ホストに恋して破滅した私ですが、高級キャバ嬢になってイケメンオーナーから愛されています。

西羽咲 花月

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「ヒナちゃん、最近気合の入り方が違うけどなにかあった?」
光と半ば強引に約束を取り付けた日から一週間が経過していた。

今のところヒナの最高順位は5位のままだ。
「ちょっと、真剣に仕事をしているだけです」

マキにそう返事をしながらも、化粧直しをする手は止めない。
ふたりはトイレで立ち話をしている最中だった。

「マキさん!」
突然大きな声になったヒナにマキが目を丸くする。

「どうしたの?」
「どうやったらナンバーワンになれるんですか?」

「ナンバーワンになりたいの? ヒナちゃん、そういうのには興味ないと思ってた」
確かにそれほど興味はなかった。

ただ、光に恩返ししたいという気持ちだけで今まで頑張ってきたのだ。
でも今は違う。
光を振り向かせるために、ナッンバーワンになりたいと思っている。


「お願いします! 教えてください!」
トイレで頭まで下げてくるヒナにマキもたじたじだ。

「高いボトルをいれてもらうのが早いけれど、それでもやっぱり大切なのはお客さんへの誠実さじゃないかしら。上辺だけで会話をしているとすぐにバレちゃうでしょう?」

そうかもしれない。
オウム返しもいいけれど、返事ができるときにはちゃんと自分の言葉で伝える必要があるのかも。

「あとはイベントの時が書き入れ時ってことはもうわかってるわよね?」
そう言われてヒナはハッとした。

今月はバレンタインデーイベントがある。
それはあと一週間後に迫ってきているのだ。

ヒナは大きく頷いた。
あのイベントを利用すれば、ヒナがトップに立つことができるかもしれない!

「でも、私も負けないからね」
マキはそう言うとひらりと手を振ってトイレを出ていく。
むっ。

私の敵はかなり手強いマキさんなのかもしれない。
ヒナは闘志を燃やしてマキの背中を見つめたのだった。



☆☆☆

バレンタインデー当日のノアールは終日満席だった。
客たちはみんなお気に入りの嬢からチョコをもらうために来店してきている。

ヒナもこの日のために沢山のチョコレートを用意してきていた。
光からチョコレートは店で準備すると言われたけれど、他の嬢たちと同じようなことをしていてはトップに立てないと判断したのだ。

ヒナは自分でチョコを準備したことを、樹連客さんたちにメッセージで知らせていた。
「ヒナちゃんがチョコレートを買いに行ってくれたんだって?」

「そうなの! 気に入ってもらえるといいけれど」
照れくさそうな表情を浮かべて小ぶりなチョコレートの箱を取り出す。

持ち運びしやすいサイズにしたけれど、ちゃんしたブランドチョコレートだ。
そのへんはお店のイメージを崩さないように選んできた。

「嬉しいなぁ! こういうのって心がほっこりするよね」
ヒナからチョコレートをもらったお客さんたちはみんな少し高めのボトルを入れてくれた。

それがお礼ということになるからだ。


「ヒナちゃんはホワイトデーになにがほしい?」
「う~ん、マシュマロかな」

「そんなんでいいの!? ヒナちゃんは可愛いなぁ!」
他の嬢たちの中にはお返しとしてブランド物の財布やバッグをねだることもある。

だけどチョコレートのお礼といえば飴とかマシュマロが主流だ。
ここでガツガツ出ない方が可愛く、そしてしおらしく見られる。

それにお客さんも学生時代のバレンタインデーやホワイトデーを思い出して懐かしい気持ちに浸ることができた。
「じゃ、また来るからね!」

「待ってるね」
最後のお客さんを全員でお見送りして店内へ戻ると嬢たちの脱力したため息で満たされる。

だけどこの日のヒナはまだ緊張感を保っていた。
光が1日分の売上集計を終えて店に戻ってくるのをかたずを飲んで見守る。

「今日はイベントお疲れ様。売上は昨日の3倍になる。みんな、よく頑張ったな」
光の言葉にボーイたちが拍手をする。
「それでは今日の売上ランキングを発表する」


ヒナは胸の前で両手を組んで祈るようなポーズを取った。
今日1日自分でも信じられないくらいに頑張った。

少しでも成果がでていれば、それでいい。
でも、できればナンバーワンになりたい。

気がつけばヒナの隣にマキが立っていた。
マキはまっすぐに光を見つめている。

「第3位は……ユウリ!」
拍手が湧いて、派手めな嬢が前に出ていく。

普段は10位以内にも入らない嬢の名前が出て店内がざわついた。
「ユウリは今回、上質な客ばかりに連絡を入れて来てもらってたんだな。客数は少なくても客単価で3位にのし上がってきた」

光がファイリングされたデータを見ながら説明した。

ここでユウリの名前が出てくるとは思わなかった。
もしかしたら今日はどんでん返しがあるんじゃないだろうか。

ヒナも頑張ったけれど、他の嬢が1位2位を独占している可能性もある。
またチラリと隣のマキへ視線を向けて見るけれど、マキに動じた様子が見られなかった。

さすが、毎月ナンバーワンを保持しているだけはある。
「第2位!」

ヒナはごくりと唾を飲み込んだ。
せめてナンバー3までには入っていてほしい、

そうすれば、光と付き合えなくても努力を認めてもらうことはできるはずだ。
「マキ!!」

隣のマキの名前が呼ばれてヒナは大きく息を吸い込んだ。
マキは小さくお辞儀をしてヒナへ視線を向ける。

そして……「第1位、ヒナ!」その声が聞こえてくると同時に「おめでとう」と、微笑んだのだった。

☆☆☆

1日だけとはいえ、自分がノアールのナンバーワンになった。
それが信じられない気持ちのまま、日奈子は住居スペースへ戻ってきていた。

ふわふわとした気持ちのままソファに身を沈めていると、すぐに光も戻ってきた。
「今日はよく頑張ったな」

さっそくねぎらいの言葉をかけてくる光の前に日奈子は立ち上がった。
ナンバーワンになったら付き合ってもらう。

その約束を忘れたとは言わせない。
「私、ナンバーワンになったよ」

ドキドキしながらそう言うと光は頷いた。
「あぁ。まさか本当になるとは思わなかった。マキを追い越すなんてな」

「そんなことはどうでもいいの。約束どおり、私と付き合って」
強気で良い柄も日奈子の心臓はドキドキと早鐘を打っている。

なにを言われるのか怖くて仕方ない。


光はジッと日奈子を見つめてそして息を吐き出した。
「言わなかったか? ノアールは恋愛禁止だ」
「え?」

予想外の言葉に日奈子はとまどう。
「ここへ来る前に伝えたはずだ」

「そんな、でも……!」
ここへ来たときは心身消失状態で、光からお店の説明を受けてもほとんど聞いていなかったことを思い出した。

そういえば、恋愛禁止と言っていたような気もする。
その瞬間日奈子の顔から血の気が引いていった。

「じゃ、じゃあどうしてキスしたの!? どうして、あんなに優しくしたの!?」
つい、声が大きくなる。

あんなことをされれば勘違いしてしまうに決まっている。
「落ち着け。ちゃんと俺の話を聞け」

光に腕を掴まれたけれど、咄嗟にそれを振り払っていた。
「いや!!」

強く拒絶されて光が目を見開く。
「やっぱりお店に引き止めるための嘘だったんだ!」

日奈子はそう叫ぶと部屋から逃げだしたのだった。
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