史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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懐かしのヴィルヘルム

見習い料理人とあらびき

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 翌朝。
 ガレイトとブリギットは、サキガケを王城へ送り届けた後──
 ここ、ヴィルヘルム・ナイツ野外訓練場横にある炊事場へとやって来ていた。
 周囲を木に囲まれた森の中。
 三十人ほど座れる巨大な木製のテーブルに、それがすっぽりと収まるほど大きな屋根。
 そこからすこし離れた場所には、レンガ、鉄板、そして鉄網で組まれたコンロがある。


「──来たか、ガレイトよ」


 そうガレイトに声をかけたのは、アルブレヒト・フォン・ヴィルヘルム。
 ガレイトはすこし驚いたような表情をすると、そのズボンのポケット。
 そこにねじ込まれている、白い錠剤の入った瓶を一瞥し、目頭を指で押さえた。


「お、おはよう……ございます……! 陛下……!」

「む? おい、どうかしたのか?」

「いえ、申し訳ありません。ここへ来る前に鼻を打ってしまって……それと、このような朝早くから、お手間を取らせてしまい──」

「よいよい。その辺りの事は気にするな。場所も時間も伝えていなかった儂が悪い。それに最近は、朝起きるのも苦痛ではなくなってきたからな」


 そう答えたアルブレヒトの後ろ。
 木製のテーブルには、マンダリンとオレンジが椅子に座り、机に突っ伏していた。


「あれ……お二人も……?」

「ああ、儂よりも早く来ておったな。儂が付いた頃には、もうすでにこのような感じだったな」

「もしかして、ここで一晩明かしたのでしょうか……」

「それはわからんが……つまり、それほど、おまえの料理を楽しみにしていたということだろう」

「ぐっ、プレッシャーが……」

「はっはっは! 意図せずおまえを追い込んでしまったようだな!」

「……それで、アクレイドの姿はまだ──」

「ここですよ」

「ぴぎゃあああああああああああああああああああああああ!?」


 ブリギットの叫び声が、森中にこだまする。
 ガレイトとブリギットの背後。
 そこには、すこし汗をかいた薄着のアクレイドが立っていた。


「す、すまない。驚かせてしまったか?」


 アクレイドは、ブリギットを気遣うように声をかけた。


「い、いえ……驚いた私のほうが悪いので……」

「そ、そうか……よくわからんが、すまない……」


 アクレイドはそう言うと、ブリギットに頭を下げた。


「……おまえは今来たのか?」

「いえ、そこのお二人よりも前に来ていました」

「……陛下はいつから……」

「ふむ、まだ夜が明けきらぬ……空が白み始めたくらいか」

「……本当に一夜、ここですごしたのか? あの二人?」

「はい。前日からいましたね」


 ガレイトはそれを聞くと、肩を落として、手で顔を覆った。


「……それを知っているということは、おまえも?」

「はい」

「グロース・アルティヒで飯を食ってから、すぐここへ?」

「ああ、いえ、一旦寮へ戻り、風呂に入って着替えてから、精神統一をしてきました」

「ば、万全だな……」

「ええ、これからいくさですので」

「戦っておまえ……」

「さすがに体調を整えておかないと最悪の場合……と思い、ここで個人訓練を」

「な、なるほど。だからすこし汗ばんでいるのだな。……最悪の場合?」

「……おはようございます、陛下。挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」


 アクレイドはすこし横にずれると、アルブレヒトの前で跪いた。


「よい。アクレイド、そこまで畏まるな。……今日は儂と貴様、そしてそこの二人は謂わば運命共同体だ。健やかなときも、腹を下す時も。共に今日という日を乗り越えようではないか」

「は。ありがたきお言葉。このアクレイド、光栄の極みでございます」


 ガレイトは二人のやり取りを微妙そうな顔で見送っていた。


「……して、それが……?」


 アルブレヒトは、ガレイトが手に持っていたものを指さす。
 長方形のシルバートレイが二枚。
 箱のように重なっており、その中身を守っていた。
 ガレイトはその蓋になっているほうをずらすと、中にあった肉をアルブレヒトに見せた。


