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七章
宿泊者名簿No.22 毒蜘蛛構成員クロ8/8(三下の最期)
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「報告が遅いと思ったらお楽しみ中でしたか。困りますねえ連絡もなしに遊び呆けているのは」
「カ、カバキさん!?」
楽しみ疲れて一休みしていると、カバキさんがアジトにやって来た。俺たちは一転して緊張した面持ちになった。
「捕らえた人数が些か少ないようですが……。そちらの二人は以前に捕らえたと報告にあった女二人でしょう?」
「は、はい……実は……」
冷笑を浮かべるカバキさんに怯えながら別室にご案内し、そこであったことを全て話した。
「ローパーを五十匹も与えたのに失敗ですか。冒険者を一人も仕留められないとはね。村長の孫一人だけとは大損害ですよ」
「すみません。まさかあんなに強い奴らだと思わなくて……」
「言い訳はいいです。この不始末はどうケリをつけますか?」
「しばらく無給で働きます。どうかご容赦を」
「……まあいいでしょう。それで手を打ちましょう」
右腕の部下たちと一緒に土下座すると、カバキさんは渋々といった感じで許してくれた。
これで当面はどうにかなるとほっとしたのも束の間のこと。あり得ない事態が起きることになった。
「敵襲! クロの旦那、カバキの旦那! 敵襲です!」
警備についていた部下が慌てるように駆け込んできたのだった。
「敵襲だと!? 何を寝ぼけたこと言ってやがる!?」
「本当です! どこからか侵入した三人組にやられました! 捕虜たちも解放されて一緒に暴れてます!」
「なんだと!?」
このアジトは周囲から隔絶された陸の孤島にある。転移装置を使ってやって来なければ絶対に入って来れない場所にある。
つまり侵入者は転移装置を使ってやって来たということだ。
「この施設に侵入者とは……」
まさかの事態に、普段表情を変えることもないカバキさんも少し驚いている様子だった。
「ポーターの鍵が盗まれたということですか。一体どこで? 心当たりはありますか?」
「いえ俺にもさっぱり……あ、もしかしたら見張りに出した連中がやられたのかも」
「大事な鍵を持たせた部下を見張りに出したまま、君は遊び呆けていたというわけですか?」
「ひっ、す、すみません!」
「まあその話は後です。まずは侵入者の撃退を優先しましょう」
「は、はい!」
配下の野郎共に侵入者を排除するように命令を下す。支配の指輪も使い、施設に配備された魔物も総動員して迎撃する。
「どこの誰だかわからねえが、これだけの兵力相手に奇襲なんて馬鹿な奴らだ。全員、仕留めてやる!」
「ではお手並み拝見といきましょうか」
俺とカバキさんは階下で繰り広げられる戦いをしばし見守ることになった。
侵入者は見慣れない男三人だった。そいつらが捕虜を解放して戦っていた。
「ぐがああ!」
「つ、強い……がは」
「ば、化け物……」
迎撃に赴いた野郎共が次々に討たれ、魔物兵も討たれる。
それは一方的な蹂躙だった。たった三人に、拠点の全兵力がやられていった。
「そんな馬鹿な……あり得ない……」
「重武装のオーク兵を一刀両断、ローパーも瞬殺ですか。ゴブリンに至っては肉壁にすらならない路傍の石状態。これは相当に厄介な相手ですねぇ」
侵入者たちの強さに、流石のカバキさんも驚いていた。
「クロ、あの三人に見覚えはありますか?」
「いえ。さっぱりです……」
「そうですか。時機を見るにマッシュ村の冒険者が怪しいところですが……。それにしては対応が早すぎますね」
カバキさんは考え込んだ様子でしばし沈黙していた。
「カバキさん、どうしましょう? このままだと、ここもヤバいですよね?」
「そうですね。ここは間もなく落ちるでしょう」
「じゃあどうすれば? 早く逃げないと!」
「そうですね逃げましょう。でも君は逃げなくていいですよ」
「え、それってどういう――ぐぁあ!」
俺の肩にある印が浮かんできて痛み出す。
毒蜘蛛に入った時に刻み込まれた印だ。カバキさんは支配の指輪を使い、俺に命令を下したのだった。
「ここの施設は廃棄します。君はここで死ぬまで戦って奴らを足止めしなさい」
「そ、そんな……お助け……」
「さようなら。君は思ったよりも使えませんでしたね。とんだ期待外れでしたよ」
カバキさんは冷酷にも俺に背を向け、脱出用の転移陣がある場所に向かった。
俺にそれをとめる手立てはなく、ただ見送るしかなかったのだった。
「ちくしょう、やるしかねえ! 俺が生き残るにはやるしかねえんだ!」
俺は武器をとると、野郎共と一緒に戦うことにした。
相手はこれまでの戦いで疲弊しているはずだ。たかだか三人、簡単にやれる。成長した俺の力を見せてやる。
そう意気込んで立ち向かったのだが……。
「――ぐあああ!」
俺が加勢しようと意味はなかった。焼け石に水。奇襲も何もかも通じない。すぐに全滅となった。
仲間たちの全てが殺されるか手足の骨を折られ、戦闘不能の状態にされちまった。
「お前がリーダーか」
「ぐあっ、は、放せ……」
見知らぬ襲撃者の野郎に首を掴まれ持ち上げられることになった。
(大丈夫だ、俺にはまだアレがある!)
