【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん

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3章。【神喰らう蛇】と対立

17話。【神喰らう蛇】に戻って来いと言われるが、もう遅い

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 まさかこんな辺境に【神喰らう蛇】四番隊隊長のギルバートがやって来るとは驚きだった。
 4番隊は対人殲滅部隊と呼ばれる。対人戦闘のエキスパートを集めた部隊だ。

「ギルバート? 【銀翼の鷲】を潰すために、わざわざお前がやって来たのか?」

 俺の一言に、ギルド内に戦慄が走った。

「ひっ!? まさか……こ、こここの人が、【千の顔を持つ死神】ギルバートですか!?」

 受付嬢が身を縮こませた。

「あの小国フィーゲルの王族をたったひとりで皆殺しにしたっていう!?」

 ミリアもその噂を聞いたことがあったのか、壁際まで後退した。

「いやはや、昔の話です。今は冒険者ギルド【神喰らう蛇】の部隊長として、非合法な暗殺などからは足を洗っていますよ? 何より美しいレディたちに怯えられると、いささか傷つきますね」

 ギルバートは肩を竦めた。
 この男は5年ほど前までは、大陸最強の暗殺組織【闇鴉(やみがらす)】のエースとして辣腕を振るっていた。だが、俺の親父、闘神ガインと戦って破れ、【神喰らう蛇】に引き抜かれたという経緯がある。

 【神喰らう蛇】の7つある部隊の隊長は、いずれもこのような逸話を持つ化け物どもだ。友好的に見えても決して油断はできない。
 俺は何があっても即座に対応できるように身構えた。

「今では世のため人のため、野盗どもや国家転覆を企むテロリストを掃除する毎日です。どうぞ、お見知りおきください」

 ギルバートは敵意が無いことを示すかのように優雅に会釈する。
 野盗やテロリストの掃除とは、要するに殺しだ。やっていることは、暗殺組織にいた時となんら変わらなかった。
 各国政府はギルバートを罪に問うより利用した方が得策だと、過去の罪をあえて不問にしている。この男を敵に回すのを恐れているのだ。

「ギ、ギルバート隊長、なぜ!? この件は俺たちに任せると……」

 大男の言葉は最後まで続かなった。
 ギルバートが、その頭を掴むと床に叩きつけたのだ。

「ごぶッ!?」 

「いやはや。躾のなっていない部下で申し訳ございません。支部を出すにあたって掃除をしろと命じたのですが。
 何を勘違いしたのか、油を売った挙げ句、若やご領主様にご迷惑をおかけしてしまうとは……深くお詫びいたします」

 ギルバートは、にこやかに告げる。

「【神喰らう蛇】に【銀翼の鷲】と敵対する意思はない。ということか?」

「その通りでございます。さすがは、若!
 お詫びとして、ギルドの修理費とご迷惑をおかけした皆様への治療費、慰謝料を出させていただきます。もちろん、エリクサーなど弁償していただく必要はございません。元はと言えば、エリクサーを必要もないのに酒場に持ち込んで騒いでいた、こいつらが悪いのですから」

 驚いたことにギルバートは全面的に非を認めた。
 狭い室内での戦いは、ギルバートの得意分野だ。矛を収めてくれるなら、それにこしたことはなかった。

「それなら、俺から言うことは何も無いが……受付嬢さん、それで良いか?」

「は、はい! 私たちとしても、それなら願ったり叶ったりと言いますか……あの、本当に慰謝料まで出していただけるのですか?」

「ギルバート隊長、話が違……」

 大男が何か反論しようとしたが、ギルバートは大男を床にめり込ませて、黙らせる。
 大男の全身から力が抜けた。気絶したようだ。

「もちろんです。今後、我々【神喰らう蛇】がユーステルムに再度、進出するにあたり【銀翼の鷲】の皆様方とは、ぜひ良好な関係を築きたいと思っております」

 ギルバートは友好的な笑みを浮かべる。この男の本質を知らなければ、誰もが魅了されてしまうような笑顔だ。
 
「殊勝な心がけね。良いわ。それなら【神喰らう蛇】のユーステルムでの活動を許可します」

 ミリアがフンと鼻を鳴らしつつ、許可を出した。
 ミリアとしてはエルフや野盗の脅威に対抗するために【神喰らう蛇】に常駐してもらった方が安心なのだろう。

「誠にありがとうございます、ミリア・ユーステルム様。それと若、よろしければ私の4番隊の副長として【神喰らう蛇】に復帰していただくことはできませんか?」

 ギルバートは耳を疑うような申し出をしてきた。

「俺は親父に追放された身なんだが……?」

「はい。ですが、各隊長にはギルドマスターの許可無く、部下をスカウトできる権限があるのは、ご存知でしょう?
 今回、ご迷惑をかけたこのふたりは、我が隊の期待の新人でしてね。歯牙にもかけずに倒してしまうとは、驚きましたよ」

