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第四章

イザベル・アングレア伯爵令嬢

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 イザベル嬢は王妃殿下のお茶会の時に私に助け船を出してくれた令嬢…………私の感じた印象は、常に無表情だったけど面白い人だなと感じていた。


 私が領地での事を話している最中、時々拍手してくれていたり、かなり好感触だったのよね。しかも拍手が指先だけって……最初笑ってしまうところだった。表情を変えずにしているから可愛くて……
 

 エリオットから手紙をもらい、中に入っている紙を出して読んでみる。


 可愛らしい薄いオレンジ色の紙に綺麗な文字で書かれていた内容は、私に折り入って話したい事があるから2日後に会えないか、という内容だった。貴族のお友達がいない私にとって、素敵な令嬢からのお誘いはとても嬉しいものだった。

 それにお茶会での印象も良かったし、折り入ってのお話が気になる…………会ってみようかしら?


 「イザベル嬢へ返事を書くわ」

 「承知致しました」


 私は自室ですぐに返事をしたためる。お話しがしたいと誘われたのだから、こちらから伺った方がいいと考え、伯爵家に行きますと返事をしたのだけど、返ってきた返事にはイザベル嬢が公爵邸に来てくれると書かれていた。


 私はすぐに二日後に向けて、庭園でお茶会が出来るように準備をした。


 公爵邸の庭園にもガゼボがあり、貴族のお友達が来ても対応出来るようにはなっているものの……お母様もいないしお友達もいない私には、普段家族で使ったりする以外の使い道がなかった。


 ようやく家族以外と使える日が来たのね!


 マリー達使用人も庭師の方も張り切って手入れしてくれたのだった。


 ~・~・~・~


 そして二日後のお昼過ぎにイザベル嬢が公爵邸にやってきた。


 伯爵家の馬車から下りてきたイザベル嬢は動きやすい服装ながら上品で、凛とした佇まいがどちらかと言うと可愛いというより、カッコいいの方が正しいような気がした。

 ブラッドオレンジの髪を高く結い上げて、縦長の麦わら帽子はレースと花で飾り付けられている。上下繋がったオーバースカートはウェスト部分にベルトで細く留められていて、スカート部分はドレープ状に……中のスカートはティアードデザインになっているけど全然主張している感じがなくて、カッコいい。

 
 オシャレだし、カッコいいし…………素敵だわっ――


 「ようこそおいでくださいました、イザベル様。お待ちしておりましたわ」

 「オリビア様…………突然の手紙にすぐに応えてくださり、感謝致します。先日の王妃殿下のお茶会では楽しいお話が聞けて、嬉しかったです」


 あの話が聞けた事が嬉しかった、のね?ちょっと頬を赤く染めているような気がしなくもない…………もしかしてヴィルの話を聞きたかったのかしら?ブランカ嬢といい、随分おモテになるのね……


 「それは良かったわ。では庭園に移動しましょう」


 執事のエリオットがイザベル嬢の持っていた日傘を受け取り、私たちは庭園へと移動した。


 「…………素晴らしい庭園ですね……さすが公爵家です」


 私はいつも見慣れている景色なのだけど……他の貴族の邸宅に行った事もないので比べようもないから、これが基準になってしまっている。当たり前の事ではないのね。


 「この庭園は母が好きだった花たちで造られていると、お父様が仰っていました。ここに来ると母を思い出せるようにと……私もここが大好きなんです」

 「…………素敵ですね。オリビア様も公爵閣下も……素敵な人柄が表れているような庭園です」

 「……ありがとう。さあ、座ってお茶でもいただきながらお話ししましょう」

 「はい」


 イザベル嬢は名残惜しい様子でガゼボに移動した。そんなにここの庭園が気に入ってくれたなんて、嬉しい限りね。


 「…………突然あのような手紙を送って、不躾で申し訳ございません」

 「いいのよ、気にしないで。私もお話ししてみたかったから。折り入ってお話ししたい事があるって書いてあったけど……聞いてもいいかしら?」

 「はい……あのお茶会でオリビア様が帰った後、王妃殿下やブランカ嬢が話している内容を聞いていたのですが……オリビア様が男好きでだらしない女性だとお二人で話していて。レジーナ嬢はニコニコしているだけだったので聞いているだけだったのですが…………」

 「…………私が?どうしてそんな話を……私は王太子妃教育で忙しくて、正直他の男性とだなんて、そんな事考えた事もなかったわ」


 小説の中のオリビアは王太子殿下に夢中で、他の男性と遊び歩いているという設定はなかった。

 むしろ王太子に執着し過ぎて身を滅ぼしたのに…………他の男性ですって?誰がそんな噂を――――


 「そうですよね。私も先日のお茶会でオリビア様と初めてお話しさせていただきましたが、そんな印象とは真逆の方だなという印象でした。私は学園に通っているので、そのような噂話はあまり真に受けないようにしてきたのです。自分の目で見た事しか信じないように……しかし、王妃殿下のお茶会ではあたかも真実であるかのように話が盛り上がっている事に違和感というか……」

 「そうね、本当に違和感しかないわね……誰が何の為に?」

 「………………私の父は公爵閣下と友人なので閣下の事もよく知っておりますが、とても誠実な方ですし、父の耳にまで噂が入っていて……父も疑問に思っております」

 「お父上にも?凄い広まってしまっているのね…………」


 まさかイザベル嬢のお父上にも広まっているとは思わなかった。公爵家としてはかなりの醜聞よね……お父様も知っているはずだし…………私に心配させまいと黙っていてくれたのでしょうけど――



 それにしても私が男好きだなんて笑ってしまうわね、ただでさえ結婚にうんざりしているっていうのに。ここまで噂が広がっているなら、何とかしようとしても無駄ね。


 開き直って好き勝手やらせてもらった方がいいのかもしれない……どうせ何をしても悪い噂はなくならないもの。私のそばにいてくれる人達が私を分かってくれているならそれでいい。

 転生してから周りの人達にとても助けられて、大切にされてきたから、心が随分明るくなった感じがする…………領地から帰る前は不気味な運命に怯えていたけれど、王妃殿下にも立ち向かっていく気持ちが生まれてきたわ……


 周りに感謝しなければ。私は変な噂よりも変わらずそばにいてくれる人達の事を考えて、胸が温かくなっていった。


 
 
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