に行くならその前に俺を殺してから行けってんだよ。くそっ、くそくそくそ。
(どうせ殺されるならアイツに……ワタリーに殺されたかったな……)
死に際になって、憎いと思ってたアイツの顔ばかりが浮かびやがる。死のその瞬間までアイツの憎たらしいほどに整った涼しい顔が離れない。
アイツの歪んだ顔が見たかった。悔しさで歪み、苦痛で歪み、慈悲を乞う姿が見たかった。
一度でいいから見てみたかった。あのライトとかいう小僧のように整った顔を歪ませて滅茶苦茶にしてやりたかった。
もし二度目の人生があるならアイツのピーにピーピーして……。
「うわぁ、こいつ死にかけながら変な妄想して喜んでるよ。ドン引きー」
「ホント、汚物ですわね。さっさとくたばりやがれですわ」
吸血鬼たちの嘲りの言葉を聞きながら、俺の命は吸血鬼のダンジョンに吸われていったのであった。
アジトに残っている野郎共に声をかける。返事はねえが、スキル【号令】を使っているから届いているはずだ。
「こいつの力を借りる日が来たか。無駄に食費くらってた分、ちゃんと働けよな」
野郎共の準備が整う間、俺様は地下室に向かい、アイツを解き放つ。
「グルゥウウ」
「へへ、大人しくご主人様の言うことを聞けよ。俺様はお前の飼い主なんだからな」
ポーターと共にカバキから譲られた――支配の指輪。その指輪の力によって支配された化け物――ブリザードドラゴン。
こいつがいれば鬼に金棒。いや、ゾォーク様に竜だ。絶対に負けるはずがねえ。
「ハハハ、天才だか何だか知らねえが! こいつがいれば百人力だぜ!」
ドラゴンを従える俺様は強い。勇者ワタリーなんて目じゃない、大盗賊ゾォーク様だ。
「おいどうした野郎共! いい加減に返事くらいしやがれってんだ! 人質の女共をちゃんと始末したのか!? おい聞いてんのか!? 無視してるとぶっ殺すぞ!」
ドラゴンを引き連れて広間に出るが、誰も集まっていなかった。
腹が立つぜ。俺様を無視しようってのか。この大盗賊ゾォーク様を。許せねえ。
「おい聞いてんのか! 返事しねえとこいつの餌にするぞ!」
何度叫んでも野郎共が誰一人としてやってこない。まさか寝ているとでも言うのか。いやそんなわけはない。
スキル【号令】を何度も使っているんだ。普通は飛び起きて命令に従うはずなんだが……。
「まあ可愛らしいペットですこと」
「ロビン!?」
いつまで経っても部下共は現れなかったが、代わりにロビンが現れた。
「ロビン、テメエ! 俺たちを裏切りやがったな!」
「ロビン。さて誰のことでしょうか? ここにそんな名前の者はおりませんが」
「とぼけんじゃねえ! お前のことだ! どう見てもロビンだろうが!」
「ふふ、単純な奴。目に見えるものだけが真実だとは限らないというのに」
――ボワンッ。
ロビンの姿が変わる。現れたのは冴えない優男――ヨミトだった。
「テメエも変化していただと!? 馬鹿な!? そんな高度なスキルを何人も使えるなんて!? ありえねえ!」
「残念だがあり得るんだよ。これが現実さ」
ヨミトはすかした態度で種明かしをする。
むかつく野郎だ。余裕ぶってる奴を見るとワタリーを思い出す。
「部下共はどうした!?」
「全員仲良くおねんねしているよ。君が陽動に引っかかって無駄足をくらっている間、人質は全て解放させてもらったよ。今このアジトにいるのは、君と俺だけさ。ああ、そのご自慢のペット君もいたか」
