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う~ん…尚弥ってゲームでも思ってたけど、弟がいたらこんな感じなのかなぁ。
守ってあげたいタイプだ。

尚弥から香る桜の香り。
昔親に連れていってもらった植物公園の桜の花の香りによく似てる。
ほのかに甘くて「桜の花って匂うんだ!」って、子どもながら驚いたんだよな。

「花屋敷…くん?」

「ハッ……あぁ!俺の事はアキラで良いよ!」

「うん…アキ…ラ。」

ニッコリと笑う姿の後ろに花が見えるぜ…ゲームじゃないから実際にはないけどさ。
尚弥は俺よりも身長が低い。
身長の低い友達ゲットだぜっ♪ 
この世界、みんなデカいんだよな。

いやぁ~可愛い~な~。

お互いほんわかした雰囲気になった時…スッと、背中に悠斗の手が触れてきた。

「………?」

「尚弥、昨日は…その…こちらに来てすぐに編入して来たアキラが心配で…大切な相談だったのに早々に切り上げてしまって…ゴメン。」

横にいた悠斗が少し前に出て尚弥に謝った。
あ、昨日俺が注意したもんな。
俺の背に手を添えるように触れているので尚弥には見えていないが…服越しに悠斗の手の平から熱を感じる。

…と、思ったら…背筋に爪を立てられた。

「…んっ…」 

「どうかした?」

こ・い・つ…昨日の仕返しかぁぁぁ!
よっしゃっ!受けて立~つ!!

「いやぁ~何でもないっ!ベッド変わったし、眠り方が悪かったかなぁ~ちょ~っと背中に違和感が!それより昨日聞いたよ。酷い対応したんだって~っ?こ~いつぅ~っ!」

冗談に見せ掛けて本気で腹パンチしようとしたら笑いながら上手くかわされてしまった。おのれぃっっ!

「ちゃんと話を聞くようにってアキラに怒られたよ…本当にそうだよね。」

悠斗のヤツ…シレッと瞳を潤ませながら人の背中に何しやがるっ!

「あ…うぅん、こちらこそ何度も夜にゴメンね。俺…相談出来る人がいなかったから…でも昨日の悠斗は…ちょっと俺も驚いちゃった。」

「あっ!良かったら俺にも話してよ!!聞くだけなら出来るからさ!」

「ウフフ、ありがとう。アキラって初めて会った気がしないな。」

ですよね~っ☆
だって、ゲームで一緒だったもん。

「時間が無くなるね、早く朝ご飯食べなきゃ!」

俺達は急いで朝ご飯を食べて学校へ行った。
授業自体は落ち着いて受ければどうにかこなせそうだ。
後から聞いたら補習授業も充実しているし先生達も気さくで話を聞きに行きやすい。
クラスメートも中等部からの持ち上がりが多くて育ちのせいかみんな穏やかでイジメもない。

体育祭…と、言うのはなくて陸上競技大会がゲームをしていた時に5月のイベントにあったそうなので、秋の運動会ではなく秋の文化祭だ。
花園学園の文化祭は4日間。
今回の生徒会主催イベント「姫はお前か?!姫を探してご褒美ゲットだぜ!!」は、文化祭最初の日だ。
一般入場のない生徒のみの日に行われる。
各教室の出し物は…ここは驚くほど俺達一般人の出し物と同じだった。
一般の生活の勉強の為に資金や約束事などが多く制限された範囲の中でどれだけ動けるかを見るという事だろう。
俺達のクラスは執事カフェだ。
カフェの内容はカフェ経営関係者、カフェの内装は建築デザイナーの関係者を親に持つ生徒がいるので、それぞれが自然と役割を持って動いている。

