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第一章
18話
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「なんなんだこれは」
「奇跡だ!
水乙女様の奇跡だ」
「黙れ!
これ以上騒ぐと殺すぞ!」
カチュアの奇跡から三日後、王太子軍がサライダ公爵領を包囲していた。
王都内から攻めれば、坊壁を討ち破らなければいけない。
東西の大軍に王都城壁を破られた場合でも、四大公爵家は籠城を続ける必要があるので、坊壁も他の坊壁よりも厚く高い。
並の部分の王都城壁以上に護りが堅い。
更に言えば、四大公爵家の担当する王都城壁は四隅に当たるので、特に防御力が高く、もっと攻め難い強固な造りになっている。
だから王太子軍は、いったん王都城壁外に出て、農園を攻撃する事にした。
農園を占領して、自分の財産とする為だった。
それにサライダ公爵家の王都外農園を占領すれば、兵糧攻めにもなる。
どれほど強固に護りを固めようとも、食べる物がなくなれば戦いようがない。
そうシャーロットにささやかれた王太子は、貴族達に王都内の坊壁を包囲させ、自分の私兵とメイヤー公爵家の私兵に、農園攻撃をさせようとした。
だがそこには、信じられない光景が広がっていた。
乾ききった荒野であるはずの場所に、滔々と水を湛えたオアシスがあり、清浄な水が小川を創り出していたのだ。
その小川は、砂漠や荒野では絶対に望めない、水濠となって、サライダ公爵家の農園を護っていた。
「何をしている!
サッサと攻撃しろ」
「ですが、そんな事をしたら、精霊様の怒りに触れてしまうんじゃないですか?」
「えぇぇぇい。
攻撃する前に、自由に水を飲んでもいい。
だからすぐに攻め込め!」
王太子は小川を越えて農園に攻め込めと命じたが、精霊の怒りを恐れた雑兵は、尻込みしてしまった。
王太子の命令で、むりやり剣を持たされた奴隷や貧民は、鞭で叩かれても攻め込むのを拒否した。
そこで下士待遇になっていた王太子の私兵は、雑兵に自由に水を飲む権利を与えて、攻め込む動機とした。
元々王太子直轄領やメイヤー公爵領では、水がとても高く、貧民は乾ききっていた。
そこに、オアシスの水位低下が起こり、地下用水路の流れが止まってしまった。
王太子やメイヤー公爵は、騎士や神官を使って、著しく水位の低下したオアシスから水を運ばせたから、乾くことはなかった。
だが王太子直轄領とメイヤー公爵領の民は、渇き死にする直前の状態だった。
彼らには、乾いて死ぬか、精霊の怒りで死ぬか、王太子の命で死ぬかの選択しかなかった。
彼らは小川に殺到した。
それでも、幼い頃から叩き込まれた、精霊様と水への畏怖は彼らを支配していた。
乱暴に水を汲んだりはしない。
汚れた身で小川に飛び込む者など一人もいない。
恭しく祈りを捧げてから水を飲んだ。
乾いた大地に慈雨が染み渡るように、彼らの身体に恵みの水が染み渡った。
まるで聖水のように、彼らの傷んだ身体を癒していくのだった。
「奇跡だ!
水乙女様の奇跡だ」
「黙れ!
これ以上騒ぐと殺すぞ!」
カチュアの奇跡から三日後、王太子軍がサライダ公爵領を包囲していた。
王都内から攻めれば、坊壁を討ち破らなければいけない。
東西の大軍に王都城壁を破られた場合でも、四大公爵家は籠城を続ける必要があるので、坊壁も他の坊壁よりも厚く高い。
並の部分の王都城壁以上に護りが堅い。
更に言えば、四大公爵家の担当する王都城壁は四隅に当たるので、特に防御力が高く、もっと攻め難い強固な造りになっている。
だから王太子軍は、いったん王都城壁外に出て、農園を攻撃する事にした。
農園を占領して、自分の財産とする為だった。
それにサライダ公爵家の王都外農園を占領すれば、兵糧攻めにもなる。
どれほど強固に護りを固めようとも、食べる物がなくなれば戦いようがない。
そうシャーロットにささやかれた王太子は、貴族達に王都内の坊壁を包囲させ、自分の私兵とメイヤー公爵家の私兵に、農園攻撃をさせようとした。
だがそこには、信じられない光景が広がっていた。
乾ききった荒野であるはずの場所に、滔々と水を湛えたオアシスがあり、清浄な水が小川を創り出していたのだ。
その小川は、砂漠や荒野では絶対に望めない、水濠となって、サライダ公爵家の農園を護っていた。
「何をしている!
サッサと攻撃しろ」
「ですが、そんな事をしたら、精霊様の怒りに触れてしまうんじゃないですか?」
「えぇぇぇい。
攻撃する前に、自由に水を飲んでもいい。
だからすぐに攻め込め!」
王太子は小川を越えて農園に攻め込めと命じたが、精霊の怒りを恐れた雑兵は、尻込みしてしまった。
王太子の命令で、むりやり剣を持たされた奴隷や貧民は、鞭で叩かれても攻め込むのを拒否した。
そこで下士待遇になっていた王太子の私兵は、雑兵に自由に水を飲む権利を与えて、攻め込む動機とした。
元々王太子直轄領やメイヤー公爵領では、水がとても高く、貧民は乾ききっていた。
そこに、オアシスの水位低下が起こり、地下用水路の流れが止まってしまった。
王太子やメイヤー公爵は、騎士や神官を使って、著しく水位の低下したオアシスから水を運ばせたから、乾くことはなかった。
だが王太子直轄領とメイヤー公爵領の民は、渇き死にする直前の状態だった。
彼らには、乾いて死ぬか、精霊の怒りで死ぬか、王太子の命で死ぬかの選択しかなかった。
彼らは小川に殺到した。
それでも、幼い頃から叩き込まれた、精霊様と水への畏怖は彼らを支配していた。
乱暴に水を汲んだりはしない。
汚れた身で小川に飛び込む者など一人もいない。
恭しく祈りを捧げてから水を飲んだ。
乾いた大地に慈雨が染み渡るように、彼らの身体に恵みの水が染み渡った。
まるで聖水のように、彼らの傷んだ身体を癒していくのだった。
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