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第5章。勇者率いる王国軍を倒す

61話。執事ランスロット、外道勇者を叩き斬る2

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【執事ランスロット視点】

「あっ? 僕の聞き間違えかジジイ? 誰が誰を成敗するって?」

 勇者アベルが小馬鹿にしたように笑います。

「ランスロット、その名前、聞いたことがあるぞ。確か、近衛騎士団長が自分の剣の師匠だとか言って、やたらと持ち上げていたなぁ? ランスロットが課した伝統の剣の素振り1日1000回をやれなんて言われてさ。はっ! バカバカしいから団長の顔面をぶん殴って黙らせてやったぜ?」

「ふっ、左様。1日でも基本の鍛錬を怠れば、剣の腕は鈍るもの。貴人を護る騎士となれば、日々の鍛錬は当然のこと。救国の英雄と謳われるカイン坊ちゃまは、【剣術レベル5】の境地に至った今でも、1日3000回の素振りを日課とされております。勇者とは名ばかりの痴れ者とは、およそ格が違うという訳ですな」
「なにぃいいッ!?」

 勇者アベルは怒りに表情を歪めました。
 宰相殿から勇者アベルは、カイン坊ちゃまに並ならぬ対抗意識を持っているとお聞きしましたが誠のようです。

 こうもやすやすと挑発に引っかかるとは……

「ハッ! もうろくしたのかよジジイ? 僕がカインに劣るとでも言うのか!?」
「おや自覚が無かったのですかな? 英雄と言えば、今や誰に聞いてもカイン坊ちゃまの名前が上がります。逆に賊と言えば、勇者アベル殿の名が真っ先に上がりますな。この事実をどうお考えですかな?」

 私は勇者アベルを注意深く観察しました。
 立ち振る舞いを見れば、相手の剣の腕前はわかります。
 剣を肩に担いだ勇者アベルの剣士としての腕前は、およそド素人ですな。

 しかし、神からえこひいきされたとしか思えない身体能力は驚異の一言です。
 なるほど、この国で一番エライなどと、驕り高ぶるのも頷けます。

「そんな間違った声は、この戦争が終われば覆るさ! いいか、真の天才には努力なんて必要ねぇんだ! 努力なんてのは、弱者がすることだ!
その証拠にお前の弟子の団長も、そこにいるアンデッドナイトも、僕にはまるで手も足も出なかったんだぞ!」
「ランスロット殿、か、かたじけない……!」

 アンジェラ皇女の魔法によって回復したガウェインが、私に礼を述べてきました。

「主君を守るために戦った貴殿に敬意を表しますぞ、ガウェイン殿。ここは私に任せて、アンジェラ皇女と共に下がられよ」
「あ、ありがとうランスロット。助かったわ!」

 アンジェラ皇女も【強化回復薬《エクスポーション》】で治療を済ませたようです。これで、もう大丈夫ですな。

「弱者ですと? まさか勇者殿には姫君を見事守り抜いたガウェイン殿が、弱者に見えるのですかな? やはり勇者殿の目は節穴ですな。たとえ無様に這いつくばろうとも、ガウェイン殿こそ真の強者です。貴様などより、はるかにまさる!」
「……はっ! なんだそりゃ? 近衛騎士団長も、そう言えば似たようなことを言ってたなぁ。誰かを守るために剣を振るう者が最強だとか、なんとかよぉおおおッ! うぜぇ、うざ過ぎだぜぇええッ!」 

 勇者アベルは癇癪を起こしたように叫びました。

「だったらよぉ! てめぇを今すぐ半殺しにして、目の前でそのお姫様をピーしてやるぜぇええッ。2度と舐めた口が聞けねぇようにな! ギャハハハハハッ!」 
「……やってみるが良い」

 私は剣を鞘に納め、腰を落としました。
 最速の剣を求めた私が行き着いた答え。それは、東方武術の流れを組む【居合い】です。

 鞘走りを使って剣を加速させる斬撃奥義。敵は斬られたこともわからぬまま絶命する。
 刹那の一瞬。その一撃にすべてを賭けて放つ技です。

「くたばれジジイ!」

 勇者アベルの姿がブレました。
 まさに神速の踏み込み。
 またたく間にヤツは私の間合いに侵入し、剣を振り下ろします。

 しかも、どうやら人の視覚を狂わす幻惑スキルを使用し、攻撃を見切らせないようにしているようです。

 しかし、その寸前に私はユニークスキル【看破《かんぱ》】を発動させていました。

=================

【看板《かんぱ》】
 相手の保有スキルを見破り効果を半減させます。

=================

 100以上のスキルを持つという勇者──確かに恐るべき相手ですが、スキルと身体能力の強さだけを頼りにしているなら、付け入る隙はあります。

 まさか、そのスキル効果が突如半減するなどと、夢にも思わないでしょうからな。

「秘剣【朧月《おぼろづき》】!」

 私が極めた【居合い】は、剣を抜く手も見せずに、敵を斬り伏せるというもの。
 次の瞬間、鞘から放たれた剣は、閃光となって勇者の胴を斬り裂きました。
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