スキルを使えば拘束なんてすぐに振りほどけると思った。それで小さな隙間に逃げ込めば俺様の勝ち――そう思ったのだが。
「何故だ!? スキルが使えないだと!?」
スキル【縮小】を使って逃げ出そうと思ったのに、スキルが使えない。
生まれてこの方、息を吐くのと同じように使いこなしてきたスキルなのに、まるでそんなスキルは元々持っていなかったかのように使えなくなっちまった。
頼みのスキルすら失い、完全に詰むことになった。
「五月蝿い鼠だな。ちょっと大人しくなってよ」
「ぐがあっ、ひいぎぃい!」
――ボキィッ、バキィイ。
俺も他の仲間たちと同様に手足の骨を折られ、その場に投げ捨てられた。もはや逃げることも叶わない。
蘇る悪夢。カバキさんと初めて会った時と同じ恐怖体験を繰り返し、思わず失禁してしまった。
「こいつ、ぶっ殺してやる!」
「まあ待てよハンター。ここで殺すのは勿体ないよ」
解放された村長の孫ハンターが血走った目で駆け寄ってきて俺を殺そうとしたが、男はそれを止めた。どうやら俺をすぐには殺さず捕虜にするつもりらしかった。
「ご主人様、一人足りません。細目の男です」
「例の転移装置を使って逃げていったみたいですね」
「そうか一人取り逃がしたか。逃げ足が速いな。残念だがまあいいさ」
男の仲間が駆け寄ってきて、カバキさんの逃亡を告げた。
(こいつらはなぜ何もかも知ってやがるんだ?)
奴らは奴らにとって敵地であるはずのこの地で、全てを把握しているかのようだった。
(全部筒抜けだったというのか!? 馬鹿な!?)
あり得ないことだ。斥候が得意な俺だからこそ、その恐ろしさが十二分にわかった。
「テメエは一体……」
「俺? そうだね、誰もいないし正体を現してもいいか」
男は何かしらのスキルを使って容貌を変化させていたらしい。
変化が解けて現れたのは、あのヨミトだった。
「お前……あの時のオーク野郎! ヨミト!」
「ん? 君と会ったことあったっけ?」
「くっ……こんな化けもんだったとは……」
「ごめん全然覚えてないや」
ヨミトは俺のことなど何も覚えていなかった。それは当然かもしれない。
カバキさんから力を与えられて強くなったはずの俺ですら、赤子の手を捻るように容易く敗れたのだ。大勢の仲間や魔物兵だっていたのに敵わなかった。
ヨミトにとっての俺という存在など、スライム一匹未満の存在でしかないのだろう。ならば覚えているはずもない。
「俺をどうするつもりだ?」
「ハンターが君の死をお望みだから殺すよ。でもその前に色々と情報を抜き取らせてもらうつもりさ」
「うぅ……」
こうして俺は捕虜となり、ヨミトの拠点に連れて帰られることになった。
「ここは……?」
「俺のダンジョンさ。いらっしゃい、歓迎するよ」
「ひっ、その姿!? お前、きゅ、吸血鬼だったのか!?」
「そう。俺は吸血鬼。そしてここは吸血鬼のお宿さ」
連行された場所――そこはまさかの伝説のダンジョンだった。
そしてなんとあのヨミトは人間ですらない吸血鬼。ダンジョンマスターだったんだ。
「――ぐがああああ! もうやめてくれええ!」
「誰がやめるか馬鹿野郎! リサが受けた屈辱は! 俺が受けた屈辱はこんなもんじゃねえ! 何百回でも潰してやるからな!」
「やめでえええ! ゆるじでえええ!」
「いいぜえ! 女みたいに泣きやがるじゃねえか!」
ダンジョンの最深部。そこで恐ろしい拷問の数々を受けることになった。
血を吸われて血が不味いなどと馬鹿にされたり、村長の孫息子ハンターに報復でボコボコにされたり、サキュバスに干からびるくらい精を搾り取られたり、ローパーに犯されて卵を植えつけられて産む機械になったり――とにかく散々な目に遭った。
拠点での戦いで殺されてた方が何万倍もマシってくらいの扱いを受けることになった。
「もうやめでぐれええええ!」
「俺やリサがそう言ってお前はやめたのかよ、オラァッ!」
「ひぐぅう!」
傷ついたら回復魔法で癒され、回復したらまた傷つけられる。延々とそれが続く。
そうやって女たちを捕虜にしていたのと同じくらいの期間、休む暇もないくらいの苦痛を与えられることになった。最後には髪の毛も真っ白になっちまうくらい、老けることになっちまった。
「俺の上役はカバキって男だ! あの人が毒蜘蛛でどれくらいの立場にいるのかはわかんねえよ! 俺は何にも知らねえんだ! 俺は使いっぱしりよりちょっとだけマシってだけの下っ端だったんだよ!」
「どうやら嘘はついてないみたいだね。よろしい」
俺は持っている毒蜘蛛の情報の全てを吐き出すこととなった。
といっても大した情報は持ってなかったがな。あのアジトでヤバい茸の生産をしていたこと、別の所に魔物の実験をしている研究所みたいな場所があること、上司がカバキさんだったってことくらいだ。
それらを洗いざらい話した後、俺は解放されることになった。自由の身になったってわけじゃない。苦しみから解放されるって意味だ。
「それじゃ楽にしてあげるよ。我がダンジョンの糧となるがいい」
「ああ……ようやくか」
俺は奴の操るローパーに捉えられるとそのまま丸呑みされていった。
(これで終わりか……)
ローパーの体内でじっくりと溶かされていく。とても苦しいのだが、これまでに受け続けてきた拷問に比べれば楽な気がした。
(結局、俺は悪党の世界でも三下にしかなれなかったな……ちくしょう)
粘液まみれのローパーの胃袋の中でそんなことを考えながら、俺は永遠の眠りについたのであった。
「カ、カバキさん!?」
楽しみ疲れて一休みしていると、カバキさんがアジトにやって来た。俺たちは一転して緊張した面持ちになった。
「捕らえた人数が些か少ないようですが……。そちらの二人は以前に捕らえたと報告にあった女二人でしょう?」
「は、はい……実は……」
冷笑を浮かべるカバキさんに怯えながら別室にご案内し、そこであったことを全て話した。
「ローパーを五十匹も与えたのに失敗ですか。冒険者を一人も仕留められないとはね。村長の孫一人だけとは大損害ですよ」
「すみません。まさかあんなに強い奴らだと思わなくて……」
「言い訳はいいです。この不始末はどうケリをつけますか?」
「しばらく無給で働きます。どうかご容赦を」
「……まあいいでしょう。それで手を打ちましょう」
右腕の部下たちと一緒に土下座すると、カバキさんは渋々といった感じで許してくれた。
これで当面はどうにかなるとほっとしたのも束の間のこと。あり得ない事態が起きることになった。
「敵襲! クロの旦那、カバキの旦那! 敵襲です!」
警備についていた部下が慌てるように駆け込んできたのだった。
「敵襲だと!? 何を寝ぼけたこと言ってやがる!?」
「本当です! どこからか侵入した三人組にやられました! 捕虜たちも解放されて一緒に暴れてます!」
「なんだと!?」
このアジトは周囲から隔絶された陸の孤島にある。転移装置を使ってやって来なければ絶対に入って来れない場所にある。
つまり侵入者は転移装置を使ってやって来たということだ。
「この施設に侵入者とは……」
まさかの事態に、普段表情を変えることもないカバキさんも少し驚いている様子だった。
「ポーターの鍵が盗まれたということですか。一体どこで? 心当たりはありますか?」
「いえ俺にもさっぱり……あ、もしかしたら見張りに出した連中がやられたのかも」
「大事な鍵を持たせた部下を見張りに出したまま、君は遊び呆けていたというわけですか?」
「ひっ、す、すみません!」
「まあその話は後です。まずは侵入者の撃退を優先しましょう」
「は、はい!」
配下の野郎共に侵入者を排除するように命令を下す。支配の指輪も使い、施設に配備された魔物も総動員して迎撃する。
「どこの誰だかわからねえが、これだけの兵力相手に奇襲なんて馬鹿な奴らだ。全員、仕留めてやる!」