「え、ええっ!? アッシュさんは【銀翼の鷲】にたった今、登録されたばかりなんですよ。引き抜きなんて……!」

 受付嬢が、腰が引けながらも抗議の声を上げる。

「これは申し訳ございません。必要とあれば、そちらのギルドマスターとも話をつけさせていただきますので、なにとぞご容赦を」

 口調は丁寧だが、ギルバートには有無を言わせぬ迫力があった。受付嬢は、小さな悲鳴を上げて引き下がる。

「悪いが俺をスカウトなんてしたら、親父から目をつけられるじゃないか?」

「マスターには私から説明しますので、何の問題もございません。若の【植物王(ドルイドキング)】は、対人戦闘向きだと、私は見ております。人間を殺すには毒の一滴でもあれば、十分ですからね。
 マスターの求める強さと、私の求める強さには違いがあるのですよ」

 対人戦闘向きか……
 確かに毒草をうまく活用すれば、暗殺などには大いに役立つだろう。今回も麻痺毒で、敵のひとりを無力化できた訳だしな。

「悪いが、俺にはもう帰るところがあるんでお断りだ。なにより、4番隊に入ったら冒険者ギルド潰しをやらされるんだろう?」

「……これは手厳しい。今回のことは誤解だと申し上げたハズですが?」

 ギルバートはあくまでシラを切るつもりのようだ。
 実際のところ、4番隊の活動内容にはブラックボックスの部分があり、それこそ暗殺のような非合法スレスレの仕事をしているという噂もある。そんな仕事を押し付けられたら、たまったものではない。

「それを信じろと? 『上司の命令は神の命令』が【神喰らう蛇】の掟だからな。
 俺には今、やらなくちゃいけないことがあるんで、そんな不自由な組織に入るつもりはない」

「不自由な組織? 力ある者にとっては、楽園だと思いますがね」

「力ある者がやりたい放題できる地獄の間違いじゃないか?」

 いずれエリクサーが手に入ったら、サーシャを俺のパーティメンバーに引き抜いてやりたいと思う。
 追放されて、よくわかった。弱者を踏みにじることを何とも思わない親父のやり方は、間違っている。

「なるほど……わかりました。今回はこれで失礼させていただくとしましょう。
 ですが、闘神の名を引き継ぐのは。私は若をおいて他にいないと考えておりますよ」

 ギルバートはふたりの部下を両手に担ぎ上げる。

「それに【銀翼の鷲】は、かわいそうですが、いずれ消えることになるでしょう。いくら、若がいたとしてもね」

 同じ街に冒険者ギルドがふたつある場合、顧客の取り合いになる。
 今後、【神喰らう蛇】に顧客を奪われ、【銀翼の鷲】は苦しい経営を余儀なくされるだろう。

 ギルバートが退出すると、息が詰まるほどの重圧が、一気に消えてなくなった。

「あ、あありがとうございました。アッシュ様! おかげで助かりました!」

 【沈黙(サイレンス)】の魔法が解けた女の子が、俺に頭を下げてきた。

「す、すごく、怖くて! アッシュ様がいなかったらどうなっていたか、わかりません!」

「いや、俺の古巣の連中が、怖い思いをさせて悪かった。えっと、今日から俺とリルもここの一員なんで、仲良くしてくれるかな?」

「リル、今日から冒険者になった!」

 リルがバンザイして笑顔を見せる。

「あっ、はい! もちろんです! あの、た、大変恐縮ですが、私とパーティを組んでいただくことはできませんか!?」

「えっ?」

 突然の申し出に、俺は戸惑った。
 ありがたい申し出なんだけど……リルが何をしでかすか不安なんだよな。
 もうちょっとリルに常識を身につけさせるまでは、俺たちだけで行動しないとヤバい。
 なによりフェンリルの正体を隠さないといけないしな。

「あっ! 申し訳ありません。私ごときが、超一流の冒険者であるアッシュ様のパーティメンバーにしていただきたいなんて……さ、さすがに身分不相応でした!」

 女の子は何を勘違いしたのか、ものすごい勢いで頭を下げた。

「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

「で、できれば記念に握手だけでも、していただけませんか?」

「その程度で良ければ喜んで」

 女の子が右手を差し出してきたので、握り返す。

「きゃぁ! アッシュ様に握手してもらちゃった! しばらく手は洗わないでおこう!」

 女の子は飛び跳ねて喜んだ。

「あっ! ずるい! 私もアッシュさんと、握手したいです!」

「私も! 私も! すごく、カッコ良かった!」

 それを皮切りに、無事だった女性冒険者たちが、俺に群がってきた。

「えっ、いや、ちょっと!」

「お兄様! 私という者がありながら、何をデレデレしているんですか!?」

 ミリアが肩を怒らせて突っかかってくる。

「ミリアとは兄妹だろうが!?」

「結婚を前提に、兄妹としてお付き合いしているんですよね、お兄様!」

「いや、もう訳わからん! そんな兄妹がいてたまるか!」

 俺の絶叫が冒険者ギルドに響き渡った。
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