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3 恋ぞつもりて… #3
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――――愛しい相手との、せつなくも哀しい、別れの口づけ。
カグヤは、知っていたのです。
ひとたび天界へと戻れば、地上での記憶を全て失ってしまうことを。
そして、二度と同じ場所へ降りることができないことを。
けれど、彼は確信してもいたのです。
ミカドと、自身の想いの強さを。
例え記憶を失おうとも、遠く離れたとしても、必ず再会できることを――――
――――――――――――
大きな拍手と歓声の中、幕がおり、エンディングを告げる音楽が鳴り止んだ。
その瞬間を待っていたかのように、すっと立ち上がる。
無言で、俺と同じように跪いていた相手役の天城に手を差し伸べた。
神妙な顔つきの天城が、ゆっくりと俺の手にその手を乗せ、立ち上がる。
――グッ!
――ドスン!
「うっ」
鳩尾に一発入れ、握っていた手を支点にして床に投げ落としてやった。
「きゃっ! 何してるの、秋田くん!」
舞台袖にいた比奈瀬が慌てて駆け寄ってきたが、顔を背けて無視。
「天城も大丈夫っ?」
エンディングまで我慢してやったんだ。
おまけに、これくらいで済ませてやるんだから、天城には感謝してもらっても釣りがくるぞ。
無様に転がった天城を睨みつけながら、カツラに指を差し入れる。シャラシャラと耳障りな音を聞かせてくる簪を全て抜き、苛立ちを込めて足元に投げ捨てた。
「ぎゃっ、何やってんの? この後、外で記念撮影なのに!」
「そんなもの、撮らない。このまま帰る」
あぁ、気分悪い。
「えぇっ? 駄目よ。主役が居なきゃ、意味ないじゃない」
「そんなの知るか」
「……ナル」
――ビクッ
「話しかけてくんな。近寄るな」
怒りのせいか、声が震える。
「ちょっと何なのよ、ふたりとも。劇では、あんなに息ぴったりだったのに」
「……っ、気持ち悪いこと言うな!」
「あっ、秋田くん!」
「ナルっ!」
もう、その場に居たくなくて、舞台袖から外に飛び出した。
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