夢にまで見た異世界転移だけど、勇者に成る気はありません。引き籠って生きたいのです。

克全

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第二章

第37話:目には目を歯には歯を1

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転移57日目:山本光司(ミーツ)視点

「ネイは寝ていなさい」

「だめ、なの?」

「これからやるのはとても汚い事だ。
 仕返しだから、絶対にやらなければいけないが、人としては悪い事だ。
 ネイは見ない方が良い、ネイにはきれいな世界だけ見てもらいた。
 だから寝なさい、俺が起こすまで寝なさい、スリープ」

 ネイとの約束だから、館に1人で置いておくわけにはいかない。
 どれほど危険で汚い場所であっても一緒に行く、ただ、熟睡させてだ。
 ネイが強くなって、1人になっても心が壊れなくなるまでは一緒にいる。

「テレポーテーション」

 バカ天使が潜入している王城の一室に瞬間移動した。
 普通の瞬間移動は、過去に自分が行った事のある場所に限定される事が多い。
 俺の瞬間移動も同じで、行った事があって鮮明にイメージできる場所に限られる。

 ただし、俺の案内役であるバカ天使がいる場所は例外になっている。
 俺の意思とは全く関係なく深くつながっているバカ天使のいる場所には、無条件で瞬間移動できてしまうのだ。

(お待ちしていました)

 バカ天使が、数えきれないほどある王城の控室の1つで待っていた。
 声を出したら敵に気付かれるので、心話で意思疎通する。

(宰相が大切にしている人間の居場所は把握しているのだな)

(……はい……全員把握しております)

 この期に及んで、バカ天使は俺のやり方が気に食わないようだ。

(宰相は、俺と辺境伯を殺そうとして刺客を放った。
 更に通いの使用人とその家族、38人を誘拐した。
 それでも報復攻撃は卑怯だと言いたいのか?
 黙って言い成りになり、このまま死ねとでも言うのか?)

(そんな事は言いません、言いませんが、光司様の実力なら、直接誘拐に係わっていない女子供を害する事なく、誘拐された人々を助けられますよね?)

(そうだな、やれるぞ、だが、今回の誘拐だけではなく、吐き気を催すような卑怯下劣な行いを命じた奴が集めた金で、贅沢三昧している女子供に罪はないのだな?
 宰相がやっている事を知っていて、踏みつけにされ尊厳を奪われ殺されて行った人々の事を顧みる事も無く、贅沢三昧している女子供を許せと言うのだな。
 分かった、もうお前は神界に帰れ、側にいるだけで吐き気がする。
 神界が受け入れてくれないのなら、宰相の味方をして俺の邪魔をしろ、ぶち殺す)

(私のせいで光司様を死なせた事は心から反省しています。
 宰相の一族に何の罪もないとは申しません。
 ですが、まだ誰も殺していない女子供を、宰相への報復の為だけに殺すのは……)

(俺の大切な人々を危険にさらす身勝手な元天使を滅せよ、ジャスティス!)

(ギャッ!)

 身勝手なこの世界の神が俺に押し付けた無能極まりない元天使。
 元天使を神の力を借りて消滅させられるか試してみたら、予想外にできた。

 もしかしたら、この世界の神の力ではなく、前世の氏神様や仏様が天罰神罰仏罰を下してくださったのかもしれない。

 どちらにしても、イライラの元凶を消滅させられてスッとした。
 宰相の家族一族に罰を与えるのに、バカ天使が集めた最新の情報を使えないのは少々痛いが、これ以上バカ天使に悩まされるよりはいい。

(トランスバレンシー、リプレーサー・プレゼンス、デオドラント)

 王城内を探るために透明になり、存在感を消し、臭いも無くした。
 俺の事は、目で見る事も、第六感で察する事も、臭いも分からない。

 異世界間スーパーの預かり品時価評価額を増やすのがおもしろくて、肉と香辛料と香料を集めるついでに魔境でスローライフを楽しんでいた。

 その副産物でレベルが爆上がりしたのが良かったのか、この国最強の戦士と魔術師がいるはずの王城内で、俺を見つけられる奴は1人もいなかった。

 王城内の前宮、中宮、後宮を見て廻って、バカ天使に集めさせた情報を確認して、報復する相手、女子供を見定めた。

 立場の弱い貴族令嬢を虐めて自殺に追い込む王女。
 同じく立場の弱い貴族令嬢や士族令嬢の純潔を奪う王子。
 平民の侍女などは虫けらのように扱い、自殺を強要する王子や王女。

