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第一章

王太子Side

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 ハミルトン王国の第一王子、王太子にして王位継承者であるヴィルヘルム・ディ・ハミルトン。それが私の名前だ。
 
 私には幼い頃から親同士が決めた婚約者がいた。公爵家の令嬢で、名はオリビア・クラレンスという。
 彼女はラベンダーピンクの髪をしていて、大きな釣り目だが、最初に会った時は目に涙を溜めてプルプルしながら怯えていた。しかし、一生懸命挨拶してきた姿は可愛らしかったな。
 私が10歳の時でオリビアが8歳の時に初めて顔合わせをした。私は存外オリビアを気に入り、相手もそうである手ごたえを感じて素直に喜んでいたはずだった。その後正式に婚約が結ばれ、顔を合わせてはよく一緒に遊んだし、一緒に学び、共に国を治めていこうと思えるパートナーに出会えた事を幸せに思っていた。

 いつからか彼女に対して良くない噂が聞こえるようになり…………男好きだとか、くだらないものばかりで本気にはしていなかったのだが、彼女を気に入っていた私は、彼女が違う男と話している事が無性に腹立たしい気持ちが芽生える。今思えばつまらない嫉妬だ。
 
 噂と相まって、段々とそんな彼女の存在に苛立ち始めた。
 
 私に近づく女には威嚇するのに自分に寄ってくる男には愛想笑いをしている姿も気に入らない。
 私が素っ気なくなればなるほど彼女は一生懸命私の元へ通ってくる…………最初はそんな事に周りの男どもに対して優越感を感じ、気持ちがいいものだと浸っていたものの、最近はそれすらも煩わしく思えるほどになっていた。
 
 自分の気持ちが分からなくなって、どうするべきか考えていた時に事態は思わぬ方向に動いていった。

 今まで私に会いに学園にまで通ってきていたオリビアが、全く学園に来なくなったのだ。1日と空けた事はなかったのに3日も来ていない。何かおかしいと思い、王宮に来ていた公爵に聞いてみようとしたところ、公爵も休んでいると言う。
 あの真面目な公爵が休んでいるとは何事…………私はたまらず父である国王陛下に聞いてみる事にした。

 「父上、先ほどクラレンス公が仕事を休んでいるという話を聞きましたが……」

 「ああ、そなたも聞いていたか。なんでも娘のオリビア嬢が高熱を出してな……なかなか下がらないようだ。公爵もやつれてきているし、王宮医を派遣してやったのだが…………」 

 そんな事は寝耳に水だった。なぜ私だけが知らないのだ。私は婚約者だぞ…………学園の皆は知っているのか?彼女に関して自分が真っ先に知らされていない、という衝撃の事実に父上に頭を下げて、すぐに公爵邸に急いだ。


 そこで弱々しく眠っている彼女と対面する。手を握り「オリビア」と声をかけても返事はない。
 まだ熱に浮かされて顔を赤くしている彼女の汗を拭いてあげると、気持ちよさそうにタオルにすり寄ってきた。幼い頃のオリビアを見ているようであの頃の気持ちがよみがえる。あんなに仲が良かったはずなのに今はとんでもなく遠い距離が出来てしまった。私はずっとオリビアに囚われていたんだな……自分の心に今更気付いたが、目の前の彼女は目覚める気配はない。早く目覚めてくれ…………とその日は祈る事しか出来なかった。


 そうして6日目にオリビアが目覚めたという知らせが入る。嬉しくて一刻も早く駆けつけたい…………しかし、今まで散々冷たい態度をしてきた自覚がある私が、突然駆けつけるというのもおかしな話だ。ここは一旦冷静になって、少し体力が回復してから訪ねよう。
 
 そう思って目覚めてから4日目に訪ねたのだが、そこで衝撃の一言を言われた。

 
 「私、療養の為に領地に行こうかと思っているのです。」


 今まで何があっても私の側にいたオリビアが、私から離れると言う。
 到底受け入れる事が出来なくて、その場は保留にするしかなかった…………まさかオリビアの方から、私の元を離れると言い出す日が来るなんて信じられず(実際には領地に向かうと言われただけなのだが……)王宮で公爵に会うと、真っ先に問い詰めた。

 「オリビアに領地で療養すると言われたのだが、そうなのか?」

 「…………オリビアがそう言ったのなら、そういう事なのでしょう」
 
 公爵は穏やかな表情を崩さずに私に告げ、頭を下げて去っていった。今まで私はオリビアにとって良い婚約者とは言えなかった……その自覚はある。
 
 その私に対する意趣返しとも取れるような公爵の態度にこれ以上追及する事が出来ず、ただ公爵の後ろ姿を見ているしかなかった――――

 

 
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