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2話

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 エイル神の啓示という許可を受けて、神殿から逃げ出した私は、自由と孤独を満喫していました。
 当然エイル神に捧げる祈りは欠かしませんし、修行を怠る事もありません。
 ですが神殿を出て一人になれたことで、愚かで身勝手で欲深い、堕落した神官や修道女にまとわりつかれ、精神的に疲弊しなくてすみます。
 これに勝る喜びはありません。

 フィッツジェラルド王国を脱出するまでは、人と会わないようにしていましたので、何の情報も入りませんでしたが、フィッツジェラルド王国は滅んだと思い込んでいました。
 
 私はこれでも救国の英雄なのです。
 人身御供を求めるヨトゥン神族の一柱を守護神とする隣国が、老衰や疾病で死んだ死者の国を支配する、女神ヘルを降臨させたのです。
 その力を使ってエイル神の結界を破って攻め込んできた時に、私がこの身にエイル神を降臨させてフィッツジェラルド王国を救ったのです。
 その私を殺そうとすれば、エイル神に見捨てられるのは当然なのです。

 ですが、私の予想は完全に覆されてしまいました。
 人跡未踏の森や山を走破して、むしろ狩りや料理を愉しみながら、一カ月もの時間をかけて、隣国ウォーターフォード王国に入って聞いた話では、フィッツジェラルド王国は滅んでいませんでした。
 それどころか、フィッツジェラルド王国はヨトゥン神族と契約したというのです!

「ねえ、一杯奢るから教えて欲しいんだけど、フィッツジェラルド王国がヨトゥン神族と契約したというのは本当なの?」

「おい、おい、おい。
 そんな事も知らないのかよ?
 俺は詳し話を知っているから、エールを三杯奢ってくれれば全部話してやるよ」

「いいわ。
 三杯奢るから全部教えてちょうだい」

「えへへへ。
 約束だぜ。
 フィッツジェラルド王国は、救国の英雄、聖女ルシアが国を裏切って逃げてしまったので、エイル神との契約を破棄し、神殿を破壊したんだ」

「へぇ!
 フィッツジェラルド王国は、救国の英雄が逃げ出すような事をしたんだ?」

「いや、いや。
 フィッツジェラルド王国が悪いんじゃないんだ。
 エイル神は愛と結婚と豊穣の女神フリッグの召使だったんで、性には奔放で、救国の英雄様も色を好んだそうなんだ。
 色んな男と関係を持って、父親が誰だか分からない子供ができちまって、さすがに神殿にいるのが恥かしくなって、逃げ出しちまったて話さ」

 あの糞王太子と腹黒王が!
 私が不貞をして不義の子を宿したですって!
 そのような嘘は絶対に許せない!
 確かにエイル神も女神フリッグも性には奔放ですが、私は身持ちが堅いのです。
 こんな事ならあの時逃げ出さずにぶち殺してやるべきでした!
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