サークル戦記 〜そして「空気」だった青年は独裁者になった〜

高梨龍彦

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第2章

第13話 服部の忠告

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「悪いな、こっちの班の用事に付き合わせちゃって。自分の班の仕事もあるだろうに」
「全然、全然。この城『中世城郭の最高傑作』とも言われてて、夏休み中に見てみようと思ってたから」

 夏休みに入って数日経った日曜日。ジリジリと照りつける夏の日差しの中、学園祭のための資料写真を撮りに集まった。

 あまり人数はいらないだろうということで、真木と僕、そして班は違うが助っ人を頼んだ斉藤の三人で行くことにした。

「まず、どこから行こうか?」

 斉藤の問いかけに、僕は正直、どことも明確には示せなかったが「見栄えのする写真が撮りたい」と素人のような希望を伝えてしまった。

「見栄えがする写真か……、見栄えは難しいかもしれないけど、色々説明しながら本丸の方にいってみるか」

 斉藤に先導してもらいながら、ハイキングコースのようになっている道を進んで行く。
 歩きながら、道の所々で斉藤が遺構について説明をしてくれた。

「ここ、谷みたいになってるのわかる? ぱっと見、ただの窪みに見えるけど、実はこれ空堀っていって、敵の侵入を防ぐための仕掛けなんだ」

 真木が「ふーん」と少し唇を突き出しながら話を聞いている。

「建物がある城は行ったことあったけど、こういう城もけっこう面白いんだな」

 僕もそう思った。一見するとただの山道のようなところも、詳しい人が一緒だと楽しさが全く違う。

「おお、わかってくれっか。普通の人がイメージする城は、天守閣とかがあって綺麗に整備されたものだろうけど、こういう城趾は土地の起伏を利用したり、実戦に備えた作りが見えて面白いべ」

 斉藤の話し方が、普段より早口になっている気がする。

 歴史学は好き嫌いが分かれる分野だし、大抵の人はそれほど好きではない。だから、自分の話を聞いてくれる人が現れたときに、つい嬉しくなってしまうのはとてもよくわかる。

 そうして、楽しそうに話す斉藤の説明を聞きながら、要所で写真を撮りつつ、三時間ほど山道を歩いた。

「さてと、これで大体のポイントは回ったかな」
「ありがとう。おかげでいい写真が撮れたよ」
「いやいや、俺も三人で回れて楽しかった」

 夏休みに呼び出してしまって申し訳ない気持ちもあったが、楽しんでくれたようで良かった。展示用の写真も準備ができたし、今日の目的は無事に達成されたと思う。

 山を下り、汗ばんだシャツを手でパタパタとさせながら、帰りのバス停へ歩いていると、真木の中での「今日の目的」が始まった。

「このあと二人ともうち来るだろ? 服部さんにも声掛けてあるから。十七時くらいに来るってさ」
「うん、行く行く。汗かいたから一回帰ってシャワー浴びたいけどな」
「そっか。神原は?」

 僕も一度帰って着替えたかった。ちょっと、このまま一晩過ごすのは気持ち悪い。

「そうだね、俺もそうしようかな。服部さんと同じくらいに行けばいい?」
「いや、暇だから、早く来てくれよ」

 少し家でゆっくりしようかと思ったのだが仕方ない。とにかく、このあとの予定も決まり、バスと電車を乗り継いでそれぞれの家に一旦帰った。

 部屋に着くと、こもった熱気を少しでも逃がすため窓を開け扇風機をつけた。それから、汗で湿ったシャツを洗濯機に放り込みシャワーを浴びる。

 汗を流し部屋に戻ると、午後の日差しが障子で和らげられ、畳の上に明るく広がっていた。扇風機から送られる風も、とても気持ち良さそうだ。

 真木との約束通りすぐに家を出て、真木の家に向かうつもりだった。だが、誘惑に負けた僕は、三十分ほど、畳の上でゴロゴロと休憩をしてから家を出た。

 自転車を漕いで、大学までの道を少し外れた場所にあるマンションに着き、一階の部屋の呼び鈴を押す。ガタガタと音が聞こえて中から真木が出てきた。

「遅いぞ、もっと早く来られただろ」
「そんなことないよ、すぐ来たじゃん」
「ふーん、まあいいや。とりあえず、暑いし中入れよ」

 真木に言われるまま中に入ると、エアコンが効いていて、とても涼しかった。窓側に置かれたテーブルには、いつものように麻雀のセットが用意されている。

 服部が来る時間までは、まだ一時間以上あるのに気が早いことだ。

 僕は、部屋の奥まで進み、テーブルの左側の席を陣取った。

「なんか飲むか?」
「なにある?」
「麦茶とか」
「じゃあ、麦茶でお願い」

 普段は雑なイメージの強い真木だが、料理や家事はなぜかしっかりとしている。部屋はいつ来ても掃除されているし、夜食を作ってくれるときもある。

「二人が来るまでどうするか」
「ねー、暇だね」
「そうだ、イカサマのやり方教えてやろうか」

 そう言って、幾つかのイカサマを教えてもらった。種を聞けばこんなもんかとも思うが、違和感を与えないスピードで作業できる気はしなかった。

「まあ、お前はこういう事するより、真面目に戦うほうが合ってるかもな」
「うーん、て言うか、そんなに手が早く動かせないよ」
「ハハハ、神原トロいからな。まあ、できないことはやらないほうがいい。見つかったら罰符だから」

 もとより、小心者の僕にはそんなことできるはずもないので、実際やることは無いだろう。普通に遊んでいるときでも、役が揃うと震えてくる手を隠すのに精一杯だ。やってみたいという憧れはあるが、イカサマなんてしたら、絶対にバレてしまう自信がある。

「そうだね、俺は地道にいくよ」
「うん、お前はそれがいいよ」

 そんな話をしていると、インターホンが鳴り、真木が「おっ、どっちか来た」と立ち上がって玄関へ向かう。聞き耳を立てると、どうやら服部が先に着いたらしい。
 真木に連れられて入って来た服部に軽く挨拶をした。

「おお、神原。元気にしてたか?」
「してましたよ。先週も会ったでしょ」
「おお、そうだな」

 服部お決まりの適当な会話だ。

「そういえば、誰かに聞いたけど、刈谷がお前のこと褒めてたってよ。頑張ってるな」

 服部から褒められ、照れ隠しに「言われたことをやってるだけです」と答えた。

「そうっすね。神原は意外とやるやつなんですよ」

 真木も褒めているのか馬鹿にしているのかわからない雰囲気で笑いながら言う。

 そこへ再びインターホンが鳴った。斉藤も到着したのだろう。真木が玄関へ迎えに出て、服部と二人になったとき、服部が先程までとは違う、真面目な顔でこちらを向いた。

「神原、あんま刈谷に近づき過ぎない方がいいかもしれないぞ。まあ、ずっと考研でやっていくならそれでもいいんだけどな……」

 以前から、微妙な距離感のある二人だとは思っていたが、相手のことを悪く言うのは珍しい。

 なぜなのかと理由を聞こうとしたところに、真木と斉藤が部屋に入ってきた。なんとなく、他の二人がいる所で触れてはいけない話題な気がして、開きかけた口を閉じた。

 その後は、軽く四人で話してから、いつもの麻雀が始まった。服部の言葉は気になったが、遊び始めてしまえば気になるのは牌の動きだけになる。

 今日は、タネを聞いたので、真木の手元も見ていたが、特に何かしている様子はなかった。

 僕が気づかないだけかもしれないけど、真木はそういう事をやる場を選んでいるのだと思う。この場は勝ち負けというよりも、皆で楽しく遊ぶことが大事と判断しているのだろう。

 その後、「腹が減ったな」という服部の提案で、コンビニへ買い出しに行った以外は、ずっと話をしながら麻雀を打っていた。

 気づけば朝になり、疲れはあるけど、こういう時間は悪くない。むしろ、こんな時間こそ、ずっと望んでいたものだと感じていた。
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