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第三章
おにいさんの乱入【1】
しおりを挟む「チカちゃん、できたよ。見て?」
「私もできたー。チカちゃん、みやの四つ葉のクローバーも見て」
「あ、キレイだねぇ。ちほちゃんもみやちゃんもバッチリすてきに作れてるよ。あのね、ふたりがクローバーを折ってる間に、チカもお花の折り紙を作ったからもらってくれる? はい、みやちゃんは桃の花」
「わぁ、ありがと」
「ちほちゃんには、赤のチューリップね」
「ありがとう、チカちゃん」
「——おい! 何やってんだ」
えっ? いっちゃん?
きゃっきゃうふふと和やかに折り紙タイムを繰り広げていた教室に、突然の侵入者。知りすぎるほどに知っている長身の輪郭が目の前に現れ、チカは目を見開く。
いっちゃんだ。いっちゃんだよ。なんで? どうして、ここにいるの?
驚きすぎて声も出せない。ふわふわ感でいっぱいだった場の空気を一気に不穏に転じた侵入者を食い入るように見つめるのみ。
「何だ、これ。ふざけるのも大概にしろよ」
けれど、整った横顔を無言で見つめる時間はすぐに終わる。
「チッ。腹たつわー。なんで、智穂?」
突如として教室に現れた学ラン姿の大男は、自分ではなく、智穂の真正面に立っているのだと気づいてしまったから。
「おい、智穂!」
「ひっ!」
甘い中低音をどす黒く変貌させた壱琉に名を呼ばれた友人が、怯えた表情で全身を硬直させる瞬間を見てしまったから。
「ちょっ、いっちゃんっ? どうして、ここにいるの? てゆうか、何をおこってるの? ちほちゃんをおどすの、やめてっ!」
ビリビリと肌を刺す凶悪な波動を放ち、智穂を見下ろしている壱琉にチカがしがみつく。
なぜ初等科の校舎に高校生の壱琉がいるのか。なぜ、壱琉が一番に話しかけたのが自分ではなく智穂なのか。見当もつかない。が、少しモヤっとしつつも、どう見ても憤怒の表情の幼なじみから智穂を守らねばと思った。
身長百八十五センチの高校三年生と、クラスで一番小さな小学三年生。圧倒的な身長差のせいで、チカがしがみつけるのは壱琉のヒップになる。怯えている友だちのために制止に入ったものの、ヒップにプリプリと頬を擦りつけているだけでは何の役にも立たない。
「人聞き悪いこと言うな。脅してねぇよ。ところでお前、そうやってくっついてきてんの、すげぇ可愛いな。ちょっと抱っこさせろ」
腕力はてんでお話にならなかったが、『ヒップにほっぺプリプリのこうかはばつぐん』だったようで、クスリと笑った壱琉に小柄な肢体はすぐに抱き上げられてしまった。
「わわっ!」
近い、近い。お顔が近いよ、いっちゃん。
わーん、一週間ぶりのいっちゃんだぁ。お顔、いつ見てもキレイだなぁ。かみの毛もサラッサラだし、すっごく良いにおいするー。きょうあくなお顔してるのに、どうしてこんなにカッコいいんだろ。ずるいよっ……あ、あれ? でも待って。チカ、今はうっとりしてる場合じゃ……。
「お前の定位置、そこな。俺は今から智穂に物申すことがあるから、終わるまで大人しく抱っこされとけ」
大好きな壱琉とのひさびさの密着で一瞬のうちにミーハー脳内になったチカだったが、智穂に向けて眉をひそめた相手の『物申す』発言で、ハッと我に返る。
そうだった! どうしてかわかんないけど、いっちゃん、ちほちゃんに怒ってるんだよ。ごかいをとかなくちゃ、だよね!
「おい、智穂」
「やめて、やめてーっ。ダメだよ、いっちゃん。タイホされちゃうから、もうやめて!」
「あ?」
「チカ、知ってるよ。こういうの、『きょうかつ』って言うんだよ。大きい人は小さな子をいじめたらダメなの。『きょうかつは、はんざい』なの。だから、やめてっ」
「何言ってんだ、お前。俺は恐喝も犯罪もかましてねぇ」
「だって、すごくこわいお顔で『ふざけるな』って言ってたよ。チカたち、楽しく折り紙してただけなのにっ」
「それだよ、それ。折り紙だ。俺は、『そのチューリップをチカに返せ』って智穂に言いたいだけだ」
「へっ? チューリップ?」
大好きな人を犯罪者にするわけにはいかないと必死で壱琉の首にしがみついていたチカは、思いがけない返答に目を丸くする。見開いただけで零れ落ちそうな円らな茶瞳が、ゆっくりと目線を動かす。それまで見つめていた壱琉の切れ長の目元から、智穂の机へと。
そういえば、教室に現れてからずっと、壱琉はそこを睨んでいた。智穂自身ではなく、〝智穂の机の上〟を。
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