 子供が虫を踏みつぶして殺すように、平気で人を殺している。
 最初は、傀儡にされていると思っていた、国王や王族は無視する気だった。 
 だが、バカ天使に調べさせて、王族の腐敗と性悪さを知った。

 とはいえ、調べたのは1番大切な所を失敗するバカ天使だ。
 自分の目と耳で確認しなければ、殺すのはもちろん呪いなどかけられない。

「逆らってもいいぞ、抵抗しても好いぞ、だが逆らったら実家が困るぞ」

 王太子の宮に行くと、貴族令嬢が脅されていた。
 逆らえば実家の男爵家だけでなく、婚約者の男爵家まで潰すと脅されて、事もあろうに婚約者の前で貞操を奪われそうになっていた。

「サプレーション、ハイパーアルジーズィア」

 俺は、王太子に身体を化膿させる魔術と、痛覚を過敏にさせる魔術を使った。

「ギャアアアアア!」

 男爵令嬢をつかんでいた手に、耐えがたい激痛が襲ったのだろう。
 俺の怒りが乗った魔術は、並の痛覚過敏魔術とは比べ物にならない、即死しかねない桁外れの痛みを与える。

 息をして鼻腔に空気が通るだけで、脳天を突き抜けるような刺痛が走る。
 飲食した物が口腔から喉、胃腸を通るたびに七転八倒する疝痛が襲う。
 心臓が鼓動を打つ度に、狭心症に匹敵する激痛が身心を苛む。

 痛みに耐えられなくなって倒れると、何かに触れた場所に骨折したよな烈痛が走るだけでなく、周囲にまで介達痛が走る。

「アネモネ嬢、今のうちに逃げよう」

 王太子の無様な状態を好機と感じたのだろう。
 或いは、自分の家と婚約者の家が潰されても良いと腹を括ったのかもしれない。
 男爵令息が婚約者の男爵令嬢を連れて王太子宮を出ようとした。

 だが、王太子が呪いを受けただけでは王太子宮から逃げられない。
 王太子宮には、性根の腐った王太子に相応しい取り巻きが集まっている。

 王太子が獣欲を満たした後で、自分たちの獣欲を満たすだけでなく、男爵令嬢と男爵令息を自害に追い込む遊びをしようと、貴族のクソ令息が集まっていた。
 更に王太子宮を守る近衛騎士や近衛兵が逃亡を防いでいた。

「スリープ、サプレーション、ハイパーアルジーズィア」

『義を見てせざるは勇無きなり』などと言う気は全く無い、俺は自分が1番可愛い。
 そんな不完全な良心しか持ち合わせていない俺でも、こんなのは見過ごせない。
 だから、王太子の取り巻き令息に魔術を放った。

 昏倒するほどの深い眠りの魔術をかけて逃亡を手助けするだけでなく、王太子にかけたのと同じ、身体を化膿させる魔術と痛覚を過敏にさせる魔術をかけた。

 身体化膿と痛覚過敏のコンボ魔術は、精神を崩壊させるくらいの激痛を与える。
 眠りの魔術が切れた後は、生き地獄となるだろう。

「スリープ、サプレーション、ハイパーアルジーズィア」

 王太子の取り巻き令息だけでなく、近衛騎士と近衛兵にも昏倒するほど深い眠りを与え、身体化膿させる魔術と痛覚を過敏にさせる魔術をかけた。

 弱い立場だから、強大な権力を持つ王太子一派には逆らえない。
 近衛騎士や近衛兵はそう言い訳するだろうが、俺は許せない。
 
 近衛騎士や近衛兵に選ばれるだけの実力があるのなら、王家に仕えなくても、冒険者や猟師として生きて行けるはずだ。
 結局は、腐れ外道におもねってお零れに預かろうとしているだけだ。

 王家には7人の王子と9人の王女がいるが、16人全員が下劣なのではない。
 俺が罰を与えてやろうとまで思う王子王女は7人だけだ。
 6人は普通に我儘で世間知らずの王子王女で、3人はとても善良で優しい。

 王太子などの腐れ外道につくのではなく、善良な王子王女につく事もできるのに、事もあろうに王太子についたのだ、手加減してやる気にはならない。
 俺は7人の王子王女と側近護衛に呪いのような魔術をかけた。
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