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第一章
図書館の紳士
しおりを挟む皆で市場をめぐった後はお昼ご飯を広場で食べ、しっかり楽しんだ私は、翌日から数日間微熱が出てしまった。やりたい事は沢山あったんだけど……こうなってしまっては仕方ないわね、マナーハウスでゆっくり過ごしましょう。
よく考えれば6日間高熱で寝込んで目覚めてから、体力回復させながら領地に行く準備したり、領地に行く道のりで子供と戯れたり、こっちに来てからもすぐに出かけたり…………かなりの強行軍よね。前世では動いている事が当たり前だったからすぐに行動したくなっちゃうんだけど、貴族女性はもっとゆったりな生活のはず。
こんなにバタバタ動いたら体力がもたないのかもしれないわ。でもせっかく貴族女性に転生出来たのだから、乗馬とかしてみたいのだけど……今度マリーにお願いしていみよう。
どうせ王太子妃にはならないんだし…………うん、せっかく転生したんだもの、やりたい事をやった方がいいわよね!
微熱が下がるまでの間は、近くの公園に散歩に行ったり、ソフィアやマリーと中庭でお茶をしたり、ソフィアとお昼寝したり…………無理せず動いた。微熱が下がり少し体力が回復してきたので、マナーハウスの隣にある図書館にソフィアを連れて行った。まずは文字を教えなければならないわね。
私はというと、幸い文字に関しては元々の知識として備わっていたのか、転生した後も問題なく読めている……なんてチートなの。
ソフィアにはまず読み方を教え、同時に書く練習もさせてみた。前世では教師じゃなかったから教え方に自信はないけど、私の不安をよそにソフィアはどんどん読めるようになったし、書くのも上手だった。怪我をしたのも左腕だったから、おそらく利き手は右だと思っていたので無事に書けている様子だった。
「とっても上手に書けてるわ!あなたは吞みこみがはやいわね~教えがいがあるわ」
私に褒められるとほんのり頬を赤く染めて照れながらまた頑張ろうとする姿が、これまた可愛いのなんの…………おばさん心をくすぐられてしまうわね。こんなに可愛い子を愛するなっていう方が無理。
そして教えて数日だというのにあっという間に読みは、簡単ものは出来るようになってしまった。
「じゃあ何か絵本でも読んでみない?」
私が提案すると、ソフィアは嬉しそうに絵本を探し始める。
絵本の棚は入口付近にまとめて置いてあったから…………二人で連れ立って行くと、ソフィアは真剣に選び始めた。読みたい絵本が見つかったらしくて取ろうとしたのだけど、ソフィアの背では全く届かない場所にある。私でも届かない感じがしたので、棚に取り付けている動く脚立を持ってこようと私が動こうとした時だった。
「っ…………」
ソフィアが声にならない声を出し、私もその光景を見て固まってしまう。ゼフがソフィアをひょいと持ち上げ、自身の右肩に乗せ、ソフィアに本を取らせようとしてくれたのだ。
「ほしい本はどれ?」
………………ゼフの声を久しぶりに聞いた気がする………………
おずおずとソフィアが取ると、ゼフはそっとおろしてくれた。
「あり……が……と…………」
真っ赤になりながら何とか声を絞り出し、ゼフにお礼を言うソフィア。頑張ったわね!もはや姪っ子を応援するおばさんのような気持ちよ…………ゼフはソフィアの頭をポンとすると入口付近で護衛に戻っていった。
…………うーーーーん、さり気なさすぎるわ。ゼフ、恐るべし。
ソフィアはその絵本を大事そうに抱えてテーブルで読み始めたので、私も一緒に読書しようと本を探し、その日は二人で読書の日となった。ゼフに手伝ってもらって取れた絵本を大層気に入ったソフィアは、部屋にも持って行っていつも読んでいる。
図書館に連れて行って良かったな…………微熱が出て一旦小休止になったけれど、こんな風にゆっくり過ごすのもいいかもしれない、と思えたのだった。前世ではこんな風にゆったり過ごすなんて、まず出来なかったものね……あれはあれで充実していたけれど、それで体を壊してしまったのだから元も子もない。
せっかく転生出来た今世は自分の体をいたわりながら、やりたい事をやろう。そろそろ体力が回復してきたから帳簿を見せてもらわなくちゃ…………帳簿を見せてもらって収支をチェックしたら教会の在り方についてもロバートと話し合わなくちゃね。
そして…………この領地の外れの外れにある貧民街…………貧民層が住む場所にも行きたいと思ってる。
これは相当ハードルが高そうだけど。領地の現実を見る為には必要な事だから。どうやったら許可が下りるかしら………………悶々と考えている内に夜は更けていった。
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