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第一章

第9話:家族愛

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「ただいま、サラ、どこにいるんだい?」
「サラ、大丈夫なの、どこにいるの?」

 サラの両親が家に戻ってきたが、物凄く心配しているのが分かる声色だ。
 まあ、どこの馬の骨か分からない男、僕が家にいるのだ。

 出て行くときは気を失っていたが、いつまでも失っているとは限らないから、心配で仕方がないのだな。

 気がついたとたんサラを襲う心配があるいじょう、両親は気が気ではないはずだ。
 僕にサラのよう可愛い子供がいたら、絶対に1人にしない。
 家に見知らぬ男がいる状態ならなおさらだ。

「どうしたの、私はここよ?」

「大丈夫だったか!」
「よかった、あの男は気がつかなかったのね」

「何言っているのよ、大丈夫に決まっているじゃない、お父さん。
 お母さんも心配のし過ぎ、ユウジは気がついているわよ、物凄く良い人よ」

「サラ、いつも言っているように、頭から人を信じるんじゃない!」

「そうですよ、この辺には悪い人は少ないけれど、街に行ったら悪い人がたくさんいるのですよ、普段から気をつけないと!」

 よかった、サラの両親は普通に警戒心がある人だった。

「何言っているの、お父さんもお母さんも最近おかしいよ。
 以前はもっと人を信じていたじゃない、どうしてそんな悲しい事を言うの」

「……信じて騙されたからだ、あいつに大切な牛を奪われてしまった」

「そうよ、事もあろうに教会の聖職者に騙されるなんて、思ってもいなかったわ!」

「教会もたくさんあるし、聖職者もたくさんいるから、たまたま運が悪かったのよ」

「いいや違う、私も以前は教会と聖職者を信じていたが、愚かだった。
 嘘だと否定していた噂を信じていれば、こんな事にはならなかった」

「私も頭から教会と聖職者を信じてしまっていたわ。
 真剣に悪い噂を聞いていれば、こんな事にはならなかったのに……」

「大丈夫よ、大丈夫、唯一神が清廉潔白に生きてきたお父さんとお母さんを見捨てたりしないから大丈夫。
 あ、あの行商人さんとユウジを家に連れて来てくれたのが唯一神なのよ。
 だって、家のチーズやヨーグルトを高く買ってくれるそうよ」

 家族の話が筒抜けだな。
 最初から隠す気もないのだろうが、正直に生きてきた家族なのだろう。
 こんな人たちを騙すなんて、本当に聖職者は腐っているのだな。

 サラが天真爛漫なのは元々の性格なのだろうが、今の話を聞いていると騙された、両親を力づけるために、唯一神を信じ続けているのかもしれない。

 自分まで落ち込んだり聖職者を罵ったりしたら、家族の雰囲気が悪くなり過ぎると思って、一生懸命盛り上げているのかもしれない。

「本当か、本当なら助かる!」

「行商人さんが置いて行ってくれたお金だけでは、次の支払いには足らなくて、最後の山羊まで持って行かれてしまったら、その次はサラが……うっ、うううう」

 騙されたと言う話、牛を取られただけでは終わらなかったのか!
 借金が残っていて、少なくても後2回は支払わないといけないのだな。
 次の支払いで残った山羊を全て取られて、その次はサラを連れて行かれるのか?!

「すいません、話は全部聞かせていただきました。
 命の恩人が困っているのを見過ごすわけにはいきません。
 その借金、僕に肩代わりさせてください」

「ちょっと、まだ起きて来ちゃ駄目よ、ちゃんと寝ていなさい!」

「本当か、本当ですか、借金を肩代わりして頂けるのですか?!」

「ありがとうございます、何年かかっても必ずお返しさせていただきます。
 だから、どうかサラを救ってください、お願いします」

「安心してください、どれほど多くても肩代わりさせていただきます。
 それで、幾ら騙されたのですか?」

「それが、大金貨100枚なんです」

「大金貨100枚、そんな金額、どんな方法で騙されたんですか?」

「教会にサラの天与儀式をお願に行ったのですが、最近は羊皮紙にサインをしなければ受けられないと言われて名前を書いたら、それが借用書だったのです。
 私は読み書きができないので、まさか聖職者が騙すなんて思ってもいなくて」

「うっ、ウワア~ン」

 お父さんの方は、続く言葉を飲み込んで涙をこらえている。
 お母さんの方は、行き場のない怒りと悲しみに大声で泣き出した。
 サラはそんな両親を心配している。

 サラは、教会と聖職者の堕落を知った上で、僕にあんな事を言っていたのか。
 心から唯一神を信じているのか、信じようと頑張っているのか、どっちだろう。

 もしかしたら、最悪の結果になっても、悪いのは騙された両親ではなく、騙した教会と聖職者、手先になっている唯一神だと両親に思わせたかったのか?

 父親が罪の意識を持たないように、教会と聖職者、唯一神が悪いと思わせるために、怒りと悲しみを心の奥深くに封じているのか?

 絶対に許さない、普通の悪人でも許せないが、聖職者ならなおさら許せない。
 盗賊王スキルを戦いに役立てる方法を思いついたから、この手で天罰をくだせる。

 腐れ聖職者は、サラや山羊を手に入れるために必ずここにやってくる。
 その時に犯した罪の分だけ罰を与えてやる
 それに、ここに隠れ続けるなら、口封じをするのは自分の為でもある。

「サラ、最初に言っていたように、僕はそれなりに大きな商家の跡継ぎです。
 大金貨100枚でも直ぐに支払えます。
 ただ、実家に連絡を入れておかないと、お金が用意できません。
 教会にも領主に知られないように、フロスティア帝国に手紙を届けられますか?」
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