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第一章

第1話:裏切り

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 私は心から婚約者のルーパス王太子殿下を愛していました。
 殿下の髪は金色に光り輝き動くたびに美しく波うっていました。
 私もそうなりたくて髪を長く伸ばしましたが、くすんだピンクの髪は波うってはくれるものの、一向に光り輝いてはくれませんでした。

 殿下の碧く光り輝く瞳は全ての人を魅了しました。
 ですが私の瞳は少し緑の色彩が強く、殿下の碧さにはとても及びません。
 多くの人を魅了するどころか、殿下御一人の心も繋ぎ止めることができません。
 比較する事すらおこがましい、天と地ほどの差があるのです。

 殿下の肌は透き通るように白く、血管が青く浮き出るほどです。
 私の肌は白いのですが、ほんの少し黄色いのです。
 それに陽の下に出ると直ぐに白さを失い赤くなってしまいます。
 できるだけ気をつけて日の下に出ないようにしているのに、殿下の側に近づくと黄色と赤が目立ってしまうのです。

 美しさではとても殿下の側に立つことはできません。
 でも殿下の側にいたいという想いは抑えられません。
 せめて殿下の助けになりたい一心で、辛く厳しい王太子妃教育に耐えてきました。
 政治に関する事から礼儀作法、果ては戦闘術まで会得しました。
 ですがその間、ルーパス王太子殿下は遊び惚けていました。
 社交界で多くの夫人や令嬢と浮名を流していました。

 そんな噂を耳にするたびに胸が張り裂けそうになりました。
 鋭い刃物で心臓をえぐられるような痛みを感じてしまいました。
 その気持ちを必死で抑えて常に笑顔を絶やさないようにしていました。
 王太子妃になろうとする者が、殿下の婚約者に選ばれた者が、殿下の浮名をいちいち気にしてはいけないと、自分に言い聞かせてきたのです。

 父であるグロブナ公爵も、義理とはいえ母親のグロブナ公爵夫人も、王太子ともなると言い寄る女も多く、多少の遊びは仕方がないと言っていました。
 何より嫉妬ほど女を醜くするモノはないから、全て笑って許すようにと言われていましたから、黙って耐えていたのです。

 でもそれが全部私を傷つけるための嘘だったのだと、今なら分かります。
 私を傷つけられるだけ傷つけて、自害に追い込むのが目的だったのです。
 あの時の私は本当に純真無垢で愚かでした。
 心の傷、苦しみを必死で隠して笑みを浮かべていたのですから。
 ですが全てが破綻する時が来たので。

「殿下、もういい加減アグネスとの婚約を解消してください。
 このままではお腹が目立ってしまいます。
 父上も母上も殿下がアグネスとの婚約を解消する事は認めております。
 婚約解消前に殿下と私の間に子ができたと社交界に広まれば、とんでもない醜聞になってしまいます」

 私は殿下と妹の密談を聞いてしまったのです。
 事もあろうに私の婚約者であるルーパス王太子殿下と妹のエイダが密通していた。
 しかも子供までできている。
 あまりの衝撃に心臓に激烈な痛みが走りました。
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