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― 参 ― ふたりのこども
不安という名の種が割れても芽は未だ土の中で見えない
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給仕に扮したふたり以外にもうひとり、コック服を着た不審者が捕まったとの報告を受けました。
「それにしてもどうして赤ん坊のルナを拐おうとしたのかしら?拐って何処かで売るにしても、何て言うか、言葉は悪いけど庶民の家なら拐いやすいと思うのよ…例えばお父さんは外に働きに出て留守、お母さんは家事をしていたりうちのように兄や姉がいるならそちらに気を取られているうちに忍び込んだり、もっと酷ければ大人を殺して…ということもあり得るし、何より成功しやすいんじゃないかしら?勿論そんなこと許されないけど、それより態々人が多く常に誰かがそばについている貴族の子供…それも邸からどころか部屋から出ることすら殆どないような赤ん坊を狙うなんてリスクが高すぎると思うの…」
私の言葉に反応したのはまさかのアルフレッドで、しかもその内容も驚くべきものでした。
「ルナはあかちゃんだから、わるいヤツはいまならかてるとおもったんだよ。ルナがおおきくなっちゃったらわるいヤツはかてないの。ルナはとくべつだから」
「とくべつ?」
「うん。ルナはわるいヤツをやっつけられるの。だからせぇれーさんがまもってくれてるんだって」
どうやらルナには不思議な力が宿っているみたいですね。
この国の歴史を紐解くと数十年から数百年に一度『聖女』や『愛し子』と呼ばれる者が生れることがあり、彼らがこの世界にもたらすものはいいことだけとも言い切れないそうです。
というのも、彼らが現れるのは国が混乱期にあることが殆どで、それを収束させるのが彼らの力によるものだとされています。それは裏を返せば彼らがいない世の中は平和だと言っているようなものです。
だからでしょうか、『聖女』『愛し子』という言葉は良くも悪くも使われてしまいます。
例えば誰かがケンカをしているのを止めて仲直りさせる時にも使われる反面、誰かを中心に争いごとが起こりやすい…まぁ主に異性に興味を持たれやすい方や八方美人な方にも侮蔑の意味を込めて使われることもあるのです。
だからこそ誰も自分や自分の子供が『聖女』や『愛し子』の様に自然や人に愛され和をもたらす様な人になって欲しいとは思っても本物の『聖女』や『愛し子』であってほしいと願うような人はいないのです。
「もしかして、ルナは……特別な…その、精霊さんの『愛し子』なの?」
「いとしご?ちがうよ、ルナはせぇれーさんのおともだちなんだよ!」
「お友達だから守ってくれるの?」
「うん!ぼくはルナのおにぃちゃんだからぼくともなかよしになってくれるって!それにいまはぼくもちっちゃいからわるいヤツにかてないでしょ?だからぼくのこともまもってくれるっていってる!」
「アルも…愛し子なの?」
自分の声が震えそうなのがわかります。
子供たちが特別な存在だから恐ろしいのではなく、もしかすると特別なことで傷付いたり悲しむことが増えてしまわないかが心配なのです。
「ぼくはルナのおにぃちゃんだよ!せぇれーさんはルナのおともだちだしぼくはルナのおにぃちゃんだからせぇれーさんとぼくがルナをまもるんだ!」
アルの言葉に頼もしさを感じるとともに不安が広がってしまいます。
この子は…この子達は、これから『わるいヤツ』に狙われてしまうのではないか、人を、国を救うためにたくさん傷付くんじゃないかと、そう心配せずにはいられないのです。
「せぇれーさんはかぁさまのこともとぉさまのこともねぇねたちのこともすきだって!あとね~アロじいちゃんもすきだし~アンナもすきだし~おじいちゃんも~…」
「アル、わかったわ…とにかく精霊さんはルナが好きでルナの家族やルナを大事にしてくれる人達のことも好きだから守ってくれてるってことでいいのかしら?」
「うん!だからかぁさまはあんしんしていいよ!」
どうやら精霊に私の不安が伝わったのでしょう、アルを通して『不安に思う必要はない』と教えてくれたようです。
「でも今はせぇれーさんとぼくだけじゃまもれないくらいわるいヤツがルナをドロボーしにきたからきをつけてねっていってる。ルナといっしょにいてって…」
今日、襲ってきたのは5人でしたが、もしかすると組織のようなものでもあるのかもしれませんわね。あとでデュークにもこの話をしなければ…。
とは言ってもどの様に話せば良いかしら…?
暫く何から話せば良いかを考えていると古参の使用人達と料理人が数名が新しい食事を持ってきてくれた。
食事…と言うより『食材』?
「若奥様、本日はこちらで、皆様の前で下拵えから調理までをさせていただきます。他に不埒者が潜んでないかの確認が取れるまで我慢して下さいませ」
そう料理長が挨拶をする。なるほど、ここにいる者達は全員私達が幼い頃から仕えてくれていたり崇拝と言って良いほどの忠誠心に溢れた者達です。食材から見えているなら、『良くないもの』が入れられるという万が一を考える必要もないし急なリクエストもできそうですわね♡
「急なリクエストは出来ればやめて下さいよ。ちゃあんと計算して仕入れてんですからね」
あら?私声に出してしまったのかしら?
「ミリア嬢ちゃんが考えてる事はぜ~んぶ顔に書いてますよ。アル坊ちゃんの将来のためにも『わがまま』はお控え下さい」
他の使用人達までがうんうんと頷い…え?アンナまで!?解せませんわ…。
仕方なくリクエストは諦め、晩餐は食堂で、同じく食材から調理されていく過程を見せてもらいながら、今日はアルへのご褒美にハンバーグにしてもらったのだけれど、『ちょっとすきにはなれそうにない』なんて言ってた人参がすりおろして入れられていた事に、しかも今までもずっと入っていた上に今回もいつもの様に『おいしい』ことにショックを受けて
「おとなはゆだんできないな…」
なんて、眉をひそめて言っていた姿は本当に可愛らしかったのよ!
因みに『キライ』と言わずに『好きになれそうにない』と言う様になったのは私やデュークがそう言っているのを聞いて真似をしているんですって。アルは私とデュークの事が大好きですものね。
そして今日の事件で男性陣が使っていた『油断』という言葉を早速使ったってところですわね。
「それにしてもどうして赤ん坊のルナを拐おうとしたのかしら?拐って何処かで売るにしても、何て言うか、言葉は悪いけど庶民の家なら拐いやすいと思うのよ…例えばお父さんは外に働きに出て留守、お母さんは家事をしていたりうちのように兄や姉がいるならそちらに気を取られているうちに忍び込んだり、もっと酷ければ大人を殺して…ということもあり得るし、何より成功しやすいんじゃないかしら?勿論そんなこと許されないけど、それより態々人が多く常に誰かがそばについている貴族の子供…それも邸からどころか部屋から出ることすら殆どないような赤ん坊を狙うなんてリスクが高すぎると思うの…」
私の言葉に反応したのはまさかのアルフレッドで、しかもその内容も驚くべきものでした。
「ルナはあかちゃんだから、わるいヤツはいまならかてるとおもったんだよ。ルナがおおきくなっちゃったらわるいヤツはかてないの。ルナはとくべつだから」
「とくべつ?」
「うん。ルナはわるいヤツをやっつけられるの。だからせぇれーさんがまもってくれてるんだって」
どうやらルナには不思議な力が宿っているみたいですね。
この国の歴史を紐解くと数十年から数百年に一度『聖女』や『愛し子』と呼ばれる者が生れることがあり、彼らがこの世界にもたらすものはいいことだけとも言い切れないそうです。
というのも、彼らが現れるのは国が混乱期にあることが殆どで、それを収束させるのが彼らの力によるものだとされています。それは裏を返せば彼らがいない世の中は平和だと言っているようなものです。
だからでしょうか、『聖女』『愛し子』という言葉は良くも悪くも使われてしまいます。
例えば誰かがケンカをしているのを止めて仲直りさせる時にも使われる反面、誰かを中心に争いごとが起こりやすい…まぁ主に異性に興味を持たれやすい方や八方美人な方にも侮蔑の意味を込めて使われることもあるのです。
だからこそ誰も自分や自分の子供が『聖女』や『愛し子』の様に自然や人に愛され和をもたらす様な人になって欲しいとは思っても本物の『聖女』や『愛し子』であってほしいと願うような人はいないのです。
「もしかして、ルナは……特別な…その、精霊さんの『愛し子』なの?」
「いとしご?ちがうよ、ルナはせぇれーさんのおともだちなんだよ!」
「お友達だから守ってくれるの?」
「うん!ぼくはルナのおにぃちゃんだからぼくともなかよしになってくれるって!それにいまはぼくもちっちゃいからわるいヤツにかてないでしょ?だからぼくのこともまもってくれるっていってる!」
「アルも…愛し子なの?」
自分の声が震えそうなのがわかります。
子供たちが特別な存在だから恐ろしいのではなく、もしかすると特別なことで傷付いたり悲しむことが増えてしまわないかが心配なのです。
「ぼくはルナのおにぃちゃんだよ!せぇれーさんはルナのおともだちだしぼくはルナのおにぃちゃんだからせぇれーさんとぼくがルナをまもるんだ!」
アルの言葉に頼もしさを感じるとともに不安が広がってしまいます。
この子は…この子達は、これから『わるいヤツ』に狙われてしまうのではないか、人を、国を救うためにたくさん傷付くんじゃないかと、そう心配せずにはいられないのです。
「せぇれーさんはかぁさまのこともとぉさまのこともねぇねたちのこともすきだって!あとね~アロじいちゃんもすきだし~アンナもすきだし~おじいちゃんも~…」
「アル、わかったわ…とにかく精霊さんはルナが好きでルナの家族やルナを大事にしてくれる人達のことも好きだから守ってくれてるってことでいいのかしら?」
「うん!だからかぁさまはあんしんしていいよ!」
どうやら精霊に私の不安が伝わったのでしょう、アルを通して『不安に思う必要はない』と教えてくれたようです。
「でも今はせぇれーさんとぼくだけじゃまもれないくらいわるいヤツがルナをドロボーしにきたからきをつけてねっていってる。ルナといっしょにいてって…」
今日、襲ってきたのは5人でしたが、もしかすると組織のようなものでもあるのかもしれませんわね。あとでデュークにもこの話をしなければ…。
とは言ってもどの様に話せば良いかしら…?
暫く何から話せば良いかを考えていると古参の使用人達と料理人が数名が新しい食事を持ってきてくれた。
食事…と言うより『食材』?
「若奥様、本日はこちらで、皆様の前で下拵えから調理までをさせていただきます。他に不埒者が潜んでないかの確認が取れるまで我慢して下さいませ」
そう料理長が挨拶をする。なるほど、ここにいる者達は全員私達が幼い頃から仕えてくれていたり崇拝と言って良いほどの忠誠心に溢れた者達です。食材から見えているなら、『良くないもの』が入れられるという万が一を考える必要もないし急なリクエストもできそうですわね♡
「急なリクエストは出来ればやめて下さいよ。ちゃあんと計算して仕入れてんですからね」
あら?私声に出してしまったのかしら?
「ミリア嬢ちゃんが考えてる事はぜ~んぶ顔に書いてますよ。アル坊ちゃんの将来のためにも『わがまま』はお控え下さい」
他の使用人達までがうんうんと頷い…え?アンナまで!?解せませんわ…。
仕方なくリクエストは諦め、晩餐は食堂で、同じく食材から調理されていく過程を見せてもらいながら、今日はアルへのご褒美にハンバーグにしてもらったのだけれど、『ちょっとすきにはなれそうにない』なんて言ってた人参がすりおろして入れられていた事に、しかも今までもずっと入っていた上に今回もいつもの様に『おいしい』ことにショックを受けて
「おとなはゆだんできないな…」
なんて、眉をひそめて言っていた姿は本当に可愛らしかったのよ!
因みに『キライ』と言わずに『好きになれそうにない』と言う様になったのは私やデュークがそう言っているのを聞いて真似をしているんですって。アルは私とデュークの事が大好きですものね。
そして今日の事件で男性陣が使っていた『油断』という言葉を早速使ったってところですわね。
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