98 / 147
懐かしのヴィルヘルム
見習い料理人と流され島の正体
しおりを挟む海。
大した波風もなく、ほぼ凪に近い穏やかな海面。
そこに──
ぷかぷか。
バラバラの、イカダだったものと、その丸太に掴まって浮いている、ガレイトたちの姿があった。
皆一様に、冷めた目で互いを見ており、頭上を飛ぶウミネコの声のみが、その場に虚しく響いていた。
◆
ガレイトたちのイカダが全壊する、数時間前──
ガレイトたちは、流され島の潮流問題に直面していた。
場所は同じく海。
それも流され島近海。
ガレイトはそこで、木を削りだして作った櫂を持ち、カミールの指示を仰いでいた。
「さて、カミール。続けて悪いが、また力を借りたい」
「いいよ。どうすればいい?」
「潮流……島の周りの潮の流れだ。ここの住民も言っていたが、ここからは一筋縄では出られない……らしいのだが、あいにく、確かめる時間がなくてな。それは本当なのか?」
「うん、ほんとうだよ。いろいろぐちゃぐちゃで、むずかしいからね」
「ぐちゃぐちゃ?」
「うん」
「聞きかじりの知識で悪いが、普通、潮流は時間帯や風向き、地形によって変わると聞いているのだが、ここは違うのか?」
「ここはね、ぐるぐるって、うずをまいてるんだよ」
「渦か……なるほど、ちなみにその大きさは?」
「ぐるっと、しまのまわり、ぜんぶだね」
「なんと、島の周りを? ……ということは、この島はいわば、巨大な水洗便器みたいな感じか?」
「いや、がれいと殿、もうちょっといい例えがあるでござろうよ……」
サキガケが呆れ気味にツッコむ。
「そうか? わかりやすい例えだと思うがな」
イルザードがすかさずフォローを入れると──
「すいせん……あ、うん。う〇こをながすトコとおんなじだね!」
カミールも笑顔でそれに乗っかった。
「あ、もう拙者、黙っとくでござるな」
それだけ言って、サキガケが不貞腐れる。
「ということは、だ。このままイカダで海上へと漕ぎ出したとしても、結局その渦に捕まって、またここへ戻されるという事か」
「うん。そうなんだけど……でもね、じつはぬけみちがあるんだ」
「抜け道……?」
「うん、ぬけみち。ながれがない場所だよ」
「ほう、すごいじゃないか。よく見つけたな」
「えへへ、うん。ぼく、およぎがとくいだから、あちこちおよいで、それで見つけたんだ」
「それは……もしかして、この島の全域をか?」
「うん」
それを聞いた、カミール以外の全員が声をあげる。
「……ほんとうにすごいな」
「へへへ、それほどでもないよ」
ガレイトが感心するように言うと、カミールは照れくさそうに、頭を掻いた。
「それでね、島の、おじさんたちがフネで来た、はんたいがわにね、少しせまいけど、ながれのないトコがあるんだよ」
「なるほど、場所はわかるか?」
「うん。とりあえず、あっちに行ってみよう」
カミールはそう言って、島の北のほうを指さした。
「よし……では、とりあえずそこまで向かうとするか……!」
ガレイトはそう意気込むと、櫂をザブンと、海の中突っ込んだ。
「ガレイトさん、頑張ってくださいねっ」
ガレイトの隣にいたイルザードが、茶化すように言う。
ガレイトは一旦漕ぐのを止めると、もうひとつあった櫂の持ち手のほうでイルザードの頭をコツンと叩いた。
「あいたぁ……!」
イルザードは頭を押さえてガレイトの顔を見る。
「なにするんですか……」
「持て」
「へ?」
「元気が有り余っているのだろ? おまえも漕ぐんだ」
「え? ちょ、コくって、こんな真っ昼間から、とんでもない──」
バチャーン!
