脱衣ゲームでカップル成立 ~史上最強の淫魔、光堕ちしてキューピッドになる~

平良野アロウ

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第六章

第198話 洗脳ハーレムのせいで校内の人間関係はグチャグチャな件

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(もう終わった関係だと……そう思っていたのに……)

 午後、文化祭準備を行っている二年D組の教室。かつて吉田綾芽と共に脱衣ゲームのに参加していた藤林誠は、激しい後悔に苛まれていた。
 夏休み中に行われた脱衣ゲームで自分が綾芽との交際を拒んで、それから夏休み明けに綾芽は大幅なイメチェンをしてきた。
 そして今日この日、綾芽には新しく好きな人ができたらしい。相手は率直に言って何ともぱっとしない印象の男子、B組の本宮茂。

 あの時はそれが最善だと思っていた。こうすることが、彼女の気持ちに最も寄り添う形だと思い込んでいた。
 だが今にして思えば、あの時綾芽と付き合うことを選んでいれば……そう思わずにはいられなかった。



 綾芽と同じくルナティエルの矢によって茂に恋させられている桃井宏美は、親友の須崎美奈によってトイレに呼び出されていた。

「宏美、あんたどういうことなの? この前は文化祭の日に純一に告るって言ってたじゃん。いつの間に本宮君に乗り換えたの? それもあんな宏美らしくないアプローチの仕方で……」
「別に? あの鈍感バカには愛想が尽きただけだし、あいつにしてたのと同じやり方じゃ駄目だって思っただけ」
「宏美昨日からおかしいよ。一体何があったの!?」
「何も? 好きな人が変わるくらい、誰だってあるでしょ」
「あ、ちょっと宏美!」

 美奈をつんと跳ね除けて、宏美は不機嫌そうに女子トイレを出て行く。
 突然の親友の豹変に、美奈は戸惑いと悲しみに暮れざるを得なかった。

(一体どうしちゃったの宏美……何でこんなことに……)



 同じ頃。宏美から想われていた男、風間純一は山本大地と共に本日完成した執事服に空き教室で着替えていた。

「なあ、純一。宏美の件なんだが……」

 自分達以外誰もいないこの部屋。今が好機と、大地は昨日から口数の少ない純一に話を振った。

「知ってるよ。本宮に惚れたんだろ」
「いや知ってるだろって……お前はそれでいいのか?」
「……俺が宏美に振られたって言いたいのか?」
「気付いてたのか!? 宏美がお前に惚れてたこと!」
「気付くだろ、あんなにわかりやすいの」

 衝撃の発言に、大地は絶句した。
 この純一という男は、ありえないほど鈍感で宏美の好意には全く気付いていない。その大前提が、知らぬ間に崩れていたのだ。

「一体いつから?」
「さあ……随分前からだよ」
「じゃあ、これまでの態度は……何で気付かないふりしてたんだよ、お前」

 何だか嫌な焦りが身体の内から出てきて、大地の純一へ質問する声は早口になっていった。
 純一は大地に背を向け、空を見上げる代わりに窓を覆った黒いカーテンを見上げる。

「気持ち良かったんだ。一方的に想われてるのが」
「何……言ってんだお前」
「知っての通り、俺は昔っから女子にモテてた。彼女がいたことだって何度かあった」
「何だよ急に。自慢か?」
「でもそれで気付かされたんだ。女子との関係は、自分が一方的に想われてる時が一番気持ちいいんだって」

 背を向けたまま抑揚のない口調で淡々と語られて、大地は恐怖した。小学校から友人関係を続けてきたが、まさかこんな男だとは思ってもいなかった。

「だから、気付かないふりしてきたってのか? 最低だよお前……」
「わかってる。だからきっとこれは罰なんだ。本当は俺も宏美のこと、とっくに好きになってた。でももう遅いんだ。宏美は俺を見限って、代わりに好きになったのは顔が良いわけじゃないけど人を騙さなさそうで裏切らなさそうな優しい本宮。まったくいい皮肉だよな」
「……まったくだよ、馬鹿野郎」

 裏拳で軽く背中をどつくと、純一はよろめきながらも自嘲気味にへらへら笑った。



 部活の時間。美術部では一年生の藤木壮一が作品作りの手を止めて、同級生で茂ハーレムの一員である宮原奈々の方を見ていた。
 奈々は何かと壮一にちょっかいをかけてくる貧乳ツンデレ女子。だが今ではすっかり壮一への関心を無くしていた。