「ではお手並み拝見といきましょうか」
俺とカバキさんは階下で繰り広げられる戦いをしばし見守ることになった。
侵入者は見慣れない男三人だった。そいつらが捕虜を解放して戦っていた。
「ぐがああ!」
「つ、強い……がは」
「ば、化け物……」
迎撃に赴いた野郎共が次々に討たれ、魔物兵も討たれる。
それは一方的な蹂躙だった。たった三人に、拠点の全兵力がやられていった。
「そんな馬鹿な……あり得ない……」
「重武装のオーク兵を一刀両断、ローパーも瞬殺ですか。ゴブリンに至っては肉壁にすらならない路傍の石状態。これは相当に厄介な相手ですねぇ」
侵入者たちの強さに、流石のカバキさんも驚いていた。
「クロ、あの三人に見覚えはありますか?」
「いえ。さっぱりです……」
「そうですか。時機を見るにマッシュ村の冒険者が怪しいところですが……。それにしては対応が早すぎますね」
カバキさんは考え込んだ様子でしばし沈黙していた。
「カバキさん、どうしましょう? このままだと、ここもヤバいですよね?」
「そうですね。ここは間もなく落ちるでしょう」
「じゃあどうすれば? 早く逃げないと!」
「そうですね逃げましょう。でも君は逃げなくていいですよ」
「え、それってどういう――ぐぁあ!」
俺の肩にある印が浮かんできて痛み出す。
毒蜘蛛に入った時に刻み込まれた印だ。カバキさんは支配の指輪を使い、俺に命令を下したのだった。
「ここの施設は廃棄します。君はここで死ぬまで戦って奴らを足止めしなさい」
「そ、そんな……お助け……」
「さようなら。君は思ったよりも使えませんでしたね。とんだ期待外れでしたよ」
カバキさんは冷酷にも俺に背を向け、脱出用の転移陣がある場所に向かった。
俺にそれをとめる手立てはなく、ただ見送るしかなかったのだった。
「ちくしょう、やるしかねえ! 俺が生き残るにはやるしかねえんだ!」
俺は武器をとると、野郎共と一緒に戦うことにした。
相手はこれまでの戦いで疲弊しているはずだ。たかだか三人、簡単にやれる。成長した俺の力を見せてやる。
そう意気込んで立ち向かったのだが……。
「――ぐあああ!」
俺が加勢しようと意味はなかった。焼け石に水。奇襲も何もかも通じない。すぐに全滅となった。
仲間たちの全てが殺されるか手足の骨を折られ、戦闘不能の状態にされちまった。
「お前がリーダーか」
「ぐあっ、は、放せ……」
見知らぬ襲撃者の野郎に首を掴まれ持ち上げられることになった。
(大丈夫だ、俺にはまだアレがある!)
スキルを使えば拘束なんてすぐに振りほどけると思った。それで小さな隙間に逃げ込めば俺様の勝ち――そう思ったのだが。
「何故だ!? スキルが使えないだと!?」
スキル【縮小】を使って逃げ出そうと思ったのに、スキルが使えない。
生まれてこの方、息を吐くのと同じように使いこなしてきたスキルなのに、まるでそんなスキルは元々持っていなかったかのように使えなくなっちまった。
頼みのスキルすら失い、完全に詰むことになった。
「五月蝿い鼠だな。ちょっと大人しくなってよ」
「ぐがあっ、ひいぎぃい!」
――ボキィッ、バキィイ。
俺も他の仲間たちと同様に手足の骨を折られ、その場に投げ捨てられた。もはや逃げることも叶わない。
蘇る悪夢。カバキさんと初めて会った時と同じ恐怖体験を繰り返し、思わず失禁してしまった。
「こいつ、ぶっ殺してやる!」
「まあ待てよハンター。ここで殺すのは勿体ないよ」
解放された村長の孫ハンターが血走った目で駆け寄ってきて俺を殺そうとしたが、男はそれを止めた。どうやら俺をすぐには殺さず捕虜にするつもりらしかった。
「ご主人様、一人足りません。細目の男です」
「例の転移装置を使って逃げていったみたいですね」
「そうか一人取り逃がしたか。逃げ足が速いな。残念だがまあいいさ」
男の仲間が駆け寄ってきて、カバキさんの逃亡を告げた。
(こいつらはなぜ何もかも知ってやがるんだ?)
