サークル戦記 〜そして「空気」だった青年は独裁者になった〜

高梨龍彦

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第2章

第12話 増えていく責任と優越感

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 同じ週の金曜日、刈谷からの招集で、班の人間が考古学研究会の活動教室に集められた。

「みんな、お疲れ様です。先日のサークルで決まった通り、この班では『市内の忘れられた遺跡特集!』についての展示準備を行うことになりました。そこで、本日は、該当の史跡をピックアップする作業と、夏休み中の業務割り振りについて決めたいと思います」

 刈谷の司会で、班のミーティングが始まったが、案の定、三年生の集まりは悪く、出席しているのは半分ほどだ。皆、何かしら理由をつけて出席を断ってきたらしい。

 まあ、こんなものだろうとは思った。

 サークル内でも、活動への熱量は人それぞれだ。そもそも、同好の人間が集まって楽しむだけの場所なので、こうしたイベントを面倒に思う人間がいるのは当然である。

 特に刈谷班は、宍戸など三年生が仕切っている班とは異なり、後輩の指示を聞かなければならないため、三年生が乗り気にならないのは仕方ない。

「それと、この前お伝えした通り、俺が副会長の仕事で、班の企画を手伝えないタイミングもあると思います。なので、その際には、この企画の発案者である、神原くんにまとめ役をやってもらいますので、よろしくお願いします」

 刈谷から突然水を向けられ、戸惑いながら、「よろしくお願いします」と挨拶をした。

「ではまず、史跡について提案がある方いますか——」

 刈谷の声に答えて、班員から幾つかの提案が上がり採用されていった。

「もう少し件数がほしいな。神原、なんか用意してある?」
「あっ、はい。幾つかピックアップしたものがあるので、参考にしてもらえればと思います」

 一応、企画のために図書館で用意しておいた資料を渡す。

「おー、良いの用意してあんじゃん。ちょっとみんなで見てみて、良さそうなのありますか?」

 用意した資料が功を奏し、班員からの提案の他に三件が選ばれた。展示方法についても、各史跡の現場写真に説明文書を添えて展示することに決まった。

 その後、更に班を細かく分け、各史跡の担当が振り分けられた。僕は、市内で一番大きな駅から、バスで行ける場所にある城趾を担当する事となった。真木も同じチームに振り分けられた。

「よし、じゃあこんな感じで。あと何か提案ある人いますか?」

 刈谷の声に、真木が手を上げた。

「あの、これって、各史跡の場所とかって、どこかに展示するんですか? 俺、あんま詳しくないから、地図で場所示してもらわないとピンとこないっすね」

 確かに、真木の意見はもっともだ。僕たちは地域の史跡に一般の人よりは詳しいので、言われればなんとなく場所はわかるが、見物客には全く伝わらないだろう。

「あー、そりゃそうだ。忘れてたな。じゃあ、全チーム協力して作ってこう。大きい地図を印刷するか、ジオラマにするかってとこか?」

 刈谷が二つの選択肢を示したことで、班員たちは、ジオラマ派と地図派に分かれた。

 これは、確かに難しいところだ。ジオラマは綺麗なものが用意できれば展示の目玉になるだろうが、出来の悪いものは逆効果だ。外注する予算も無いし、自分たちで作るのも自信はない。かといって地図だけでは味気ない。

 議論が停滞したところで、刈谷が口を開く。

「結論出ないな。困ったときの神原ってことで、なんかいい案ないの? 神原?」

 また、突然こちらに飛んできた。

 そんなこと言われても何もないに決まっている。しかし、「ないです」と言ってしまえば、それで空気が凍るのは目に見えている。

 無能だと思われるのも避けたかった。無い知恵を絞り、以前どこかで見た展示を思い出して口を開いた。

「……そうですね。例えば、完全なジオラマは難しいと思うので、等高線を立体的にした地図にするのはどうですか。あれなら、切り貼りするだけでそれなりの物になる気がします」
「おおー、さすが神原。それでいいじゃん。名軍師だな」

 思わず、少し顔が熱くなる。持ち上げられるのは苦手だが、悪い気はしない。

 刈谷が僕の意見に賛同を示したことで、ミーティングは一気にまとまった。

 等高線の立体地図は各史跡担当チームが協力して作ることになり、僕がその責任者を任された。

 次々に増えていく責任で、押しつぶされそうなほどのプレッシャーを感じてはいたが、自分のチームを持つという優越感もほんの少しだけ感じていた。

 その後、史跡ごとにチーム分けされ、夏休み中に予定を組んで、担当史跡の現場写真撮影と資料の作成を行うことに決まった。そして、夏休み前最後のミーティングは終了した。

「夏休み中にやるのかー。ちょっとめんどいな」

 帰り道、駐輪場へ歩いていると真木から本音が漏れた。

「そうだね。展示って頑張ってもお客さん来ないしね」
「そうそう。でも、学祭参加しないとサークルの存続要件満たさないって刈谷さん言ってたしな。学祭なんてスポーツとか軽音とかの連中に任せておけばいいのに」
「まあね、文化系のサークルは、出店やるところも少ないだろうしね」

 実際、文化系のサークルで飲食などの出店を出すところはほとんど無いらしい。普段から騒がしいサークルがキャンパスの広場で、出店を出して売上ランキングを競っている中、文化系サークルは、割り振られた教室でひっそりと展示を出すのが一般的だという。

「そういえば、史究会はなにやるんだ?」
「史究会は会誌を発行するだけだって。当日は、配布のために会員が一人ずつ持ち回りで受付するんだってさ」
「あー、それは。当日暇だろうな」
「そうだろうね。俺でも立ち寄らないと思うもん」

 こちらもつい本音が出た。自分の所属するサークルを悪く言うようで気が引けたが、それでも率直な気持ちだった。でも、考古学研究会での準備が大変そうなので、史究会はこの程度でラッキーだったかもしれない。

「てか、史跡の写真どうする?」
「日程決めて撮りに行かないとね。でも俺、城郭はあんまり詳しくないんだよな」

 僕と真木は二人共、同じ城趾の担当に割り振られていた。

「そうだっ、城郭ならめっちゃ詳しいやついるじゃん。斉藤に協力してもらおう」

 真木の言う通り、斉藤なら専門分野だから詳しいだろうし適任だ。

「いいね。斉藤は中世城郭が専門だからピッタリだね」
「それに、終わったら、うちで麻雀もできるしな」
「そっちが本題になってない?」
「バレたか」

 真木がいたずらっぽく笑った。
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