「それが先日、貴様が狩った猪王キングボアなるものの肉か」

「はい」

「話に聞く限りだと、大層巨大なイノシシだったそうだな」

「左様でございます。……小屋一軒ほどの大きさはありました」

「そんなに……ならもう、試食はしたのか?」

「いえ、それがまだ……」

「ほう?」

「他の肉はすべて、城下町の肉屋に売りました」

「ああ、そうだったのか……」

「陛下……?」

「まあよい。とはいえ、あそこでおまえが儂の依頼を肩代わりしてくれなかったら、どうなっていたことか。ひとまずは礼を言わせてくれ」

「いえいえ、そんな……! 王であればあのようなイノシシに遅れなど……」

「ガッハッハ! そう買いかぶるな、ガレイト! 全盛期の儂ならまだしも、今の儂では、あの魔物に太刀打ちできぬさ!」

「そ、そこまでご存じでしたか……」

「ああ、言ったであろう。ギルドの頭……ホアンのやつとは友人だと」

「……なら、ここで私と会ったのは偶然ではなかったのですね……?」

「ふむ、そのような昔の事は忘れたな」

「そ、そうですか……」

「それよりも。今日はガレイトをよろしく頼むぞ、ブリギット殿」

「陛下……」

「え? あ! はい! おはようございます!」

「ぶ、ブリギットさん……陛下は俺の事を……」

「あ、すみません! 今日はきちんと、ガレイトさんを制御したいと思います!」

「ブリギットさん……」

「ガッハッハ! どうやらブリギット殿も苦労していると見えるな!」


 ◇


「──じ、じゃあ、まずは下ごしらえに取り掛かりましょう……か?」


 ガレイトとブリギットは場所をすこし移動し、コンロのある場所までやって来ていた。
 ブリギットが早速、調理を開始しようとして、後ろを振り返る。
 そこにはマンダリンとオレンジが、興味深そうにその作業風景を覗いていた。


「あ、あのぅ……」


 ブリギットが二人に、遠慮がちに声をかける。
 しかし二人からは返事がない。


「あの……!」


 ブリギットが、さきほどよりも大きめの声をあげた。


「んあ? オイラたちのことか……?」

「あの、なにか……?」

「あー……いやあ、なんつーか、興味があってだな」

「興味……ですか?」

「んだ。オイラたち、今日が楽しみ過ぎて昨日から一睡もしてなくてな。あの騎士様がどんな風に料理が作るのか、楽しみで仕方ねんだ」

「なるほ……あれ、でも、さっきまで寝てたような……?」

「そだか?」

「はい。あっちの机に突っ伏して……」

「ま、細かいことは言いっこなしだ」

「は、はぁ……」

「それよりも、何を作るんだ? イノシシ料理ってのはわかんだが……もしかして、ステーキか? そのまま焼くだか?」

「えっと……? ……どうしましょう、ガレイトさん?」


 ブリギットが小声で、ガレイトに話しかける。


「そ、そうですね……できれば作る前にあまり内容は言いたくはなかったのですが……」


 ちらり。
 ガレイトとブリギットが二人の顔を見る。
 二人はボサボサの髪で、口の端に涎の跡をつけながら、爛々とした目でガレイトたちを見ていた。


「このまま大人しく席についてくれる感じは……ないですよね」

「ですね……」


 こほん。
 ガレイトがわざとらしく咳ばらいをすると、ふたりは改めて、ガレイトに注目した。


「俺たちが作る料理……それは、ソーセージです」

「はー……ソーセージ。なるほどなぁ。たしかにヴィルヘルムぽい選択だ」

「てことは、今から腸詰め作業だか?」

「ええ」


 ガレイトがうなずくと、オレンジはコンロ横の木製の調理台。
 シルバートレイの上に置かれている材料を見た。


「てことは、その透明なのが……腸だな。んだけど……」


 オレンジがそこまで言って、首を傾げる。


「……の割に、ひき肉は見えないだな。あるのは全部かたまり肉だけど……もしかして、ここでひき肉にするだか?」

「オレンジさん、詳しいですね……」

「うん? ああ、まあな。父ちゃんが飯作れねから、普段はオイラが料理当番やってんだ。これくらいならわかるだよ」

「ああ、なるほど。……ちなみに、店売りしているようなミンチ肉にはしないつもりです」

「あれそうだか? でも、ソーセージにするって……」

「はい。ですので、今回俺たちが作るのは、あらびきのソーセージです」
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