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第一章
クラレンス公爵Side
しおりを挟む木々の葉が赤く色づき始める頃にオリビアは生まれた。私、フェルナンド・クラレンスの一人娘として生を受け、公爵令嬢として申し分ない容姿と教養を持ち合わせた、素晴らしい女性に成長した。
オリビアの母、私の妻であるジョセフィーヌは、オリビアを生んだ後の予後が良くなく、体力がなかなか回復しない中で感染症にかかり、オリビアが1歳になる前にこの世を去った。
最愛の妻が旅立って打ちのめされている私にさらに追い打ちをかけるかのようにオリビアが、妻と同じ感染症にかかってしまう。この時は正気を保っていられないくらい取り乱していた……普段は祈らない神に初めて祈った時だった。
オリビアを助けてくれれば、これからの人生の全てをオリビアに奉げ、私の全てでもって彼女を守る事を誓う、というものだ。愛する者をこれ以上失いたくない気持ちの一心だったのだ。
幸いオリビアは一時は危なかったが峠を越え、無事に回復。私は生きとし生けるもの全てに感謝し、オリビアに最高の人生を送らせる為に動き出した。
まずは幼い時からの淑女教育、そしてたっぷり愛情を注ぎ妻の分も甘やかした。7歳になると陛下と以前口約束していた子供同士の結婚話が持ち上がり、8歳になると王太子殿下の婚約者に内定する。
二人は顔合わせの時に既にいい雰囲気で(それは父親としてちょっと気に入らないところではあるが)相性も良さそうだった。きっと素晴らしい夫婦になるという予感もあり、最高の王太子妃教育が受けられるように手を尽くした。それが娘の幸せに繋がると信じて――――
そうして成長したオリビアは、史上最高の女性に成長したと言っても過言ではなく、数多の目を引く唯一無二の存在になっていった。
多少外野の男どもの目を引いているのは父親としては心配極まりないところではあるが…………それも未来の王太子妃として内定しているのだから、下手に手を出してくる輩はいるまい。王太子殿下がいてくだされば大丈夫、そう思っていた。
しかし、どこからか不穏な噂が耳に入る。
『オリビアが王太子殿下が通うトワイライト学園に足繫く通い、王太子殿下はとても迷惑している』
というものだ…………どういう事だ?どうして王太子殿下が迷惑するというのだ。こんなに素晴らしい女性がずっと近くにいてくれて、何が不満なのだ?私など妻に先立たれ、妻が常にそばにいてくれればどれだけ幸せか、と何度思ったか分からないというのに……
事の真偽を確かめなければ、と食事の際にオリビアにさりげなく聞いてみる。
「オリビアは王太子殿下の通うトワイライト学園に通っているそうだね。殿下は学園ではどんな感じなんだい?」
そう聞くとオリビアは頬を染めて、殿下についてあれこれと沢山話してくれた。オリビアの気持ちは未だ殿下に向いている事は確認出来た。
「王太子殿下とは、普段どんな会話をしているんだい?」
この話をした瞬間、オリビアは下を向き「お父様に言うほどの事ではなくて……他愛ない話ですわ」と笑顔を作って話を終わらせた。やはりおかしい。
後日殿下にお会いした際に殿下にも探りを入れてみたところ「オリビアは妃教育にちゃんと取り組んでいるのか?」と娘の努力を疑うような発言をされる。明らかに邪険に思っているかのような殿下の言葉に私の疑念は確信に変わった…………あれだけ妃教育に熱心に取り組んだ娘を……娘の気持ちを知りながらこの仕打ち…………許すまじ。
その後、娘が6日間寝込んだ時に殿下がお見舞いに来て下さり、娘の手を握ってしおらしい態度だったが、何をいまさら……と白々しい気持ちでいっぱいだった。
娘が目覚めた4日後に殿下はまた見舞いに来てくださったのだが、酷く動揺してお帰りになられた。どうやら娘に領地に療養に行きたいと言われたらしい。
私は娘からその話は聞かされていなかったが、聞かされていても学園にいて惨めな思いをするくらいならその方がいいだろう、と賛成していただろう。しかし殿下は違ったようで「領地に療養しに行く事になるのか?」というような事を私に聞いてきたのだ。
これはどうした事だ…………殿下が娘と離れる事に動揺しておられる………………いい機会だと思った私は「娘がそう言うなら、そうなのでしょう」と思わせぶりな事を言っておいた。
これは予想以上に効いたようで、後日殿下からオリビア用の護衛を付けてくれ、と頼んできたのだ。それも自身を陰から守る凄腕の護衛騎士を派遣してきたという……そこまでしてくれるというのなら、娘との婚約を多少許してやっても良いだろう。
本当は娘から領地への打診があった時に殿下との婚約破棄についても提案されていて、私はその方がいいだろうと思っていた。
しかし、オリビアの見舞いに来た時の殿下の様子が引っかかっていた私は、婚約破棄については私が一旦預かる形で保留にしたのだ。破棄にするのはいつでも出来る。今となってはそれが正解だったのかもしれないと思い始めている。
娘に派遣された護衛のゼフを娘に紹介し、共に領地に行ってもらう事になったのは私にとっても有難い事でもある。
領地までの道のりも彼の護衛があれば、少しは安心出来る。殿下との関係がこの先どうなるかは分からないが…………
私が真に願うのはオリビアの幸せのみ――――どうか、ジョセフィーヌ…………私たちの愛し子を見守っていておくれ。
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