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第一章

第19話:恥知らず

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「いいか、よく聞け、お前ら。
 お前らのやる事は、とても簡単だ。
 お嬢様が斃してくださった魔物を集めてくるだけだ。
 それだけで日当と食事が与えられるのだ。
 こんな安全で簡単な仕事は他にないだろう。
 この仕事を与えてくださったお嬢様に感謝しろ」

 我が家の軍から選抜された、私設傭兵団の副団長候補が王都の貧民達を𠮟咤激励していますが、ちょっと暑苦しすぎます。
 私を持ち上げすぎるのは、私の趣味ではないのですが、目的を達成するためには仕方がない手法なので、我慢するしかありません。

「「「「「はい、ありがとうございます」」」」」

 見事にそろったお礼を言ってくれます。
 絶対に事前に練習していましたね。
 公爵令嬢として生きていくなら慣れなければいけない事ですが、難しいですね。
 屋敷で働く家臣に尽くされるのは、七年の月日のお陰で慣れましたが、王都で生まれ育ったので、多くの領民に尽くされた経験がないのですよね。

「お嬢様、団長として訓示をお願いいたします」

 副団長候補が私に訓示をしろと催促してきます。
 大勢の前で話すのは大の苦手なのです。
 話さずに態度で示すのなら何とかなりますが、話すのはどうしてもできません。
 戦熊や暴猪なら真っ向から戦えますが、人の目が相手だと逃げ出したくなります。
 一対一なら平気なのですが……

「バカな事を言うのではありません!
 それでよく副団長候補だと言えましたね。
 高貴なお嬢様が、まだ正式な団員でもない貧民に、口を利くわけがないでしょう。
 お嬢様のお言葉が欲しいなら、正式な傭兵団員になったうえに、最低でも班長の役職くらいになってもらわねばなりません。
 この程度の作法も理解できていない貴男は、直ぐに公爵軍に戻りなさい。
 後は私がやります」

「そんな、クローディア殿、どうかお許しください。
 もう二度とこのような愚かな事は口にしません」
 
 クローディアが烈火の如く怒っています。
 クローディアには、自分を含めた公爵家首脳部が選んだ副団長候補が、最低の常識も弁えずに私の前で馬鹿な事を口にしたのが、絶対に許せなかったのでしょう。
 それでなくても、クローディアは私設傭兵団の設立に反対だったのです。
 そのクローディアが私の言い分を認めつつも、不足を補うと言って提案した公爵軍からの幹部登用策で選んだ人間が、とんでもない失態を犯したのですから。

「愚かな言葉を繰り返すとは、情けなさすぎます!
 戦場で大失態した者が、次はちゃんとしますので今の地位に止めてくださいと言っているのと同じなのですよ、愚か者が!
 恥を知りなさい、恥を!」

 おれ、あれ、あれ、早くも取り返しのつかいない二重の失言ですね。
 先の発言が失言にあたるというのは理解できないのですが、今の発言が失言だと言う事は私にも分かります。
 このような愚か者が公爵軍でも優秀とされていたのは大問題ですね。
 外部への対応と同時に内部規律を正して評価法も改善しなければいけません。

「クローディア、分かっているとは思いますが、公爵軍の改革をお願いします。
 必要なら私からヴィンセントに強く言いますが、どうしますか」

「お嬢様から父を厳しく叱責してください。
 公爵軍幹部や公爵家騎士団長の強い推薦があった結果ではありますが、それを受け入れたのは父です。
 父を厳しく𠮟責していただければ、父も騎士団長や公爵軍幹部を断罪できます」

 元傭兵団副団長候補を、それ扱いですか。
 最初からクローディアはこの男の登用に反対だったのかもしれませんね。

「分かりました、直ぐにヴィンセントをここに呼びつけましょう」
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