「ッ!? くそが!」
余裕をこきやがって。何がペットだ。こいつはそんな可愛らしいもんじゃねえ。
俺様の盗賊団の最高戦力だ。こいつの力さえあれば、お前なんて一撃なんだよ。
「いけ! ブリザードドラゴン! お前の凍てつく炎で、このすかした野郎を焼き尽くせ!」
「グルガアアアッ!」
俺様が命令を下すと同時、ブリザードドラゴンは青い炎を吐き出していく。
ヨミトの野郎が青い炎に包まれていく。
恐怖で身動きもできなかったらしい。ブリザードドラゴンの持つスキル【咆哮】の影響だろう。調子こいてたわりには呆気なかったな。
まあでもザコと言えど鋼等級だ。一撃では死なないかもしれん。ブリザードドラゴンの凍てつく息による後遺症で身動きできなくなった所を、じっくり甚振ってやるぜ。
やがて青い炎が静まっていく。
「――いきなり人を焼き殺そうとするなんて酷い奴だな。焼き殺される人の気持ちになってみろってんだ。まあ俺は人じゃないけどさ」
「なッ!? 馬鹿な!?」
現れたヨミトの野郎はピンピンしてやがった。火傷一つ負った様子がない。
「ブリザードドラゴンの炎を、吸収したとでも言うのか!?」
「ああその通りさ」
ドラゴンの炎を吸収しやがっただと。この間、村にやって来た竜殺しの精鋭――火食いのガイアのような真似をしたというのか。
(それに人じゃないだと、こいつは何を言ってやがる!?)
考えても仕方ねえ。ええい、ままよ!
「いけブリザードドラゴン! 炎が駄目ならその強靭な顎と牙で、こいつを噛み砕け!」
「グガアアアアッ!」
追加の命令を受け、ブリザードドラゴンが突進していく。その恐ろしい口を開け、ヨミトの野郎を噛み砕こうとする――――だが。
――ザクシュッ。ドンッ。
一瞬のことで、何が起きたかわからなかった。ヨミトは直前までピクリとも動いていなかったはずだ。
だが気づけば、ブリザードドラゴンの首が地面に落ちていて、ヨミトの振りぬいたであろう剣はドラゴンの血に濡れていた。
「馬鹿な……ブリザードドラゴンが……」
一撃。あの化け物の竜を一撃で倒したというのか。単独で竜殺しをしたと言う勇者ワタリーだって、一撃でブリザードドラゴンを討伐するなんて真似は無理だろう。
「な、お前はいったい……」
「ドラゴンって言うからどれほど強いかと思ったけど、案外弱かったな。まあ下位種らしいしな」
呆然とする俺に構わず、ヨミトの野郎は悠然と構えていた。ドラゴン退治は初めてだったらしく、色々と分析していやがった。
「さてどんなお味かな」
それから、ヨミトは血のついた剣をべろりと舐めていく。こいつ、変態か!?
「うーん、やはりドラゴンの血は美味しいね。生命力が漲る気がするよ。下位種でこの味なら、上位種ならもっと美味しいのだろうね」
「ッ!?」
血を啜りながら恍惚とした表情を浮かべるヨミト。他者の血液から力を得るらしい口ぶり。
(間違いねえ、こいつは吸血鬼だ!)
ドラゴンよりも恐ろしいとされる悪魔の化け物。金等級が集団で対処しなくちゃならねえという化け物だ。
(勝てるわけねえ。勝てるわけねえ……)
そんな化け物を相手に勝てるわけない。けど勝てなきゃ殺されるだけだ。やるしかねえ。
(俺ならやれる。俺はワタリーより凄いんだ。俺ならやれる!)