俺は…何すりゃ良いかなぁ…
色々興味深いけど…途中参加だし入り辛いな…

「あ、アキラ~!」

教室でクラスメートの1人が声を掛けてきた。
「花屋敷」がクラスに2人いてしまうので、俺は名前で呼んでもらうようにしている。
「花屋敷」だと反応し辛いしな。

「何?」

「お前、まだ担当決まってなかったよな?良かったら接客に来てみないか?人が足りないんだ。」

「あぁ、俺で良いの?俺、執事の仕事とか無理だよ?」

「アハハ、執事って言っても文化祭のカフェだから。言葉遣いとか気を付けるだけで大丈夫だよ。」

「そっか、なら大丈夫かな。」

声を掛けてくれたのは華田 蓮。
尚弥より更に小さく、ショートボブの髪型に目が印象的でエキゾチックな顔立ち。
黙っていると美少女だが、話すと男気溢れるヤツですぐに友達になった。
メインの人物紹介にはなかったから、モブ…なんだよなぁ。
香りは何だろ…良い匂いだけど、知らない匂いだな。
あれ?そういや、同じモブキャラの佐奈田さんは匂わなかったけど、キャラによって匂わないのかな?

放課後はみんなそれぞれの担当のエリアに行ってディスカッションしながらお互い連携を取って動く。
蓮がユニフォームの件で呼ばれてバタバタと走って行った。

この雰囲気、好きだなぁ。

「あ、悠斗。悠斗は何の担当になったの?」

他のクラスメートとの話が終わった悠斗がこちらに来たので聞いてみた。

「ん?俺は…クラス委員と一緒に全体を見てるから…担当はないかな。」

「全体…凄いな。」

「凄くないよ。それよりアキラは何するか決まった?」

「うん、蓮が誘ってくれて接客してみるよ。面白そうだしさ。俺、これでもバイトはカフェだしな。」

「…アキラ…ちょっと…」

悠斗に腕を掴まれて、一番後ろの窓際にあるカーテンの裏側に連れて行かれた。
今日も天気が良く白い学校のカーテンは開放された窓からの心地良い風に緩くはためいていて、俺達2人がカーテンの裏に来ても涼みに来たと思われるくらいだろうか。
実際涼しいな。

ガヤガヤとそれぞれの仕事をしながら動き回る音や声がしていたのが、1枚のカーテン越しになると少し静かになった。

あ~空が高いなぁ…

「…ねぇ…アキラ…」

スルッと腰に手が回る。

「ちょっ……悠斗っ…ここ…学校っ!」

「大丈夫…この場所のカーテンは俺達の膝上くらいまでの長さだし、今はみんなそれぞれ動いているから気付かないよ。」

相変わらず抱き締める力が強ぇな!
俺も懲りずに逃げようともがくが全く歯が立たない。

「は…な…っ…んっ…俺…まだ付き合うとか…OK…してないじゃんっ…!」

周りが気になり過ぎて小声で話す。
ドキドキし過ぎて心臓が痛くなってきた…

「アキラ…他の人にご奉仕するんだ…」

「あぁ…うん……執…事ぃ…カ…フェ…だからなっ…」

もうっ!恥ずかしいから離れてほしいっ!!

「ズルい…俺もご奉仕…してほしいのに…」

「文化祭…だろぉっ!お前…の…休憩時…間に、相手っ…してやるからっ…離せ…ってぇ…」

「やだ…」

悠斗がぐっと俺を引き寄せて耳元で囁いた。

「……それじゃ…他の人が先になっちゃうじゃん…ねぇ、アキラ…この世界の一番最初のご奉仕…俺に……して…?」

「………っ!」

こ~い~つ~っ!
狙ったな?!ワザとだろ!
いつも耳元狙いやがってっっ!!
今日は構えたから声出さねぇからなっ!

「わ…分かったよ…っ!じゃあ、一番最初は文化祭じゃ無理だから、練習がてら部屋でしてやるっ!だから、は~な~せ~っ!」

俺は目を瞑って無我夢中で悠斗の胸を押した。

「…了解。」

___チュッ___

__ん?__

……チュッ?
今何か頬に柔らかいのが当たった?

「アハッ…隙あり♪」

ブァァァッ!
俺は一気に顔が赤くなった。

「なっ?!お前っ!」

「約束だよ、楽しみにしてる。」

「そろそろ開放してあげる♪」と、何事も無かった様に悠斗がカーテンの外に出てしまった。

俺はというと…
あまの恥ずかしさで火照る顔を鎮めるのに、しばらくその場から離れられなかった。
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