ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.15

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 そう思ってはいたけれど、いざ美容院に行くと迷いながらもセットをお願いしてしまった。

 ストレートの髪をふんわり巻いてゆるく編み込んでもらった。 

 美容室を出て改めて我に返ると、めちゃくちゃ気合が入っているみたいでとんでもなく恥ずかしくなってきた。

 しかし、せっかくお金をかけてセットした髪をほどくのも勿体なくて、結局そのまま聖夜の店に向かった。



「いらっしゃいませ!」

 若いホストたちの声が一斉に慶子を迎えた。

「聖夜ですね。少々お待ちください」

 客の顔はすぐ覚えるのが仕事の様で、今日はほとんど何も言わなくても席まで案内された。



「あれっ、先生、今日髪型すてきだね」

 洒落たスーツをスマートに着こなした聖夜が現れた。

「来る前にカットしてきたの。で、そのついでにちょっと…」

「へえ、すっごく似合ってるよ。見違えちゃった」

 髪をセットしてくるなんて、先生分かりやすいな。

「そ、そんな、褒めすぎです…」

「お世辞じゃないよ。ホント綺麗だ」



 お世辞でもそんな言葉、言われたことない。

 だから、やっぱり嬉しくなってしまう。

 慶子は頬を赤らめて口ごもった。

 純粋すぎる反応に見ている聖夜の方が恥ずかしくなる。

 聖夜は慶子の天然記念物級のウブな反応になかば呆れながらも、自分のまわりの女性たちとは明らかに違うことに新鮮さを感じてしまう。



「そう言えば、二日酔いは大丈夫だった?」

「うん、それは大丈夫だったけど、結局次の日は一日寝ちゃった」

「へえ、先生って休みの日は何してるの?」

「う~ん、そんな話、面白くなさ過ぎてする気しない…」

 慶子は自分のあまりにつまらない休みの過ごし方を思うと、少し暗い気持ちになる。
 
「そっか、お医者さんは忙しいもんね。じゃあそんなお疲れの先生に、今日はおいしいお酒を俺が選んであげるから」

 聖夜はあまり強くない酒を選ぶとボーイに注文した。

 慶子はこの間の飲んだのが実は強い酒だったとは知らないままだ。



「お待たせしました。ファジーネーブルです」

 ボーイが爽やかな香りのカクテルを運んできた。

「これだったら甘口で飲みやすいよ」

「ありがとう」

 聖夜はワインのような酒を手にしている。

 慶子は乾杯をして聖夜が選んでくれたカクテルを口にした。



「おいしい…」

「だろ?でも、だからと言ってこの間みたいに飲みすぎちゃダメだよ」

「分かってます」

 だけど、こんな風に気分よくお酒を飲んだのはホストクラブが初めてだ。

「そういう聖夜さんは休みの日はなにしてるの?」

「俺?まあ、俺も人に自慢できるようなことはしてないな」

 当然の様にプライベートの話は軽くかわされる。
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