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第六章

終焉

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 「ゼフ!」


 私はすっかりゼフの存在を忘れていて、イザベルと2人で乗り切る気持ちでいたので、ゼフの登場に驚きと喜びが入り交じった声を上げてしまったのだった。
 

 「…………まさかまだ仲間がいたとは……上にも教会の者がいたはずなのに…………」

 「…………………………全て制圧した」

 「…………っく」

 「……遅くなって申し訳ありません、オリビア様。ボゾン家の者の妨害に遭い、あなたの行方を見失ってしまうとは…………」

 「大丈夫よ、来てくれて助かったわ!」
 

 ゼフが頷き、大司教の動きをしっかりと止めてくれたので、レジーナの持っているデラフィネの液体を彼女の手から奪い、床に叩きつけた。


 ――――パリーンッ――――


 ガラスが割れて砕け散る音が地下室に響き渡る。私のその行動を見て正気に戻ったレジーナは、床に飛散したデラフィネの液体をかき集めるように床に飛びついた。


 「ああっなんて事を……これだけ作るのにどれだけのデラフィネが必要だと思ってっ!」


 「そんな事は知った事ではないわ。こんなモノがあるから…………ゼフ!ボトルをこちらに投げて!」


 私が叫ぶと、ゼフは大司教の持っているボトルを奪い、私に投げてくれた…………これで全て終わらせる事が出来る。


 「あなた方には申し訳ないけど、こんなモノがある限り、皆が安心して暮らせる世界はやって来ない……私の独断でこうさせてもらいます」


 私はボトルの蓋を開け、デラフィネの花全体に満遍なくかけると、子爵の手からロウソクを頂戴した。


 「な、何を…………まさか………………」

 「ここに1つでも苗が残っていれば、あなた達はあの子を……マリアを利用するのでしょう。ここのデラフィネは全て消すわ」


 イザベルの顔を見ると、私に同意するかのように頷いてくれたので、私は彼女に微笑みながらデラフィネの花にロウソクの火を向ける――――


 「や、やめろぉぉぉぉーー!!」


 子爵の叫び声と共にロウソクの火が花達に燃え移り、一気に広がった。

 ごめんね――――植物に罪はないのに――――――壁一面の花は炎に包まれ、ちょっとやそっとじゃ消えそうにないくらい、囂々と燃えさかっている。


 「…………ああぁ……っ」


 大司教は膝から頽れ、ひたすら燃えているデラフィネを眺めているしか出来ない様子で、子爵もレジーナも同じだった。

 でもこのままここにいては煙で身動きが取れなくなるわ。早く地上に出なくては……!


 「オリビア様、ここから出ましょう!」


 イザベルがそう言ってきたので頷くと、そこかしこで頽れているレジーナや子爵、大司教へと声をかけたのだけど、皆魂を抜かれたように動いてくれない。

 
 「急いでここから出るわよ!早く!!」

 「………………………………」
 
 
 「オリビア様!こんな人達は置いていきましょう!逃げ遅れてしまいます!!」


 イザベルがそう告げてきた…………分かってる、でもこのままこの人達が死んで、罪も償わずに終わるなんて……!私は悔しさで唇を噛んだ。

 煙が勢いを増してくる――――――


 いよいよ出なければと思ったところにバタバタと階段から足音が聞こえ、突然ヴィルや王宮騎士の人達らが入ってきたのだった。


 「オリビア!!」

 「ヴィル?!」


 真っ先に抱きしめられ、腕の中におさめられてしまう。そして彼の腕が微かに震えているのが伝わってきて「良かった……」と絞り出すような声が聞こえた。


 「………………とにかく今はここを出よう」


 ヴィルがそう言うと、私やイザベルに階段を先に上るよう指示してきたので、ふたりで階段を駆け上った。

 ようやく地上に出た先は物置の一室で、ここの床から地下室に通じていたのかと驚いたとともに、周りにはゼフが拘束したと思われる聖職者達が何人も気を失っている。


 大司教が上に教会の者を配置していると言っていた……全て倒して拘束してきてくれたのね。さすがゼフ。


 「オリビア様…………お体は大丈夫ですか?レジーナのヤツに砂利をかけられたりしていましたけど…………」

 「大丈夫よ、イザベル。少し小石がぶつかったところが痛むけど、それくらいで済んだんだもの」


 私たちが話していると、下からバタバタと駆け上る音が聞こえてくる――――先頭で出てきたのはヴィルで、続いて王宮騎士の方々が大司教と子爵、レジーナも担いで地下室から出てきたのだった。


 「皆、無事か?!」


 ヴィルが声をかけて安否を確認し、全ての者が出てきた事を確認すると、すぐさま子爵邸入口付近まで避難するべく走った。

 屋敷から外に出ると、お父様とマリアも待っていて、皆で抱き合って喜び合ったのだった。


 「オリビア!良かった……っ!」

 「お父様、マリアも!ごめんなさい、心配ばかりかけて……」

 「いいんだ、無事なら……何でも…………っ」

 
 お父様はそう言いながらも涙が止まらないらしく、鼻をすすっているのでマリアがハンカチを貸してあげていた。

 イザベルはリチャードにぎゅうぎゅう抱きしめられていて、子供扱いが嫌なのか本気で嫌がっているのが見えた――――そのそばにはニコライ様の姿も見える。


 地下室から発生した炎はやがて一階へと燃え移り、庭の植物や子爵邸の一階部分をどんどん燃やしていく――――少し離れた場所からその姿を見ていると、ヴィルが隣に来て私の肩を抱いてくれたので、その温もりを感じながら焼けていく屋敷を眺め――――ようやく終わったんだな実感した。

 
 私はアルコールを使って引火させたので、マリアに頼んで霧状の雨を降らせてもらうようにお願いし、かなり時間がかかったけど見事に鎮火してくれたのだった。

 やっぱり聖女の力って凄いわね。

 
 初めて見る人達は奇跡の力を目の当たりにして、ただただ見惚れていた。



 でもヴィルは自分が世話係を務めたので「このくらいは出来るだろう」と何故か上から目線だったのだけど。


 ブランカ嬢も救出されていて、奇跡的に誰も死者は出なかったようでホッと胸をなでおろす。

 もっとも地下室にいたボゾン親子と大司教の3人は茫然自失としていたのだけど……彼らと拘束された教会の者達は、鎮火している間に王宮騎士の方々に護送用の馬車に乗せられて、王宮へと連行されて行ったのだった。
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