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第一章

第27話:見捨てる

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「王妃殿下、国王陛下の軍が正門を突破しました。
 このままでは殿下と王太子殿下を御守りできません。
 我らが時間を稼ぎますから、抜け道から御逃げください」

「ええい、ゆるしません、絶対に許しません。
 父親のくせに、自分の子を殺そうとするなど、絶対に許しません
 私が生きている限り、絶対にフラヴィオを殺させはしません。
 残りの兵力で突撃をして、王の首を取るのです。
 王の首さえとってしまえば、形勢を逆転できます」

「恐れながら申しあげます、王妃殿下。
 王太子殿下を誑かしたパオラのオクタウィウス・ターヴォラ男爵家も、ギリス教団も、王家のついたほとんどの貴族が国王陛下を選びました。
 今残っている兵力だけでは、国王陛下に近づく事もできません。
 ここで話し合っている時間すらも、殿下達の御命を縮める事になります。
 どうか今直ぐ御逃げください」

「母上、逃げましょう、死ぬのは嫌です」

「仕方ありません、お前が護衛しなさい」

「お言葉ながら、我々近衛の者が時間稼ぎしなくては、とても殿下達をお逃がしする事はできません。
 どうか侍女達を連れてお逃げください」

「母上、急ぎましょう、私の可愛い侍女達が怖がっております」

「えええい、しかたありません、少しでも長く時間を稼ぐのです」

「お任せください、必ず殿下達が安全に逃げられる時間を稼いでみせます」

 ★★★★★★

「馬鹿は行きましたか、隊長」

「ああ、命懸けで戦う将兵を見捨てて逃げて行ったよ」

「しかし、侍女達を逃がしたのは惜しかったですね、色々楽しめたのに」

「何なら最後尾の侍女を攫ってきてもいいぞ」

「嫌ですね、隊長が生き残るための生贄にされるのは」

「馬鹿が無抵抗な民を襲ってくれないかな。
 そいつらを殺して民を助ければ、少しはジェノバ公爵の印象を変えられるのだが」

「無駄ですよ、今まで俺達のやってきた事を考えれば、あの厳格なエドアルドが許してくれるわけがありません」

「そうだな、あのエドアルドが俺達を許してくれるはずがない。
 さて、まずは国王陛下の断罪から逃げるための言い訳をしなければいけない。
 王妃と王太子の下で好き勝手やってきたから、多少の罰は受けるだろうが、王妃と王太子を引き渡す事で殺される事だけはなくなった」

「国王は本当に約束を守りますかね」

「国王は度外れた女好きだが、馬鹿じゃない。
 エドアルドが王妃と王太子を殺したくらいでは王家を許さないくらいは分かる。
 今の国王は少しでも戦力が欲しいのだ。
 だからこそ、圧倒的な兵力を持っているのに持久戦を仕掛けてきた。
 俺達が寝返る事を計算に入れているんだよ」

「国王が馬鹿じゃないんなら、俺達がこの国から逃げようとしているのにも気がついているんじゃないですか」

「そうだ、だからこそ、上手く言い逃れないと、戦う直前まで牢に入れられるぞ。
 舌先だけで国王を騙すのが今度の戦いだ、油断するなよ」
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