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第四章
無自覚天使の翻弄【1】
しおりを挟む「いっちゃん。ハッピーバレンタイン!」
「おう」
「はい、チョコレート! あのね、チカね! 今年はがんばって手作りしたのー」
「そっか。サンキュ」
翌日、またもや初等科まで出張った保護者ヅラの高校生によって、チカは宮城邸へと連れられてきた。
学ランを着ていてさえ妖しいフェロモンが強烈に放たれている男に小さな天使が抱っこされて運ばれる図は、それを初めて見る者の脳内に『通報、する?』という危険信号を流すのだが、当人たちのラブラブぶりがすぐに伝わるため、壱琉が冤罪にかけられることはない。
「早く開けてみてー。昨日やくそくした折り紙でかわいく飾ってあるんだよ」
「赤いチューリップか?」
「うんっ。チカも調べたよ。チューリップの花言葉」
「そうか」
「だからね、ピンクのチューリップも折ったの。チューリップのダブル祭りだよっ」
「待て。ピンクだと? ちょっと調べるから待て。ピンク、ピンク……うおっ!」
——ガゴッ
おかしな叫びとともに、壱琉の手からスマホが滑り落ちた。
「いっちゃん、どしたの? だいじょーぶ?」
「大丈夫だ。チューリップのダブル祭り、サンキューな」
床から素早くスマホを拾い上げ、思わず見せてしまった狼狽を急いで無表情の下に隠した壱琉だったが、皮のソファーを軋ませて隣から覗き込んでくるチカに口元が緩んでしまう。唇を噛みしめて我慢しようにも、にやけが隠しきれない。
やべ。どストライクでやられた。こいつめ。とんだ天使ちゃんだな。
「赤が『あいのこくはく』でぇ、ピンクが『あいのめばえ』でしょ? 大好きと同じ意味の『あい』の花言葉をダブルでならべてみたよー。だってバレンタインだもんねっ」
やべ。花言葉、やべー。
花言葉なんて迷信に過ぎない。花だって、所詮、単なる飾り。そう思ってたのに、チカが俺のためにそれを選んで折ってくれたってだけで、こんなにも貴重な物に見える。
折り紙? ただの紙の工作だろ。俺はやんねぇっていきがってたガキの俺よ。お前は記憶の中で制裁対象だ。
赤いチューリップの花言葉は、愛の告白。だから、壱琉は昨日、チカからそれを手渡された智穂に『チカに返せ』と迫った。
初等科の昇降口で張るも、なかなか出てこない想い人を教室まで迎えに行ったところ、美也と智穂に当人が何かをプレゼントしている現場に遭遇した。秒でネット検索すれば、智穂が手にした折り紙がまさかの『愛の告白』を意味するブツで。カッとなって教室内に飛び込んでしまったというのが、昨日の(恥ずかしい)真相。
大人げないヤキモチなので、小学生三人にアイスを奢り、無かったことにした。
「チカね、決めたの。赤いチューリップは、これからずっといっちゃんにだけプレゼントするね。みやちゃんとちほちゃんも、そのほうがいいって、なんか力強く言ってたし」
「う……」
大人げないヤキモチ野郎のレッテル、アイスを奢っただけでは消失していなかった。
それも然り。壱琉が智穂相手にカッとなったのは、智穂が男子だから。チカが赤いチューリップを渡したのが女子の美也だったなら、もう少し冷静でいられたかもしれないと本気で思っている。
普通は女子相手のほうがショックを受けるものだが、性癖が歪んでいる自覚があるので、怒りの方向も捻じ曲がっている。
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