イルザードが海へと叩き落される。
「おまえはイカダにつかまりながら、バタ足でもしていろ」
ガレイトが呆れ気味に言う。
イルザードはまんざらでもない様子で、イカダの端につかまり、バチャバチャと水を蹴った。
◇
イカダを漕ぎ始めて十分ほど。
五人はようやく、カミールの言っていた、島の反対側まで来ていた。
景色は大して変わらず、陸のほうに人が見えるか見えないかの違いだった。
「──ここでいいんだったな?」
ガレイトがいったん、海から櫂をあげて尋ねる。
「うん。たしかここらへんに……えっと、見てもわかんないから、もうすこし、海のほうにいける?」
「海のほう……ああ、沖か。まかせておけ」
ガレイトはもう一度、櫂を海へざぶんとつける。
「……イルザード、方向変換だ。沖へ行く。今度は陸を背にしてバタ足をしろ」
「ぶくぶくぶく……」
イルザードは顔を海につけながら答えた。
ギィ……コ。
ギィ……コ。
バシャバシャバシャ。
ガレイトが櫂を漕ぎ、イルザードがイカダの後ろで水しぶきを上げる。
やがて──
「うん……おお!?」
島の周り。
その潮流に突き当たったのか、イカダが旋回するようにすこし流される。
「こ、これは……かなり戻されるな。すこし近づいただけで、ここまでとは……」
「こうなると、島の人が出られないって言ってたのも、わかるでござるな……」
「はい。慎重に進まなければ、思い切り流されてしまいますね……カミール、ここからどうすればいいんだ?」
「えっと、いわ……海のなかに、いわみたいなのってない?」
「岩……?」
「そう。たしか、この近くにいわみたいな、でっぱったのがあるんだけど、そのまわりはながれがないはずだよ」
「ふむ、ということは、その岩が流れを変えている、もしくはせき止めている……と考えたほうが自然だな」
「どのみち、目印があるというのは、わかりやすいでござるな」
「そうですね。……おい、イルザード。すこし潜ってみてくれ。そこからなにか見えな──」
そう言って、イカダの後方を振り返るガレイト。
しかし、そこにイルザードの姿はなかった。
「イルザード……?」
ガレイトの問いかけに、イルザードからの返事はない。
「まさか、さきほどの流れで……」
ガレイトは小さく舌打ちをすると、「すみません」と断りをいれ──
ザパァン!!
海へと飛びこんだ。
しかし、それと入れ替わるように──
ぬるり。
イカダの後方、ガレイトが飛び込んだ反対方向から、イルザードが現れた。
「あ、あれ……? イルザードさん、なんで……?」
ブリギットが尋ねると、イルザードはキョロキョロと周りを見回した。
「……む? ガレイトさんは?」
「え? あの、イルザードさんを追って、水の中へ……」
「なに?!」
「あっ、その、ごめんなさい……」
「なぜあやまる」
「ごめんなさい……」
「それにしても、急に消えて、何をしていたのでござる?」
「いや、なぜか流されてな」
「流され、ああ、なるほど。なににしても、無事でよかったでござる。……ところで、水中でがれいと殿とは会わなかったのでござるか?」
「いや、それらしき影は──」
ザバァァァァァン!!
水しぶきをあげ、ガレイトが浮上する。
「皆さん! 大変です!」
「あ、ガレイトさん」
「ん? ああ、イルザードか。どこへ行っていたんだおまえは」
「いや、ガレイトさんこそ何をしてたんです──」
「あっと、そうだ。まずいんだ。……というよりも、まずい。すごくまずい」
「まずい? ……あの、さっきから、ヘンですけど、何かあったんですか?」
イルザードをはじめ、全員がガレイトの顔を見る。
ガレイトはしばらく、黙り込むと、再びイルザードの顔を見た。
「悪い。あまりのことに、すこし混乱していたようだ」
「あまりのことって……」
「──とにかく、皆、落ち着いて聞いてくれ。さっき起こったことを、簡潔に説明するぞ」
尋常ではない雰囲気のガレイトの言葉に、全員が固唾をのんで耳を傾ける。
「この島、生きているんだ」
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる