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第二章
純真天使のわくわく
しおりを挟む「チカちゃーんっ」
背後からの呼びかけに、チカは反射的に振り向く。
「みやちゃん」
チカに向けて片手を大きく振っているのは、同級生の女子。笹原美也。早足で昇降口へと向かっていたチカに追いつこうと、小走りで駆け寄ってきている。
「チカちゃん、待ってー」
「ちほちゃんも、どうしたの?」
それから、美也の斜め後ろからもうひとりの声も飛んできた。隣のクラスの兼子智穂だ。
チカが通う祥徳学園の初等科は各学年の定員が八十名。毎年クラス替えしても生徒の顔ぶれは幼稚舎から変わらないのだから、クラスが違っても実質は皆が同級生感覚の幼なじみということになる。
美也と智穂が追いつくのを立ち止まって待っているチカは、淡い茶髪と鳶色の瞳を持つ、小柄な少年。
しなやかに伸びた手足は、すらりと細く、色白で。笑顔をたたえた容貌は、礼拝堂に飾られた宗教画の天使を彷彿とさせる愛らしさだ。
「良かった。追いついたぁ。私たち、チカちゃんにお願いごとがあるの」
「お願いごと? いいよー。何でも言って」
ふたりの友に向けて笑顔で頷いたチカは、よくこんな風に頼まれごとを引き受ける。
明るい性格で、誰にも分け隔てなく接する少年は、自分に出来る範囲のことは嫌な顔を見せずに親切に対応するので、男女問わず、皆から人気がある。
美也と智穂も小柄なチカとほぼ変わらない身長で、性格の良い三人がちょこんっと揃うと『小さな天使たちの癒し効果』が勝手に発動。否応なく他者がほっこりするオプションが各所で展開される仲良しメンバーだ。
「チカちゃん! あのね、折り紙を教えてほしいの」
「折り紙?」
「うん。四つ葉のクローバーの折り紙」
「さっき、ちほちゃんと相談してね。チョコと一緒に四つ葉のクローバーをプレゼントしたら、もっと喜んでくれるんじゃない? って話になって」
「四つ葉のクローバーって、もらったらうれしいでしょ? だからチカちゃん。クローバーの折り方、教えて?」
「なるほどー。バレンタインチョコに折り紙のおまけをつけたいんだね」
代わる代わる口を開く美也と智穂にその度に目線を向け、ふたりの話を最後まで聞いたチカは、深く頷く。
明日は、バレンタインデー。二月の一大イベントの日。ふたりが折り紙を作りたい理由は納得だ。
当日、校内でのやり取りは小学生らしく友チョコがメインになるが、美也と智穂が折り紙のおまけをつけたいと考えているのは友チョコじゃない。それくらい、すぐにわかる。チカも、同じことを考える相手がいるのだから。
「いいね、それ! 今から一緒に作ろうよ。チカも、お花の折り紙をチョコにはさんでプレゼントするっ!」
ナイスアイデアだよ。みやちゃん、ちほちゃん!
いっちゃんにバレンタインチョコ贈りたいけど、この前うっかりケンカしちゃったから、チョコだけじゃインパクトないなー、どうしようかなーって思ってたんだよね。
お花の折り紙で飾ったチョコを、ババンっとかわいく渡しちゃうーっ!
チカ、折り紙は、だいとくい、なんだもんっ。これでバッチリかんぺきバレンタイン! いっきに仲直りだぁ!
午後の陽射しの中で、チカが纏う光のオーラが眩くひらめく。
皆の人気者として誰にも等しく向けられる彼の笑顔だが、今この時、一日を通して最も輝かしい笑みがその口元で弾けている。
それほど、チカの心は最高潮まで浮き立っていた。
「みやちゃん、ちほちゃん。すぐに教室にもどろっ。さっそく折り紙大会だよ。チカ、ロッカーに折り紙の予備、たくさん持ってるんだぁ」
今日一番のチカの笑顔を引き出した友人たちの手を引き、軽やかにUターン。チョコを作るために帰宅を急いでいたのだが、友人たちからの依頼は、今のチカにとって願ったり叶ったりの展開となった。
自分得な頼まれごとなのだから、ラブリースマイルを晒し放題。美也と智穂、仲良し二人を引き連れた少年は、にこにことスキップ混じりだ。
果たして、壱琉の鼻持ちならない自惚れは、概ね核心をついていた。
「そういえば、四つ葉のクローバーの花言葉って、なんだろ。『仲良し』とか『大好き』って意味のお花があればいいのになぁ。そしたら、いーっぱい折って、チョコと一緒にいっちゃんに渡すのにっ」
壱琉が俺様思考で決めつけていた、『アイツも絶対に、俺が不足しているはず』という図々しい予想はズバリと的中していた。
壱琉と同様、チカも早く仲直りがしたくて、翌日のバレンタインデーを幼なじみと話すきっかけにしようと考えていたのだから。
ウキウキと、さっき後にしてきた教室へと戻っていくチカは、一週間の冷却期間を経て、おかしな方向にキレた壱琉が起こすだろう行動の予想などつかない。
「ふふっ。いっちゃん、ぜったい喜んでくれるねっ」
滅多に笑わない壱琉がどんな風に自分からのチョコを喜んでくれるか、嬉し楽しい想像で脳内がいっぱいになる。
仲直りした自分たちの絵を思い描き、ただただ、わくわくと胸を躍らせていた。
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