奴らは奴らにとって敵地であるはずのこの地で、全てを把握しているかのようだった。
(全部筒抜けだったというのか!? 馬鹿な!?)
あり得ないことだ。斥候が得意な俺だからこそ、その恐ろしさが十二分にわかった。
「テメエは一体……」
「俺? そうだね、誰もいないし正体を現してもいいか」
男は何かしらのスキルを使って容貌を変化させていたらしい。
変化が解けて現れたのは、あのヨミトだった。
「お前……あの時のオーク野郎! ヨミト!」
「ん? 君と会ったことあったっけ?」
「くっ……こんな化けもんだったとは……」
「ごめん全然覚えてないや」
ヨミトは俺のことなど何も覚えていなかった。それは当然かもしれない。
カバキさんから力を与えられて強くなったはずの俺ですら、赤子の手を捻るように容易く敗れたのだ。大勢の仲間や魔物兵だっていたのに敵わなかった。
ヨミトにとっての俺という存在など、スライム一匹未満の存在でしかないのだろう。ならば覚えているはずもない。
「俺をどうするつもりだ?」
「ハンターが君の死をお望みだから殺すよ。でもその前に色々と情報を抜き取らせてもらうつもりさ」
「うぅ……」
こうして俺は捕虜となり、ヨミトの拠点に連れて帰られることになった。
「ここは……?」
「俺のダンジョンさ。いらっしゃい、歓迎するよ」
「ひっ、その姿!? お前、きゅ、吸血鬼だったのか!?」
「そう。俺は吸血鬼。そしてここは吸血鬼のお宿さ」
連行された場所――そこはまさかの伝説のダンジョンだった。
そしてなんとあのヨミトは人間ですらない吸血鬼。ダンジョンマスターだったんだ。
「――ぐがああああ! もうやめてくれええ!」
「誰がやめるか馬鹿野郎! リサが受けた屈辱は! 俺が受けた屈辱はこんなもんじゃねえ! 何百回でも潰してやるからな!」
「やめでえええ! ゆるじでえええ!」
「いいぜえ! 女みたいに泣きやがるじゃねえか!」
ダンジョンの最深部。そこで恐ろしい拷問の数々を受けることになった。
血を吸われて血が不味いなどと馬鹿にされたり、村長の孫息子ハンターに報復でボコボコにされたり、サキュバスに干からびるくらい精を搾り取られたり、ローパーに犯されて卵を植えつけられて産む機械になったり――とにかく散々な目に遭った。
拠点での戦いで殺されてた方が何万倍もマシってくらいの扱いを受けることになった。
「もうやめでぐれええええ!」
「俺やリサがそう言ってお前はやめたのかよ、オラァッ!」
「ひぐぅう!」
傷ついたら回復魔法で癒され、回復したらまた傷つけられる。延々とそれが続く。
そうやって女たちを捕虜にしていたのと同じくらいの期間、休む暇もないくらいの苦痛を与えられることになった。最後には髪の毛も真っ白になっちまうくらい、老けることになっちまった。
「俺の上役はカバキって男だ! あの人が毒蜘蛛でどれくらいの立場にいるのかはわかんねえよ! 俺は何にも知らねえんだ! 俺は使いっぱしりよりちょっとだけマシってだけの下っ端だったんだよ!」
「どうやら嘘はついてないみたいだね。よろしい」
俺は持っている毒蜘蛛の情報の全てを吐き出すこととなった。
といっても大した情報は持ってなかったがな。あのアジトでヤバい茸の生産をしていたこと、別の所に魔物の実験をしている研究所みたいな場所があること、上司がカバキさんだったってことくらいだ。
それらを洗いざらい話した後、俺は解放されることになった。自由の身になったってわけじゃない。苦しみから解放されるって意味だ。
「それじゃ楽にしてあげるよ。我がダンジョンの糧となるがいい」
「ああ……ようやくか」
俺は奴の操るローパーに捉えられるとそのまま丸呑みされていった。
(これで終わりか……)
ローパーの体内でじっくりと溶かされていく。とても苦しいのだが、これまでに受け続けてきた拷問に比べれば楽な気がした。
(結局、俺は悪党の世界でも三下にしかなれなかったな……ちくしょう)
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