スキル【激励】を発動し、自分を鼓舞する。
俺ならやれる。吸血鬼を単独討伐できれば、ワタリーを超えられる。ここで俺がワタリーより上だってことを証明してやろうじゃねえか。
「俺は大盗賊ゾォーク様だぁあああ! うぉおおおお――ッ!?」
一か八か吸血鬼ヨミトに切りかかる――すると、奴は口から凍てつく息を吐き出しやがった。
「がぁあッ……」
身体が痺れていく。火傷を負うと同時、凍傷を追ったように麻痺して動かなくなる。
ブリザードドラゴン特有の凍てつく炎。こいつも使えると言うのか。
いや、先ほどのドラゴンの血から新たな力を得たということか。吸血鬼はなんてデタラメな生き物なんだ。
「きた……ねえぞ……正々堂々……剣で……勝負……」
「寝込み襲おうとしてきた奴が何寝言言ってんだよ。さっきはドラゴン使っていきなり焼き殺そうとしてきたしさ。君、自分が汚いことするのはいいけど他人は駄目ってタイプ? 酷い奴だな君は」
「くそ……」
「今まで好き放題生きてきたみたいだから満足だろう。これからは薄暗いダンジョンの中でその報いを受けるといい。そして我がダンジョンの糧となってくれたまえ。悪党には相応しい末路だろ?」
それから俺は吸血鬼のダンジョンに連れ去られ、そこで今までの報復とばかりに激しい拷問を受けることになった。吸血鬼に魂を売った奴らからの拷問を。
「さあライト。存分にやるがいいさ」
「ええたっぷり仕返ししてやりますよ。こいつには色々めちゃくちゃにされたんで。セインもそうだけど、俺のお尻とかお尻とかお尻とかをね!」
復讐心に満ちた表情で俺を見てくるライト。好青年だった頃とは別人で、その端整な顔が悪に染められていやがる。
くそ、ぞくぞくするぜ。
「うわぁ、こいつ、ライトに拷問されて喜んでるじゃん。ピーがピーピーしてるよ。キモいなぁ」
「とんでもない男ですわねこいつ。汚物にもほどがありますわ」
「……拷問してるのに喜ばせるの癪なんで、エリザさん、スキル【変化】をお借りしてもよろしいですか?」
「ええ構いませんわ」
ライトは姿を変え、わけのわからねえ小汚い爺に変化しやがった。カニバルとかいう爺だ。少し前に王都を騒がせていた馬鹿な貴族だ。
ちくしょう。何でイケメンなのにわざわざそんなブサイクになりやがる。もったいねえだろが。くそったれめ。
「ぐぁああああ!」
それからというもの、何の喜びもない、本当の意味での拷問を受けることになった。死にかけては強制的に回復させられ、また拷問され、延々に続くかと思われる責め苦を受けることになった。
(このまま俺はここで終わるのか……)
ちくしょう。こんなわけのわからない所で死ぬくらいなら、アイツに殺されたかった。
どうせ殺されるならアイツに。アイツに殺されて、アイツの英雄伝に出てくる極悪大盗賊の一人として数えられたかった。
ちくしょう。アイツめ、王国を出て帝国になんて行っちまいやがって。
俺のことなど眼中にもないってわけかよ。俺があれだけ意識して、意識しすぎたあまり道を踏み外しちまったってのに、アイツは俺のことなんて何にも……。
アイツめ。帝国に行くならその前に俺を殺してから行けってんだよ。くそっ、くそくそくそ。
(どうせ殺されるならアイツに……ワタリーに殺されたかったな……)
死に際になって、憎いと思ってたアイツの顔ばかりが浮かびやがる。死のその瞬間までアイツの憎たらしいほどに整った涼しい顔が離れない。
アイツの歪んだ顔が見たかった。悔しさで歪み、苦痛で歪み、慈悲を乞う姿が見たかった。
一度でいいから見てみたかった。あのライトとかいう小僧のように整った顔を歪ませて滅茶苦茶にしてやりたかった。
もし二度目の人生があるならアイツのピーにピーピーして……。
「うわぁ、こいつ死にかけながら変な妄想して喜んでるよ。ドン引きー」
「ホント、汚物ですわね。さっさとくたばりやがれですわ」
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