(宮原……何で……)

 壮一は泣きそうになるのを堪えていた。
 元々両片想いの関係であった二人。ルシファーの脱衣ゲームでは壮一が粗相をしてしまったばっかりにカップル成立ならずであったが、その記憶は双方から消されたためゲーム後も両片想い状態は継続となっていた。
 だが夏休み中も二人の関係に進展は無し。そしてルシファーがカップル成立に失敗した女子であることを理由に奈々がルナティエルの矢を撃ち込まれ、その気持ちは完全に壮一から離れてしまったのである。
 せっかくいい感じだったのに、恋愛の勝手がわからず延々と停滞を続けた末のこれ。彼もまた誠や純一と同じく、深い後悔に苛まれていた。



 同じく部員の一人がルナティエルの洗脳を受けている手芸部。他の部員に茂の話をずっとしている吉田綾芽の様子をじっと見ていたのは、島本悠里と相川凛華だ。

「吉田さんも、佐奈と同じ状態になった……」
「一体何が起こってるの……?」

 二人にとって小学校からの親友同士である佐奈は、昨日からまるで別人のように人格が変わってしまった。
 同じように様子がおかしくなり茂に想いを寄せるようになった綾芽の存在は、二人の危機感をより強めるものであった。
 佐奈は二人とは部活が違うため、現在の佐奈の様子を窺い知ることはできない。だが概ね綾芽と同じような感じなのだろうとは予想がついた。



 そしてその佐奈に片想いする星影刃は、卓球部が活動する武道場の片隅で体育座りしていた。その隣には、二年B組のネガティブ大王こと比嘉健吾も。

「だから言ったろ。俺らみたいな非モテ陰キャが恋愛なんかするもんじゃないって」

 失恋に落ち込む友人にかける慰めの言葉が、それであった。
 健吾はこれまでにも幾度となく、刃に同じことを忠告してきた。恋愛なんかするな、どうせ振られる、非モテの自覚を持てと。
 自分自身がモテないからと同じように冴えない風貌の友人にもそうであることを強要してくるろくでもない男だが、それでも刃は何だかんだで友人関係を続けていた。

「……でも本宮君だって地味な方じゃないか。そりゃあいかにもモテる奴に取られたなら勝ち目無いよなって思えるけどさ、俺と同じくらい地味な奴に取られたんじゃやるせないよ」
「どうだかな。あいつ優しいってよく言われるじゃん。優しさなんて何も魅力が無い男がせめて少しでもモテるための最後の砦だろ? そんで俺ら別に優しくもないし。しかもあいつ、女子の幼馴染いんじゃん。女子と話すスキル最初から持ってるんだよ。最初から俺らよりずっと上にいたんだよあいつは」

 刃は何も言い返せなかった。いつも通りの鬱屈した発言であるがそれなりに筋は通っており、落ち込んでいる刃は納得させられてしまった。

「あいつは俺らと違ってそのうち普通に彼女できると思ってたよ。まあ流石にあそこまでモテだすのは予想外だったし、順当に田村と付き合うんだろうとは思ってたけどさ」
「田村さんも、今の俺と同じような気持ちなんだろうか……」



 刃の予感は、当たっていた。
 この日田村響子は部活を休んで、授業後即帰宅した。
 自室に籠り、ベッドを背にして床に腰を下ろし、包み紙とリボンで綺麗に包装された箱を手にして項垂れる。
 まるで石像のようにぴくりとも動かぬ中、眼鏡の奥の瞳だけが揺れていた。
 ただ時間だけが過ぎてゆく中で。不意に鳴ったスマホに響子はびくりと身を強張らせた。電話をかけてきたのは高梨比奈子だ。

「あ、ひなちゃん。どうかしたの?」
「どうかしたのじゃないよ! 響子ちゃんずっと元気なかったから心配してたんだよ!」
「そっか……ありがとう」
「響子ちゃんが元気ないのって、本宮君が女の子に囲まれるようになったことが原因、だよね?」
「……うん」

