93 / 103
第二章
天正通宝
しおりを挟む
「与一郎、完成した金貨と銀貨を見せてくれ」
「これでございます」
「ほう、これは美しいな」
「これならば、十分土地に代えて褒美にすることが出来ます」
「我が国が六百年ぶりに鋳造した銭じゃ」
「はい。殿下が成し遂げられました。上様は勿論、天下人となった足利尊氏公も、源頼朝公も出来なかった事です。銭の力で天下人になった平清盛公も、自分で銭を鋳造する事は出来ず、宋から銭を手に入れただけでございます」
「ならば、これで終わる訳にはいかんな」
「はい。大名や公家だけの間で使われるような金銀の銭だけでは、殿下の威光が天下の隅々まで行き渡りません」
「うむ。全ての民が、余が創り出した銭を使うようになってこそ、余の威光が遍く天下に行き届くことになる」
「そこで御相談なのですが」
「何だ」
「今回鋳造した金貨と銀貨は、一匁(三・七五グラム)で統一しておりますが、十匁と百匁の金銀銅貨を鋳造して宜しいでしょうか」
「計算し易いようにか」
「はい。これからは合戦がなくなるので、銭で戦う事になると思われます」
「それは違うぞ、与一郎。国内に合戦がなくなり、与えるべき土地がなくなったら、朝鮮や唐天竺に攻め込めばよい」
「そんな事をしてしまうと、戦国の世を終わらせた殿下の徳が失われてしまいます」
「馬鹿な事を申すな。誰だって天下に名を知らしめたいし、領地やいい女を手に入れたいのだ」
「ですがその為には、自分の命を賭けて、相手の命を奪わねばなりません。ですが銭の戦いならば、少なくとも命を奪い合う事はありません」
「確かに合戦よりは命の奪い合いは少ないが、商いでも殺し合いがあるではないか」
「あるにはありますが、合戦よりは遥かに少ないです」
「だがその分陰湿ではないか。与一郎が差配してくれた銭の戦いは、忍びの戦いと同じで、直接命を奪い合う事は少ないが、陰湿に騙し合っていたではないか」
「確かにその通りではありますが、殺し合うよりはましでございます」
「これまで与一郎がよくやってくれた事は分かっているが、天下の事を決めるのは余じゃ」
「申し訳ございません」
「儂が唐天竺を攻め取ってやるから、与一郎は唐の皇帝になるための帝王学を学んでおけ」
「殿下」
「反論は許さんぞ。それよりも、金貨と銀貨だ」
「はい」
「銀は元々量目で出回っていたから、五匁でも十匁でも構わないが、金は古くから京目四匁五分が慣例となっておる」
「はい。確かに金貨は一両と天下に広めるならその通りでございますが、殿下が天下人でございます。中金貨一枚を十匁、大金貨一枚を百匁に定められても、何の問題もございません」
「余は関白じゃ。慣例を無視する訳にはいかん。商売に用いる銀は一匁、十匁、百匁とせよ。だが恩賞に使う金は一両と十両で造れ」
「しかし、通宝を造ると決めた時には、一匁で造るようにと申されたではありませんか」
「黙れ、あの時はあの時、今は今じゃ。もう下がれ」
「これでございます」
「ほう、これは美しいな」
「これならば、十分土地に代えて褒美にすることが出来ます」
「我が国が六百年ぶりに鋳造した銭じゃ」
「はい。殿下が成し遂げられました。上様は勿論、天下人となった足利尊氏公も、源頼朝公も出来なかった事です。銭の力で天下人になった平清盛公も、自分で銭を鋳造する事は出来ず、宋から銭を手に入れただけでございます」
「ならば、これで終わる訳にはいかんな」
「はい。大名や公家だけの間で使われるような金銀の銭だけでは、殿下の威光が天下の隅々まで行き渡りません」
「うむ。全ての民が、余が創り出した銭を使うようになってこそ、余の威光が遍く天下に行き届くことになる」
「そこで御相談なのですが」
「何だ」
「今回鋳造した金貨と銀貨は、一匁(三・七五グラム)で統一しておりますが、十匁と百匁の金銀銅貨を鋳造して宜しいでしょうか」
「計算し易いようにか」
「はい。これからは合戦がなくなるので、銭で戦う事になると思われます」
「それは違うぞ、与一郎。国内に合戦がなくなり、与えるべき土地がなくなったら、朝鮮や唐天竺に攻め込めばよい」
「そんな事をしてしまうと、戦国の世を終わらせた殿下の徳が失われてしまいます」
「馬鹿な事を申すな。誰だって天下に名を知らしめたいし、領地やいい女を手に入れたいのだ」
「ですがその為には、自分の命を賭けて、相手の命を奪わねばなりません。ですが銭の戦いならば、少なくとも命を奪い合う事はありません」
「確かに合戦よりは命の奪い合いは少ないが、商いでも殺し合いがあるではないか」
「あるにはありますが、合戦よりは遥かに少ないです」
「だがその分陰湿ではないか。与一郎が差配してくれた銭の戦いは、忍びの戦いと同じで、直接命を奪い合う事は少ないが、陰湿に騙し合っていたではないか」
「確かにその通りではありますが、殺し合うよりはましでございます」
「これまで与一郎がよくやってくれた事は分かっているが、天下の事を決めるのは余じゃ」
「申し訳ございません」
「儂が唐天竺を攻め取ってやるから、与一郎は唐の皇帝になるための帝王学を学んでおけ」
「殿下」
「反論は許さんぞ。それよりも、金貨と銀貨だ」
「はい」
「銀は元々量目で出回っていたから、五匁でも十匁でも構わないが、金は古くから京目四匁五分が慣例となっておる」
「はい。確かに金貨は一両と天下に広めるならその通りでございますが、殿下が天下人でございます。中金貨一枚を十匁、大金貨一枚を百匁に定められても、何の問題もございません」
「余は関白じゃ。慣例を無視する訳にはいかん。商売に用いる銀は一匁、十匁、百匁とせよ。だが恩賞に使う金は一両と十両で造れ」
「しかし、通宝を造ると決めた時には、一匁で造るようにと申されたではありませんか」
「黙れ、あの時はあの時、今は今じゃ。もう下がれ」
15
あなたにおすすめの小説
徳川慶勝、黒船を討つ
克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。
もしかしたら、消去するかもしれません。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~
佐倉伸哉
歴史・時代
その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。
父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。
稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。
明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。
◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』でも同時掲載しています◇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる