もふもふホワイトタヌキに転生したオレ~ほら第二王子、もふもふしてもいいんだゼ☆

まと

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ニナだよ

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「おまえ…あの時の…」


おっ、おじさん!!?

突然現れたのはパン屋のおじさんだった。
こうしてホワイトタヌキの姿で会うのは二度目だ。

そうか、初めて会ったのはこの辺りだったんだよな。
パン作りに欠かせない、木の実が豊富に実っているこの場所で。

驚いて目を見開くおじさんに、一歩、二歩とゆっくり歩み寄る。

「みぅ…」(おじさん)

「タヌキ…」

「みぅ…!」(おじさん!)

「タヌキぃっ!!!」


オレ達は互いに駆け寄り抱き合った。
まるでキラキラと光り輝く世界の中、スローモーションのように。

「おまえ!久しぶりだなぁ!元気にしてたのか??」

わしゃわしゃと、頭や身体を撫でられる。

もっと、もっと撫でて。

元気にしてたよ。でも久しぶりじゃないよ、なんなら昨日おじさんの店にサンドイッチ用のバゲットを買いに行ったんだから。

というかお腹も撫でてとオレは信用している人にしか見せない、プリティーなピンクのぽんぽこ腹をおじさんに見せつける。

「くっ…!かっ、可愛やつめ!何度ここに来ても姿を見せないから、寂しかったんだぞぉっ」

お腹を優しく撫でられ、その心地よさにうっとりと目を細める。
さすがパン職人。オレは今、パン生地のようにおじさんに捏ねられている。なんちゃって。


「あんた、何やってるんだい?」

「おとうたん?」

おばさんに、ディル!ふたりも森に来てたのか。


「しっ、そんな大きな声出したらこいつが警戒しちまうっ」

「…こいつって…タヌキかい?」

不思議そうな顔でオレを見るおばさん。

「ああ、おそらくな。野生のタヌキなのに、まあ人懐こいんだ」

オレは立ち上がっておばさんとディルの前にちょこんと座り、危害はないよとアピールする。

「みぅ~」

「あれまあ本当だ。可愛らしいねえ」

「きゃーかわいっねぇ」

オレに触れたそうにディルが手を伸ばす。昨日も王子が綺麗に洗ってくれたから汚くはないと思うけど…。

ディルが触りやすいように頭を下げる。
少し心配そうなおばさんを安心させるようにだ。

噛まないから大丈夫だよ。撫でて、ディル。

小さな手がふわりふわりとオレの頭を撫でる。いつもはオレが、ディルの頭を撫で撫でしているから何だか不思議だ。

「まぁ、本当に野生なのかい?こんなに人間に慣れて…ふふっ、お利口なタヌキだこと」

「そうだぞ、こいつは利口で甘えたがりの可愛いやつなんだ」

そしたらおばさんも優しく撫でてくれる。

その手が暖かくてじわりと胸が熱くなる。

王子達とはまた違う、オレにとっての大事な人達。大事な人達の筈なのに、いつだって後ろめたさを感じる。

魔物が人間に化けて、まるで本当の人間かのように振る舞った。
その事が申し訳なくて、罪悪感を感じてしまう。

オレ、おじさん達を騙している。

今更ながらにそれを感じ、すぐにでも逃げ出したくなる。


「にな、にーな」


ドキリとして、ディルを見る。
え?バレた?


「ディル、何言ってんだ?どこにニナがいるって?」

「あはは、確かに真っ白で赤みがかったまんまる目はニナそっくりだねぇ」

「そいやニナから、王都の土産に白いタヌキのぬいぐるみを貰ってたなぁ」

「にーな!」

「みゃう…」

本当にニナなんだよ。
…でもそれを言ってしまったら驚かせるよな。それか、嫌われるかもしれない。

ごめんね。おじさん、おばさん、ディル…。

オレはひと鳴きして、三人から背を向ける。

「なんだ、もう行くのか?」


「みゃーん」(ばいばい…みんな)



しょんぼり歩き出そうとしたその時、お腹に手を回される。

「みっ!」

「ニナここにいたか、殿下がお探しだぞ…と、あなたがたは…」


えっ?アティカス?!


どうやらオレを探していたアティス。

オレを抱き上げながら訝しげにおじさん達を見る。


「ニナ?いや…私らはこの近くの村に住む者ですが…。…って、王族騎士団…!?」

「あ、あんた」

アティカスの纏う濃紺のローブには、王族騎士団を表す紋章が施されている。

それに気付いたおじさんとおばさんは、何が何だか分からずおろおろと顔を青ざめさせていく。

オレもどうしたらいいか分からずおろおろとしてしまう。
このままの姿じゃ、アティカスとも喋れないし!

そしてそこへ、


「アティカス、ニナはいた?」

「殿下、ニナはこちらに…」

おっ、王子!!!





「ひぃっ、でっ殿下??!」




おじさんとおばさんは更に顔を青くさせ、肩を震え上がらせた。


何故ならそこに、冷酷非道と噂される第二王子が現れたのだから。







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