 比奈子には当然気付かれていた。
 いかにも頼りないほわほわ系ドジっ子イメージのある比奈子だが、響子にとっては信頼できていろんなことを相談できる相手だ。
 だからこそ響子は、己の本心を包み隠さず話した。
 茂が急にモテるようになったことに、危機感を超えて絶望感を感じていること。自分が幼馴染の立場に甘えていたこと。茂の魅力に気付いていたのが自分だけであることに優越感を感じていたこと。毎年贈っていた誕生日プレゼントを、今年は渡せていないこと。
 比奈子は電話越しに相槌を打ち、身を入れて聴いてくれていた。

「プレゼント、今からでも渡しに行こうよ。まだ空だって明るいし……」
「ううん、もういいよ。幼馴染っていったってひなちゃんと二階堂君みたいに家が隣ってわけじゃないし。あんな私よりずっと可愛い子達に好かれてて、今更私を選ぶ理由なんて無いんだもん。もういいの、本当に」
「響子ちゃん……」

 響子は客観的に見て紛れもなく美少女の部類に入る。だが彼女の在籍する二年B組は、在籍する女子全員美少女というアイドルグループかと見紛うくらいの類稀なるクラス。響子は飾り気のない三つ編み眼鏡っ娘という地味な容姿故にその中でどうしても目立たない存在になり、それが彼女の容姿への自己肯定感を無意識下で削っていた面は確かにあるのだ。
 かといってもイメチェンして目立つ容姿になろうといった気にならなかったのは、そんなことせずとも好きな人と良好な関係を築けていたからに他ならない。
 だがそれで容姿を磨く努力を怠ってきたつけが今になって回ってきたというのが、響子自身の認識だ。
 茂ハーレムの一員である吉田綾芽は、一学期までは自分と同じような目立たない容姿の眼鏡っ娘だった。それが一転して清楚かつ爆乳の美少女に変身して、茂に迫っている。今更自分がイメチェンしたところで彼女の二番煎じかつ下位互換に過ぎないことは、よくわかっていた。



 ルナティエルの洗脳ハーレムのせいで、校内の人間関係はもうグチャグチャ。
 ある者は正気を失い本来好きでも何でもない男に恋愛感情を抱き、ある者は豹変した友達を心配し、ある者は失恋に嘆き悲し、ある者は友達の傷口に塩を塗る。
 これを何とかできるのは、ルシファーしかいない。大事になる前にどうにかせねばという焦りもあるが、今は着々と戦いの準備を整える時期だ。
 ルシファーとリリムは、高級マンション最上階の自宅で明日に向けての会議を行っていた。

「大丈夫かな、先生。本宮君が宏美ちゃんや佐奈ちゃんとえっちしちゃったりしてない?」
「本宮自身は現在困惑の感情が強く、この状況を積極的に喜ぶ様子は見られないし手を出す様子もない。その点は幸いと言える。それにまだ本宮にルナティエルの矢は打ち込まれていない。今日のところはルナティエルも明日に向けての準備に徹していると考えられる」

 ルナティエルの使う拳銃型の弓から放たれる弾丸型の矢に感知のチューニングを合わせ、ルシファーはそれを探知できるようになった。
 矢を打たれた四人の女子は部活後通常通り帰宅しており、何か変わったことをする様子は見られなかった。

「奴が動くとしたら恐らく明日。何故なら明日は満月の日。狂気の月の異名を持つルナティエルにとって、最も力が増す日だからだ。そのタイミングで奴は洗脳した女子達を使って何かしらの儀式をするものと考えられる。例えば本宮にも矢を打ち込んで洗脳し、女子達と性行為をさせるとかな」
「儀式って、何のために?」
「さあな。手下達の言っていたことが方便である可能性が出てきた以上、ルナティエルが何をしたいのかはさっぱりわからなくなった。ただ一つ確実に言えることがあるとすれば、明日の夕方ルナティエルの矢は完全に女子達の身に溶け込み取り除くことができなくなるということだ。それまでにどうにか対処せねばならない」
「でもボク達だって負けてないよ! 明日ルナティエルをやっつける準備が完成して、最後の戦いに臨むんだから!」
「ああ、だがその準備について奴に知られていた場合、その対策として今日中に事を起こす可能性も考えられる。その場合不完全な準備での決戦となるが致し方ない。とりあえず覚悟だけはしておけよ」
「りょ!」
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